第三十四回目の専門家コラムは、株式会社日本バイアウト研究所 代表取締役の杉浦 慶一先生に執筆していただきました。杉浦先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、日本のバイアウト市場における近年のエグジット方法の推移について、取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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はじめに
リーマン・ショック以降に低迷していたエグジット市場が急回復している。本稿では、エグジット案件をタイプ別に分類し、その特徴について概説した上で、近年のエグジット方法の推移について明らかにする。
1.株式公開
株式公開では、株式の「売出し(secondary distribution of shares)」により、バイアウト・ファンドが保有する株式を不特定多数の投資家に売却することによりエグジットが達成される。通常は、証券会社の買取引受を通じて売出しが実施される。株式公開によるエグジットにおいては、バイアウト・ファンドが一度の売出しで全ての保有株式を売却することが困難であることから、上場後もさまざまな方法により保有株式が売却されることとなる。
2.M&Aによる株式売却
M&A(mergers & acquisitions)による株式売却では、バイアウト・ファンドが保有株式を事業会社に売却しエグジットが達成される。多くの場合、バイアウト・ファンドの保有株式のすべてが売却されることとなる。
3.第二次バイアウト
第二次バイアウト(secondary buy-outs)は、バイアウト・ファンドが保有株式を別のバイアウト・ファンドに譲渡する取引である。M&Aによる株式売却との相違は売却先が異なるという点にある。M&Aによる株式売却の売却先が主に戦略的なシナジー効果を追求するストラテジック・バイヤーであるのに対し、第二次バイアウトにおける売却先はファイナンシャル・バイヤーである。
4.株式の買戻し
株式の買戻し(share repurchase)は、投資先企業がバイアウト後に生み出したキャッシュでバイアウト・ファンドの保有株式を買戻すことである。また、新たにデットを活用して資本再構築を行う形でエグジットするケースも出てきている。
5.その他
上記以外では、株式の買戻し、ファンドへの売却、事業会社への売却を組み合わせた形でエグジットするケースなどが存在する。また、1社の事業会社にM&Aで売却するのではなく、複数の事業会社に分散して売却するなど、工夫を凝らしたエグジット方法も登場している。
6.エグジット案件の推移
図表1は、2008年から2011年までの日本のバイアウト市場におけるエグジット案件の推移を示したものである。2009年から2010年に低迷していたエグジット市場が2011年に急回復していることが読み取れる。最も多いエグジット方法は、一貫してM&Aによる株式売却となっているが、2011年は25件を超え過去最高の件数を記録した。それ以外のエグジット方法も増加傾向にある。
図表1 エグジット案件の推移
(出所)日本バイアウト研究所
おわりに
以上、本稿では、日本のバイアウト市場におけるエグジット案件の傾向を概説した。
2012年も2011年の件数に迫る勢いでエグジット案件が登場しているが、バイアウト・ファンドのポートフォリオ企業が日本の優良企業の傘下に入るケースも数多く出てきており、新たな株主の傘下でのさらなる企業価値向上が期待されている。
注
統計データの定義や集計の方法については、日本バイアウト研究所の各種リリースを参照されたい。
参考文献
杉浦慶一(2011a)「日本における事業再編型バイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業再編とバイアウト』中央経済社, pp.107-140.
杉浦慶一(2011b)「日本における事業再生型バイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業再生とバイアウト』中央経済社, pp.103-130.
杉浦慶一(2011c)「日本におけるオーナー企業のバイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業承継とバイアウト』中央経済社, pp.97-131.
杉浦慶一(2012a)「日本のバイアウト市場の動向: 2011年版―非公開化取引の増加とエグジット市場の急回復―」『M&A Review』Vol.26, No.2, ポリグロットインターナショナル, pp.20-23.
杉浦慶一(2012b)「日本のバイアウト市場におけるプロフェッショナル経営者の活躍」日本バイアウト研究所編『プロフェッショナル経営者とバイアウト』中央経済社, pp.44-58.
杉浦慶一(2012c)「エグジットが好調な日本のバイアウト市場」『オル・イン(Alternative Investment)』Vol.25, クライテリア, forthcoming.