コラム

第二十回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の島田まどか先生に執筆していただきました。島田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては近時の企業結合審査の変化について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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企業結合審査が変わる-企業はいかに対応すべきか
西村あさひ法律事務所 カウンセル 弁護士 島田まどか
2011/7/15

はじめに

 公取委の企業結合審査については、近年、複雑化・長期化が指摘され、取引のスケジュールにおいて不確定要素となってきた。ここにきて、企業結合審査に、大きな変化が起ころうとしている。

 公取委は、今般、審査の手続き(形式面)、審査基準(実質面)いずれについても、関連規則及び運用方針の見直しを公表した。これらについては、2011年3月にパブリックコメントに付され、その結果を踏まえて、6月14日に成案が公表され、7月1日に施行されたところである。その最も大きな柱は、これまで、事実上企業結合審査の中身そのものであった事前相談制度の廃止であるが、審査基準についても、注目すべき見直しが行われている。

 独禁法は、2006年1月に施行された大幅な改正以降、毎年のように改正が行われている。2010年1月に施行された直近の改正は、これまで課徴金の対象ではなかった「不公正な取引方法」の一部を課徴金の対象とする等の大きな改正であったが、企業結合審査の分野においても、株式取得が事後報告から事前届出に変更され、届出基準の閾値が上がる等の重要な改正がなされた。それに続く今回の改正は、法律の改正ではなく、公取委の規則や運用基準の見直しではあるが、企業結合審査制度のあり方において、その意味するところは大きい。

事前相談制度の廃止

 我が国の独禁法上の企業結合審査は、法律上は、当事会社が企業結合計画の届出書を提出し、公取委がこれを法定期間内に審査し、排除措置命令を出すかどうか決定するという建前となっているが、実際に排除措置命令が出された事例はなく、実務上は、インフォーマルな事前相談制度により処理されてきた。

 事前相談制度は、過去において、届出による一発勝負ではなく事前に公取委の判断を確認しておきたいという企業側の要望により始まったものであるが、近年は、審査の進行がいたずらに長期化する傾向があり、かつ公取委の心証を開示する機会が保障されていないことから、透明性を欠くという批判が強かった。実際、たび重なる資料提出要請により、企業結合計画自体を事実上断念せざるを得なかったケースもあった。2010年10月には、経団連がこれらの問題点を指摘し、審査手続きの適正化を求めていた。

 これを受け、公取委は、企業結合審査の迅速性、透明性及び予見可能性を一層高めるためとして、事前相談制度を廃止し、法律上の届出制度に立ち戻って、届出書の提出によって競争上の判断を行うこととなった。具体的には、以下のようなプロセスとなる。

  • (1) 当事会社は、企業結合計画の届出書を提出する。
  • (2) 届出書が受理されると、1次審査が行われ、30日以内に、問題がない場合はその旨の通知が行われる。
  • (3) さらに検討が必要な場合は、2次審査に移行することとなり、公取委から当事会社に対し、審査に必要な報告等の要請が行われる。当事会社側から要請された全ての報告等が提出されてから90日以内に、公取委は、問題がない場合はその旨の通知を行う。
  • (4) 競争法上の問題があるとされた場合は、排除措置命令を出す旨の事前通知を行う。


 実際には、競争法上の問題が見込まれる場合にも、(3)の審査期間において、当事会社からの問題解消措置の申出や交渉がなされ、それを踏まえて、問題なしという通知に至ることが多いものと考えられる。

 さらに、これまでの制度では、審査の過程において、公取委が公式に論点等を示す機会がなく、当事会社側としても防御の方針を立てにくいとの批判があったことから、公取委と当事会社の間のコミュニケーションの充実を図る方策として、上記(3)の報告等の要請を行うに当たっては、その報告等を求める趣旨についても記載すること、公取委は当事会社の求めに応じてその時点における論点等を説明すること、審査結果は書面で通知し、さらに原則として公表すること等の見直しが行われている。

審査基準(企業結合ガイドライン)の見直し

 実質的な審査基準(企業結合ガイドライン)について、2011年3月に公表された改正案では、実質的な変更点はほとんどなかったが、6月に公表された成案では、過去の事例も踏まえて、意義の大きい見直しがいくつか行われている。

 グローバルな競争の実態を勘案し、地理的市場を世界市場とし得ることについては、平成19年の企業結合ガイドラインの改定において既に取り入れられていたが、今般、その例示として、世界市場のみならず、東アジア市場という記載が追加された。また、現在輸入が行われているか否かにかかわらず、輸入圧力を評価するという点も明記されているが、これは実際に、新日本石油・新日鉱ホールディングスの統合事例(平成21年度)において認められているものである。同様に、現時点では実際に競合はしていなくても、近い将来に競合すると考えられる競合品からの競争圧力についても、考慮対象とすることが示されている。

 また、競争を実質的に制限するおそれが小さいことを認める要素として、「当事会社グループの業績不振等」があるところ、従来は、実質的に債務超過の状態に陥っている場合でなければ業績不振等とは認められなかったが、「継続的に大幅な経常損失を計上している場合」という記載が追加され、この点の認定をより柔軟に行うことが可能となった。

 さらに、パブリックコメントの結果を踏まえて、継続的・構造的に需要が縮小していく市場においては、需要者の交渉力が強化されること等に着目し、市場の縮小が、競争を促進する要素として挙げられている。

実務への影響

 審査手続きの見直しについては、上記のとおり、これまで密室の中で行われてきた競争法上の実質的な論点についての審査が、法定の手続きの下で、一定の透明性をもって行われるようになると考えられる。これは、公取委に対して早期に論点の絞込み・開示を促すという側面のみならず、企業側にとっても、審査に必要な情報を早期に公取委に提供していくという積極的な努力が求められることを意味する。事前相談制度が廃止されても、難しい案件では、情報収集や論点の絞り込みに一定の時間はかかることに変わりはない。企業側も、緻密なスケジュール管理を行った上で、十分な情報提供を行っていくことが求められる。

 審査基準の見直しについては、ガイドラインの表記の一部修正や例示の追加等、大きな変更ではないが、実例に即した見直しであり、これにより、さらに合理的な判断がされるようになることが期待される。特に、パブリックコメントの結果により、「需要の縮小」による競争圧力が明記されたことは注目に値する。現在の日本では、少子高齢化により、ほぼすべての産業分野において、国内需要は減少傾向にある。この点を踏まえると、企業結合審査の判断基準において、需要の縮小に伴う競争圧力について盛り込まれた意味は大きいといえる。

 残った課題としては、届出書の記載事項がある。現状の届出書の様式は、競争に与える実質的影響を判断するためにはあまりに不十分であり的を外れていると言わざるを得ない。競争上の実質的影響に関する審査に必要な情報のみをきちんと求めるような様式とするよう、さらなる見直しが必要といえよう。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    カウンセル 弁護士
    島田 まどか

略歴

1997年3月
東京大学法学部第一類卒業
1999年4月
第二東京弁護士会登録
1999年4月
三井安田法律事務所入所
2003年6月
ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)
2005年6月
ハーバード大学ケネディスクール行政学修士卒業(M.P.A)
2005年8月
西村ときわ法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所
2010年1月
西村あさひ法律事務所カウンセル就任

主な業務分野

独占禁止法、国際取引・国際通商

主な著書

「判例 米国・EU競争法」共著(商事法務、2011年)
「『優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方』の概要と実務上の留意点」(Law&Technology No.51、2011年)
「Japan Chapter」共著(The PLC Cross-border Competition Handbook 2011)
「同業者間の情報交換、どこまで許されるのか?(西村あさひのリーガル・アウトルック 第21回)」(Website「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」、2010年)
「The Amendment of the Antimonopoly Law of Japan - Changes in Merger Control」共著(The American Lawyer 2010年5月号)
「Japan Chapter」共著(The Private Competition Enforcement Review、2010年)
「課徴金減免制度の在り方-1年半の実務の運用をふまえて」共著(ジュリスト1342号、2007年)
「独占禁止法の争訟実務 違反被疑事件への対応」共著(商事法務、2006年)

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