コラム

第十六回目の専門家コラムは、弊社社外パートナーであり公認会計士の笠原真人氏に執筆していただきました。笠原氏の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、MBOにおける企業価値評価について取り纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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MBOにおける企業価値評価
笠原公認会計士事務所 弊社社外パートナー 笠原真人
2011/3/15

 MBOは、Management Buyoutの略称で、買収対象企業の経営陣による企業買収のことをいう。
 MBOには、非上場企業の経営者が自社の株式を取得することで親会社からの独立を図るという、いわゆる「のれん分け」的なものや、上場企業の経営者が、株式公開買付け(TOB)という手段により、非上場化を図るものなど様々な形態があるが、ここでは、企業価値や株主価値の観点から注目される、後者の形態を念頭におくこととする。

MBOにおける資金調達

 MBOは、経営者が、株式市場から株式を買い取り、経営権を取得するという取引であるが、このような形態においては、買収者である経営者が買収に十分な資金を持っていない場合が多く、その買収資金を金融機関や投資ファンドを通じて調達するのが一般的である。

 このような買収手法は、被買収企業がもたらすキャッシュ・フローを担保にして資金を調達するという意味において、LBO(レバレッジド・バイ・アウト:Leveraged Buyout)といわれる。

 LBOは借入金を「てこ」(lever)として、投資金額を抑えることで買い手のリターンの極大化を図ることから、この名がついており、買収者(=経営者)は、この被買収企業が将来的に生みだすキャッシュ・フローをもって調達資金の返済に充当することになる。

 従って、LBOにおいては、調達資金がいくら必要か(買収額の総額はいくらか、すなわち市場株価にどの程度のプレミアムを乗せた買付価格とするか)、調達資金を何年間で返済していくか(被買収企業の事業キャッシュ・フロー(*1)は毎期どの程度で、どの程度の期間での返済が可能か)という点がその実施にあたっての重要な制約条件となる。

  • MBOの典型的なスキームは、以下のようになる。
  • STEP 1 MBOを行う経営者は、被買収企業の株主から株式を買収するための受皿会社(SPC)に出資を行う。また、SPCは金融機関より、買収するための借入を行う。
  • STEP 2 SPCは出資・借入により調達した資金により、株主からTOBにより株式を買い取る。
  • STEP 3 MBO後に、被買収企業とSPCは合併し、合併後のSPCは、被買収企業がもたらす事業キャッシュ・フローにより借入金の返済を行う。

MBOにおける資金調達

*1 本稿における事業キャッシュ・フローは、株主と負債権者に帰属するキャッシュ・フローであるとしている。

LBOにより買収を行う場合の企業価値評価

 LBOにおいては、被買収企業の生み出すキャッシュ・フローを担保とした資金調達を行うことから、一般的に、SPCと合併後の被買収企業は、調達資金を早期に返済することを求められることになる。

 従って、SPCと合併後の被買収企業は、当初は、買収資金見合いの、比較的多額の借入金を有しているが、これを金融機関等との間の契約等に基づく期間内において、事業キャッシュ・フローにより返済していくことになる。

 これを企業価値評価の観点からとらえると、資本構成上、当初は有利子負債が多い(負債比率が高い)が、その後、被買収企業の事業キャッシュ・フローを原資として返済を行っていくことで、負債比率は相対的に低くなる、ということになる。

 MBOにおいて、経営者(買収者)の立場から、企業価値評価を行う場合には、このような資本構成の変化が企業価値に与える影響についても分析がなされることが多い(*2) 。

 ここで、資本構成の変化は、加重平均資本コスト(WACC)に影響を与えることから(*3)、毎期の資本構成の変化を踏まえたWACCを計画期間の各年度にわたり算出する必要があるが、このような計算を各計画期間において行うのは煩雑である(*4) 。

 このように、LBOにより企業買収を行う場合など、対象会社の資本構成が大きく変化することが予定される場合には、資本構成の変化による影響を企業価値に適切に考慮するため、いわゆる調整現在価値方式(Adjusted Present Value方式;APV方式)という評価アプローチがよく用いられる。

*2 このようにLBOという手法を用いることにより、買収企業にもたらされる財務的な効果を、TOBに際してのプレミアムに考慮するか否かは議論のあるところであると思われるが、少なくとも買収企業の立場からは、このような効果についての分析も行われるべきであると考える。
*3 WACC計算上の加重割合が変化することに加えて、リレバードβ=アンレバードβx(1+(1-実効税率)x D/Eレシオ)として計算されるβが、資本構成(D/Eレシオ)の変化を通じて株主資本コストを変化させるという影響もある。
*4 ある時点における株主価値はWACCにより算出されるが、そのWACCはその時点の株主価値と有利子負債に基づく資本構成から算出される。あるWACCにより株主価値が算出され、資本構成の変化が生じると、それを通じてWACCが変化し、その変化したWACCにより株主価値が変化するという循環関係が生じ、これを収束させる必要があることから計算が煩雑になる。

調整現在価値方式の考え方

 調整現在価値方式においては、事業価値を以下のようにとらえる。

事業価値

 調整現在価値方式では、まず評価対象企業の資本構成について、有利子負債が全くないと仮定したうえで、事業キャッシュ・フローを、負債がない場合の資本コスト(アンレバード株主資本コスト)により割引くことで、100%自己資本で資金調達した場合の事業価値を算出する。これは、資金調達如何に関係のない純粋な事業価値を示す。

 次に、有利子負債による資金調達を行うことにより、支払利息が税務上損金算入されることによる効果の額(支払利息の節税効果額)の割引現在価値を算出し、これと上記の100%自己資本で資金調達した場合の事業価値を合計したものが事業価値であるととらえるのである。

 ここで、ノーベル経済学者のミラー教授とモジリアーニ教授により提唱されたいわゆるMM理論では、①完全資本市場を前提とすると、企業価値は資本構成の影響を受けない、ただし、②完全資本市場の前提が成り立たず、支払利息が税務上損金算入されることによる税効果を考慮すると、有利子負債を活用することで、WACCは低下し、企業価値は向上するということが主張される。

 調整現在価値方式は、まさにこの考え方に立脚した企業価値評価のアプローチであり、調整現在価値方式の先の式の第1項が上記の①、第2項が②の考えを示していることになる。

事業価値 MM命題

 評価の実務では、WACCの資本構成を一時点における対象会社の資本構成や、上場類似会社の資本構成を参考に決定する場合が多いが、上記のLBOを活用した企業買収のように、対象会社の資本構成が著しく変化することが想定されているような場合においては、資本構成の変化が企業価値にどのような影響を与えるかを的確に把握したうえで、分析を行う必要があるといえる。

執筆者紹介

  • 笠原公認会計士事務所
    弊社社外パートナー
    笠原真人

略歴

朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて、法定監査、財務調査等に従事した後、アーサーアンダーセンのコーポレートファイナンス部門の分社に伴い (株)グローバル・マネジメント・ディレクションズ(現(株)KPMG FAS)へ転籍、その後プライスウォーターハウスクーパース・フィナンシャル・アドバイザリー・サービス株式会社(現プライスウォーターハウスクーパース(株))、KPMGコーポレートファイナンス((株)KPMG FAS)を経て、独立開業、現在に至る。
10年以上に亘りバリュエーション業務に従事。
小売、金融、不動産、商社、精密機器、エネルギー、情報サービス等幅広い業種における、M&A、グループ内再編、Purchase Price Allocationなどの会計目的、事業再生、事業承継等、数多くの案件におけるバリュエーションサービスを提供。
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