第十三回目の専門家コラムは、司法書士の鈴木龍介先生に執筆していただきました。
鈴木先生のご紹介を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、組織再編と債権者保護手続について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
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1.債権者保護手続の意義
合併、会社分割等の組織再編は、会社財産の変動や債務者の変更を伴い、債権者の利害に影響を及ぼす可能性の高い行為といえます。
そこで、会社法では、このような組織再編を行う場合、債権者に対して組織再編を行う旨を知らせ、異議を述べる機会を与える手続、すなわち“債権者保護手続”を行わなければならないものとしています。
2.組織再編における債権者保護手続の要否
組織再編における債権者保護手続は、債権者にとって組織再編行為により不利益を被る可能性がある場合に必要とされています。
(1)合併
合併については、当事会社双方の債権者にとって債権の引当てとなる会社財産の変動や債務者の変更を伴うため、双方のすべての債権者に対して債権者保護手続を行わなければなりません。
(2)会社分割
吸収分割については、吸収分割承継会社は吸収分割により分割会社の事業を承継し、会社財産に変動を生じる可能性があるため、そのすべての債権者に対して債権者保護手続を行わなければなりません。
会社分割により分割会社の債務が移転する場合、原則として移転する債務にかかる債権者に対して債権者保護手続を行わなければなりません。
一方、吸収分割あるいは新設分割において、分割会社から債務が移転しない場合や、債務が移転しても分割会社が併存的債務引受を行い、会社分割後も分割会社に債務の履行を請求することができる場合には、分割会社の債権者に不利益は生じないため分割会社が債権者保護手続を行う必要はありません。
ただし、いわゆる分割型会社分割を行う場合には、財産流出が生じるため債権者保護手続を行わなければなりません。
(3)株式交換・株式移転
株式交換または株式移転については、完全子会社となる会社にとって株主が完全親会社となる会社になるにすぎず、会社財産に変動をもたらしません。また、株式交換により完全親会社となる会社も、完全子会社の株式受入れの対価として株式のみを交付するような場合には、財産流出は生じませんし、債務の移転もありません。したがって、株式交換や株式移転の場合、原則として債権者保護手続の対象となる債権者は存在しないことになります。
ただし、株式交換契約や株式移転計画において完全子会社となる会社の新株予約権付社債を完全親会社となる会社が承継するという定めがあるような場合には、会社財産の変動や債務者の変更をもたらすため、完全子会社は新株予約権付社債権者、完全親会社はすべての債権者に対して債権者保護手続を行わなければなりません。
また、株式交換において、完全子会社の株主に対して完全親会社の株式以外の財産を交付する場合には、財産流出が生じる可能性もあるため、原則として完全親会社はその債権者に対して債権者保護手続を行わなければなりません。
(4)その他
事業譲渡・譲受や株式譲渡・譲受についても、広い意味においては組織再編ということになりますが、それらの場合には少なくとも法律上の制度的な債権者保護手続を行うことは求められていません。
3.債権者保護手続の内容
(1)方法
組織再編の当事会社は、債権者に対して、①組織再編をする旨、②相手方等となる会社の商号・住所、③当事会社の計算書類に関する事項、④異議があれば一定の期間(1か月以上)内に異議を述べることができる旨を官報に公告し、かつ知れている債権者に対して個別に催告を行う必要があります。ちなみに「知れている債権者」とは、当事会社において債権者が特定され、債権発生原因がおおむね会社に判明している債権者をいいます。なお、当事会社が設立して間もないなど「知れている債権者」がいない場合であっても、官報公告は省略できません。
定款所定の公告方法が日刊新聞紙に掲載する方法あるいは電子公告である会社が当事会社の場合、官報に加えて定款所定の公告方法による公告、いわゆる“ダブル公告”を行うことにより、債権者への個別催告を省略することができます。
ちなみに、当事会社が同時に債権者保護手続を行う場合、各社が行うべき公告を連名による1つの公告で行うことができます。
(2)スケジュール
組織再編に会社法上必要とされる手続には、債権者保護手続、株主総会決議、株式買取請求、新株予約権買取請求などがありますが、組織再編の効力発生日までにそのすべての手続が終了していればよく、各手続の時間的先後は問題とされません。したがって、たとえば株主総会による合併契約の承認決議前に、債権者保護手続を行うこともできます。
債権者保護手続は、債権者異議申述期間の関係から、効力発生日の遅くとも1か月以上前に開始する必要があります。
【記載例 債権者異議申述公告(合併)】
4.債権者保護手続の効果等
(1)債権者保護手続の不備
吸収合併・吸収分割・株式交換において、何らかの不備により債権者保護手続が効力発生日前に終了していない場合には、当該組織再編の効力は生じません。このような場合、効力発生日後にその変更は認められないことから、組織再編手続を一からやり直すことになります。
新設合併・新設分割・株式移転において、その効力発生要件である登記は、債権者保護手続が終了した日以降でなければすることができません。そのため、債権者保護手続が当初予定した登記申請日までに終了していない場合には、組織再編の効力発生が遅れることになります。
(2)個別催告の欠如
個別催告の対象となる債権者のうち個別催告を受けなかった債権者は、組織再編無効の訴えを提起することができます。
また、会社分割手続の分割会社の知れている債権者に個別催告がなされなかったような場合、当該債権者は、会社分割後承継会社または新設会社の債権者となるときには分割会社に対して、分割会社の債権者となるときには承継会社または新設会社に対しても、一定の限度で債務の履行を請求することができます。
(3)異議を申述した債権者への対応
債権者保護手続の申述期間内に異議を述べなかった債権者は、組織再編を承認したものとみなされます。
債権者が申述期間内に異議を述べた場合、会社は、①弁済、②相当の担保提供、③弁済目的の相当財産の信託をしなければなりません。
ただし、組織再編によって債権者を害するおそれのない場合には、弁済等をする必要はありません。「債権者を害するおそれのない場合」とは、会社の資産・経営の状況や規模に照らして、債権額が少額である場合や既に十分な担保があるような場合などをいいます。
(4)登記
組織再編の登記を申請する際、申請人である当事会社は、債権者異議申述の公告・催告をしたことを証する書面として、官報の紙面等を添付します。あわせて、異議を述べた債権者がいる場合には、その対応をした旨あるいは債権者を害するおそれのない旨を証する書面を添付します。