コラム

第四十回目の専門家コラムは、イーアールエム日本株式会社の坂野且典先生に執筆していただきました。坂野先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、M&Aにおける環境デューディリジェンスについて取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
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「M&Aにおける環境デューディリジェンス」
イーアールエム日本株式会社 坂野且典
2013/3/15

 M&Aにおける環境デューディリジェンス(以下、環境DD)の目的は、(1)大きなイシュー(問題点)の有無を確認すること、そして、(2)イシューが確認されたときにはその対策費用を評価すること、と言えます。
 2008年秋のリーマン・ショックではいったん大きく減りましたが、以降M&Aの件数は順調に伸びてきており、ERM日本が手がける環境DDのプロジェクト数もこの2、3年は年間100件を超えています。M&Aの環境DDは、おもに収益の源泉となる「生産現場」に光をあててイシューを拾い出す作業ですが、最近は環境問題の定義も広がり、生産現場の周辺で起こりうる労働安全問題や社会問題についても評価を行うようになってきました。

1.M&Aで評価すべき環境リスク

 大きなイシューの代表的なものとして、土壌地下水汚染、大量の有害物質(例:ポリ塩化ビフェニル(PCB)、アスベスト)や廃棄物の不適切な管理が挙げられます。また、それぞれの国において必要とされる許認可手続きの不備、排水や排ガス等の規制値超過は、生産施設の操業停止につながる可能性があるため、同様に大きなイシューと考えられます。
以下は、環境DDで一般的にチェックする項目のリストです。
・土壌・地下水汚染(工場の汚染調査の実績、敷地境界を越える汚染拡散の可能性
・有害物及び廃棄物の管理(敷地内埋立ての有無)
・ 排ガス及び排水の管理(環境許認可の取得、届出の提出に関する状況)
・ アスベスト/PCB(アスベスト含有材の有無と管理状態、PCB/PCB廃棄物の有無と処理計画)
・ その他の項目(騒音・振動・悪臭、オゾン層破壊物質、官庁からの指摘・指導事項)

また、上記に加えて、以下の項目を調査・評価することもあります。
・ 労働安全衛生に関連する事項(労災事故、法令違反)
・ 広義の環境(温暖化ガス、省エネ、水資源)
・ 社会問題(住民移転、操業に対する反対運動)
・ 製品に含まれる化学物質(鉛やクロムなど)のマネジメント
・ プロセスセーフティ

 なお、M&Aで行う環境DDでは、対象会社から十分な情報が開示されないことが多く、また、時間的な制約があることから、ディールブレイクにつながる可能性がある大きなイシュー(Material issue)の発見と評価に力を注ぎます。環境DDの報告書は、ディールが成立した後に行われるビジネス統合の際にも参考資料として活用することができますが、細かい点も含めてさらなる改善を目指すときには、契約締結後の早めのタイミングでコンプライアンス監査を行うことが重要です。

2.M&Aの環境DDの進め方

 環境DDによって大きなイシューを評価するためには、客観的な情報とコンサルタントの知識および経験が必要です。また、M&Aの環境DDでは、短期間に複数の国内・海外のサイトを評価することが一般的なため、機動力を持ったネットワークやプロジェクトマネジメント力も大切な要件になります。

 環境DDは、通常、「フェーズI調査」と呼ばれる方法で行われます。フェーズI調査では、各サイト1日程度の現地訪問、環境管理や生産管理責任者へのインタビュー、そして、既存資料のレビューを通して客観的な情報を収集します。レビューする資料は、許認可関係文書、製造に関する図表や図面、さらに環境モニタリング結果などが中心となります。また、サイトが米国や日本などにある場合には、行政や第三者機関が提供する情報(水質調査結果、過去の地図など)も参照します。関係書類の量はときには机の上に載せきれないほどになりますが、ここ数年、セキュリティーのきいたインターネットでの文書開示サービス(バーチャルデータルーム、VDR)のおかげで、効率よく作業がすすめられるようになっています。

 フェーズI調査で大きなイシューとなりそうな土壌・地下水汚染の疑いがあれば、フェーズII調査として、疑わしい範囲や敷地境界付近を対象に土壌や地下水のサンプリング、そして分析を行います。日本に限らず、敷地境界を超えて地下水汚染が広がっている場合には、対策費用だけでなく訴訟リスクも視野に入れなければならないため、地下水汚染の問題は環境DDでもっとも注意を払うべき項目となります。なお、フェーズII調査で汚染が確認された場合、契約締結後に、その影響範囲を把握するための詳細調査を実施することがあります。

 フェーズI調査にかかる期間(現地訪問から報告書提出)は2週間から3週間、一方、フェーズII調査(現地作業から報告書提出)は1ヶ月から1ヵ月半ほど(詳細調査を行う場合はさらに1ヶ月から1ヵ月半)です。複数の企業が入札を行う形式のM&Aでは、現地訪問を行うことができず、VDRレビューのみを1週間で行うこともあります。

3.評価結果の活用

 環境DD(フェーズI調査やフェーズII調査)で、多額の出費につながる可能性のあるリスクが確認がされた場合、(1)費用を評価して買収価格に反映する、(2)契約書の中にリスク回避のための条項を入れる、(3)保険でリスクヘッジをする、(4)ディールから撤退する、といった方策をとることが考えられます。(2)、(3)はそれぞれの専門家(弁護士、保険会社)の範疇であるため本稿で説明は行わず、環境DDの結果を用いた費用評価について以下に簡単に述べます。

 アスベスト材の除去費用やPCB廃棄物の処理費用は、日本であれば、すでに見積りが取られているケースが多いため、その額を報告します(費用がM&A対象会社のビジネスプランに認識されていない場合は、価格調整の対象となります)。一方、土壌・地下水汚染は、将来発生する費用を確定することが難しく、幅(Most Likely Case (MLC)コスト~Reasonable Worst Case(RWC) コスト)で報告することが一般的です。MLC コストは、当該国で法律上あるいは通常に求められる対策範囲や対策内容を想定してその費用を評価します。一方、RWCコストは、最悪の場合にかかってしまうかもしれないという費用を評価します。たとえば、ある土壌汚染について、法律は地表面の舗装による健康リスク防止策を求めており、一方、工場用地の住宅用途への転換を将来想定すると汚染土壌の除去を行わざるを得ないようなケースはしばしば遭遇します。このような場合、専門家の目で見て対策範囲などを想定し、たとえばMLCコストは1000万円、RWCコストは1億円といった評価を行います。

 過去のフェーズII調査報告書がVDRに提供されるなど、利用できるデータが増えれば、費用評価の精度を狭めることができます。また、たとえば10箇所以上のサイトを評価する場合、それぞれのRWCコストを加算すると非常に大きな金額になる可能性があるため、モンテカルロ法のような統計的手法を用いてポートフォリオ全体を対象とした費用の幅を評価することもあります。

 なお、米国ではいわゆるスーパーファンド法において、土地取引に関連し、汚染原因者以外の者が土壌地下水汚染の責任を回避・限定するための要件としてAAI(All Appropriate Inquiries)の実施が定められています。このAAIは、ASTM(*)作業標準にしたがって実施するフェーズI調査と同義であることから、環境DDでASTMのフェーズI調査を実施することにより、汚染浄化責任に対する抗弁材料が得られることにもなります。((*)ASTM:米国材料試験協会と訳される。材料、製品、システム等に関するさまざまな規格や標準を開発、整備する機関で、フェーズI調査に関する作業標準(E1527)も発行している。)

4.まとめ

 M&Aにおける環境デューディリジェンスは、ASTMのような調査手法のスタンダードや各国の法規制を下敷きにして、土壌地下水汚染の可能性とその費用的な影響を評価、さらにコンプライアンス違反のチェック、また、対象会社のビジネスに応じて、作業環境やさらには社会的な問題までを視野に入れて調査検討を行います。M&Aにかかわるアドバイザー(ファイナンシャルアドバイザーや弁護士)とCollaborationすることもしばしばあります。M&Aのプロジェクト全体から見ると(ディールブレイカーがない限り)、環境DDは念のために行う作業として位置づけられることが多いですが、ディール後の環境管理システムの統合や、とくに海外のオペレーションに関するコンプライアンスリスク管理のための基本情報を環境DD報告書は提供してくれます。

執筆者紹介

  • 坂野且典(ばんのかつのり)

     ・イーアールエム日本株式会社 パートナー
     ・トランザクションサービスチーム チームリーダー

略歴

 1989年大手建設会社(鹿島)入社。同社研究部門に配属され、放射性廃棄物の処分に関連し、海外研究機関との共同研究に携わる。その後、マサチューセッツ工科大学にて地下水や土地の汚染浄化について学び、帰国後、多くの工場跡地の再開発プロジェクトを担当。2003年よりリスクコンサルティング会社にて、不動産売買にかかわる環境リスクの評価業務に従事。08年よりイー・アール・エム日本株式会社において、国内企業の海外M&Aや資源・インフラ関係の海外投資案件に対して、サステイナビリティーの観点で評価サービス(デューディリジェンス)を提供している。

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