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シンガポールを活用したASEAN投資戦略
株式会社アミダスパートナーズ
2012/11/1

1.はじめに

 日本企業は成長性を求めて海外市場への進出を強めています。新興国市場は高い成長性と安価な労働力により日本企業の関心を集めており、その中でもASEAN諸国は高い注目を集めています。本稿では日本企業による同地域へのアプローチにおいて、シンガポールを活用することの有用性を整理いたしました。

2.ASEAN市場

  日本貿易振興機構の調査では海外で事業規模の拡大を図る国々としてASEAN諸国に高い優先度をおいています。

表1. 日本企業が今後(3年程度)に事業規模の拡大を図る国と地域
販売機能 生産 研究開発
1
中国
51.5%
1
中国
32.5%
1
中国
13.5%
2
タイ
18.3%
2
タイ
12.1%
2
タイ
4.4%
3
インドネシア
17.0%
3
インドネシア
8.7%
3
米国
3.9%
4
インド
16.9%
4
ベトナム
8.3%
4
西欧
3.2%
5
米国
15.0%
5
インド
6.1%
5
インドネシア
3.1%
6
台湾
15.0%
6
米国
6.0%
6
台湾
3.0%
7
韓国
14.8%
7
韓国
4.7%
7
インド
2.9%
8
ベトナム
12.4%
8
台湾
4.4%
8
韓国
2.6%
9
西欧
11.5%
9
マレーシア
3.9%
9
ベトナム
2.3%
10
香港
11.5%
10
西欧
3.4%
10
香港
1.9%
出所:日本貿易振興機構(JETRO)、平成23年度 日本企業の海外事業展開 に関するアンケート調査概要

 また、近年では日本企業による買収の件数も増加していることから、同地域内での事業拠点の構築や拡大においてM&Aが有効な戦略として確立されつつあることも見て取れます。

 ASEAN諸国はAFTAを始めとする条約・協定により、各国の経済が有機的に連結されています。また近年では世界の製造拠点としても重要性を増しています。一方でASEANを形成する諸国は政治・経済・文化・宗教等において独自性が強い国々が多く、市場として捉える場合にはアクセスする手法を各レベルで戦略的に検討する必要があります。例えば、同地域のイスラム教徒の人口は2.5億人を超え、更なる人口増加が見込まれる大変有望な市場です。一方で、特に食料品や化粧品やそれに付随する物流等において同市場へアクセスするにはHalar認証の取得は重要な課題となります。このときには、単に進出する地域で認証を得るということだけでなく中長期的な事業展開を見据え、認証取得の戦略を検討する必要があります。

3.シンガポールの事業環境

 シンガポールは国家戦略の下で先進的なビジネスインフラを整備しており、日本のみならず諸先進国の企業が争って事業拠点を置いています。不動産コストや人件費が課題ではありますが、多くの先進国の企業が争って事業拠点を置いています。

  周知の通りシンガポールは、国際的な金融のハブとしてアジア市場だけでなく世界的にも大きな存在感を有しています。これはシンガポール政府が国家戦略として金融事業を重視し、配当、預金利子及びキャピタルゲインを非課税とする税務政策から、SGXのような証券や商品等の取引所の整備や、金融事業の機密保持強化によるウェルスマネジメント業務の強化等の政策をとってきた成果です。

 シンガポールは世界の物流においても大きな存在感を有しています。2009年まではシンガポール港はコンテナ取扱量で世界一位の港であり、2010年に上海港にその座を譲りはしましたが、2011年まで取扱量は継続して増加しています。また同港は世界最大級の燃料積込港の一つであり、石油精製能力ではヒューストンやロッテルダムに次ぐ位置にあります。このようなシンガポール港の重要性から、シンガポールの治安の良さと相俟って、後述の不動産や労働者に係るコストの高止まりにも関わらず、近年日本企業が同国に物流拠点を新たに構築したり、集約したりする事例が散見されます。

 更にシンガポールは円滑な事業運営の為に不可欠な法務の整備が進んでいます。同国は建国期にイギリス法を承継し、イギリスの判例を引用することで、先進国の投資を受け入れやすい法体系を迅速に整えました。近年では独自の判例やイギリス以外の国々の法律の影響も受けながら独自の法体系が整備されています。企業買収等の現場で規制当局と折衝を繰り返してきた弊社の経験からは、シンガポールでは基本的に法の精神と案件の実態に基づいて法の適用が検討されており、適切な部局・担当者に対する誠意ある説明と交渉は有益な結果を齎すことが多いという印象を受けます。近年は日本をベースとする法律事務所の進出や日本デスクを設置する現地法律事務所が増えており、日本企業が投資を行う環境が一層整いつつあります。

 シンガポールへの進出を検討するにあたっては、周辺の他国と比べた場合に不動産関連費用と人件費が課題となる事例が多くあります。シンガポールでは国家が土地を所有しており、政府が土地の用途を決定しています。この政策が同国の特徴である先進的かつゆとりのある都市空間を実現している一方で、慢性的な事業用不動産の需要超過を招いています。また外国人労働者の流入の制限や特定業務への外国人の参入を制限する政策をとっています。近年では外国人労働者に対するパスの制限を強化しており、足元では実際に新規申請や更新が却下される事例が増えています。これらの背景を勘案すると不動産コストや人件費の高止まり傾向は継続する可能性があります。

 しかしこのような課題にも関わらず、シンガポールの先進的なビジネスインフラは広く評価されており、世界銀行とその子会社であるIFCによるease of doing business(2012-2013)のランキングでは世界1位を、世界経済フォーラムThe Global Competitiveness Report2012-2013においては世界2位を獲得しています。

4.シンガポールを起点とした海外戦略

 シンガポールのMinistry of Manpower等によると2011年12月時点でシンガポールの総人口は526万人であり、国内在住者の増加に備え今後インフラの整備が計画されています。住居の増築、事業区画の移転・新設、MRT、LRTやバス等の公共交通機関の整備が具体的な政策としてあげられています。更に経済のハブとなるというシンガポールの国家戦略を勘案すれば、金融を中心とする情報インフラや空港・港湾設備に対しての継続的な投資等も想定されます。但し、人口の爆発的増加や経済の飛躍的な発展が期待できる新興国に比べると、シンガポール単独では市場の成長速度が若干見劣りする可能性があります。

 しかしながら同国にはASEAN諸国の情報のハブという事業戦略上極めて重要な特徴があります。上述のようにシンガポールは金融と物流のハブであり、同国を起点としてASEAN諸国への投資や商取引が多く行われています。シンガポールから周辺国へ出張する場合には日本の国内出張のような感覚で移動ができ、シンガポールをハブとしたASEAN諸国を結ぶ人の流れが形成されています。その結果、周辺国でも活躍される華僑の方々のネットワークとも相俟って、情報は速やかにシンガポールへと集約され、シンガポール国内の人的関係の中で共有されていきます。

 このような背景から、シンガポールはASEAN地域の事業を統括する拠点として優れた適性を有しています。近年、海外で事業活動を営む企業においては、意思決定の迅速化や現地の事業環境に応じた適性化、コスト削減の観点等から、意思決定をも現地に移管する地域統括会社(RHQ)の導入を行う動きが見られます。シンガポールはRHQを国策として積極的に受け入れており、税の優遇等の方法で支援を行っています。またシンガポールが69の国々と租税条約を締結している点もRHQを構えるにあたり大きなメリットとなります。現在、シンガポール国内には3.5万社を超えるRHQが存在しているといわれています。

5.シンガポール企業を対象とするM&A

 日本の企業がシンガポールの企業を買収する際の目的は様々です。対象企業の保有する設備・施設、商流、技術や知的財産等を目的に幅広い業種の企業を対象に日本の企業は買収を行っています。上述の様に、単にシンガポールのみならずASEAN諸国等の対象企業の投資先や取引関係を目的とした買収や出資が散見されます。昨今では、将来的なRHQの構築を視野に入れ、シンガポールとその周辺国におけるビジネスの経験を有する人材と事業拠点を確保することを強く意識しながら、現地企業の買収を検討いただく事例が複数見られます。

 シンガポールでは企業買収の事例が積み重ねられており、法的手続きはよく整理されています。過去に事例のないスキームであっても法的に明確に禁止されていない限りは、担当部局ではしっかりと検討いただける事例の方が多く見られます。またシンガポールの会計基準はIFRSに準拠しているため、日本国内のM&Aスキームを転用する場合には、その観点からも有効性の確認が必要となります。多くの新興国で見られる外資規制はありませんが、少なくとも1名の居住者の取締役を置かなくてはならないといった規制が存在します。

6.終わりに

 シンガポールはASEAN経済圏のハブとして事業戦略上極めて重要な地位にあり、周辺国の急速な経済発展とインフラ整備が進んだ場合でも、情報のハブとしての地位はますます強固なものになると思われます。現在でもASEAN諸国のみならず、インド、中国や欧州に関する投資情報がシンガポールに集積される傾向があり、海外での事業展開に注力する日本の企業にとって同国の重要性は増し続けるのではないかと思料します。また、中国本土の投資の窓口として従来から香港や台湾が重要な役割を担ってきましたが、昨今では一部の外交政策において中国本土と同様の姿勢をとる事例が見られます。そのような政治リスクを抱えにくく、強力な華僑ネットワークの一端を担うシンガポールは、日本企業の中国投資の窓口としても今まで以上に大きな役割を果たしうるのではないでしょうか。

以上

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