コラム

第四十六回目の専門家コラムは、株式会社MIDストラクチャーズのパートナーである亀岡隆幸先生に執筆していただきました。亀岡先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、相続税を鑑みた企業オーナーの事業承継対策について取りまとめていただいております。ご参考 にしていただければ幸甚です。

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当初申告要件は廃止されたのか
株式会社MIDストラクチャーズ パートナー 税理士・法学修士 亀岡隆幸
2013/9/17

1.企業オーナーの物語

 一念発起して起業。

 起業当時は赤字続きで、経営が全く安定せず、資金繰りに悩み、一時は廃業しようとしたこともあった。バブル崩壊という厳しい時代も乗り越えて、会社の業績の維持、拡大のみを考えて一心不乱に経営に注力した甲斐あって、ある時期から業績が上向き、その後も、比較的順調に伸びていった。そして、起業から30年、ある程度の浮き沈みはあるものの、安定的な業績を出せるようになり、売上200億円、純資産100億円の企業にまで成長した。60歳になった今、ふと、立ち止まって考えた。後継者はどうするのか、相続税は払えるのか、従業員は養えるのか、会社はどうなるのか・・・

2.企業オーナーの悩み

 企業オーナーの悩みは深い。

 会社の業績は非常に良いものの、競合他社との競争も厳しく、新商品の研究、設備投資、マーケティング、営業力強化、コスト削減などなど、経営基盤の維持拡大のため、企業オーナーとしてやることは山積みである。

 一方で、企業経営のみならず、自らが退いた後の会社のことや、後継者のこと、財産分配、相続税の支払いといった様々なことも考えなければならない。

 企業オーナーは大変である。

3.企業オーナーの現実

   税率50%。
   日本の相続税の最高税率(*1)である。
   この相続税の税率は会社にどういう影響を与えるのだろうか。事例をもとに検討してみたい。

 (事例)
 オーナーはX社を100%所有している。事業承継対策は何もおこなっていない。まったくのノーガードである。

 この状況のもと、不幸にもオーナーの相続が開始し、オーナー所有のX社株式を相続した後継者は、50億円(*2)もの相続税を納めなければならない事態となってしまった。

 後継者において、50億円もの現預金があろうはずがない。金融機関から納税資金を調達して支払うことも考えられたが、金融機関から無担保又は非上場会社株式担保で納税資金の調達することはできなかった。第三者への売却はしたくない。残された道は、X社株式をX社に自己株取得してもらい納税するしかない(*3)。

 一方で、X社においても50億円の余剰現金はない。X社において、急遽、金融機関から資金調達することとなり、ほとんどの資産について担保を取られたものの、何とか資金調達ができ、自己株取得も行うことができた。

 このおかげで、後継者においても無事納税を完了することができた。
残されたものは、純資産100億円の会社ではなく、純資産50億円の会社だった。

(*1) 平成27年1月1日以降は最高税率55%となる。
(*2) 事例を単純化するため、X社の相続税評価額は純資産価額の100億円、相続税額は相続税評価額の50%としている。
(*3) 後継者が取得したX社株式を物納するという方法も考えられるが、物納した場合も買戻しをすることが想定される。

4.企業オーナーの相続

 企業オーナーの相続が会社に与えるインパクト。
 時にそれは極めて大きいものとなる。

 相続税における財産評価ルールは、時価を求める建付けとなっているものの、評価の安全性が考慮されている側面がある。また、非上場会社の算定においては、類似業種比準価額、純資産価額、両者の加重平均価額といった方法があるため、純資産価額1本で決まるものではない。このため、純資産100億円の会社であっても、多くの場合、相続税評価額は100億円より低い金額になるため、必ずしも上記3で示した事例の議論がそのまま当てはまるものではない。

 しかし、企業オーナーの相続というのは、親族内承継を前提とした場合、会社の財務基盤に極めて強いネガティブインパクトをもつものであることに間違いはなく、会社の簿外債務となり得るものだろう。

  上記3の事例をもとに、後継者が純資産50億円の状態から会社経営をスタートして、30年間で純資産100億円までもっていくためには、会社純資産についてどれぐらいの成長率が必要となるのだろうか。

  答えは年率2.4%である。

 純資産成長率2.4%というのは、税引後利益として2.4%の成長率が必要ということであり、税引前利益では4.0%(*4)の成長率が求められる。税引前利益で4.0%の成長率というのは、単年度ではともかく、30年間継続してというのは現実的ではないだろう。

  つまり、相続という事象により会社純資産が半減した場合、年率2.4%の成長率で純資産が増加していっても、30年間をかけて、やっと相続前の状態に戻るのであり、相続前の状態を超す状態を目指すためには、税引後利益で2.4%以上の成長率が必要となるのである。

(*4) 法人実効税率40%としている。

5.企業オーナーの相続税悪玉論

 相続によって会社純資産が半減する。

 何が悪いのか。相続税が悪いといっても始まらない。いっそのこと、会社ごと売却して海外にでも居住するならともかく、日本で会社を経営していく以上は、相続税は覚悟しなければならない。

 覚悟した上で、どのような対策を打つかが大事である。

 言い方を変えると、会社純資産が半減するような対策しかしていない企業オーナーにも問題がないとはいえないのである。
では、どうすればいいのか。

6.企業オーナーの責任

 こういった現実を踏まえ、企業オーナーは事業承継対策の必要性を認識した上で、事業承継のコンセプトを固め、事業承継プランを策定、実行していく必要がある。

 このためには、主に次の要素を複合的に勘案して事業承継プランを策定することが求められる。

(1) 事業承継先の検討
(2) 自社株式の評価
(3) 相続税額の把握
(4) 自社株式の承継手法
(5) 納税資金の状況
(6) 自社株式の株価引下げ対策

  上記の諸要素につき、特に考えるべきものは、(1)の事業承継先だろう。当然、事業承継先の検討にあたって、他の要素も勘案せざるを得ないのであるが、事業承継先をどうするかという観点からベース案を策定し、それをもとにアレンジしていくという形が進めやすいのではないだろうか。

  事業承継先として、親族内での承継を考えるのか、第三者への売却、承継を考えるのか、またはその中間を考えるのかといった方針を決定するにあたっては、オーナーの考え方、会社の状況等が大きく影響するところであるため、最良の方策というものは当然決まっているわけではない。

 このため、オーナーの考え方、会社の状況等を勘案して、一番妥当と考えられる方策を検討し、実行するしか方法はない。

 企業オーナーはやはり大変である。

7.おわりに

 事業承継には、唯一かつ最良の方法があるというものではない。また、1度計画して、実行すればそれで終わりというものではなく、常に現状把握し、計画し、実行しというプロセスを絶えず続けていくものだと考えている。

 これにより、その時々の環境変化に対応し、制度改正に対応することができ、ひいては、会社の安定的経営、自らの収入の確保、雇用の確保といったさまざまなオーナーの目的が達成できるのだろう。

執筆者紹介

  • 株式会社MIDストラクチャーズ パートナー
    税理士・法学修士
    亀岡隆幸

略歴

1995年
横浜国立大学 経営学部 国際経営学科 卒業
2002年
税理士登録
2005年
税理士法人緑川・蓮見事務所 代表社員(現 青空税理士法人)
2008年
筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 企業法学専攻 修了
2009年
株式会社MIDストラクチャーズ パートナー

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