コラム

第二十六回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の中山龍太郎先生に執筆していただきました。中山先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、オリンパス事件の教訓について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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オリンパス事件の教訓
西村あさひ法律事務所 パートナー 中山龍太郎
2012/1/13

 昨年は国内的にも世界的にも実にさまざまなことが起きた1年であった。その中でも、秋以降に発覚し、3か月足らずの間に急激な展開をみせたオリンパスの巨額損失隠蔽事件は、企業関係者に大きな衝撃を与えた。

 長年にわたる損失隠蔽が四半期決算報告書提出期限の直前に発覚したことから、一時は延長期限までに四半期決算報告書の提出ができず直ちに上場廃止となるのではないかとも危ぶまれたが、関係者の並々ならぬ働きにより期限までに四半期決算報告書が提出され、即時上場廃止という事態は免れた。[もっとも、同社株式は引き続き監理銘柄(審査中)に指定されており、上場維持がなるかについては、引き続き予断を許さない状況にある。]

 本コラムでは、オリンパス事件を振り返りつつ、同事件が日本のビジネス界にもたらすものについて簡潔に論じる。

1.オリンパス事件の特徴

 オリンパスに何が起きたかについては、同社第三者委員会による昨年12月6日付「調査報告書」に詳しいが、大きく分けると、以下の4つのステージに分けられる。

① 1980年代~90年代にかけての金融資産運用による巨額の損失発生
② 1990年代終わりから2000年代にかけてのファンドを使った損失分離スキームの確立
③ 2008年以降の海外M&A関連の損失を利用した損失分離スキームの解消
④ 2011年の疑惑発覚後の対応

  バブル前後の財テクの失敗による巨額の含み損の発生自体は、日本企業の多くが経験したことであると思われるが、オリンパス事件における特徴の一つは数百億にも上る巨額の損失が経営トップとごく一部の財務担当者のみで処理され、損失発生から最終処理に至る20年近くの間、そもそも全社的な経営課題として認識されることがなかったことである。

  また、②のステージで構築された損失分離スキームは、海外銀行から預金を担保に融資を受けて設立したファンドに含み損を抱えた金融資産を売却するという、それ自体は非常にシンプルなスキームが用いられていたことも注目すべきであろう。損失の「飛ばし」は、1997年の山一証券の破綻でも注目を浴び、その後も破綻金融機関等でさまざまなタイプの「飛ばし」商品が用いられていたことが発覚していたことから監査法人の目も厳しくなっていた頃であったにもかかわらず、本件のようなスキームの組成・維持が発覚しなかったのも、元々の損失の存在自体がごく一部の者にしか知られていなかったこととも無関係ではないと思われる。

  そして、このように長期間にわたって先送りされた巨額の損失を海外M&Aに関連して発生した損失として処理した点も特徴的である。残念ながら、日本企業が巨額の費用を投じて行った海外企業を買収したにもかかわらず、その後、比較的短期間で減損等を強いられる事例は少なくはない。しかし、本件では買収価額の巨額さに比べて、その買収価額の妥当性についての検証が余りにも不十分であったこと、のみならず、関与したフィナンシャル・アドバイザーに対して法外とも言える額の報酬が支払われた点で、その不自然さは際立っていた。

  結局、このような不自然さが外部のジャーナリズムの関心を呼ぶことになったわけであるが、ここでも、その記事に対して同社の代表取締役社長であったウッドフォード氏自身が、その疑惑を社内的にとりあげ調査を要請したにもかかわらず、これを拒否したばかりか社長職を解任されるに至った。これに対して、同氏がこうした経緯を対外的に暴露し、海外捜査当局への情報提供等もなされるに至り、世間の耳目を一身に集めた末に会社としても損失隠しの事実を認めたという顛末は周知の通りである。

  そして、オリンパス事件のもう一つの際立った特徴が、同社の事業は世界トップシェアの内視鏡事業を中心に堅調であり、上記③の海外M &Aを通じて損失処理も一定程度終了していたことから即座に債務超過に陥るような状況ではなかったということである。その意味で、過去に巨額の粉飾が明らかになると共に債務超過に陥ったカネボウなどとは異なっていた。

2.オリンパスの今後

 冒頭に記したようにオリンパスは四半期報告書を提出したことで、当面の上場廃止は免れた。しかし、過去の長期間にわたる巨額の粉飾は上場廃止事由に該当し得るものであり、引き続き監理銘柄に指定され、上場廃止について審査が行われている。報道等によると上場廃止は免れる可能性が高いとも言われているが、上場廃止を免れた場合には、特設注意市場銘柄に指定され、その後1年ごとに内部管理体制に問題がないが取引所が審査し、問題がないということになれば指定を解除されることになる。但し、指定後3年経過しても指定が外れない場合等には、やはり上場廃止となることからすれば、例えば、機関投資家の運用銘柄等にはなりにくく、また、公募増資も事実上困難となるなど、資本市場へのアクセスの正常化には、なお一定の時間を要することとなるものと思われる。

  また、債務超過は回避されたものの自己資本比率は平成24年3月期第2四半期時点で4.5%(連結ベース)であり、なお1000億円以上ののれんを有していること等からすれば、決して財務状態が良好とは言い難い。銀行団も現状では資金回収の動きを見せてはいないものの、今後の借換えや新規融資等に際して、どのような対応を採るかについては不透明感が残ることからすれば、財務状態の改善に向けた資本増強の必要性は高い。この点についても、報道等では内外の事業会社による資本引受が噂されているが、留意する必要があるとすれば、同社は医療用機器の一部で世界的に高いシェアを有しており、同業他社の株式取得や業務提携については、国内外で競争法上の問題が生ずる可能性があることであろう。

  加えて、過去の長期巨額の粉飾について、今後、有価証券報告書等の虚偽記載を理由とした損害賠償訴訟が提起される。事件発覚前後で比較すると株価水準は半分程度に落ちていることからすると、この間に同社株式を売買した投資家の数次第ではあるが、潜在的には数百億を超える損害賠償責任が生ずるおそれも否定できない。既に米国で発行されたADRの保有者からの訴訟提起がなされている模様であるが、今後、日本でも会社に対する訴訟がどのような形で提起され、推移するのか予断を許さない。 法人の責任としては、虚偽記載に係る課徴金も問題となる。

  また、事件に関与した個人の責任も深刻である。過去の事案と比べても規模・期間の面で粉飾の程度は悪質といえ、既に国内外の捜査機関による捜査が始まっており、今後、刑事責任の追及が本格化することは容易に予想される。

  報道等によれば、刑事責任の追及は損失分離スキームの確立・解消に直接関与した一部の役員に限定される見込みとのことであるが、民事責任・経営責任については、これらの粉飾を見逃したことや、それにより結果として違法配当を行ったこと、更には、疑惑発覚後に適切な対応をとることを怠った責任も問題となる。既に今年に入って同社取締役責任調査委員会による報告書が提出され、それを踏まえて同社は旧・現経営陣19人に総額36億余りの損害賠償請求を提起している。もっとも、責任追及対象者や追及額については異論を有する株主もあると報道されており、今後、株主による代表訴訟提起の動きも否定できない。

  また、上記責任追及の対象となった取締役は経営責任として辞任する方向とのことであるが、法的責任追及の対象とされなかった取締役の経営責任や、新経営陣への移行がスムーズに行くかどうか、3月から4月に開催される予定とされている臨時株主総会に向けて状況は予断を許さない。

3.オリンパス事件からの教訓

 最後に、オリンパス事件が日本の企業社会にもたらす影響について筆者自身の雑感めいたものを述べよう。

  まず、規模の大小や深刻さはあるにせよ、オリンパスのように企業の屋台骨を揺るがすようなリスクが、ごく一部の者のみの間で処理され、企業全体の問題として認識されないままでいる事例は、我が国の多くの企業にとって決して対岸の火事ではないのではなかろうか。

  こうした問題については、あるいは一部雑誌が問題視しなければ、あるいは、ウッドフォード氏がそれをああした形で採り上げなければ顕在化することはなかったのではないかとして、運が悪かったとオリンパス経営陣に同情的になる向きもあるかもしれない。しかし、結局のところ、巨額の損失を最終的に処理しようとした時に、およそその業界に携わるものからすれば不自然極まりないスキームをとらなければならなかったことが発覚のきっかけであることを忘れてはならない。適切な財務状況の開示は上場会社としての最も基礎的な義務であり、不適切な開示を避けるべく、年々会計基準は精緻化し、J-SOXのような制度的に財務報告の信頼性を担保する仕組みも導入されるなど、巨額のリスクを隠し通すことや、それを秘密裏に処理することは年々難しくなっている。今回のオリンパス事件でも、開示内容の充実化や監査法人によるチェックの厳格化が求められる可能性が高い。オリンパスのように、自らの意図しないタイミングや形で問題が発覚すれば、一気に企業存亡の危機に立たされることとなり、非常な混乱を招くこととなる。その意味でも、オリンパス事件を他山の石として、改めて企業経営へのリスクが適切に把握されているかの確認、あるいは、そうしたリスクの隠蔽が行われやすい体質の改善に努める必要があろう。

  また、不幸にも、従前認識されていなかった重大な経営リスクが、ある日、突然発覚することとなった場合の対応についてもオリンパス事件から学ぶべきことは多い。オリンパス事件では、海外M &Aの際の損失処理の不自然さに対して監査法人から警鐘が鳴らされていたにもかかわらず、同社経営陣はその真偽を深く確かめることなく、最初から問題はないという結論ありきでの対応を行い、最終的には監査法人の変更まで行っていた。このような、一種の「事なかれ」対応はウッドフォード氏の問題提起から、それが対外的に明らかになった後も同様であり、事実確認がなされる前に「問題はない」という結論先にありきで事態の「火消し」を図った。しかし、結果としては、そのような姿勢そのものが、問題の処理を後らせ、危うく四半期報告書提出不能による即時上場廃止リスクを生じさせ、また、投資家の不信感の増大を招いたことは銘記されるべきであろう。その意味では、問題の性質や深刻さの程度の違いはあれど、同時期にやはり大きな注目を集めた大王製紙が問題発覚当初から客観的な事実確認を重視する姿勢を見せ、現経営陣への市場の信頼をつなぎ止めたこととは対称的であった。

  最後に、本件発覚後から一貫して報道等で話題に上ったのが反社会的勢力の関与であったことも忘れてはならない。最終的には第三者委員会の調査では反社会的勢力の関与は確認されなかったものの、仮に反社会的勢力の関与やマネー・ロンダリングへの関与等があったとしたら、取引所や金融機関も即時に厳然たる対応を採らざるを得なかったであろう。

  他にも、本件が会社法改正議論に与える影響等もあるが、いずれにせよオリンパス事件は企業経営に対するさまざまな教訓を与えてくれる事例であり、引き続きその動向に関心を払い、そこから様々なことを学ぶ必要があろう。

以上

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所 パートナー
    弁護士・ニューヨーク州弁護士
    中山龍太郎

略歴

1995年
東京大学法学部第二類卒業
1997年
東京大学法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)修了
2004年-2005年
ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所
2006年
ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)
2007年-
中央大学法科大学院 非常勤講師
2008年-2009年
成蹊大学法科大学院 非常勤講師

主な著書

「私的整理計画策定の実務」商事法務(共著)
「金商法大系1 - 公開買付け(1)」商事法務
「金融商品取引法セミナー 公開買付け・大量保有報告編」有斐閣
「ファンド法制 -ファンドをめぐる現状と規制上の諸課題- 」財経詳報社(共著)
「資金調達ハンドブック」商事法務
「敵対的買収の最前線 -アクティビスト・ファンド対応を中心として- 」商事法務
「企業買収防衛戦略II」商事法務
「敵対的M&A対応の最先端」商事法務
「企業買収防衛戦略」商事法務
「ゼミナール 会社法現代化」商事法務
「新しい株式制度 -実務・解釈上の論点を中心に- 」有斐閣

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