投資家は企業に何を求めるのか?
ボストン コンサルティング グループ
パートナー&マネージング・ディレクター
岩上順一
2013/12/16
ボストン コンサルティング グループ(BCG)では、金融危機直後の2009年より毎年、ポートフォリオマネジャー、バイサイドアナリスト、セルサイドアナリスト等を対象とした「グローバル投資家調査」を実施している。本稿では、過去5年間の調査結果に基づき、
- グローバル投資家は、経営者に何を求めているのか?
- 企業価値向上に向けて、経営者が行うべきことは何か?
を議論したい。
1.投資家の期待は、中長期的な企業価値創出へ
「グローバル投資家の投資クライテリア」(図1)をみると、投資家の期待が、長期的な企業価値創出へシフトしている事が分かる。
調査結果の中で、まず着目すべきは、「短期的EPS成長」の重要度の低下だ。2009年~2010年の調査では、30%の投資家が最重要と回答しているのに対し、2013年の調査では、その割合が10%にまで低下している。これは、投資家が長期的な企業業績向上をより重視し始めていることを示している。
一方で、多くの投資家が、「信頼できる経営陣」を最重要としており、その回答者の割合は56%となっている(2013年)。これは、実績のある経営チームこそが、事業環境の不透明さと複雑性に対処し、中長期的な企業価値向上を実現する要であると投資家が考えていると解釈できる。
もちろん、事業成長を通じた企業価値向上の重要性が薄れたわけではない。「余剰キャッシュ使途の優先順位」(図2)をみると、「既存事業領域への投資」の優先度が、常に高い水準となっている。一方で、「戦略的M&A」を高優先順位とする投資家の割合は、30%(2013年)と若干低下しているが、これは、リスクの高いM&A投資を好まない投資家の意向が反映されているものと思われる。
また、「増配」の優先度の上昇にも着目すべきだろう。2013年には、実に58%の投資家が高優先順位と回答しており、調査期間を通じて最も高い回答率となっている。
従って、「既存事業領域への投資」と「増配」との両立/バランス運営が、投資家にとって最も重要との結論となる。
その意味において、「投資のディシプリン(規律)」が極めて重要となる。企業経営者は、事業の価値創出構造を見極め、どの事業の何を強くするために投資を行うのか、常に自問自答しなければならない。また、成長投資一辺倒ではなく、配当政策を含め、投資家が期待する価値をどう創出するか、最適解を考えることが必要になる。

2.企業価値創出へ向けた経営者の課題
投資家からの期待に対応し、中期的な企業価値創出を実現するには、事業戦略、財務戦略、投資家戦略の連携を深め、バランスのとれた経営を実践することが求められる。特に、事業環境の不透明さと複雑性が増す中では、機動的な経営の舵取りを行う上で、次の3つのステップを実践することが有効と思われる。
- 中長期的な事業成長戦略の再定義
- 最も魅力的な成長機会に投資/資源配分を集中
- 成長機会の乏しい事業は、統合・売却も検討、事業ポートフォリオを再構築
- 財務戦略アプローチの確立
- 最適資本構成、配当政策、自社株買いを活用
- 事業成長戦略、投資家戦略と連携し、整合性を担保
- 経営管理手法の進化
- 企業価値創出の視点から、既存プロセスを見直し
- 中計立案・予算管理、リスクマネジメントプロセス等
国内成熟、海外成長という構図の中で、日本企業が企業価値を継続的に創出することは、より難しくなってきている。投資家からの要請に迎合する必要はないが、投資家の目線や期待の中に、企業価値創出のヒントがありうることを再認識し、企業経営を行うことが重要である。