第十五回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士法人アクト22の代表社員である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、組織再編成と租税回避についてとりまとめて頂いています。ご参考にしていただければ幸甚です。
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1.組織再編成税制の果たした役割
平成13年度改正において、組織再編成税制を創らせていただいた際には、組織再編成によって我が国の企業が立ち直ることができるようにすることが急務であり、組織再編成が我が国に定着するまでは、税務調査において寛大に対応していただきたいと国税庁にお願いさせていただいたところです。平成13年の時点では、会社法においても、また、企業会計においても、組織再編成の全般にわたる取扱いはまだ整備されていませんでしたが、平成13年度改正の施行日である平成13年4月1日から大きな組織再編成が次々と行われるという状態となりました。「再編税制で救われました。」という声は、何度も耳にしたところです。
法人税収も、平成13年を境に増加に転じ、我が国の企業の業績が回復したことを示しています。もちろん、これが全て組織再編成税制によるものということではないわけですが、組織再編成税制の創設がこれに少なからず貢献したことは間違いないと感じています。
この組織再編成税制は、財務省主税局の法人税制企画室において創り、平成13年度改正で成立の運びとなったわけですが、法人税制企画室においては、前年の平成12年に、有価証券の譲渡に関する取扱いを抜本的に改め、デリバティブ取引・ヘッジ処理等の税制を創設する改正を行ったばかりでしたので、組織再編成税制の創設の作業は、例えて言えば充電期間が無いまま成果を出さなければならないという大変に困難な状況下で行わざるを得ませんでした。
それにもかかわらず、上記のような貢献が出来たのは、法人税制企画室で昼夜の別なく頑張ってくれた室員全員のお蔭であることは間違いないわけですが、それと同時に、組織再編成の定着に寛大に対応した国税庁の英断が極めて大きいと感ずるところです。国税庁のこのような英断が無ければ、我が国の企業が組織再編成によってここまで立ち直ることは無かったと考えます。現在では、上場企業のグループを見てみると、平成13年以後に組織再編成を行ったことがないというものは殆んど無いという状態にまでなっており、組織再編成税制の創設直前と現在とを比べてみると、まさに隔世の感があります。
2.組織再編成の負の側面
組織再編成に関しては、上記のように、我が国の企業の復活に大きな役割を果たした一方で、あまり歓迎できない事情も生ずることとなっています。
上記1で述べたとおり、組織再編成税制は、「節税」や租税回避のための手段として創ったわけではないわけですが、一部には、異常と言わざるを得ない組織再編成を行い、納税額を圧縮しているケースが見受けられます。これらのケースの中には、一つひとつを見れば税制の要件に合致する正常な組織再編成となっているものの、組織再編成を繰り返し、結果として出来上がった状態は五重にも六重にも法人が連鎖的に連なるものとなって、誰が見ても、到底、正常な事業形態とは言えない、というようなものさえも存在しています。
3.国税庁の対応
上記のような明らかに遣り過ぎというケースに関しては、国税庁として、当然、毅然とした対応を取るべきである、ということになりましょう。この1、2年の間に、国税庁が組織再編成を積極的に調査対象とする方向に転じたことは、当然の成行きであると考えます。
税務調査で否認されるものは、基本的には、事実認定によって法令の要件に該当しないとされたり、法令の解釈が相違するとされて否認されるというものと、法令の要件には該当しているものの、不当に法人税を免れるものということで行為又は計算が否認されるというものとなると考えられます。
特に注意を要するのは、この後者の行為又は計算の否認です。平成13年度改正においては、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定として法人税法132条の2の規定を新たに設けたわけですが、その創設当時は、その対象となるものを次のように述べていました。
「従来、合併や現物出資については、税制上、その問題点が多数指摘されてきましたが、近年の企業組織法制の大幅な緩和に伴って組織再編成の形態や方法は相当に多様となっており、組織再編成を利用する複雑、かつ、巧妙な租税回避行為が増加するおそれがあります。
4.納税者としての対応
納税者において、法人税法132条の2の規定の適用を受けないようにするにはどうすれば良いのかということを一般的に述べることは、容易ではありません。
しかし、最低限の話として、組織再編成を行う事業上の必要性を明確にしておくことが必要であるということは述べておいてよい、と考えます。
もちろん、これは、単に事業上の理由がありさえすればよいということではありません。どのようなケースにおいても、租税を軽減するために組織再編成を行うということとはされていないはずで、何らかの事業上の必要性の説明はなされているはずです。
要は、事業上の理由があるのか否かということではなく、税務調査において真に事業上の理由があると見てもらえるものとなっているのか否か、ということが問題となるわけです。この判断は、どうしても個別に行わざるを得ず、知識や経験が大きく物を言うこととなりますが、この判断が適切でないと、大きな税務否認リスクを背負うこととなります。くれぐれも、本当の目的は税金を減らすためであり、事業上の目的は取って付けたものでしかない、ということにだけはならないようにする必要があります。