コラム

本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
電子メール:info@amidaspartners.com ※全角「@」を、半角「@」に置き換えて、送信してください。

M&Aにおける企業年金の積立不足問題
株式会社アミダスパートナーズ
2012/5/1

1.はじめに

 AIJ投資顧問による年金消失問題により、改めて企業年金の積立不足問題が注目されています。

 企業年金の積立不足は上場企業だけでも1,934社あり、積立不足の総額は8兆518億円に上るとされています (*1)。世界的な景気低迷等により運用環境が悪化する中で、企業年金が予定利回りを上回るパフォーマンスを上げることの難しさは、企業年金全体に共通する大きな課題とされています(AIJ投資顧問が粉飾した高利回りの運用成績をもって企業年金に営業をかけ運用資産を大きく拡大できたのも、企業年金の運用難が背景にあったといえるでしょう)。また、人口高齢化や非正規社員の増加等による「受給者数の増加」と「加入員数の減少」による企業年金の基礎収支の悪化も企業年金の財政を大きく圧迫しています。

*1 東洋経済社調べ [会社四季報 2012年・第1集]

2.簿外債務となっている積立不足

 M&AのValuationにおいて企業年金の積立不足は企業価値から控除するのが一般的です。積立不足のうち、退職給付引当金は貸借対照表に計上されていますが、この他、簿外負債となっている「未認識債務」も積立不足として企業価値から控除することが必要です。

 未認識債務とは、退職給付債務のうち、年金資産や退職給付引当金によって手当されていないものを指し、「数理計算上の差異」「過去勤務債務」「会計基準変更時差異」(*2)によって構成されます。未認識債務は、一定の期間で費用処理(オンバランス化)されますが、費用処理されるまでは簿外債務(オフバランス)の状態です。例えば、運用環境の悪化等により年金の実績運用利回りが期待運用利回りを下回った場合には積立不足が拡大しますが、その積立不足は未認識債務(数理計算上の差異)として即時には認識されず、一定期間(従業員の平均残存勤務期間内の一定の年数)かけてオンバランス化されます(*3)。

退職給付会計のBS(イメージ)

*2 用語の意味は以下のとおりです。
数理計算上の差異・・・年金資産の期待運用収益と実際運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績値との乖離及び見積数値の変更等により発生した差異
過去勤務債務・・・退職給付水準の改訂(退職給付規程の改訂や企業年金の採用等)により生じる差異
会計基準変更時差異・・・退職給付会計基準の適用初年度の期首における「退職給付会計基準による未積立退職給付債務」の額と「従来の会計基準により計上された退職給与引当金等」の額との差異

*3 会計上は簿外債務として認められる未認識債務をM&AのValuationにおいては企業価値から控除する理由は、会計基準では、ゴーイング・コンサーンを前提に見積数値(基礎率)を適正に設定していれば長期的には損失方向の数理差異と利益方向の数理差異が一定期間で相殺すると考える一方で、M&Aでは一時点での企業価値に着目し評価するという両者の性質の違いから説明できるかと思います。

3.開示情報からの確認方法

(1) 原則
 上場企業であれば未認識債務の額は、有価証券報告書で確認することができます (*4)。例として、三菱重工業の連結財務諸表の注記をみると下記のとおり開示されています。

三菱重工業株式会社 有価証券報告書(2011年3月期) [出所:EDINET]

退職給付関係

前連結会計年度 当連結会計年度

*4 会社四季報2012年1集・新春号では特別企画として上場企業各社の企業年金の積立不足額が掲載されていますので、ここから簡単に確認することもできます。

(2) 総合設立型厚生年金基金の場合
 上述のとおり、企業年金の積立不足額は上場企業であれば開示情報から把握でき、また非上場企業でも対象会社から個別に開示を受けることで把握することができますが、複数の企業で共同して設立する“総合設立型厚生年金基金”(*5)に加入している場合はこの限りではありません。

 退職給付会計では、総合設立の厚生年金基金を採用している場合のように自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには、当該年金基金への要拠出額を退職給付費用として処理することが例外処理として認められています(*6)。一般的に、総合設立型厚生年金基金に加入している場合は企業年金に対応する積立不足は加入者である当事会社にとっても自社の拠出に対応する積立不足額を正確に把握することは困難で、退職給付引当金としても未認識債務としても開示されません。

 総合設立型厚生年金基金に加入している場合の開示について、プロネクサスの有価証券報告書を参考にみてみましょう。下記「2.退職給付債務に関する事項」をみると平成22年3月期の未認識債務(未認識数理計算上の差異)の額は210百万円です。しかし平成22年10月に総合設立型厚生年金基金から任意脱退したために、平成23年3月期には特別掛金2,251百万円を特別損失計上しています。

 厚生年金基金脱退に際しての特別掛金(*7)は、脱退する厚生年金基金の繰越不足金や過去勤務債務に充当し加入事業者間での不公平を解消するものとして厚生年金保険法第138条第5項に規定されているものですが、実質的には厚生年金基金の積立不足を脱退時に埋め合わせるものと言えます。

 脱退に際しての特別掛金が具体的に幾らとなるかは脱退前の開示情報からは分りませんが、総合設立型厚生年金基金等に係る開示の例外を採用している場合は当該年金基金全体の積立状況及び当該制度への拠出割合等を注記することが求められます。プロネクサスの例でみると、平成22 年3月末日時点での基金全体の年金資産と債務の差額は△82,088百万円、当該基金へのプロネクサスの拠出割合は3.7%と開示されていますので、このことから脱退時にはある程度の特別掛金の拠出が必要となる可能性を伺うことができます。

株式会社プロネクサス 有価証券報告書(2011年3月期) [出所:EDINET]

退職給付関係

退職給付債務に関する事項

*5 総合設立型厚生年金基金とは、業界単位、地域単位で複数の企業が集まって設立する厚生年金基金の設立形態の1つです。個々の加入事業者の規模が小さくとも共同して設立することで大企業のように厚生年金基金を設立できることから多くの総合設立型厚生年金基金が設立され、平成24年3月1日現在で国内全ての厚生年金基金578基金のうち495基金が総合設立型となっています。しかしながら90年代以降の運用環境の大幅な悪化等で多くの基金で代行運用している厚生年金部分に相当する“積立金”まで毀損する、所謂“代行割れ”が生じており、また複数の企業が集まっているために意思決定が難しいという問題を抱える基金が多いとされています。近時では、上場企業では総合設立型厚生年金基金から脱退する会社が急増しているようです。[日経新聞 平成23年8月26日]
*6 退職給付に係る会計基準注解 12
*7 「一括徴収金」や「脱退拠出金」という場合もあります。

4.終わりに

 M&Aを検討するにあたって、企業年金の積立不足問題は、非常に重要な問題として改めて認識されてきています。

 多くの企業年金が苦しい状況にある中で、買収した企業から企業年金を移管し自社グループの負担をさらに増やすことに抵抗を感じる企業もあります(これは健康保険組合にも共通する問題です )。この場合はM&Aを機会に確定拠出型年金へ切替えること等も検討対象となるかと思いますが、確定拠出型年金への移行は労働条件の変更として大きなIssueとなります。

 企業年金は財務面、人事面の両方で重要でありディールキラーとなる可能性もあるポイントのため、M&Aの検討では早い段階から検討することが望まれます。

以上

最新コラム

アミダスパートナーズについて
お問い合わせ