コラム

第二十二回目の専門家コラムは、中央大学法科大学院教授の森信茂樹先生に執筆していただきました。森信先生の略歴を文末に掲載させていただきます。 今回のコラムにおいては社会保障・税共通番号の税務への影響について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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社会保障・税共通番号は税務にどのような影響を及ぼすのか
中央大学法科大学院教授・法学博士 森信茂樹
2011/9/15

1.2015年に社会保障・税共通番号が配られる

 野田新総理の下で、社会保障・税一体改革の実施に向けての検討が進む。その際、一体改革に不可欠なツールとして、社会保障・税共通番号の導入に向けての準備も進むと思われる。それは、次のような理由からである。

 消費税率を10年代半ばまでに10%までに引き上げるには、必ず逆進性対策が必要となる。先進諸国は消費税率に対して軽減税率という形で逆進性対策を行っているが、効果が薄い上に、税制が複雑になる。マクドナルドなどにおける、外食(軽減税率)かレストランサービス(標準税率)かをめぐっての争いだけでなく、松坂肉やマグロのトロは軽減税率にすべきではないというような議論が沸き起こり、納税者や事業者には多大のコストが発生する。

 そこで、民主党政権は、軽減税率に変わり、消費税負担分を消費者に還付する、カナダ型の給付付き税額控除(いわゆる還付)での逆進性対策を検討しているが、その実施のためには、家族での所得の把握を可能とする社会保障・税共通番号が必要となる。すでに6月、番号法の大綱が公表、今秋以降の国会への法案提出に向けて作業が進められており、2010年代半ばの消費税率引き上げには間に合わせる予定である。

 しかし、法案大綱の中身は、番号制度の「ハード面」を定めることに重点が置かれており、どう活用するのかといった「ソフト面」については、基本的に今後の検討課題とされている。何より、大綱の中身については、ほとんど国民に知られていない。そこで本稿では、納税者番号として議論されてきた税制への番号の活用に焦点を当てつつ、課題を整理してみた。

2.支払調書の拡充

 税務面では、番号を活用した正確な所得の把握が期待されている。そのためには、資料情報制度を「拡充」することが必要となる。もっとも、番号を活用すれば、支払調書の名寄せ・マッチングのスピードと精度は、今より飛躍的に向上するので、既存の支払調書に番号を付すだけで当面は十分だという見解もある。

 しかし、正確な所得を調べるためには、現行の資料収集の範囲を拡大すること、つまり法定調書の「拡充」が必要となる。この点については、今秋からの政府税制調査会で、諸外国の例を参考にしながら検討されることになっている。

 図表は、資金のフロー・ストックについて、どのような情報を収集しているのか諸外国の状況を比べたものである。

社会保障・税共通番号は税務にどのような影響を及ぼすのか

 フローの情報について比べてみると、諸外国との最大の相違点は、利子所得についての取り扱いである。わが国では、利子所得が源泉分離課税になっているので、利子所得は法定資料制度の対象外である。しかし今後、最低保障年金や消費税逆進性対策のための給付付き税額控除を導入するに当たっては、金融所得も加えた所得テストが必要となるので、当局は利子所得も個人ごとにチェックできる体制を整えておく必要が出てくる。

 また、金融所得一体課税が進展し、銀行口座に発生する利子所得を、証券会社の口座で発生する株式譲渡損失と相殺できることになれば、利子所得の課税制度を申告分離課税に改めるとともに、特定口座により双方を相殺できるようにする必要が出てくる。そこで、利子所得の課税制度を改め、支払調書制度の対象にする検討が行われるだろう。

 議論になると思われるのは、口座開設情報を番号付きで税務当局に報告させるかどうかである。米国では、税務当局の要請があった場合に、金融機関は口座開設情報を番号付きで報告する義務が課せられている。

 一方、ストックの情報として、個人の預金残高情報に報告義務を課すことが検討課題となる。税務当局としては、残高情報が得られれば、期首と期末の残高を比べることにより年間所得の推計が可能になるので、取りたいところである。しかし、先進諸国の制度を見ても、金融機関の残高情報を当局に報告させる国は見当たらない。近代民主主義国家において、納税者のふところに直接手を突っ込むような徴税国家は避けるべきだという良識が働いているのかもしれない。

 議論となりうるのは、一定の国内送金、預金の入出金、海外送金、海外資産である。これらについては、米国では資料情報の提供を義務付けている。最近のわが国では、スイスやリヒテンシュタインなど海外タックスヘブン国へ相続がらみの資金逃避が増加し、一部が発覚している。今後、これらの資金の管理は厳しくなると予想され、海外への資金移動についての、資料情報制度の拡充は避けられないだろう。

 現在「財産及び債務の明細書」(所得2000万円超)が申告書の添付書類となっており、外国の財産と債務についても報告を求められているが、罰則が課せられないので実効性には疑問があると税務当局は認識している。その点も含めて、改めて整理されることになるだろう。いずれにしても、預金利子への課税方式・付番の是非と、口座開設情報や海外資産の税務当局への報告が議論となると予想される。

 かつて本人確認のためのカード(グリーン・カード)の導入が立法化されたが、外国への資金逃避が生じたとされ法律が廃止になった歴史があるだけに、議論の行方が注目される。

3.番号とe-Tax

 番号導入の際に、個人はマイポータルという専用のウェブサイトを持つことになる。将来的には、このポータルに、税務当局の持つ個人の税務情報、たとえば給与所得の源泉徴収額、支払調書の内容、社会保険料控除の対象となる保険料や医療費の支払額などが自動的に表示されることになる。そこで、それらの情報を活用して、電子申告が簡単に行えるようになる。

 北欧をはじめとした欧州諸国には、事前記入式申告制度が導入されており、あらかじめ税務当局の持つ税務関連情報は、申告書に記載されて送られてくる。個人はそれをチェックして送り返すと申告になる。このような制度のわが国への導入も決して夢ではない。

 番号制度を税務面でどう活用するのか、ソフト面での検討は秋口から始まる政府税制調査会で議論されることになる。番号制度は、納税者と国家との関係を変える第1歩になるだけに、重要な議論である。

執筆者紹介

  • 中央大学法科大学院教授・東京財団上席研究員 法学博士
    森信茂樹

略歴

1973年京都大学法学部卒業後、大蔵省入省。英国駐在大蔵省参事(国際金融情報センターロンドン所長)、証券局調査室長、主税局調査課長、税制第2課長、1998年主税局総務課長、1999年大阪大学法学研究科教授、2003年東京税関長、2004年プリンストン大学で教鞭をとり、2005年財務総合政策研究所長。東京大学法学部客員教授、コロンビア・ロースクール客員研究員。

主な著書

『抜本的税制改革と消費税』 (大蔵財務協会)
『日本が生まれ変わる 税制改革』 (中公新書ラクレ)
『日本の税制 何が問題か』 (岩波書店)

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