コラム

第二十七回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、法人税において頻繁に用いられる「資本等取引」という用語の解釈について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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「資本等取引」とは
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2012/2/15

 法人税においては、「資本等取引」や「組織再編成」という用語が頻繁に用いられますが、これらの用語の意味するところを深く考えてみるということは、あまり行われていないように思われます。

 これらの用語やその内容としての「資本金の額」や「合併」などの用語は、それらに該当するのか否かという問題が生じない限り、その意味内容が問われることとはならないわけですが、近年は、我が国の企業の海外進出が急速に進み、外国で子会社等が資本等取引や組織再編成を行い、我が国の親会社等の税制上の取扱いにおいて、その資本等取引や組織再編成をどのように取り扱えばよいのかという問題が生じたことなどから、それらの用語がどのような意味内容のものであるのかということが問われる状況が生じています。

 このため、本稿においては、まず、「資本等取引」とは何かということについて、概要を述べてみたいと思います。

1.「資本等取引」

 「資本等取引」という用語は、法人税法22条5項(資本等取引の定義)において次のように定義されています。

 「資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。」

 すなわち、「資本等取引」とは、①「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」、②「法人が行う利益又は剰余金の分配」、そして、平成22年度改正で追加された③「残余財産の分配又は引渡し」とされています。

①「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」

 この①の取引は、株主等から出資を受けた金額である「資本金等の額」を有する法人のその「資本金等の額」を増加させたり減少させたりする取引ということになります。

 この株主等から出資を受けた金額である「資本金等の額」を増加させたり減少させたりする取引で法人が金銭等を取得したり交付したりしたとしても、その金銭等の取得や交付を益金の額としたり損金の額とすることはしないという趣旨でこの部分の定義が設けられたものであり、株主等から出資を受けた元手によって稼得した所得に対して課税を行うという法人税法の基本構造からして、「資本金等の額」を増加させたり減少させたりする取引を「資本等取引」と定義して益金及び損金のいずれともしないとすることは、当然の取扱いということになります。

 この①において注目しておかなければならないのは、「資本金等の額」という法人税法に固有の用語を用いてそれを増加させたり減少させたりする取引を「資本等取引」としていることです。

 このように、①は、法人税法上の観点に立って、法人税法上の固有の概念である「資本金等の額」を増加させたり減少させたりする取引となるものを「資本等取引」とすることとしているわけです。

②「法人が行う利益又は剰余金の分配」

 この「利益又は剰余金の分配」には、「法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含む」(法基通1-5-4)とされています。

 この株主等に出資者たる地位に基づいて供与するものは、法人が行う課税済み留保所得の分配であって、それが損金とならないことは、当然のことと言わなければなりません。

 しかし、この②は、上記①とは異なり、法人税法に固有の「利益積立金額」という用語を用いて「利益積立金額の増加又は減少を生ずる取引」とすることとはされていません。

 このため、文理解釈によると、「利益又は剰余金の分配」に該当しない「利益積立金額の増加又は減少を生ずる取引」は、この②に含まれず、組織再編成に際して利益積立金額が増加したり減少したりするものは、これに含まれないと解さざるを得ません。

 平成13年度の組織再編成税制の創設以前においても、例えば、合併に際して被合併法人の利益積立金額が合併法人に引き継がれるところに関しては、利益積立金額の減少と増加が法人間で生ずることから、その利益積立金額の減少と増加のいずれの部分も「利益又は剰余金の分配」に含まれないと解さざるを得ない状態となっていました。

 しかしながら、このような法人間で利益積立金額が増加したり減少したりする取引が益金の額や損金の額を生じさせるものとして処理されていないことは、周知のとおりです。

 このことは、②の「利益又は剰余金の分配」という定義に課題があることを示しています。

 加えて、この②が「利益積立金額の増加又は減少を生ずる取引」とされていないということは、税法に固有の概念である「利益積立金額」が零又はマイナスであったとしても、「利益又は剰余金の分配」に該当する取引が行われた場合には、これに該当してその取引が「資本等取引」となる、ということを意味している点にも、注目しておく必要があります。

 また、この②は、会社法上の「剰余金の配当」という用語を用いて定めることとされているわけでもありませんので、「剰余金の配当」がこれに含まれることになるのかという疑問も生じてくることがあり得ると考えられます。

 しかし、これに関しては、上記通達において「株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益」がこれに含まれるとされていることから、株主等に対する会社法上の「剰余金の配当」やみなし配当とされるものがこれに該当することに関しては、疑義はないものと考えられます。

③「残余財産の分配又は引渡し」

 この③は、平成22年度改正において追加されたものです。

 「残余財産の分配又は引渡し」がどのようなものかということを確認するために、その仕訳を示してみると、次のとおりとなります。
(借方)
資本金等の額 ×××   (貸方) 資  産 ×××
   
利益積立金額 ×××

 この仕訳から分かるとおり、「残余財産の分配又は引渡し」は、「資本金等の額」の減少及び「利益積立金額」の減少と資産の移転ということになります。

 このうち、「資本金等の額」の減少と「利益積立金額」の減少は、上記②の解説において述べたとおり、上記②の取引に該当することとなります。

 平成22年度改正前は、法人が残余財産を分配して清算する場合には、清算所得課税が行われており、各事業年度の所得に対して課税するという仕組みは採られていませんでしたが、残余財産の含み益を計算してその合計額を「清算所得」とし、その「清算所得」に対して課税を行うのか否かということは、上記の仕訳で示される残余財産の分配の処理中の「資本金等の額」と「利益積立金額」の減少が上記①と②の取引に該当するのか否かということとは、全く関係のない話です。平成22年度改正前においても、残余財産の分配においては、上記の仕訳で示す取引が行われており、その取引中の「資本金等の額」と「利益積立金額」の減少は上記①と②の取引に該当するものとされていました。この「利益積立金額」の減少が上記②の取引に該当するとされていたために、平成22年度改正前においても、残余財産の分配がみなし配当の事由とされていたわけです。

 平成22年度改正前のこのような事情と「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」及び「法人が行う利益又は剰余金の分配」に関する上記①及び②の解釈を踏まえると、自ずと、この③の「残余財産の分配又は引渡し」は、資産の移転を指すということにならざるを得ず、平成22年度の「残余財産の分配又は引渡し」を「資本等取引」に加える改正は、上記の仕訳の資産の移転を「資本等取引」としてその取引から益金の額も損金の額も生じさせないこととする改正であったと説明しなければならないことになります。

 しかし、平成22年度改正は、これとは反対に、残余財産の分配又は引渡しによって株主等に交付する資産に関しては、法人税法22条2項及び3項により、その譲渡利益額又は譲渡損失額を益金の額又は損金の額とすることが原則となるという理解の下に、62条の5(現物分配による資産の譲渡)の規定を新設し、その2項において、「残余財産の全部の分配又は引渡しにより被現物分配法人その他の者に移転をする資産の当該移転による譲渡に係る譲渡利益額(省略)又は譲渡損失額(省略)は、その残余財産の確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する」としています。

 この平成22年度の法人税法22条5項の改正と62条の5の改正は、明らかに矛盾するものとなっており、二つの改正の整合性を説明することは、困難です。

 それでは、いずれが正しい改正であるのか、という疑問が生じてくるものと思われますが、この点に関しては、残余財産の分配又は引渡しに際して株主等に移転する資産の譲渡利益額又は譲渡損失額は益金の額又は損金の額に算入するのが原則となるため、法人税法22条5項に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正は不要な改正であったということにならざるを得ません。

 なお、法人税法62条の5に関しては、そもそもその内容に疑問があることから、同条が正しいのか否かという問に対しては、答を留保することとします。

2.「資本金等の額」

 上記1①の「資本金等の額」に関しては、「法人(省略)が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいう」(法法2十六)としています。

 このように、法人税法において、「資本金等の額」を「法人が株主等から出資を受けた金額」と捉えることは、正しい整理の仕方ということになります。

 この「資本金等の額」は、周知のとおり、法人税法施行令8条(資本金等の額)において、①「資本金の額」又は②「出資金の額」に、③増加項目の金額と減少項目の金額を加減算して求めることとされています。

①「資本金の額」

 法人税法においては、この「資本金の額」は、一つの用語として用いられており、「資本金」と「額」を分けて捉えることとはされていません。

 このような用語の用い方は、「利益積立金額」などにおいても同様となっています。

 しかし、会社法においては、「資本金の額」を一つの用語として用いるのではなく、「資本金」という用語をその「額」等とは切り離して用いています。

 このため、法人税法上の「資本金の額」と会社法上の「資本金」とがどのような関係にあるのかという疑問が生じてくることもあり得ると考えられますが、この点に関しては、法人税法が会社以外の「法人」も対象とするものであることから、会社法上の「「資本金」の額」が法人税法上の「資本金の額」に含まれる関係にある、ということになります。

 以上の点に関しては、特段、異論はないものと考えられます。

②「出資金の額」

 法人税法においては、「出資」、「出資金」、「出資金の額」などは、「株式」又は「資本金の額」には該当しないが「株式」又は「資本金の額」と同様の性質のものと考えてよいものを総称する用語として用いられるのが通例となっています。

 このため、「出資」又は「出資金」という用語を用いないものに関しても、「出資」、「出資金」、「出資金の額」という用語を用いて表現されることがあり得ます。

 以上の点に関しても、特段、異論はないものと考えられます。

③「資本金等の額」の増加項目の金額と減少項目の金額

 「資本金等の額」の増加項目の金額と減少項目の金額は、非常に多数に亘り、残余の紙面では説明を尽くすことができないため、本稿において個々に言及することはしないこととします。

 ただし、この増加項目の金額と減少項目の金額に関しては、「法人が株主等から出資を受けた金額」ではないものを「資本金等の額」とするものが見受けられるなど、実務に際して留意するべき点が少なからず存在しているため、十分に注意する必要がある、ということを付言しておくこととします。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-
朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)

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