コラム

第三十六回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、税務調査における「任意調査」について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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二つの「任意調査」
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2012/11/15

 国税職員が行う通常の税務調査が「任意調査」であることは、周知のとおりです。

法人税に関する税務調査を例にとれば、国税庁、所轄国税局又は所轄税務署の職員が法人税法153条(当該職員の質問検査権)を根拠として、任意に質問検査を行うこととなるわけです。

国税に係る税務調査には、このような通常の税務調査だけでなく、国税犯則取締法に基づく収税官吏(国犯法1)が行う調査、いわゆる査察調査がありますが、この査察調査にも、「強制調査」だけでなく「任意調査」があります。

「任意調査」には、この二つの調査があるわけです。

一般には、査察調査に「任意調査」があるということ自体があまり知られていないと思われますが、それを知っている者においても、査察調査における「任意調査」においては国税職員の権限が強く納税者の権利が制限されており、他方、通常の税務調査における「任意調査」においては国税職員の権限はあまり強いものではなく納税者の権利もある程度は確保されている、というように受け止められているものと思われます。

一般的な「任意調査」のイメージは、このようなものではないかと思われますが、この二つの「任意調査」の内容をよく見てみると、実際は、このような一般にイメージされているものとは、かなり異なっています。

1.通常の「任意調査」

 法人税法153条1項においては、「国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署若しくは所轄国税局の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人(省略)に質問し、又はその帳簿書類(省略)その他の物件を検査することができる。」と定めています。

また、法人税法154条1項においては、いわゆる反面調査の質問検査権に関する定めが設けられており、同項においては、「国税庁の当該職員又は法人の納税地の所轄税務署若しくは所轄国税局の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人(省略)に対し、金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者に質問し、又はその事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる。」と定めています。

この質問検査権に関しては、次の2において述べるような「強制調査」の権限は含まれておらず、国税職員の権限は、あまり強いものではありません。

国税職員が、質問検査に際し、例えば、相手方の意に反して質問検査を強行したり、相手方の同意を得ずに居室に立ち入るといったようなことを行った場合には、更正や決定が無効となったり、また、国家賠償を行わなければならないことともなる可能性があります。

しかし、これらの質問検査権に基づく「任意調査」に関しては、法人税法162条2号において「当該職員の質問に対して答弁せず若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定〔法人税法153条又は154条1項若しくは2項。引用者〕による検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者」を「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」こととされており、納税者には、間接的に協力義務が課された状態となっています。

(注)
上記の法人税法の定めは、平成23年改正により、他の個別の税法中の税務調査に関する定めと合わせて国税通則法に規定することとされており、平成25年1月1日からは、法人税の税務調査は、国税通則法の規定を根拠として行われることとなりますが、上記の法人税法153条1項、154条1項及び162条2号の定めは、殆ど同じ内容でそれぞれ国税通則法74条の2第1項2号イ・ロ及び127条2号に定められています。

 換言すれば、質問検査権は、決して国税職員に強い権限を与えるものではないが、納税者に対しては非協力の場合に罰則を科すことで事実上の協力義務を課す、というバランスの取れた仕組みとなっているわけです。

<参考>
上記の質問検査権は、犯罪捜査のために用いることはできません。
法人税法156条においては、「前三条の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」と定めており、この規定は、平成25年1月1日以後も、国税通則法74条の8において、そのまま引き継がれることとなります。
また、国税職員が質問検査権に基づく質問検査によって犯則の事実があることを知った場合にも、守秘義務により、その事実を漏らしてはならない、と解されています。

2.査察調査における「任意調査」

 査察による犯則調査は、国税犯則取締法1条の「任意調査」と2条の「強制調査」から成っています。

実際の査察による犯則調査は、まず、初日に国税犯則取締法2条の「強制調査」が行われ、その後、同法1条の「任意調査」が行われるというケースが殆どとなっているはずです。

このため、一般には、査察による犯則調査は「強制調査」であり強い権限をもって行われるものと受け止められているように思われます。

確かに、この「強制調査」は、収税官吏に臨検、捜索、差押えを行う権限を与えて行われるものであり、そういう点では、収税官吏は、強い権限を有しています。

しかし、この「強制調査」に関しても、犯則嫌疑者(国犯法1)には全く協力義務が課されていません。

収税官吏には強い権限を与える一方で、「犯則嫌疑者」には何ら協力義務は課さない、という均衡のとれた状態となっているわけです。

「強制調査」に臨む収税官吏は、例えば、帳簿が必要であれば捜索して差し押え、また、金庫を開ける必要があれば自らその金庫を壊してでも開ける、というようなことを行う権限も有しています。

  犯則嫌疑者は、「強制調査」に際し、収税官吏の調査等を妨害したり証拠隠滅を図ったりしない限り、例えば、質問に対して答えなかったり、帳簿を提示しなかったり、また、金庫の鍵を開けなかったりしたとしても、法令違反とされることはありません。

  犯則嫌疑者に協力義務がないという点は、国税犯則取締法1条の「任意調査」においても、同様となっています。

このように、上記の質問検査権に基づく「任意調査」においては納税者に実質的な協力義務を課しながら、査察による犯則調査の「任意調査」においては犯則嫌疑者に何ら協力義務を課さないということでは、制度の整合性を欠くこととなるのではないかという疑問が出てくることがあり得ると考えられます。

しかし、これは、質問検査権に基づく「任意調査」が純然たる行政手続きである一方、査察による犯則調査が刑事手続きに準ずるものであることからすれば、当然ということになります。刑事事件の容疑者に自らを有罪とする行為に協力する義務が課されていないことを考えると、査察による犯則調査において犯則嫌疑者に協力義務が課されていないことも、首肯できるものと思われます。

  本稿のテーマである国税犯則取締法1条の「任意調査」について、もう少し詳しく見てみましょう。

第1条
収税官吏ハ国税(関税及噸税ヲ除ク以下同シ)ニ関スル犯則事件(以下犯則事件ト称ス)ヲ調査スル為必要アルトキハ犯則嫌疑者若ハ参考人ニ対シ質問シ、犯則嫌疑者ノ所持スル物件、帳簿、書類等ヲ検査シ又ハ此等ノ者ニ於テ任意ニ提出シタル物ヲ領置スルコトヲ得

 この「任意調査」に関しては、次の罰則が設けられています。

第19条ノ2
間接国税ニ関スル犯則事件ニ付第1条第1項ノ規定ニ依ル収税官吏ノ検査ヲ拒ミ、妨ケ又ハ忌避シタル者ハ3万円以下ノ罰金ニ処ス

 このように、査察による犯則調査における「任意調査」に関しても、質問検査権に基づく「任意調査」の場合と同様に、調査権限に関する規定と罰則の規定とが設けられているわけですが、上記の国税犯則取締法19条の2の規定にあるように、罰則が設けられているのは、「間接国税ニ関スル犯則事件」における検査拒否等の場合のみとなっており、法人税に関する犯則事件などについては、罰則が設けられていません。
このように、査察による犯則調査における「任意調査」においては、「間接国税ニ関スル犯則事件」を除き、文字どおり、全くの任意の調査となっているわけです。

このため、例えば、収税官吏の調査依頼を断ったり、調査場所を変更したり、他の者を立ち合わせたり、調査を途中で打ち切ったり、調査を録画録音したりしたということであったとしても、何ら違法とはならないわけです。

3.まとめ

 上記1及び2において確認したとおり、質問検査権に基づく「任意調査」と査察による犯則調査における「任意調査」は、同じく「任意調査」ではあるものの、その内容には大きな違いがあり、しかも、その違いは、一般にイメージされているものとはかなり違っている、と言ってよいでしょう。

納税者となっている限りは、質問検査権に基づく「任意調査」を受けることも、また、期せずして査察による犯則調査における「任意調査」を受けることも、有り得るわけですが、これらの調査を受ける場合には、それらの法的な性格を正確に踏まえた上で、適切に対応する必要があります。

特に、査察による犯則調査を受ける納税者は、犯罪者となるのか否かの岐路に立たされることとなるわけですから、犯則調査における「任意調査」の法的な性格を正しく理解しておくことが、非常に重要となります。

もちろん、これは、査察による犯則調査に協力するべきでないということを述べるものではありません。

  本稿は、法治国家においては、調査を行う側も、調査を受ける側も、法を正しく理解し、法に則って対応するべきである、ということを確認するものです。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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