コラム

第三十七回目の専門家コラムは、司法書士法人鈴木事務所の鈴木龍介先生に執筆していただきました。鈴木先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、免責の登記について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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商号の続用と「免責の登記」
司法書士法人鈴木事務所 司法書士 鈴木龍介
2012/12/15

1.はじめに

 過剰な債務を抱える中小企業の再生において、収益性・将来性のある事業を譲渡または会社分割して別会社に承継させ、当該事業の存続を図る一方で不採算部門を残した旧会社について清算等を行うという手法が採られることがあります。このようなスキームは、“第二会社方式”と呼ばれています。

 第二会社方式では、事業の継続性をアピールするために、譲受会社が譲渡会社の商号を継続使用(続用)したいというニーズが少なくありません。その場合に、予定していない債務を負担するというリスクを遮断する手法として、会社法22条2項に基づく「免責の登記」を活用することが考えられます。

2.「免責の登記」の意義

 事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合、譲受会社は、原則として譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います(会社法22条1項)。譲受会社は、あくまで事業譲渡契約の内容に定められた債務を引き継ぐのであって、譲渡会社のその他の債務を負担するものではありませんが、商号の続用により譲渡会社の債務を譲受会社が引受けたかのような外観が生じることを考慮し、債権者保護の観点から特別に責任を負うものとされています。

 もっとも、譲受会社が、本店所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨の登記をした場合には、債権者の誤信は解消されるものとして債務は負担しないとされており(会社法22条2項)、これが「免責の登記」です。

3.「免責の登記」の適用範囲

 事業の譲受けに際して商号の続用がなくても、事業に関する屋号の続用がある場合、譲渡会社の債務を譲受会社が引き受けたかのような外観が生じることになります。具体的には、預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合、ゴルフ場の事業が譲渡され、譲渡会社が用いていた名称を譲受会社が続用しているときには、譲受会社が譲受後遅滞なくゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会社法22条1項が類推適用され、譲受会社は、当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還債務を負うと判示しています(最二小判平16・2・20民集58巻2号367頁)。

 会社分割を行う場合、法律行為によって事業の全部または一部に関する権利義務が他の会社に承継されるという点において事業譲渡と同様であって、承継会社が分割会社の商号または屋号を続用するときには、分割会社の債務を承継会社が引き受けたかのような外観が生じることになります。会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社に承継された場合にも、会社法22条1項が類推適用されると判示しています(最三小判平20・6・10金融法務事情1848号57頁)。

 商業登記実務では、一連の判例を踏まえ、事業譲渡の譲受会社が屋号のみを続用する場合、「免責の登記」ができるとしています(「商業登記の栞13 免責の登記」登記研究674号97頁)。また、会社分割に伴い承継会社または設立会社が分割会社の商号または屋号を続用する場合にも、「免責の登記」ができるとしています(「質疑応答7792」登記研究675号247頁)。

4.「免責の登記」の実例

 会社法22条1項の類推適用に基づく「免責の登記」の仕方については確定されたものがなく、実務上もケースバイケースで対応することになりますが、どのように登記されるかを2つの具体例で紹介します。

事案1 ―事業譲渡後の屋号の続用―

 譲渡会社(商号「株式会社甲」)はスーパーマーケット(屋号「乙」)を営んでいますが、他店舗経営に行き詰まり多額の負債を抱えています。そこで、地域の有力企業である譲受会社(商号「株式会社丙」)が事業譲渡によりスーパーマーケット事業を引き受け、屋号乙を続用することにしました。なお、同事業に関する既存の債務については譲渡会社から承継しない旨の合意をしました。

事業譲渡後の屋号の続用

事案2 ―吸収分割後の商号・屋号の続用―

 分割会社(商号「株式会社A」)は建設業を営んでいますが、不動産投資に失敗し破綻寸前の状態にあります。そこで、第二会社方式を採用し、吸収分割により建設業に関する事業の権利義務のみを吸収分割承継会社(商号「株式会社B」)に移転し、あわせて吸収分割承継会社は、分割の効力発生後は分割会社の商号を続用することにしました。なお、分割会社は、会社分割の効力発生日に別商号(商号「株式会社C」)へ変更する登記を会社分割の登記と同時に申請します。

吸収分割後の商号・屋号の続用

執筆者紹介

略歴

・日本司法書士会連合会民事法改正委員会及び商業登記・企業法務推進委員会 委員
・リスクモンスター株式会社(大証ジャスダック上場)社外監査役
・株式会社エー・ディー・ワークス(大証ジャスダック上場)社外監査役
・ACM-J日本与信管理協会 理事
・日本私法学会 会員
・ABL協会 特別会員

M&A等事業再編、企業再生を中心とする企業法務・医療法務や動産・債権担保等の登記・法務手続に携わる傍ら、講演・執筆にも精力的に取り組んでいる。

主な著書

「新しい不動産登記の実務・実例」(編著、中央経済社、2005年)
「商業・法人登記300問」(編著、テイハン、2009年)
「動産・債権譲渡登記の実務 補訂版」(共著、金融財政事情研究会、2010年)
「Q&A東日本大震災と登記実務」(編著、商事法務、2011年)
「株主総会ハンドブック 第2版」(共著、商事法務、2012年)
「論点体系会社法第6巻」(共著、第一法規、2012年)
「商業・法人登記六法」(編集、中央経済社、2012年)

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