コラム

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株式会社パルコに関わる資本と経営について
株式会社アミダスパートナーズ
2011/7/8

1.はじめに

 2011年2月、イオン株式会社(以下、「イオン」といいます。)は、株式会社パルコ(以下、「パルコ」といいます。)の株式取得を発表しました。これを機に、イオン、パルコ、パルコの筆頭株主である森トラスト株式会社(以下、「森トラスト」といいます。)、パルコの業務・資本提携先(転換社債を保有)である株式会社日本政策投資銀行(以下、「DBJ」といいます。)の間で、パルコのガバナンス及び経営権を巡っての対立が起こりました。本コラムでは、本件の経緯を整理し、若干の私見を述べさせて頂きたいと思います。

主な経緯

2.背景

 本件の背景には、パルコ経営陣と森トラストの間での資本政策に関する意見の相違がありました。

 森トラストは、2001年にパルコの第三者割当増資を引き受けパルコの大株主となっています。当時、パルコは社債償還のための資金調達及び財務体質の改善が必要であり、グループ外企業の支援を求めました。そこで非流通系であり、都市部不動産開発での協業が見込める森トラストとパルコは、業務・資本提携を行いました。

 業務面では、両社グループ提携カードの発行(2002年)、東京汐留ビルディングへのパルコの出店(2005年)等を実現しています。一方、財務面では、森トラストの出資以降、既存店舗のリニューアル中心に事業を展開し、2001年2月期末時点で1,000億円強あった有利子負債残高を2005年2月期までに半減させ、財務体質の健全化に成功しました。また、2006年2月期から2008年2月期にかけては、10年ぶりに静岡パルコ、浦和パルコ等を出店したこともあり、3期連続の増収を達成しています(下図「パルコ主要指標の推移」参照)。好調な財務指標・業績推移を反映し、株価も2008年2月頃まで高いパフォーマンスを示しています(下図「2000年2月末を基準としたパルコ株価推移」参照)。

パルコ主要指標の推移


2000年2月末を基準にした株価推移


 2001年の出資以後、森トラストは、2003年に有利子負債の圧縮に苦しむ西武建設が市場に放出したパルコ株式を買い取り、出資比率を24%にしました。2008年2月には、更なる提携効果の追求と資本の安定化を目的に、森トラストがパルコへ1/3未満となる範囲でパルコ株式を取得する提案を行い、パルコ経営陣は同意しています。その後、森トラストは、市場内で株式を買い進め、2009年6月までにパルコ株式の33.26%を保有するに至りました。この時点では、両社の関係は非常に良好だったと想定されます。

 リーマンショック後、消費不振の影響からパルコの売上高は、2010年2月期、2011年2月期と直近ピークである2008年2月期に比べ8%前後少ない水準となりました。株価も、2008年2月期には期中平均株価(終値単純平均)が1,472円であったのに比べ、2011年2月期の期中平均株価は719円となっています。

 国内小売業全体の不振が顕著になる中、2010年1月に、森トラストがパルコへ第三者割当増資により1/2未満を限度に出資比率を高める提案を行いました。後のインタビューで森トラストの森章社長は、当該提案について中国展開を見据えたパルコへの資金提供、ガバナンスへの積極的な関与、他社との合従連衡や地方進出のサポートを目的としたものだと話しています (*1)。

 しかし、パルコは森トラストの提案に反対し、同年8月、新中期経営計画と共に、DBJとの業務・資本提携を発表します。その内容は、総額150億円の無担保転換社債型新株予約権付社債をDBJへ割当るものでした。当該提携が約1/3の議決権を保有する森トラストに事前相談なく行われたこと、また、DBJが全ての新株予約権付社債を転換した場合、既存株主の議決権の希薄化が起こる一方、DBJが約18.7%の大株主となること等から、森トラストの森章社長は、各誌のインタビューで遺憾の意を表明しました (*2)。
 一方のパルコ経営陣としては、新中期経営計画における中国展開やその他の新領域(EC等)のアライアンスを実現するためにDBJは最良のパートナーであるとし、株式の希薄化以上に当該施策等による企業価値の向上が達成できるとの立場を取りました。

*1 2010年9月3日ロイター社インタビュー記事「パルコ株、転換価格付近に上昇なら売却も ―森トラスト社長」

*2 同上

3.イオンによる株式取得からパルコ定時株主総会まで

 イオンは、森トラストとパルコ経営陣との隔たりが生じた2010年末から市場でパルコ株式を買い集め、2011年2月にイオンがパルコの議決権比率約12.3%を保有する主要株主となりました(下図「パルコ資本関係図」参照)。2月22日のプレスリリースによれば、株式取得はイオン独自の判断であり、森トラストやDBJとの協議はしていないとのことです。また、目的は、パルコと良好な関係を築き都市型ショッピングセンターや中国展開での協業を企図したものと発表されました。

パルコ資本関係図


 その後、3月11日の東北地方太平洋沖地震を挟み、3月17日に、イオンからパルコ経営陣への具体的な提案がされました。その後の質疑等を含め、業務面では、中国展開での協業、イオンの保有する都市部商業施設のパルコによる一体運営、郊外でのラグジュアリー・ショッピングセンターの展開等が提示され、また、ガバナンス面では、イオンによる持分法適用までの出資比率引上げ、イオンから3名、森トラストから2名のパルコへの取締役派遣が提示されました。なお、議決権比率20%以上の株式の取得が基準となる買収防衛策の非継続も提案されました。

 イオンは、森トラストと3月18日に面談を行いパルコ経営陣への提案内容への同意を得た後、3月24日にパルコ経営陣が提案を拒否した場合の株主提案に関する議決権共同行使について森トラストと合意し株主間契約を締結しました。この段階で、イオン・森トラスト連合として、議決権比率約45.5%を掌握し、本件交渉において優位に立ったと考えることができます。

 パルコ経営陣は、イオンの提案への回答期限と指定された3月29日(5月28日の定時株主総会への株主提案を想定して設定されたもの)に、業務提携効果が不明確なことや検討期間が短いこと等を理由に、イオンの提案を拒否する旨を発表しました。これを受け、3月31日に、森トラストからイオンの提案内容と同様の取締役選任に関する株主提案が提出されました。

 パルコ経営陣は、従業員からの反対意見やテナント等の声を集め他の株主への訴求を行いました。また、DBJの新株予約権付社債の転換やイオン・森トラスト連合の株主提案を大規模買付行為として買収防衛策の手続を開始すること等を模索しました。

 しかし、具体的な対抗手段を取ることはせず、4月20日に平野社長(当時)の退任及びイオンから1名、森トラストから2名の取締役を受け入れることをパルコ取締役会で決議しました。同日、イオン、森トラスト、パルコの三社間で合意書が締結され、森トラストは株主提案を取り下げました。

 3月31日の株主提案から4月20のパルコ取締役会までの協議状況は公表されていませんが、恐らく、イオン・森トラスト連合への対抗手段の実施による対立が長期化することを避けたいという意向があったのではないでしょうか。また、平野社長退任と森トラストからの2名の取締役派遣受入によって、森トラストの姿勢が軟化し、イオンの主張が若干弱められる形で落とし所を見出したのではないかと思われます(下図「パルコ取締役会の構成」参照)。

 5月28日のパルコ定時株主総会では、上記取締役の選任、イオンとパルコの提携に関する検討委員会の設置等が決議され、また、買収防衛策は非継続となりました。同日、イオンと森トラストの間で締結されていた株主間契約は終了しました。イオンとパルコとの具体的な提携内容については、6月以降検討委員会で協議されることとなりました。

パルコ取締役会の構成

4.現状と今後の展望

 森トラストは、2001年のパルコへの出資以後、安定株主として資本面でパルコの経営を支えてきましたが、業務面ではそれ程深い結びつきは無いように思われます。パルコによりDBJとの業務・資本提携が実行され、イオンとの提携に関する協議が開始された現在、森トラストは投資家としての姿勢を強めるのではないかと考えられます(*3) 。2001年に株式を取得した時点から考えますと、600円台で推移する現在のパルコ株式は、含み益を持っていると思われますが、2008年から2009年における森トラストによるパルコ株式の買い増し(約8%分と想定されます。)分を含めるとそれほど大きな投資効果があったとは考えられません。現行の株価水準にプレミアムを付ける買手が現れれば、森トラストは売却に応じる可能性もあるのではないかと思います。

 パルコ経営陣及びDBJは、今後益々株主やステークホルダー等への説明責任を果たすことが求められると考えられます。2010年8月に発表した中期経営計画で挙げた中国展開、新領域でのアライアンスという面では、2011年4月にアジア最大規模の不動産会社であるCapitaMalls Asia Limited(シンガポール)との業務提携に関する基本合意、ECを展開するスタイライフとの業務・資本提携を発表していますが、業績への影響は未知数です。イオンや森トラストへ対抗するだけの対応では他の株主への責任を放棄することにもなり得ます。DBJの転換社債の転換のタイミングは、非常に難しい舵取りが要請されると考えられます。イオンとの提携協議も企業価値向上への可能性として真摯に対応し、具体的な成長を実現できるか注目したいと思います。

 イオンは、パルコ経営陣と森トラストの隔たりの中、戦略的に株式を取得し、パルコへの提案、森トラストとの協働を実現したといえます。イオンとしては、都市部での事業展開の中核企業となり得るパルコは魅力的な投資対象だと考えられます。現時点では、パルコの買収防衛策の廃止、取締役の1名派遣という第一歩を踏みだした段階で、実利を得るには時間を要するものと考えられます。今後、イオンとパルコの提携協議が進む中で、イオンの利益だけではなく、パルコの企業価値向上に資する具体案が生まれるかどうかが重要な分岐点となるでしょう。

 株主総会後に開始されるイオンとパルコの提携に関する検討委員会の協議状況次第では、9月9日以降取締役会の承認を経ずに可能となるDBJの社債の一部転換(議決権比率約8.7%分)やイオンによる更なる株式取得・TOB等、パルコの議決権を巡る新たな動きが生じる可能性があり、今後の動向に注目したいと思います。

*3 2011年6月8日東洋経済新報社インタビュー記事「怒り心頭の『パルコ問題』、今後は投資家として対処 ―森章・森トラスト社長」

5.おわりに

 本件に係る報道では、「資本の論理」という言葉が多く見られ、時に強引な手法として批判的に使われてもいました。投機的な買収を助長するようなことがあってはいけませんが、非常に速いスピードで変化する経営環境の中、M&A等により企業オーナーや資本構成を変えることで、企業の潜在的な価値を見出す契機とすることも重要な選択肢だと考えます。本件が、パルコの企業価値の向上に資するものとなるように願います。

以上

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