コラム

第十四回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の小口光先生に執筆していただきました。
小口先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいてはベトナム進出に際しての留意事項について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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ベトナム進出に際しての留意事項
西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク弁護士 小口光
2011/1/15

 ベトナムブームが再燃している。リーマンショック後、若干の停滞が見られたベトナム進出の動きも、昨年初旬から活気が戻ってきている。内需は堅調に推移し、消費財及びサービスの小売販売総額成長率(名目)は、前年比25%増に達する見通しである。総人口8600万人(40歳以下の人口が8割、2005年の合計特殊主出生率が2.3)のベトナム消費市場への注目が増している。

 しかしながら、日本から眺める「魅力的なベトナム市場」も、実際の進出をされる場合には、法律その他社会制度が異なる国でのビジネス展開であり、進出の過程で遭遇する課題に、1つ1つ解決策を見つけていく必要がある。実際に展開されたいビジネスが、後になって当初は予想もしなかった制約を受けたり、更なる展開をされる際の障害になるような事態が発生しないよう、また万が一の場合の出口戦略も含めて、予め可能な限り道筋を具体化し事前に手段を講じておくことが肝要と思われる。

 以下では、実務運用面の情報も織り込みながら、ベトナムへの進出を検討される際の留意点をまとめてみたい。

I.ストラクチャリング


1. 外資規制等

WTOロードマップ

 2007年のWTO加盟以降、いわゆる市場開放ロードマップに従い、外国投資家の参入を段階的に開放してきた。加盟から4年が経過した現時点では、多くの参入規制(合弁形態であることの要請や外国投資比率の上限規制)が緩和ないし撤廃されている。しかしながら、一定の分野(例えば、物流、証券等)においてはいまだ独資での参入が規制されている。また、外国投資比率の上限規制が撤廃された分野でも、外国投資企業に取り扱いが認められる業務範囲について一定の制限が課せられたり(不動産事業等)、外国投資企業にのみ適用される追加的な規制が存在する分野(2店舗目以上の出店に別途の許可を要する小売業)も存在する。想定される事業内容の確定とそれを元にした規制の確認、よりスムースに展開するための戦略が重要である。

公開会社

 また事業分野によらず、出資を検討される対象会社が公開会社である場合には外国投資の上限が銀行等の例外(30%)を除き49%と設定されており、ストラクチャーが大きく異なりうる。なお公開会社とは証券法上の概念で、株式会社であって、①株主が100名以上(機関投資家を除く)で払込済資本が100億ベトナムドン以上である会社、②新規株式公開を行った会社、又は③ベトナム証券取引所に上場している会社とされる。

2. 会社形態の選択―有限会社と株式会社

 次に問題となるのが、会社形態の選択であるが、新規に独資または合弁形態で会社を設立される場合、有限会社と株式会社という選択肢で検討される場合が多いと思われる。以下、いくつかの切り口から比較する。

(1) 投資家の数とガバナンス構造

 有限会社は、社員(出資者)の数によって、1名有限会社と、2名以上有限会社という異なる会社形態が用意されており、株式会社は3名以上の株主の存在を必要とする。2名以上有限会社では、社員総会(Members Council)が意思決定機関となり取締役会が法定の機関でないのに対し、株式会社では、株主総会と取締役会によって会社を運営することとなる。また有限会社の社員総会も株式会社の株主総会も企業法上の普通決議要件は過半数ではなく65%、特別決議及び書面決議の要件が75%とされている点に注意が必要である。但し、一定のサービス分野では定款でかかる決議要件を緩和すること(普通決議要件を過半数とするなど)も認められる。

(2) 株式/出資持分の種類、譲渡

 株式会社では、議決権優先株や配当優先株なども法定されており、一定の条件のもとでこれらの種類株式を発行することができるが、有限会社は株式をそもそも発行することができず、社員の権利関係については定款の中で可能な範囲で定める必要がある。

 また有限会社は閉鎖的な会社を想定しているため、社員が持分譲渡をする際に他の社員に法律上の先買権が与えられている。株式会社は自由譲渡性の確保が原則であり、定款及び株主間契約による譲渡制限にも工夫が必要である。また、設立時株主は株主総会の承認を経なければ、設立から3年間設立時株主以外の者への株式譲渡ができない等、譲渡に関するロックアップ規定も存在する。

 上記の差異を前提に、出資者数、ガバナンス構造、会社の閉鎖性等を考慮のうえ、いずれかの形態を選択されることとなる。

3. 個別事案における留意事項

国有企業が登場する場合

 ベトナムでは、国有企業との提携や、株式化された国有企業への投資を検討されることも多いと思われるところ、国有企業には特有の規制(国有企業に対する投資規制及び国有企業グループに課せられる行為規制等)が存在するため、これらの規制にも配慮したストラクチャーの組成が必要となる。

SPC等経由での間接投資の場合

 また、ベトナムへの進出をされる日系企業においては、日本の本社から直接ではなく、例えばシンガポールの地域統括拠点を経由した間接投資とすることが検討される場合も多い。しかしながら、直接の投資家である当該統括拠点の事業内容がベトナムに設立する子会社と同じ事業内容でないことや、統括拠点が設置から間もない会社である場合に、ベトナム子会社を運営をするための十分な経験年数がないとして、外国投資ライセンス発給当局がこれを問題視したり、直接の投資家である統括拠点だけの財務状況をもとに、それが不十分であるとの指摘をする場合もある。日本の親会社の情報を補足説明として提出するなど、当局との丁寧なコミュニケーションが要求される。

4. 出口戦略

 新興諸国では、外国投資の撤退に強い制約を加えている場合も少なくないため、予め出口の選択肢を確認しておく必要がある。株式又は出資持分の譲渡には、上記で述べたような社員(有限会社)の先買権、法律上のロックアップ期間(株式会社の設立時株主)などはあるが、それ以外に特段の制限はない。(二名)有限会社の出資持分譲渡の場合、及び設立後3年以内に設立株主が株式を譲渡する場合には、出資者・設立株主の変更について、事業登録証の変更手続が必要となるが、譲渡人が出資の払込みを完了していなかったケース等一定の例外的な場合に、ホーチミン市DPIが変更を認めないという扱いをした事例も存在する。

 上記のような取り扱いは例外的な場合に限定されるようだが、ベトナム法人への直接投資ではなく、先述のシンガポール法人等を経由した間接投資で、当該シンガポール法人に対する投資持分を移転する方が、手続きの安定性はより高いといえる(税務面の考慮は別途必要である)。

 他方、株式又は出資持分の譲渡の方法によらず、会社自体を清算する場合、社員総会又は株主総会の特別決議(企業法上は75%以上の賛成が決議要件)を経て、企業法の規定にしたがって清算を行うこととなる。税務当局の調査に時間を要することが多いと思われる。

II.手続面における留意事項


法令改正・その時々における運用確認の重要性

 1ヶ月前の事例はもはや先例にならない点にも留意が必要である。進出先の地域、工業団地によっても取り扱いは異なり、担当官によっても回答は区々である。法令改正やオフィシャルレターの発出も頻繁であり、類似事例の取り扱いが先例になるとは限らない。

 従って、ストラクチャーを一旦構築した後においても継続的に、弁護士等を通じて情報を入手し、当局担当官に確認をとるなどしながら、実行まで慎重に進めていくことが重要となってくる。場合によっては、法令解釈について監督当局にレターにより照会を行い、回答を書面でもらうことも検討される。

 例えば、2010年11月13日付で、ホーチミン市計画投資局が発行した通知に基づき、2010年11月15日から当面の間、直近の法令改正等を理由に、Joint Stock Company (株式会社) に関する増資手続に関する事業登録書の変更許可の付与を停止された。この「当面の間」がどの程度の期間となるかについては、示されていない。こういった情報のネットワークに十分なアクセスを持ち、必要な対応を編み出すことが求められる(株式会社から有限会社への組織改編なども一案である)。

交渉上の留意点

 また一般に、ベトナム企業は、契約交渉の席でも、頻繁にベトナム法上の規制の存在を理由に外国投資家の提案を拒むことが多いが、実際にはベトナム法上可能であったり又は単に不明確である場合も非常に多い。重要な局面では、弁護士を交渉に同席させたり、提携先のベトナム企業と一緒に当局に適切なタイミングで規制や運用の状況を確認しておくなどの対応が望ましい。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所 パートナー
    弁護士・ニューヨーク弁護士
    小口光

略歴

1996年
東京大学法学部第一類卒業
2003年
ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)
2004年
スタンフォード大学ロースクール卒業(J.S.M.)
2004年-2006年
国際協力機構ラオス法制度整備プロジェクト 法律アドバイザー
2006年
国際協力機構ベトナム技術支援セミナー(競争法) アドバイザー
2006年
外務省国際協力局政策課課長補佐(任期付任用公務員)
2010年-
西村あさひ法律事務所 ホーチミン事務所 首席代表
2010年-
国土交通省 地方・中小建設企業のための海外展開支援アドバイザー

主な著書

(執筆)
「アジア諸国の知的財産制度~山上和則先生古稀記念」青林書院
「アジア・ビジネスを創造する戦略法務 第3回 アジア現地子会社のコンプライアンス上の留意点と実務的対応」 ビジネス法務 2010年9月号
「アジア・ビジネスを創造する戦略法務 第2回 紛争解決・資本参加に関する留意点」ビジネス法務2010年7月号
「アジア・ビジネスを創造する戦略法務 第1回 現地規制に対応した進出計画の策定」ビジネス法務2010年6月号

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