コラム

第二十五回目の専門家コラムは、株式会社日本バイアウト研究所 代表取締役の杉浦 慶一先生に執筆していただきました。杉浦先生の略歴を文末に掲載させていただきます。 今回のコラムにおいては日本のバイアウト案件の傾向 ~タイプ別の特徴~について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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日本のバイアウト案件の傾向 ~タイプ別の特徴~
株式会社日本バイアウト研究所 代表取締役 杉浦 慶一
2011/12/16

はじめに

日本のバイアウト市場が生成してから十数年が経過しているが、その間500件を超えるバイアウト案件が成立している。日本のバイアウト案件は、子会社・事業部門売却型の案件、事業再生案件、オーナー企業の事業承継に伴う案件、公開企業の非公開化を伴う案件など、いくつかのタイプに分類できる。本稿では、日本のバイアウト案件をタイプ別に分類し、その傾向について概説する。

1.子会社・事業部門売却型

 子会社・事業部門売却(divestment)型は、企業の子会社や事業部門がバイアウト・ファンド等の投資会社の支援に基づき独立するタイプであり、日本のバイアウト市場で過去最も多く成立しているタイプである。親会社が連結子会社や持分法適用子会社の保有株式を売却する事情には、有利子負債削減のための資産リストラクチャリングの必要性、事業ポートフォリオの「選択と集中」のためのノン・コア事業の切り離しの必要性などがあげられる。

 図表1は、子会社・事業部門売却型のバイアウト案件の件数の推移を示したものである。2000年初頭には、日産自動車やダイエーなどが複数の子会社の株式をバイアウト・ファンドに譲渡する動きがあり、その後も件数が増加し、2007年には、30件を超える案件が成立するに至った。しかし、その後は伸び悩んでいるのが現状である。

図表1子会社・事業部門売却型のバイアウト案件の件数の推移

子会社・事業部門売却型のバイアウト案件の件数の推移

(出所)日本バイアウト研究所。

2.事業再生型

 事業再生(turnaround)型は、民事再生法や会社更生法などの法的整理下にある企業、法的整理には至らないもののメインバンクの債権放棄を伴う再生スキームを採用する企業を再生するためにバイアウト・ファンドが支援するタイプである。

 図表2は、事業再生型のバイアウト案件の件数の推移を示したものである。このタイプの件数が最も多かったのは、2003年である。この年は、事業再生案件に特化したファンドも数多く活用していた時期であり、産業再生機構が設立された年でもあった。そして、民事再生法適用企業のバイアウト案件が多数成立した。その後は、一貫して減少傾向にあったが、リーマン・ショックの直後である2009年には増加に転じて15件を超える案件が成立した。しかし、その後は再び減少している。

図表2事業再生型のバイアウト案件の件数の推移

事業再生型のバイアウト案件の件数の推移

(出所)日本バイアウト研究所。

3.事業承継型

 事業承継型は、創業経営者や経営の一線を退いている創業者一族による保有株式の売却需要を起因とするタイプである。創業者一族は保有株式を売却することで創業者利得を達成する。バイアウト後に株式公開を目指す案件では、創業者が引退後も一部保有株式を残す場合もある。従来は、既に経営の一線を退いている場合や、高齢のために経営から引退する意向のある創業者が保有株式を売却するタイプが多かったが、近年は若手経営者が早期に保有株式を売却するアーリー・リタイア型の事業承継案件も登場している。

 図表3は、事業承継型のバイアウト案件の件数の推移を示したものである。2005年頃から急増し、2007年には15件が成立していた。増加した要因としては、中堅・中小企業の事業承継に特化するファンドが登場したことや、金融機関やM&Aアドバイザリー・ファームなどがオーナー企業へのソリューションの提供を強化し始めたことなどがあげられる。後継者問題を抱える中堅・中小企業は多く、このタイプの案件が増加する可能性は極めて高い。

図表3事業承継型のバイアウト案件の件数の推移

事業承継型のバイアウト案件の件数の推移

(出所)日本バイアウト研究所。

4.公開企業の非公開化

 公開企業の非公開化(going private)は、バイアウト・ファンドが公開買付け(TOB: takeover bid)を実施し、買収後に対象企業の上場廃止を伴うものである。

 図表4は、公開企業の非公開化を伴うバイアウト案件の件数の推移を示したものである。この件数には、ファイナンシャル・スポンサーの出資を伴わない案件も含まれているが、2007年に急増したことが読み取れる。

 公開企業の非公開化を伴うバイアウトには、親会社や創業者オーナーなどの売手の売却ニーズに基づく案件も存在するが、近年は、上場を維持するメリットが薄い企業や中長期視点で抜本的な経営改革を目指す企業の経営陣が戦略的に実施するケースが多い。

図表4 公開企業の非公開化を伴うバイアウト案件の件数の推移

公開企業の非公開化を伴うバイアウト案件の件数の推移

(出所)日本バイアウト研究所。

5.その他

 その他のタイプとしては、第二次バイアウトが注目されている。第二次バイアウト(secondary buy-outs)とは、バイアウト・ファンドが別のバイアウト・ファンドの投資先企業を買収する取引である。この取引により、先に投資をしていたバイアウト・ファンドが保有株式を売却してエグジットを達成する。

 近年、第二次バイアウトが注目されている背景としては、リーマン・ショック前に各ファンドが投資した案件がエグジットを検討する時期に入っており、売却したいという需要が増えてきたことがある。また、投資枠の豊富なファンドが、案件のソーシングを強化する中で、セカンダリー案件へのアプローチを強化している点も指摘できる。

 その他には、株主構成の最適化を目的とした案件も出てきている。具体的には、ベンチャー・キャピタルなどが出資し、株式公開を目指す過程で株主構成が分散した企業を、バイアウト・ファンドが買収するケースなどが該当する。この取引により、ベンチャー・キャピタルはエグジットを実現する。

おわりに

以上、本稿では、日本のバイアウト案件の傾向をタイプ別に概観した。

今後は、日本のバイアウト市場の活性化に向けて、子会社・事業部門売却型の案件がどれくらい出てくるかが鍵となる。特に、親会社による有利子負債の削減のために必要に迫られて実施される案件ではなく、日本企業が戦略性を重視して能動的に実施される売却案件の登場が待たれる。また、企業家精神を有する独立意欲のある経営陣による能動的なMBO(management buy-outs)が実施されることが期待される。日本企業が積極的な行動に出て、M&Aとバイアウトが日本企業の事業再編や日本の産業再編の触媒となれば、日本経済の活性化に確実につながると考えられる。    


統計データの定義や集計の方法については、日本バイアウト研究所の各種リリースを参照されたい。

参考文献
杉浦慶一(2011a)「日本におけるゴーイング・プライベートを伴うバイアウトの新展開」『東洋大学大学院紀要』第47集, 東洋大学大学院, pp.319-341.
杉浦慶一(2011b)「日本における事業再編型バイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業再編とバイアウト』中央経済社, pp.107-140.
杉浦慶一(2011c)「日本における事業再生型バイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業再生とバイアウト』中央経済社, pp.103-130.
杉浦慶一(2011d)「日本におけるオーナー企業のバイアウトの市場動向」日本バイアウト研究所編『事業承継とバイアウト』中央経済社, pp.97-131.

執筆者紹介

  • 株式会社日本バイアウト研究所
    代表取締役
    杉浦 慶一

略歴

杉浦慶一(すぎうら・けいいち)
株式会社日本バイアウト研究所 代表取締役
2002年東洋大学経営学部卒業。東洋大学大学院経営学研究科博士前期課程に進学し、M&A、バイアウト、ベンチャー・キャピタル、事業再生に関する研究に従事。2006年5月株式会社日本バイアウト研究所を設立し、代表取締役就任。2007年3月東洋大学大学院経営学研究科博士後期課程修了(経営学博士)。第1回M&Aフォーラム賞選考委員特別賞『RECOF特別賞』受賞。事業再生実務家協会会員。日本経営財務研究学会会員。東洋大学経営学部非常勤講師。

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