コラム

第十九回目の専門家コラムは、一般社団法人日本経済団体連合会の阿部泰久先生に執筆していただきました。阿部先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、企業結同会計に関するコンバージェンスについてとりまとめて頂いています。ご参考にしていただければ幸甚です。

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企業結合会計-コンバージェンスの行方
一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部泰久
2011/6/15

 企業結合会計のIFRS(国際財務報告基準)へのコンバージェンスは、EUによる同等性評価対応を対象とするステップ1と、それ以外の既存の差異解消を対象とするステップ2に分けて進められてきた。

1.IFRSにおける企業結合会計

 企業結合に関する国際会計基準は、2004年3月にのれんの非償却、持分プーリング法の廃止等を規定したIFRS第3号が制定され、従来のIAS第22号は廃止された。

 さらに、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)のコンバージェンス・プロジェクトにより、2008年1月にIFRS第3号が改訂され、2009年7月1日以後開始する会計年度以降の企業結合に適用されている。ただし、コンバージェンスは完全ではなく、米国基準(FAS第141号-2007改訂版)とは、適用日や非支配持分(従来の少数株主持分)の測定方法等が異なっている。

 改訂前のIFRS第3号におけるパーチェス法では、被取得企業のうち取得企業が取得した部分に焦点をあててのれんが算定されていたが、改訂IFRS第3号における取得法では、被取得企業全体に焦点をあてて、被取得企業全体を購入するために要する対価(非支配持分も含む)と被取得企業の識別可能純資産の全額とを比較することによりのれんを算定する。具体的には、以下の(A)から(B)を控除した金額が「のれん」とされ、その金額がマイナスの場合は「バーゲン・パーチェス(廉価取得)」となる。

  • (A)以下の合計額
  •  ・取得に要した対価
  •  ・被取得企業における非支配持分
  •  ・段階取得の場合における取得企業が取得前から保有していた被取得企業持分の公正価値
  • (B)識別可能な取得資産・負債の取得日における公正価値純額

 この結果、公正価値で測定した場合には非支配持分からものれんまたはバーゲン・パーチェスが認識され得ることとなる(全部のれん方式)。

 「のれん」は取得企業の資産として認識し、当初認識後ののれんは償却せず、毎期および減損の兆候がある場合に減損テストを実施し、必要に応じて減損損失を認識する。「バーゲン・パーチェス」は、すべての資産・負債の識別、非支配持分や譲渡原価の見直しを行ったうえで、なお残存する額については、利益として即時認識する。

2.日本基準とIFRSとの差異

 コンバージェンスのステップ1については、2008年12月26日、企業会計基準委員会(ASBJ)より「企業結合に関する会計基準」が公表され、2010年4月1日以後に実施される企業結合から適用されている。持分プーリング法の廃止、取得企業の決定方法、負ののれんの会計処理、段階取得における取得原価の会計処理等についてコンバージェンスが実現しており、現行日本基準と改訂IFRS第3号との残された主な差異は以下の通りとなっている。

  改訂IFRS第3号 日本基準
のれんの償却 のれんの償却は行わず、IAS第36号「資産の減損」に従い、毎期、もしくは減損の兆候がある場合はその都度、減損テストの対象となる。のれんについては、減損損失の戻入れはできない。 原則として、のれんの計上後20年以内に、定額法その他合理的な方法により償却する。ただし、金額に重要性が乏しい場合には、当期損益として処理することができる。
企業結合に直接起因する費用 企業結合に直接起因する費用は、移転した対価に含めず、発生時点またはサービスの提供を受けた時点で費用処理する。 取得に直接要した支出のうち、対価性が認められるものは取得原価に含める。
非支配持分の測定 次のいずれかの方法による(個々の企業結合ごとに選択)
・非支配持分も含めた被取得企業全体を公正価値により測定し、のれんは非支配持分に帰属する部分も含めて認識する(全部のれんアプローチ)。
・非支配持分は、被取得企業の識別可能資産の純額に対する非支配持分割合相当額により測定する(購入のれんアプローチ)。
子会社の資産及び負債のすべてを、支配獲得日の公正な評価額(時価)により評価し、少数株主持分に相当する部分については、支配獲得日における子会社の識別可能純資産の公正価値のうち、少数株主持分割合の金額で算定する(全面時価評価法)。

3.ステップ2の停滞

 これらの差異を埋めることが、コンバージェンスのステップ2の目的である。2007年のASBJとIASBとの東京合意では、既存差異のコンバージェンス項目として2011年6月末までに完了するものとされていたが、作業は大幅に遅れている。

 2009年7月10日にASBJより示された「企業結合会計の見直しに関する論点整理」では、IFRSとのコンバージェンスを図るために、(1)少数株主持分の取扱い、(2)取得原価の算定、(3)取得原価の配分、(4)のれんの会計処理、(5)子会社に対する支配の喪失、についての見直しが挙げられているが、焦点となるのは、のれんについて償却を行わず、資産計上した上で減損処理の対象とすることである。

 のれんの会計処理は無形資産に関する検討と関わるため、無形資産に関する会計基準の開発(IAS第38号とのコンバージェンス)と同時並行で進めることとされているが、いずれも、連結基準をIFRSにコンバージェンスした場合に個別基準をどうするかという問題に大きく関わっている。財務会計基準機構(FASF)では、2010年10月より単体財務諸表に関する検討会議を設けて、連単問題の打開を図ったが、そこで挙げられた4テーマのうちに、のれんの償却と開発費の資産計上が含まれており、この結論が出るまで、ASBJの検討は中断されていた。

4.今後の見通し-連単分離へ

 2011年4月28日に単体財務諸表に関する検討会議は「報告書」をとりまとめたが、そこでは、のれんの償却については「単体財務諸表に関する考え方の方向性」として、「当面、現行の償却を変更すべきでないとの意見が多くみられた。」とされ、その考え方は、以下のように整理されている。

  •  ・事業を買収するのは、売却を目的としたものではなく、買収した事業を通じ利益をあげることを目的とする。のれんは、事業買収に伴う将来収益に対応するコストである。のれんの償却後で利益が計上できるか否かが重要であり、収益と費用の対応の観点からも、のれんは償却すべき資産である。
  •  ・非償却として減損のみとした場合、事業環境の悪化に伴い一気に損失が表面化し、景気が悪化した場合、不安定さが増幅する。
  •  ・単体財務諸表におけるのれんはさほど重要性がない場合が多く、連結と単体で処理を分けても、さほど混乱は生じないのではないか。

 一方、IFRS同様に非償却に変更すべきとの意見の考え方は、国際的な比較可能性からコンバージェンスを図るべきであること、また、連結財務諸表と単体財務諸表はできる限り一致することが望ましいとするものである。

 4月28日のASBJ会合に示された「企業結合(ステップ2)のれんの償却処理の取扱いの検討」では、連単一致でコンバージェンスする場合のコスト(デメリット)として、以下の3つの懸念を挙げ、連結先行した場合は、単体については当該懸念に一定の範囲で対応することができるが、連単一致とした場合は、連単ともに懸念が残ることとなるとしている。

  •  ・のれんを非償却とし減損処理のみとする方法は、企業結合後の利益計算の観点や自己創設のれんの計上の問題などに懸念がある。
  •  ・企業は投資(企業結合)の成果を評価する際、投下金額を上回る収益をあげているかを見ている。のれんが投資した原価の一部であることを鑑みれば、のれんの償却費を投資の成果から控除することが経営管理の観点からも整合する。
  •  ・のれんを非償却とする場合、年 1 回、割引後CF で減損テストを行う方向の見直しを前提とすると、実務負担への懸念や、恣意性が介在する余地が大きくなるという懸念がある。

 また、5月19日のASBJ会合では、会社法計算との関係からも、のれんを非償却とすることに懐疑的な意見が示され、6月2日のASBJ会合では、事務局より、A案:連結は非償却・単体は償却とするか,B案:連結・単体ともに償却を続けるか、との2案が提示されている。

 結論は持ち越されたが、A案を支持する意見が多数を占めており、近いうちに、連単分離による公開草案が示されるものと思われる。

執筆者紹介

  • 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長
    阿部 泰久

略歴

1955年生まれ。1980年、東京大学法学部卒業。同年(社)経済団体連合会(現日本経済団体連合会)事務局入局。
現在、(社)日本経済団体連合会経済基盤本部長として税制、企業会計制度、経済法制等を担当。
産業構造審議会臨時委員、企業会計審議会専門委員、他。
「会社法対応企業組織再編の実務〔補訂版〕」、「新しいグループ企業の税制と実務対応」(いずれも新日本法規出版社刊)など著書多数。

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