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MBO事例について(5) 近時の特徴的な事例
株式会社アミダスパートナーズ
2011/6/1

1.初めに

 上場企業のMBOは近時件数が増加しており、事例が増えてきた中で、潜在的な利益相反の問題を解消する方向で新たな施策をとる事例や、また関係者の予期せざることが起こる事例もでてきている。

 本項では、最近の特徴的な事例を取り上げる。

2.カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)(2011年2月3日公表)

 第三者委員会が独自に株価評価を第三者機関から取得し、TOB価格の交渉を行った事例

 MBOや完全子会社化の案件では、対象会社の取締役会や買付者は証券会社やフィナンシャル・アドバイザリー会社等の第三者機関から株式価値評価を取得する。この目的の一つはTOB価格の適正性を担保する客観的状況の確保にあるが、TOBで持分を売却する少数株主にとってはより高いTOB価格が提示されることが利益となることから、対象会社はTOB価格を検証するに留まらず、独立当事者間の交渉に準じて買付者と価格等の条件交渉をすることが望ましいと考えられる(*1)。

 第三者機関による株式評価は、ほぼ全てのケースで対象会社の取締役会が第三者機関から取得しているが、本ケースではMBOの検討にあたって設置された第三者委員会がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)(以下、「CCC」)の取締役会とは別に独自に第三者機関から株価評価を取得しており(取締役会はKPMG FAS、第三者委員会はプルータス・コンサルティングより取得)、またKPMG FAS及びプルータス・コンサルティングが作成した株価算定書をCCCホームページ上で開示している(買付者側の株価算定書の開示は金融商品取引法上の義務であるが、対象会社側が取得した株価算定書の開示は恐らく我が国で初めての事例と思われる)。

 また本ケースでは、第三者委員会が得たDCF法による評価額の下限を公開買付者が提案したTOB価格が下回っていたことから、第三者委員会が公開買付者とTOB価格の交渉を行っている(*2)。MBO指針においても、第三者委員会はMBOを行う必要性やTOB価格の妥当性を取締役会に“助言”するに留まらず、さらに踏み込んでTOB価格の交渉までも社外取締役や第三者委員会に行わせるべきとの見解が紹介されており(*3)、また同じく第三者委員会が買付者と交渉を行ったサイバードホールディングスの価格決定申立事件(東京地裁)では「いわゆる独立当事者間(支配従属関係にない当事者間)において、第三者機関の株式評価を踏まえるなど合理的な根拠に基づく交渉を経て、合意に至ったものと認めることができ、利益相反関係の問題についてもこれを抑制する措置が講じられていたということができ・・・」と評価されている。現在我が国で一般的に行われているような、対象会社の取締役会等に対する諮問機関としての役割を担うタイプの第三者委員会を「検証型」とし、本ケースのように第三者委員会が公開買付者と直接交渉するタイプの第三者委員会を「米国型」として区別する整理もあるようである(*4)。

 本ケースでは第三者委員会による価格交渉の中でTOB価格を575円から600円に引き上げたもののDCF評価の下限を下回っていたことから、「当社の株主が本公開買付けに応募することを推奨することの是非については、積極的に推奨することも応募しないことを推奨するものでもなく、中立の立場を採った上で、最終的に株主の判断に委ねるのが相当である」旨をCCCの取締役会に答申し、これらを受けて、CCCの取締役会は、公開買付けには賛同意見を表明するものの、株主がTOBに応募することについては「中立の立場を採った上で、株主の皆様のご判断にお任せすることが最善」との意見を決議、表明している。

 なお、本ケースはTOBが成立しており、CCCは2011年7月23日に上場廃止となる予定である。

*1 米国の取締役はより高い価格を提示した相手に対して会社を売却する義務を負うとされている(Revlon基準)。
ビジネス法務2011年6月号 36頁 江頭教授発言「アメリカにおいては、MBO絡みの公開買付けであれば、事後に必ずスクイーズ・アウトが起こるので、レブロン義務が当然にかかってきます。レブロン義務がかかるということは、具体的には、取締役には、必ず、いわゆるショッピングを行う義務、つまり、経営者とファンドが会社を買い取りたいと言っているけれども、もっと高く買いませんかと、30から50ぐらいの会社に買収の提案を持ちかける義務を負わされるわけです。それに対し、日本においては、経済産業省のMBO指針では、売却する側の企業の取締役あるいは第三者委員会に対して、そうしたショッピングを行う義務は負わされていません。また、第三者委員会は買主側と交渉するべし、ともMBO指針は言っていません。ですから、ショッピングはおろか交渉すらも、しなければいけないと言われていないのが、日本の現状だと思います。」
藤原総一郎 他「M&Aの契約実務」中央経済社(2010)23頁「日本においては、「売却対象となった上場会社の取締役が、会社の売却という場面において、有利な条件を引き出すための交渉を行う義務をどのレベルまで負っているのか」という論点について議論が必ずしも尽くされていない」

*2 これまでに第三者委員会が買付者と交渉を行ったMBO公表事例は本稿で紹介した他に、サイバードホールディングス(2007年10月31日公表)、エノテカ(2011年2月2日公表)JST(2010年8月12日)がある。

*3 経済産業省「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(2007年)(以下、「MBO指針」)15頁

*4 太田・清水「わが国におけるMBOの実務と課題」『M&A法務の最先端』商事法務(2010)

3.アートコーポレーション(株)(2011年2月4日公表)

 第三者委員会が公開買付者と直接TOB価格を交渉し、意見書を公表している事例

 本ケースはアートコーポレーション(株)(以下、「アート社」)の取締役会が第三者委員会に対してTOB価格の交渉を委嘱し、第三者委員会が価格交渉を行い、またその第三者委員会の意見書を公表している恐らく我が国のMBOで初めてのケースであり、本ケースの第三者委員会は前述の「米国型」第三者委員会に近いタイプといえる。

 第三者委員会による報告書では、アート社の取締役会から第三者委員会への委嘱事項、株価評価やその前提となる事業計画についての第三者委員会による検討内容や買付者との5回に亘る交渉の具体的な交渉内容等が開示されており、一般に公表されている資料としては、MBOにおける第三者委員会の役割を知る上で有用な資料でもあると考える。

 なお、本ケースはTOBが成立しており、アート社は2011年6月27日に上場廃止となる予定である。

4.対抗的買付者

(株)幻冬舎(2010年10月29日公表)
対抗的買収者が現れた事例

 TOB価格が公正であることを担保する措置として、第三者機関による株価算定、第三者委員会による検討の他に、対抗的な買収者による買付の機会を確保すべきこともMBO指針では示されている。これはMBOを行う経営者への利益誘導のために不当に低い価格でTOBを行ったとしたら、正当に価値を評価する第三者が対抗的な買付を行うであろうことが想定されるため、法定のTOB期間よりTOB期間を長く設定し、対象会社が他の買付者と交渉することを妨げない等をもって、対抗的買収者が出現する機会を確保することで、価格の公正性を裏付けるものである。

 本ケースでは、幻冬舎 見城社長のSPCによるMBOが公表された約1カ月後、ケイマン籍のイザベル・リミテッド(Isabel Limited。以下、「イザベル」という)が2010年11月24日から買付を開始し、2011年1月20日時点で10,312株(議決権比率37.6%(*5) )の筆頭株式となった。

 これを受けてTOB価格は220,000円から248,300円に引き上げられ(12.9%増額)、TOBを成立させる下限となる買付株数を18,300株(議決権比率 約3分の2)から13,725株(同約2分の1)へと引き下げた(*6)。

 イザベルは幻冬舎株式のほとんどを信用取引によって取得していたため議決権行使の指図権は証券会社にあり(*7)、証券会社はスクイーズ・アウトのための株主総会で議決権行使を放棄したため、幻冬舎はTOBの条件変更は行ったものの結果的には当初予定どおりMBOを進めている。

 なお、イサベルは本件買付から持分全ての譲渡を完了するまで、プレスリリース等は一切行っておらず、イサベルの対抗的買付の意図については公表資料ベースでは、大量保有報告書の保有目的欄「(投資一任契約等に基づく顧客資産運用のため)投資利益を得ることを基本的な目的としますが、発行者の資本政策、株券等の価格水準、発行者に対する公開買付の状況等によっては、保有する株券等の価値の維持向上を目指して重要提案行為等を行うこともあり得ます」(平成21年1月21日付 変更報告書)とした記載等からしか伺うことはできない。また、イサベルの背後の投資家についても公表されていない。

 なお、本ケースはTOBが成立しており、幻冬舎は2011年3月16日をもって上場廃止となっている。

 MBOに際して対抗的買付者が現れた先行事例として、(株)テーオーシー(以下、「TOC」)のMBO(2007年4月6日公表)に際してダヴィンチ・アドバイザーズ(現 ダヴィンチ・ホールディングス。以下、「ダヴィンチ」)が対抗的TOBを行った例がある。この際、ダヴィンチはMBOに係るTOB価格(800円)を大きく上回る価格(1,308円)でTOBを仕掛けたが、金融機関等がTOBに応じなかったためダヴィンチのTOBは不成立に終わった。しかし一方のMBOに係るTOC経営陣によるTOBも不成立となり、同社は現在も上場を維持している。

*5 議決権比率=イザベル保有株数/(発行済株式総数―自己株式数)

*6 MBO指針においては、買付数量に下限を設けることによって、『MBO の実施について多数の株主(又は利害関係を有する者以外の多数の株主)の賛同が確認されることとなる。
また、少数株主に対する強圧的な効果を生じさせないための配慮にもなるため、株主意思確認を尊重した実務上の対応であると考えられる。』と述べられている。MBO指針18-19頁 本ケースでは、下限を引き下げたことによって、スクイーズアウトのための定款変更決議に必要な議決権の2/3以上を確保できない場合でもTOBが成立することとなるが、これについて買付者のリリースでは「MBOの手法が対象者の中長期的な企業価値の向上にとって最善の手段であるとの信念のもと、MBOの手続きのために必要な対象者の株主総会において議案が可決されるよう、本公開買付けの成立後も引き続き、本公開買付けに応募されなかった株主の皆様に理解を求めていく所存です。」としている。株式会社TKホールディングス 2010年12月13日

*7 幻冬舎 訂正臨時報告書 2011年2月4日提出

5.終わりに

 近時は平均して1月に1件以上公表される程に上場企業のMBOは頻繁に行われており、案件毎の特徴も目立ってきている。

 紹介したCCCとアート社での第三者委員会は「従来型」より積極的なアクションをとる「米国型」が採用されたものといえるし、幻冬舎で対抗的な買付者が出現し買付価格が変更されたことは株式市場が本来の価格決定機能を果たした結果と見ることもできる。いずれも我が国においてMBOが普及し健全に成熟していく中で起こるべくして起こった事例といえるであろう。

以上

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