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海外投資に係るバリュエーション
株式会社アミダスパートナーズ
2012/7/2

はじめに

 昨今我が国の企業においては、円高や高水準となっている手許資金を背景に、海外、特にアジア圏への投資が盛んに行われています。

 本稿では、このような投資に際してのバリュエーションについての考え方と実務上の留意点について考察します。

1.ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式によるバリュエーション

 海外投資に限らず投資意思決定に際してはディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式(DCF方式)をはじめとするインカム・アプローチが広く行われている。

 DCF方式は、事業からもたらされる事業キャッシュ・フローを一定の割引率により現在価値に割り引くことにより事業価値を算出する評価手法である。

 したがって、DCF方式による評価に際しては、事業キャッシュ・フローと割引率の想定が重要なポイントとなる。

 事業キャッシュ・フローは一般的に以下の算式で定義される。

  事業キャッシュ・フロー=NOPAT ± 再投資額

 ここで、NOPATは税引後事業利益(Net Operating Profit After Taxes)であり、再投資額は将来の事業キャッシュ・フローを創造するために行われる事業投資であり、運転資本投資や純設備投資(設備投資-償却費)などが含まれる。

 一方、事業キャッシュ・フローを現在価値に割り引く際の割引率(株主資本コスト(ke))は、CAPM理論に基づく場合、以下の算式で求められる(*1)。

  Ke=リスクフリーレート(RF)+β×エクイティリスクプレミアム(ERP)

 資本コストは、企業に対する資金提供者の立場からすると、提供した資金に対して期待する利回りということができる。

 DCF方式においては、事業キャッシュ・フローが株主及び負債権者に帰属するものであれば、割引率も株主及び負債権者が期待する利回りである必要があり、事業キャッシュ・フローが名目値であれば割引率も名目値である必要があるといった、事業キャッシュ・フローと割引率との間の合理的な対応関係が求められる。

*1 有利子負債により資金調達を行っている企業においては、株主と負債権者に帰属する事業キャッシュ・フローを株主資本コストと負債コストをこれらの資本構成で加重平均した加重平均資本コスト(WACC)で割り引くことになるが、本稿では議論の単純化のため、株主に帰属する事業キャッシュ・フローを株主資本コストで割り引くというモデルを前提としている。

2.海外投資におけるバリュエーションの特性

このように事業キャッシュ・フローと割引率には合理的な対応関係が求められるが、海外投資の場合、現地通貨ベースの事業キャッシュ・フローは現地ベースの割引率、自国通貨ベースの事業キャッシュ・フローは自国ベースの割引率という対応関係が必要である。

事業キャッシュ・フローは会計上の利益を基礎として算出されるが、海外投資の場合、通常対象会社における会計上の測定が現地通貨により行われていることから、バリュエーションを現地通貨ベースの財務諸表及び事業計画に基づき行うのか、自国通貨への変換というステップを経て行うのかにより適用される割引率も異なることになる。

(1)現地通貨ベースの事業キャッシュ・フローに基づく場合
現地通貨ベースの事業キャッシュ・フローを現在価値に割り引く際の割引率(株主資本コスト:KeL)は、現地のマーケットデータを基礎として、以下のように算出される(*2)。

 KeL=RFL+βL×ERP L (添え字のLはLocalを意味する)

 この現地ベースの株主資本コストに基づき、現地通貨ベースの事業キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで、現地通貨ベースの事業価値が算出され、これを自国通貨に換算することで、自国通貨ベースの事業価値が算出される(*3)。

(2)自国通貨ベースの事業キャッシュ・フローに基づく場合
 一方、自国通貨ベースでのバリュエーションを行う場合には、まず、現地通貨ベースの財務データを自国ベースに換算する必要がある。この換算においては、事業計画上の将来の財務データを自国ベースに換算する必要があることから、将来の為替レート(フォワードレート:XF)を推定する必要がある。

 この換算は、現在の為替レート(スポットレート:Xs)と将来の為替レート(フォワードレート)の関係を示す金利平価説(Interest Rate Parity:IRP)により行われる。

 IRPは、ある2国間の金利差は、フォワードレートとスポットレートの差に等しくなるとする考え方であり、以下の関係式が成り立つ。

  XFt=XS(t-1)×(1+rH)t/(1+rL)t
(rは金利、添え字のHはHome、tは将来の時点を意味する)

 このように推定されるフォワードレートに基づき事業計画における各年度の現地通貨ベースの財務データを自国通貨に換算する。

 次に、自国ベースの割引率は、自国のマーケットデータを基礎として算出されるが、その際、カントリーリスクプレミアム(CRP)を考慮する必要があることに留意が必要である。

 CRPとは、投資対象が海外である場合に、その投資先国における経済環境や社会環境、政治の安定性などの変化によってもたらされるリスクについて、追加的に求められるプレミアム相当である。

 一般的に投資家は分散投資を行うことにより、リスクを低減することができるが、CRPは分散投資を行うことによっても低減できないリスクとしてとらえることができる。

 なお、CRPの推定については、投資先国における長期国債と等しいデュレーションを有する自国の長期国債との利回りの差異として求めるのが実務的である(*4)。

 以上より、自国ベースの割引率は、以下のように算出される。

  KeH=RFH+β×RPH+CRP (添え字のHはHomeを意味する)

 このように算出された自国ベースの株主資本コストに基づき、自国通貨ベースの事業キャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで、自国通貨ベースの事業価値が算出される(*5)。

(参考)事業キャッシュ・フローと割引率の理論的な対応関係
 参考として上記2つのケースにおける事業キャッシュ・フローと割引率の理論的な対応関係を示すと以下のとおりである(*6)。

#

*2 実務では現地通貨ベースの資本コストにカントリーリスクプレミアム(CRP)を考慮することがあるようだが、理論的には現地通貨ベースの資本コストにはすでCRPが考慮されているため、この場合二重にCRPを考慮してしまう可能性があることに留意が必要である。

*3 資本コストは資金提供者が期待する利回りであるということからすると、これは現地の投資家が対象会社へ投資する場合の価値を示していると考えることができ、主として売り手の立場による資本コストに基づく価値であるということができる。

*4 株式会社国際協力銀行(JBIC)のホームページには国ごとのリスクプレミアムが掲載されており参考となる。

*5 資本コストが自国ベースであることから、自国の投資家が対象会社へ投資をする場合の価値を示していると考えることができ、主として買い手の立場による資本コストに基づく価値であるということができる。

*6 この関係はあくまでも理論的な対応を示すものであり、現実的にはCRPの水準や国際的な分散投資の程度(β)等により必ずしも一致するものではない。コーポレートファイナンスにおける完全市場や効率的市場の前提のもとで成り立つ関係といえる。

*7 現地ベースの資本コストと自国ベースの資本コストの間には、フィッシャー効果に基づく以下の関係式が成り立つ。
自国ベースの資本コスト = (1+現地ベースの資本コスト) x (1+自国のインフレ率) / (1+現地のインフレ率) -1

3.必要情報の入手可能性と実務上の対応

 本稿においては、投資先国におけるマーケットデータを容易に入手できることを前提として割引率を考えてきたが、特に投資先国が新興国である場合、現実的には必要な情報を入手できないことがある。

(1) エクイティリスクプレミアム
 エクイティリスクプレミアムについては、投資先国によっては、マーケットの歴史が浅く、有用な情報を得られない場合がある。

この点については、時間の経過とともに解消されていくことになるが、実務では相対的ボラティリティ(Relative Volatility)という概念が用いられることがあるようである(*8)。

(2) アンレバードβ
 アンレバードβは、理論上は純粋な事業リスクを示すものであり、通常は、対象会社(対象会社が上場会社である場合)や類似会社のレバードβ(市場で観察されるβ)から算出される。

 ただし、投資先国が新興国である場合、類似会社が少なく、バリュエーション目的に足りる十分な類似会社を選定することが困難であったり、株式の流動性が極端に低くデータの信頼性に欠けたりする場合がある。

 この点については、事業リスクは国により大きく異なるものではないとの前提に基づき、自国や他の先進国のマーケットにおけるベータ値を利用するのが実務的であるし、理論的にも整合するものと考えられる。

*8 相対的ボラティリティとは、投資先国と自国の株式市場のボラティリティ(標準偏差)の比率と自国の長期国債の時価利回りに基づき、投資先国のリスクフリーレートを想定する方法であるが、必ずしも理論的に確立されたものではない。

おわりに

 海外投資に際して行うDCF方式によるバリュエーションは、国内におけるものとその基本構造に変わりはありませんが、本稿で述べたような留意点があることから、それらの意味合いを十分に理解したうえでの対応が求められます。

 魅力的な投資案件を誤ったバリュエーションにより逸することがないよう、十分な理論武装とそれに基づく合理的な意思決定を行う必要があります。

 最後になりましたが、本稿は神戸大学の砂川伸幸教授とのディスカッションを通じて学んだ内容に基づいています。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

以上

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