コラム

第二十三回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の中島和穂先生に執筆していただきました。中島先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいてはアジアでのジョイントベンチャーにおける留意点について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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アジアでのジョイントベンチャーにおける留意点
西村あさひ法律事務所 アソシエイト 弁護士 中島和穂
2011/10/17

 日本企業がアジアなどの海外に進出する際、現地法人や既に現地進出している多国籍企業と合弁事業を組成することがあり、その合弁事業における法律関係を規律するため、ジョイントベンチャー契約(「JV契約」)が締結される。

 海外子会社の場合、親会社である日本法人が、その時々の経済状況や現地の法令に応じて、議決権の行使を通じ、適宜経営方針の変更等を決めることができるが、ジョイントベンチャー(「JV」)の場合、運営に際して複数の出資者間の見解の不一致が生じうるため、その出資当初に出資者間で運営方法を定めたJV契約を明確に定めておくことが重要である。

 50%未満の少数出資者であっても、その者が有するノウハウや機能が重要であるために、法令上の最小限の権利以上のものを与える旨がJV契約で定められることが多い。例えば、一定の重要事項について少数出資者の賛成がなければ当該事項については可決できないという拒否権が少数出資者に与えられることが多い。JV契約は、法令上のデフォルトルールとは異なるJVの経営方法が定められることになるためその内容は重要となる。

 以下では、日本企業がアジア各国に進出してJVを組成する際のJV契約の主要な留意点を挙げることとする。

1.出資方法・出資比率・出資者レベルでの決議事項

 JVへの出資方法に関しては、現地法人の持分を分け合う方法(直接保有)と、現地法人の持分全てを保有するSPCを別の国や地域(香港、シンガポール等)に設立した上で、そのSPCの持分を分け合う方法(間接保有)の方法があり得る。この間接保有方式が取られる理由は様々あり得る。例えば、SPCの設立国を通じてJVの収益を受け取る方が税務上のメリットがある場合や、当初出資や合弁解消の際の持分譲渡について、現地法人を用いる場合には煩雑な許認可の手続きが現地法上必要となる一方で、SPCを用いる場合にはそのような許認可の不要となる場合などが考えられる。

 また、出資比率は、総出資額、各出資者の役割・調達可能な資金の金額などを考慮して当事者間で協議される事項であるが、定款の定めや当事者間の合意がない場合に各当事者がどのような権限を有するかという点については現地法人又はSPCの設立国の法令を参照する必要がある。日本の場合には、普通決議の要件である過半数、及び、特別決議の要件である3分の2が一つのメルクマールとなるが、アジア各国では、過半数、60%、65%、3分の2、75%等、その法令に応じて様々である。このような法令上のルールを前提とした上で、JV契約において出資者レベル(株主総会等)での決議要件・決議事項(どの程度少数出資者に拒否権を与えるのか)が定められることとなる。

 また、アジア各国では、その事業の種類や内容に応じて、外国法人による出資比率の上限を定める場合、資本負債比率についての規制(負債に対して一定の割合以上の資本がなければならないとの規制)、外国法人による土地所有規制があり、この点の確認が必要となる。

2.役員の構成・役員会レベルでの決議事項

 JVにおける役員の構成は、当事者間で上述の出資比率に応じて決められることが一般的である。アジア各国では、その役員の一部について居住者としなければならないという規制がある場合があるため、この点に留意が必要である。

 このような役員構成と合わせて、役員会における決議要件・決議事項(少数出資者が指名する役員の賛成がなければ可決されない事項など)が定められることになる。

3.JVからの撤退条項

 海外に100%子会社を設立して事業を営んだ結果、やむを得ず撤退するとなった場合には自らで意思決定すれば足りるため、出資に際して撤退のルールを決める必要性は高くはない。しかしながら、JVの場合には、一当事者のみが撤退したいと考えたとしても、他の当事者がそれに同意するとは限らず、事業の運営に行き詰まってからの撤退の交渉は難航する事が多い。

 そのため、出資当初に際して撤退のルールを定めておくことが重要である。撤退事由としては、①事業運営上のデッドロックが解消されない場合、②JV開始後一定期間内に一定の財務上の目標値が達成されない場合、③総出資額の一定割合以上の累積損失が生じる場合、④他方当事者が契約上の重要な義務に違反した場合等が考えられる。

 また、撤退事由が発生した場合の出資の回収方法(持分譲渡、解散清算)、及び、譲渡価格(公正価格の決定方法、他の当事者の契約違反がある場合にはその賠償分を含めて公正価格の120%とする等)を定めておくことも重要である。この出資の回収方法に関しては、持分譲渡及び事業清算に対する当局の許認可や、現地従業員の解雇を規制する労働者保護法制等が存するため、その法令を踏まえた適切な方法を検討する必要がある。

4.事業計画

 JVでは事業計画の基本的事項を合意した上で、当初数年間の事業計画をJV契約に添付し、その後の事業計画の定め方(例えば役員会における全会一致事項)が規定されることが多い。事業計画には、運営スケジュール、総出資額、運転資金の調達方法、配当方針等が含まれる。100%子会社を通じた事業運営の場合でもこのような事業計画は策定されると思われるが、JVでは、その運営開始後に追加出資が必要となった場合の各出資者の義務や、運転資金の借入について各出資者が保証する義務を負うか、JVで得られた収益について配当するか又は追加の設備投資に利用するか等が出資者間での見解が一致しないことが多い。また、追加出資の方法によっては、出資比率に変動が生じるため、役員の構成、出資者及び役員会レベルでの決議成立の可否にも影響が生じうる。

 従って、JV契約の締結に当たっては、当初の出資比率のみならず、このような追加出資、運転資金の調達方法、配当政策等の事業計画の重要部分についてJV契約において合意しておく必要がある。

5.競業避止義務

 JV契約において重要な交渉ポイントの一つとなるケースが多いのが、この競業避止義務である。出資者が共同して一定の事業を営む以上、出資者が他の方法でその共同事業と競業する事業を営むことは禁止する必要があるが、独禁法とも関係してその競業禁止の範囲についての協議が難航することがある。例えば、①JVで提供される商品・サービスと代替可能な商品・サービスの提供は禁止されるか、②地理的な範囲はJVの設立国のみでよいか(設立国に輸入される商品・サービスは禁止されるか)等が問題となり得る。

6.出資者/JV間の契約(原材料供給、製品販売、ライセンス、工場建設)

 出資者がJVに参加する理由は、その出資者がJVの運営に不可欠な原材料、特許、工場建設のノウハウや商品の販売ルートを有しているためであることが多い。この場合、JVと出資者との間で取引(関係者間取引)がなされるが、出資当時に予定されている関係者間取引の契約条件は、他の出資者がその内容に同意した上で、JV契約に添付する方法で、その関係者間取引の契約を作成することが多い。これは、仮にJV契約の内容としない場合、特に関係者間取引の一方当事者である出資者がJVに過半数の議決権を保有している場合には、その多数派出資者が一方的に利益となるような契約条件に決められてしまい、他の出資者が不利益を被る可能性(いわゆる出資者間の利益相反の可能性)があるためである。

7.終わりに

 アジア各国の法律が異なることもあり、この中で述べられなかった点も多いが、以上の通り、アジア各国におけるJVを設立する場合に共通して問題となる主要な論点を幾つか挙げてきた。このコラムがアジア各国への進出をご検討されている企業の一助になれば幸いである。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    アソシエイト 弁護士
    中島和穂

略歴

2001年
東京大学法学部第一類卒業
2009年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2009年-2010年
ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所
2010年-2011年
三井物産株式会社 法務部出向

主な著書

知的財産法概説 第4版(弘文堂、2010年)
知的財産法概説 第3版(弘文堂、2008年)
企業法務判例ケーススタディ300【企業組織編(金融財政事情研究会、2008年)
買収防衛策(別冊金融・商事判例「新しい会社法制の理論と実務」 p.252-277、2006年)
徹底解説!新会社法の重要論点-第4回 株式・新株予約権(Lexis企業法務 vol.6(2006年6月号) p.36-48、2006年)
書籍 知的財産法概説〈第2版〉(弘文堂、2006年)
書籍 敵対的M&A対応の最先端(商事法務、2005年)

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