コラム

第三十一回目の専門家コラムは、タワーズワトソンの片桐一郎先生に執筆していただきました。片桐先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、M&Aの価値を生み出す買収後の統合について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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M&AでのPMI(買収後の統合)のポイント
タワーズワトソン ディレクター 片桐一郎
2012/6/15

はじめに

 前回は、M&Aでの人事デューデリジェンス(DD)の重要性について述べた。今回はM&Aの価値を生みだす買収後の統合(PMI:Post Merger Integration)について述べてみたい。

1.PMIの難しさ

 苦労した交渉が実りディールが成立すると、華々しく対外発表もなされ、社内では安堵感も漂っているかもしれない。しかし、ここから本番の幕が上がるのである。新しいオーナーとなった日本企業は、買収のプレミアムを上回る価値を生み出すべく、買収した企業を「経営」しなくてはならない。

 そのためには現実的なPMIビジョンと、海外の現場のキーマンを動かすリーダーシップが新オーナーとなった日本企業に必要となる。 しかし、言葉の壁に加えて、多くの日本企業には異質な文化環境の中で多様な組織・人材を経営できるリーダーが不足しており、また世界で共通に使用できる、人材面の経営プラットフォームも未整備なのでPMIの実施は容易ではない。

2.PMIの方針

 PMIを進めるには方針が必要である。そのためにM&Aの目的に立ち戻り、何を統合するか、あるいは統合しないのかの判断をできるだけ早く、できれば人事DDの段階で行っておきたい。M&Aの目的を大きく3つ(市場の獲得、技術の取得、規模の経済)に分けて、PMIで検討すべき点をみてみよう。

 市場の獲得が目的の買収は、日本企業に馴染みの薄い東欧やアフリカなどの新興国市場に強みをもつ企業の買収がその例である。どういう営業組織にするのか、だれがどのテリトリーをリードするかを迅速に決定する必要がある。その体制が固まったら、売上の共通目標や評価基準の設定、共通営業インセンティブの設定に進む。現在の顧客の混乱を避けるためにも、営業組織の再編や人材マネジメントの確立は優先度が高い。

 2番目の目的の技術の取得は、優れた発想や固有のノウハウを持つ技術者の取得と言い換えることができる。このような人材は管理の仕組みが嫌いなため、無理に共通人事制度に組み込まずに、開発目標と価値観の摺合せといったソフトの部分の統合が重要となる。

 規模の経済効果の活用目的の場合は、どの組織機能で効果を出すかの見極めが重要である。集中購買による調達コストの低減なのか、買収先と重複する間接部門や物流部門を統合・共有化なのか、工場統合による稼働率向上なのか、という施策によって組織の統合やリストラが必要になり、それに応じた人材マネジメントを導入しなければならない。

 このような目的と効果は、デューデリジェンス実施時の買収価格の元になったビジネスプランにある程度は反映されているだろう。しかし具体的アクションが求められるPMIでは、そのプランをどう実現するかについて、現場のキーマンとより突っ込んだ議論が必要となる。その議論を通じて人事DDの段階では十分把握できなかった現場の抵抗も分かってくるだろう。その上で抵抗の低減と新しいアクションプランへの動機づけのため、飴と鞭の両面を備えた社員の処遇策を用意すると効果的である。

3.PMIの体制と推進のポイント

 PMIで実行すべきプランを明確にする一方で、その推進における日本本社の役割も明らかにしておくべきである。日本企業がとりうるモデルには、図1の3つのパターンが考えられる。

図1.グローバルM&Aの成長モデル

 Aは委譲モデルでこれが日本企業には最も多く、買収先の相手の経営者を残し、相手の自治をできるだけ尊重し、株主の立場によりガバナンスを効かせながら、買収シナジーの発揮を長期的に図るモデルである。相手からは歓迎されるが、シナジー発揮が遅れるリスクがある。

 Bは日本と分離して、日本以外を統括する海外本社を「海外」に設けるモデルである。海外の人材が日本本社と区別されることで動機づけられる長所がある反面、日本本社のガラパゴス化が進み、日本と海外の距離が遠くなる心配がある。

 Cはすべての地域を統括するグローバル本社を日本に置くモデルである。日本側に求心力となる強いリーダーシップと、普遍的な経営モデルがあれば成り立つが、現場を支える一般社員(下部構造)とグローバル経営幹部の乖離が問題になる可能性がある。

 M&Aの目的を実現するために、自社にとってどの組織モデルが適しているか、また日本側がどこまで人事や現場の意思決定に関与するかをよく検討する必要がある。

 モデルが固まったらそれに応じて、人事のプラットフォーム(等級、評価基準、人材データベースなど)を整備すればよい。

 ただしどのモデルであっても、鍵となるポジションの人事をグリップすることは不可欠である。そのために、M&Aシナジー発揮の貢献度を人事評価と連動させることが肝要である。

 また、日本本社の社員の中には、被買収企業の置かれている社会や文化への理解が十分でない人がいる。実際に聞いた話だが、ある企業でPMIが始まり日本から赴任してきた役員が、歓迎会の席で横に座った自分の秘書に、何気なく"How old are you?"と聞いてしまい、青い顔をして席を立った彼女は翌日この役員を告訴する、と社長に申し出たそうである。こういうことを避けるためにも異文化との仕事の仕方を学ぶ研修を事前に受けたほうがいいだろう。

 PMIの対象企業が大規模の場合は、その進捗や問題点を社員意識調査によって把握し、PMIに活かすことが有効である。社員満足度を定量化し、PMIに問題のある部門とリーダーをあぶり出して対策を打つのである。

 以上述べてきたようにPMIを成功させるには、様々な人事施策が必要となる。

4.終わりに

 70年前に始まった太平洋戦争では、日本の政府・軍部は終戦のビジョンがはっきりしないまま、米国と開戦したと言われている。占領地域の経営方針も未確立で、拡大した戦線を維持するための兵站(ロジスティクス)も整備できないまま悲惨な結末を迎えた。

 現在活発化している海外M&Aでは、PMIのビジョンと人材のロジスティクスをしっかり整備し、安易なブームに乗せられずに取り組むことを期待したい。

以上

執筆者紹介

略歴

コマツ(1979-87)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(1988-1994)を経て1994年12月にワトソンワイアット(現タワーズワトソン)に入社。2010年からタワーズワトソンのディレクター。戦略・組織・人材を一体と捉え、海外を含むクライアント企業に対し幅広いコンサルティングを行っている。M&Aではグループの日本リーダーとして人事DDやPMIを15年以上実施。異文化研修ワークショップも実践している。
組織と人材戦略に関して論文講演。
著作に「ひらめく人を咲かせる組織」(日本経済新聞社、2003年12月)。「育ちのヒント」(共著、幻冬舎 2007年5月)「発想と企画の心理学」(共著、朝倉書店 2010年5月)等
東京大学工学部卒(1979)。スタンフォード大学工学部大学院修士課程修了(1988)。

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