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バリュエーション(企業価値算定)に関する最近の動向~近時の判例等も踏まえて~
株式会社アミダスパートナーズ
2011/2/4

はじめに

 この10年の間に、バリュエーション(企業価値算定)実務については、一定の進化ないし定着が認められる状況になりつつあるように感じています。各種参考文献も豊富になってきていますが、実務の現場(とりわけ交渉局面)では、個別案件ごとの特性が多様化していることにも起因して、合意に至るまで相当の労力を費やすことも多く見受けられます。

 こうした中、最近数年間の間に、少数株主による株式買取請求を巡る諸判決がみられ、その中には、実務の参考となる判断基準もいくつか明示されているように感じています。本コラムでは、こうした最近の判例や、これに関連する参考文献も踏まえ、紙幅の許す範囲で参考となり得る点について紹介させて頂くと共に、若干の私見を申し述べさせて頂きます。

1.価格の合意形成プロセス

 企業価値算定上の個々の論点を云々する以前に、そもそも価格の合意形成プロセスが公正あるいは適正なものであったか否か、具体的には(1)交渉手続そのものが適正か、(2)独立第三者間取引とは言えない場合に利益相反回避のための公正な手続きが踏まれていたか、という問題があります。

 この点に関し、日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第41号「事例に見る企業価値評価上の論点-紛争の予防及び解決の見地から-」(*1)等に基づき、以下に整理します。  

  • (1)適正な交渉手続
  •  
  •   まずは適正な交渉プロセスが踏まれていることが必要であり、例えば、下記のような事項が考えられます。なお、起用する各種アドバイザーと起用主の間にコンフリクト(利益相反)が存在しないこと、並びに、買い手・売り手間においてもコンフリクトが存在しないことは、重要な前提になるものと考えます。
  •  
  • (1) ファイナンシャル・アドバイザー(以下、「FA」といいます。)、リーガル・アドバイザーによるアドバイスを受けている。
  • (2) 買い手側企業が、ビジネス、法務、財務、税務等の各種デューディリジェンス(以下、「DD」といいます)を実施している。
  • (3) 上記DDも踏まえた、独立第三者機関による企業価値算定が実施されている。
  • (4) 売り手側企業においても、上記(1)及び(3)が実施されている。
  • (5) 売り手側における独立外部委員会の設置。
  • (6) 買い手・売り手間の対等な交渉
  •  

  • (2)利益相反回避手続(*2)
  •  
  •   特にMBOの場合、下記の配慮が必要とされています。なお、個々の案件の事情等に応じて、実務上の工夫を行い、透明性ないし合理性を高めることが望まれています。
  •  
  • (1) 株主による適切な判断機会確保
    1.  1) MBOのプロセス等に関し、関連する規制の趣旨を踏まえた充実した開示
    2.  2) MBO成立のため意図的に市場株価が引き下げられているとの疑義を招く可能性がある場合の充実した説明
    3.  3) 取締役がMBOに関して有する利害関係の内容についての充実した説明
    4.  4) スクイーズアウトに際して、株式買取請求権又は価格決定請求権が確保できないスキームの採用の禁止
    5.  5) 特段の事情のない限り、公開買付けにおいて大多数の株式を取得した場合にはスクイーズアウトを実施
    6.  6) 特段の事情のない限り、スクイーズアウトの価格については、公開買付け価格と同一の価格を基準にすること
  •  
  •  以上のほか、対応すべきか否かについて議論が分かれるものの、下記事項についても示されています。
    1.  7) MBO後も一定期間、対象会社の状況に関する情報提供を継続
    2.  8) MBO後の中長期的な経営計画等の将来の可能性についての十分な説明
  •  
  • (2) 意思決定過程での恣意性排除
  •   下記事項を、個々の案件の事情に応じて組み合わせる等の工夫が必要。
    1.  1) 社外役員又は独立した第三者委員会等に対するMBOの是非及び条件について諮問し、その結果なされた判断の尊重
    2.  2) 取締役及び監査役全員の承認
    3.  3) 意思決定方法に関し、独立したアドバイスを取得し、当該アドバイザーの名称を明らかにすること
    4.  4) MBOの価格に関し、対象会社において独立した第三者評価機関からの算定書等を取得
  •  
  • (3) 価格の適正性を担保する客観的状況の確保
    1.  1) MBOに際しての公開買付け期間を比較的長期間に設定
    2.  2) 対抗者が実際に出現した場合に、当該対抗者が対象会社との間で接触等を行うことを過度に制限するような内容の合意等を行わない
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  • (4) その他
     MBOに際しての公開買付けにおける買付数の下限を高い水準に設定

*1 日本公認会計士協会編、平成22年11月25日日本公認会計士協会出版局発行「企業価値評価ガイドライン(増補版)」p-229以下所収
*2 企業価値研究会「企業価値の向上及び公正な手続き確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」平成19年2月 p-12~20

2.バリュエーション手法の選択・組み合わせ

 次に、価格合意・交渉に際して、どのような算定手法があり、また、どのように選択すべきかが問題となります

(1)一般的な算定手法

 インカムアプローチとしてDCF法、マーケット・アプローチとして市場株価法や類似会社比較法(倍率法、乗数法)、コスト・アプローチともいわれる純資産法が、代表的な手法と言われています。それぞれの手法ごとに長所短所はありますが、とりわけ経営権の移動を伴うM&Aにおいては、DCF法が代表格として一般に認識されています。

 実務においては、上記手法のいずれかのみによって算定することは少なく、上記の各種手法を一通り算定し、その結果を組み合わせることが多く見受けられますが、どのように組み合わせるか、あるいはどの結果を選択すべきか、実務上問題となります。

 基本的には、評価対象会社が株式公開企業である場合、市場株価法を基本とし、市場株価法とDCF法の併用方式、非公開企業の場合、DCF法、あるいはDCF法と類似会社比較法の併用方式が、受け入れられ易いものと感じています。

(2)純資産法採用の是非

 かつて(約10年前)の実務の現場では、純資産法とDCF法を併用する場合も少なくなかったように記憶していますが、最近においてもなお見受けることがあります。

 結論から申し上げれば、このような方法は、継続事業を算定する場合、合理性を欠くことが多いものと考えます。例えば、カネボウ事例(カネボウ営業譲渡決議反対株主の株式買取価格決定申立事件)のケースで、東京地裁は、継続事業の価値を算定する観点からは純資産法を考慮することは相当ではない旨を指摘しています。(*3)

 純資産法はあくまで、ある特定時点における静態的価値を示すもので、ゴーイングコンサーンを前提とする事業の価値を算定する場合、動態的な価値を示すには限界があると言わざるを得ません。あくまでも、一つの参考データとして検討することはあっても、純資産法による算定結果とDCF法による算定結果を加重平均する(あるいは単純平均をとる)ような方法は合理性がないものとして整理されるべきものと考えます。

 但し、不動産業あるいは金融業の場合、現実に資産価値が存在しており、尊重されて良い場合があり得ます。このようなケースとして、コマ・スタジアムの事例(東宝によるコマ・スタジアムに対する公開買付け:平成20年8月TOB成立、同年11月上場廃止を経て同年12月東宝の完全子会社化)が参考となります。

 コマ・スタジアム事例では、対象会社であるコマ・スタジアムが上場会社であったものの、市場株価法ではなく純資産時価法が採用され、市場株価に対して大幅なプレミアムが付され、上場企業の価値算定としては非常に稀なケースです。(*4)当該ケースでは、(1)コマ・スタジアムが「新宿コマ劇場」のみを営業拠点としており、(2)「新宿コマ劇場」の底地を保有していた東宝が当該劇場の建替え等による再開発を企図、(3)当該再開発計画は約4年間に及ぶものであり、その間、上場企業としての事業継続が危ぶまれていた、(4)このような状況のもとで東宝はコマ・スタジアムの完全子会社化を図った、といった事情に着目する必要があります。

*3 日本公認会計士協会編「企業価値評価ガイドライン(増補版)」平成22年11月25日本公認会計士協会出版局発行p-317
*4 前掲書p-319

3.DCF法、市場株価法について

 これらの算定手法には実務上様々な論点がありますが、本コラムでは、DCF法については、(1)市場リスクプレミアム、(2)非流動性ディカウント、(3)ターミナル・バリュー算定における永久成長率、市場株価法については、(1)採用する株価の平均期間、(2)期待権の対価(プレミアム)、について触れてみたいと思います。

  • (1)DCF法について
  •  
  • (1) 株主資本コストにおける市場リスクプレミアム
     割引率をどのような水準とするかは、算定結果に大きな影響を与えます。CAPMに基づき株主資本コストを算定する際に、市場リスクプレミアム(=株式市場収益率の期待値-リスクフリーレート)をどのように捉えるかが、カネボウ事例で争点とされました。

     当該事例では、申立人(株主)側は、市場リスクプレミアムは3%から6%が相当としたのに対し、会社側は1952年から2005年の市場リスクプレミアムである10%を主張しました。この点について、東京地裁は、第2次大戦後の混乱期を除く1955年から2005年の市場リスクプレミアムである8.5%を採用しています。(*5)なお、当該事例で東京地裁が採用した8.5%という数値はあくまで裁判における鑑定として採用されたのであり、個々のM&A取引においても普遍性を持つ数値として捉えることには慎重であるべきと思われます。

     リスクプレミアムは、可能な限り長期の数値によった方が望ましいとは感じるものの、戦後の混乱期を異常値として排除するとしたら、いわゆるリーマンショック以降の混乱期は異常値として捉える必要はないのか等、どのようにリスクプレミアムを捉えるべきかに関する実務慣行は成熟しておらず、個々の案件の特性等も踏まえ、慎重な検討が必要と考えます。
  •  
  • (2) 非流動性ディスカウント
     評価対象会社が非上場会社である場合に行われるディカウントであり、評価結果に対し概ね30%程度のディスカウントを行うことがあります。これは、株式の換価可能性や企業情報の信頼性が低いことや、内部管理体制の弱さ等に起因するものと一般に言われています。

     しかし、非上場会社であることをもって、ただちにディスカウントが必要とは言えない面があります。また、DCF法のもとで採用する株式資本コストの算出において個別リスクプレミアムとして捉えるならまだしも、算定された結果に一律30%のディスカウントを行うことは合理性が低いという考え方もあり得ます。個々の案件特性や対象会社の実情、交渉上の必要等も踏まえ、慎重な検討が必要と思われます。

     なお、カネボウ事例における東京地裁決定では、そもそも株式買取請求制度は少数株主の経済的損失を保護する目的があり、少数株主は進んで株式売却を企図したものではないことに着目して、非流動性ディカウントを考慮すべきではないものとされました。(*6)
  •  
  • (3) ターミナル・バリュー算定における永久成長率
     DCF法において算定される価値の相当部分を占めるターミナル・バリューを算定する際に、一定の成長率(永久成長率)を想定することがあります。

     この点について、インフレ率を使用するケースも見受けられますが、このようなマクロ指標を対象会社に当てはめるのは慎重であるべきと考えます。個々の企業のおかれた実情は、マクロ指標と必ずしもリンクするものではないと考えられるためです。これも、やはり個々の案件特性や対象会社の実情、交渉上の必要等も踏まえ、慎重な検討が必要と思われます。

     なお、カネボウ事例では、株主側(申立人)は、少なくとも名目GNPと同程度の成長は見込める旨、主張したのに対し、東京地裁は、長期インフレ率の見通し自体が客観性に乏しいことや、経済産業省による商業統計調査等に照らして、小売販売額の成長は期待できないこと等から、成長率をゼロと判断しています。(*7)

*5 前掲書p-248
*6 前掲書p-248、283、284
*7 前掲書p-286

  • (2)市場株価法について
  •  
  • (1) 採用する株価の平均期間
     市場株価は、評価対象会社の中長期的な収益力に基づく企業価値を示す客観的指標として有用である一方、短期的には、対象会社によるプレスリリースの内容の他、様々な要因に基づき変動することがあり、また、浮動株が少ない場合や、投機的取引のターゲットとなった等の場合には、本源的な企業価値と株価が乖離することもあり得ます。採用する株価の平均期間をどのように捉えるかにより評価結果は変動することがあり、最近の実務においては、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月といった期間が採用されることが多いようです。

     また、市場株価法のみでは判断が難しい場合、DCF法も併用し、DCF法と市場株価法の評価レンジが重なる範囲で、交渉を経たうえで総合的な経営判断として決定されることも多く見受けられますが、特に、MBOのケースや、業績予想の修正発表が行われている場合には、慎重な検討が必要となります。
  •  
  • (2) 期待権の対価(プレミアム)
     市場株価法による企業価値の算定においては、客観的株価の他にいわゆるプレミアムを加味することが必要となります。
     プレミアムの計測に際しては、最近のTOBプレミアムとして20%から30%程度の数値が採用されることが散見されますが、一般的傾向として、日経平均等市場全体の株価水準とプレミアムの間には負の相関関係があるように思われます。例えば、リーマンショック以降の低調な市場においては、一般に市場株価は企業価値に対してアンダーバリューな状態になっているものと考えられ、こういった期間に行われたTOBプレミアムは比較的高い水準になるようです。
  •  
  • (3) レックス・ホールディングスの事例
     以上2つの論点について示唆に富む事例としてレックスの事例(レックス・ホールディングス全部取得条項付種類株式取得決議反対株主の株式取得価格決定申立事件)(*8)に触れてみます。
  •  
    1.  1) 事例概要
       この事例は、MBO計画の一環としてTOBが行われ、その後実施されたスクイーズアウト(全部取得条項付種類株式の取得決議)に反対した株主が、裁判所に取得価格の決定を求めた事例です。同社の株価は概ね下記の推移を辿りました。

       MBO公表の約1年前(平成17年11月頃)に約40万円弱で推移していた後、平成18年1月頃に直近最高値である約50万円強を付け、その後株価は約30万円程度まで下落しました。業績予想の下方修正発表(平成18年8月21日)以降、更に下落し若干の持ち直しの動きを見せた後、MBO計画の公表時(平成18年11月10日)及び当該時点以降、約20万円強の水準で推移しました。
    2.  
    3.  2) 株価の平均期間
       このような状況の中で、株価の平均期間として、どのような期間を採用すべきかが争点となりました。

       申立人株主側は、業績予想の下方修正発表以前の期間を主張する一方で、会社側はMBO計画公表日前3ヶ月間を主張しました。株主側は、業績予想の下方修正という株価下落要因となる情報を発信することで意図的に株価を引き下げたとの疑念がある旨を主張したわけです。

       最終的には東京高裁において、MBO計画公表日前6ヶ月間(業績予想の下方修正発表前3ヶ月間+発表後3ヶ月間)が相当である旨の判断が下されました。高裁判断の主な理由は、(1)下方修正発表は、特別損失の計上というマイナス面のみを公表したものであることから、当該発表時点以降の株価は必ずしもレックスの企業価値を適正に示すものとは言えない面がある、(2)一方、当該下方修正発表は著しく恣意的で合理性を欠く、あるいは、誤った情報で株価を操作したものとまでは言えない、といった2点とされています。(*9)
    4.  
    5.  3) 期待権の対価(プレミアム)
       次に、期待権の対価(プレミアム)については、株主側はMBOによるシナジー(企業価値の増加)を勘案すべきと主張したのに対し、会社側は、シナジーは発生しないと主張しました。この点、東京高裁は、本来、事業計画や株価算定評価書といった情報も得られないことから、本件MBOに近接した時期における公開買付け事例におけるプレミアム等を参考として、裁判所の裁量に基づき、本件プレミアムを20%と評価しました。(*10)

*8 東京地決 平成19.12.19 判例時報2001号109頁
  東京高決 平成20.9.12 金融商事判例1301号28頁
*9 前掲書p-302
*10 前掲書p-307、308

むすび

  •  以上に触れてきた内容の他にも、例えば下記のような論点が存在します。
  •  
  • (1) 類似会社比較法
     類似会社の合理的な選定、採用する財務指標倍率(EBITDA倍率、EBIT倍率、PER、PBR等)等
  • (2) DCF法
     事業計画の分析、採用すべきリスクフリーレートやβ値、個別リスクプレミアム、スモールビジネス・ディスカウント、マイノリティ・ディスカウント、最適資本構成、運転資本の分析、企業価値から控除すべき負債の範囲とその計算方法、等
  •  

 いずれの論点も、主観が介入する余地や、案件ごとの個性といった問題もあり、普遍的な考え方として成熟していない面もあります。企業価値の検討に際しては、多面的な分析・検討を行うことはもとより、本コラム冒頭にも記載させて頂いた価格合意形成プロセスにも十分に留意しつつ、衆知を集めたうえで、経営判断を行うことが肝要と考えます。

  • 【参考文献】
  • ≫ 日本公認会計士協会経営研究調査会研究報告第41号「事例に見る企業価値評価上の論点-紛争の予防及び解決の見地から-」
  • ≫ 日本公認会計士協会編、平成22年11月25日日本公認会計士協会出版局発行「企業価値評価ガイドライン(増補版)」
  • ≫ 企業価値研究会「企業価値の向上及び公正な手続き確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」

以上

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