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M&Aの手段としての第三者割当増資
株式会社アミダスパートナーズ
2012/10/1

1.はじめに

 株式取得は最も一般的なM&Aの形と言えるかと思いますが、株式取得の方法は、株式譲渡、新株発行の引受、株式交換等の方法が考えられます。対象会社の全ての株式を取得しようとする場合は株式譲渡か株式交換が選択肢になりますが、完全取得ではなく、10数パーセントから過半数超程度の株式取得を目的とした場合は、株式譲渡の他に第三者割当増資がその方法として考えられます。

 第三者割当増資は所謂「不公正ファイナンス」や経営陣による支配権コントロールのために行われることもあるために、諸々の規制が敷かれています。本稿では、株式譲渡との比較を交えながら、M&Aスキームとしての第三者割当増資と留意すべき事項についてご紹介させて頂きます(*1)。

*1 西友がウォルマートに対して行った新株予約権の第三者割当のように、M&Aの手段として普通株ではなく新株予約権を割当てるケースもあります。

2.株式譲渡との比較

株式譲渡との比較

  第三者割当増資か株式譲渡かのスキーム選択において最も大きなポイントは当然ながら、株式の対価が対象会社と株主(譲渡人)のどちらに入るかという点かと思います。しかしながら資金需要を充たす方法は増資に限りませんので、対象会社に旺盛な資金需要があることだけを以て選択肢を第三者割当増資に決めるのではなく、株主構成への影響や、既存株主のタックス、各種手続き規制の負担等を総合的に考慮しながらスキームを選択する必要があります。

 なお、「のれん代」が多額となるM&Aの場合は、対象会社全体の取得を目的としていても、敢えて会社分割や事業譲渡等の部分取得スキームを選択することで、のれん代償却費の損金算入という税務メリットをとることも考えられます。

 以下は、特に断りがない限り上場会社を対象会社とする場合を念頭において進めさせて頂きます。

3.価格に関する規制

 会社法では、払込金額が「特に有利な金額」の場合は、新株発行決議は株主総会の特別決議事項になると定められています(有利発行規制。会社法第199条第3項、第201条第1項、第309条第2項第5号)。有利発行への該当を判断する具体的な基準は法令では定められていませんが、日本証券業協会が定めた「第三者割当増資等の取扱いに関する指針」が実務上は参考とされることが多く(所謂「日証協ルール」)、ここでは有利発行に該当しない発行価額の基準として、発行決議日の直前日の価額の90%以上とすること、ただし、発行決議から最長6ヶ月遡った日から直前日までの間の平均価額の90%以上とすることもできることが示されています(ただし、日証協ルールに則ったからといって必ずしも有利発行に該当しないとは言えないことには留意する必要があります)。また、投機的な動きで株価が異常に変動する場合等は、その異常な株価を算定の基礎から排除することも裁判例では認められていますので(*2)、このような場合は専門家に株価評価を依頼し単純な市場価格とは異なる価格を「公正な価格」として発行価額を決めることが考えられます。

  一方、株式譲渡の場合は相対取引であれば基本的に当事者間で決定できます。ただし、市場価格がある株式を市場価格から乖離した価格で譲渡した場合、税務上の低廉譲渡等の問題になる可能性があるので、価格の公正性を裏付けるための専門家評価の取得等の対応が必要になろうかと思います。

  また、相対での株式譲渡であったとしても、売出し規制を受けて目論見書交付義務等が生じる場合があることもあります(*3)。これは時間外市場内取引(ToSTNeT1やJ-NET等)とすることで売出し規制を回避することもできますが、時間外市場内取引では取引価格が市場価格に拘束されるため、必ずしも売り手と買い手で合意した価格での取引ができない場合があることにも留意が必要です。

*2 最判昭和50年4月8日民集29巻4号350頁、東京地決平成元年7月25日判例時報1317号28頁、東京地決平成元年9月5日判例時報1323号48頁、大阪地決平成2年6月22日判例時報1364号100頁
*3 制度の概要は、谷口義幸「『有価証券の売出し』に係る開示規制の見直しの概要[下]」商事法務1903号(2010)35-36頁 ご参照

4.「主要目的ルール」

 発行価額が、公正であり有利発行規制上問題ないものであっても、支配権を異動させる目的での第三者割当増資では、既存株主の持分比率が低下するという不利益を以て、新株発行の差止請求を受ける可能性もあり、支配権について既存株主と争いがある場合(特に買収防衛的な意味で第三者割当増資を行う場合等も)は留意が必要です。

 発行差止可否の判断基準について、従来では「具体的な資金調達目的があれば支配権維持が目的であっても不公正発行にならない」、との裁判例に基づいた理解もありましたが、近時の裁判例では「当該新株発行が会社(ひいては既存株主)に与えるプラスの効果と支配権維持というマイナスの側面とを比較考量し、前者が優越するか否か(当該新株発行の持つ疑わしさを上回るだけの正当化事情が認められるか)を事案ごとに個別に判断している」との見方がなされているようです(*4) (所謂「主要目的ルール」)。

*4 大杉謙一「大規模第三者割当増資」『ジュリスト増刊 会社法施行5年 論理と実務の現状と課題』(2011年)84頁

5.取引所規則による規制

(1) 第三者意見又は株主総会決議の取得
 当該第三者割当増資による希薄化率(*5)が25%以上となる場合や支配株主が異動する場合は、経営者から独立した立場にある者による第三者割当の必要性及び相当性に関する意見を入手するか、又は株主総会決議を得るかのいずれかの手続きが必要とされています(有価証券上場規程432条)。

(2) 反社会的勢力との関係
 取引所規則においては、上場会社が第三者割当増資を行う場合は、割当先が上場会社である場合等を除いて、「割当を受ける者と反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」を取引所に対して提出することが必要となります(*6)。

  この確認すべき対象の範囲は広く、引受人が法人であれば大株主や役員個人等、ファンドであれば10%以上の出資者等にまでその範囲は及びます。 また調査方法について取引所に説明する必要がありますが、専門の調査会社を起用するよう取引所から指導を受けることもあるようです。

(3) その他
 第三者割当増資実施から2年以内に株式を譲渡した場合は対象会社に対してその旨を報告する確約書締結の義務、希薄化率300%を超えると原則として上場廃止、割当先の概要、割当先の財産の確認、価格の算定根拠等を開示することも規定されています。

 なお、上場規則等に照らしての第三者割手増資に係る留意事項を網羅的に確認するためのものとして、監査役協会が規定している「第三者割当に関する監査役監査のベストプラクティス」が有用かと思います。

*5 希薄化率の算式は、以下のとおり。
 希薄化率=A/B×100
 A:第三者割当により割当てられる株式に係る議決権の数(潜在株に係る議決権を含む)
 B:第三者割当決定前の発行済株式に係る議決権の数
 例えば、第三者割当前に持分ゼロの割当先が希薄化率25%の第三者割当全てを引きうけると、増資後の議決権比率は20%となる。 *6 確認書の様式は http://www.tse.or.jp/rules/lcdoc/index.html より入手可能

6.会社法改正案

 2012年8月2日に公表された「会社法制の見直しに関する要綱案(案)」の中でも第三者割当増資に係る規制の強化が示されています。

  会社法改正要綱案の中では、公開会社(株式譲渡制限がない会社)の増資については、増資後の引受人グループ(子会社含む)の議決権割合が50%を超える増資を行う際に、一定の期間内に合計で議決権10%以上の株主から増資に反対する旨の通知を受けた場合は、増資のために株主総会の決議(普通決議)が必要とする改正案が示されています。

 株主総会決議を必要とする場合の例外として、割当先が親会社等である場合、株主割当増資の場合、財務状況が著しく悪化していて会社存立維持のために緊急の必要がある場合、が挙げられていますが、この改正案どおりに決定すれば、具体的にどのような場合に「財務状態が著しく悪化しているため株主総会決議は不要」と言えるかは重要なポイントになってくると思われます。

  また株式譲渡に関しては、親会社が子会社株式を譲渡する際に、譲渡する子会社株式の親会社における帳簿価格が親会社の総資産の25%を超える場合で、譲渡後の当該子会社の議決権が50%以下となる場合の株式譲渡に際しては、譲渡の効力発生日前までに親会社の株主総会の決議(特別決議)が必要となる改正案が示されています。

7.終わりに

 第三者割当増資によるM&Aであれば、対象会社にはクロージング後も他の株主が参加し続けることが想定されるので、この場合は他の株主と株主間契約を交わす等して、取締役の選任権限や重要事項の拒否権等を確保し、対象会社経営の安定性を確保することも検討対象になろうかと思います。

  スキームの選択には、税に限らず規制への対応コストが大きな影響を与えるために規制に対する理解が重要ですが、近時は年々新しい規制が増え複雑化しています。特に上場企業に対する規制が複雑ですが、今回の会社法改正要綱案で示された親会社による子会社の株式譲渡に関する規制は、要綱案を見る限り非上場の非公開会社にも適用することが想定されているようであり、規制の複雑化は非上場会社にも無関係ではありません。

  M&Aの検討において、第三者割当増資か株式譲渡かというスキーム選択は比較的早い段階で判断する必要がある事項であり、また初めからスキームありきで検討が始まる(特に検討がされないまま、「第三者割当増資の案件」として進められる等)ことも多いかと思いますが、スキームの違いによる経済的影響は大きく、スキーム検討のために考慮すべき要素も多いため、早い段階で弁護士や税理士、必要に応じてフィナンシャル・アドバイザーを起用して慎重に検討されることが必要かと思います。

以上

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