コラム

第十二回目の専門家コラムは、株式会社MIDストラクチャーズのパートナーである岸本政昭先生に執筆していただきました。岸本先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、平成22年度税制改正が株式持合解消手法に与える影響について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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平成22年度税制改正が株式持合解消手法に与える影響
株式会社MIDストラクチャーズ パートナー 公認会計士 岸本 政昭
2010/11/15

1.はじめに

 組織再編の結果として、子会社が親会社株式を保有することがあるが、本稿では、親子会社間の株式持合解消手法を例に、一部ではあるが、平成22年度税制改正の内容を解説することにしたい。なお、以下においては、親子会社ともに内国法人であり、100%子会社(完全子会社)がその親会社(完全親会社)の株式を保有していることを前提とする。

2.平成22年度税制改正前の手法及び課税関係

 会社法上、子会社による親会社株式の取得は、原則として禁止されているが(会社法135①)、合併や株式交換等の組織再編によって、親会社株式の承継や割当てを受ける場合には、例外的に、子会社による親会社株式の取得が認められている(会社法135②、会社法施行規則23)。ただし、その場合でも、親会社株式を取得した子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない(会社法135③)。

 親子間の株式持合の解消手法としては、①完全子会社が完全親会社に対して完全親会社株式を譲渡する方法(完全親会社による自己株式の取得)(注1)や、②完全子会社が完全親会社に対して完全親会社株式を現物配当する方法が考えられるが、改正前においては、いずれの方法によった場合でも、完全子会社において、完全親会社株式の譲渡に係る譲渡損益に対して課税されるという問題があった(注2)。特に、株式交換や株式移転においては、完全子会社となる会社が保有する自己株式に対して完全親会社株式が割り当てられるが、その完全親会社株式の税務上の取得価額はゼロと考えられるため、完全親会社株式の処分時において多額の譲渡益が生じるという問題があった(注3)。

 そこで、組織再編税制を利用して、③完全子会社が完全親会社に対して完全親会社株式を無対価の適格分割型分割により承継させる方法により、株式持合解消時の課税を回避することが考えられていた。しかし、この方法については、債権者保護手続などの法的手続に時間と費用を要することに加えて、完全子会社が完全親会社株式のみを対象資産として、会社分割することの可否につき、会社法上の疑義があった(注4)。分割無効の訴え(会社法828九)により、会社分割の効力が否定されたときは、法人税法上の「分割」(法人税法2十二の九、十二の十)が、会社法の借用概念であるとすれば、その場合には、法人税法上も分割とは認められず、単なる完全親会社株式の譲渡として、譲渡損益が生じるとも考えられる(注5)。

  • (注1)親会社が子会社から自己株式を取得する場合は、親会社が取締役会設置会社であれば、親会社における株主総会決議は不要であり、取締役会決議のみでよい(会社法163)。
  • (注2)現物配当の場合であっても、完全子会社においては、無償による資産の譲渡に該当し、その資産の譲渡益又は譲渡損の額は、益金の額又は損金の額に算入される(法人税法22②)。また、完全親会社においては、受取配当等の益金不算入の規定の適用があるものの、負債利子控除の適用があったため(旧法人税法23)、二重課税を完全には排除できなかった。
  • (注3)このような税務リスクを回避するためには、株式交換又は株式移転の効力発生前に、取締役会(取締役会設置会社の場合)において、反対株主の株式買取請求権の行使により取得する自己株式を含め、株式交換又は株式移転の効力発生直前に完全子会社となる会社が保有する自己株式を消却する旨の決議(会社法178)をしておくことが望ましいと考えられていた(小松岳志「組織再編契約に関する実務の動向と諸問題」旬刊商事法務1893号(2010)18頁)。
  • (注4)会社法上、会社分割の対象は、「その事業に関して有する権利義務の全部または一部」とされているが(会社法2二十九)、完全子会社が完全親会社株式を利用して何らかの事業を行っているわけではないため、この完全親会社株式が「事業に関して有する権利義務」と言えるかにつき、若干の疑義がありうる(大石篤史・小島義博・小山浩「税務・法務を統合したM&A戦略」中央経済社(2009)273頁)。
  • (注5)分割無効の訴えの提訴期間は、会社分割の効力発生日から6ヶ月間であるので、この間、税務リスクを抱えることとなる。

3.平成22年度税制改正の影響

 株式持合の解消手法としては、上記の3つの方法(譲渡・現物配当・分割型分割)が考えられるが、平成22年度税制改正が、これらの方法に与える影響は、次のとおりである。

 結論としては、譲渡や現物配当による場合でも、原則として、課税関係を生じさせることなく、株式持合を解消することができるようになった。

(1)完全親会社株式を譲渡する方法(完全親会社による自己株式取得)

 平成22年度税制改正により、完全子会社が完全親会社に対して完全親会社株式を譲渡する場合には、完全子会社において、完全親会社株式に係る譲渡損益は計上されず(譲渡損益は切り捨て)、譲渡損益相当額は、資本金等の額にチャージされる(法人税法61の2⑯、法人税法施行令8①十九)。また、完全子会社で生ずるみなし配当については、負債利子控除が適用されず、その全額が益金不算入となる(法人税法24、23)。なお、みなし配当に係る源泉徴収は、改正前と同様に必要である(所得税法212③)。

 他方、完全親会社においては、自己株式の取得は資本等取引に該当することから、改正前と同様、原則として課税関係は生じない(注6)。

 したがって、完全親会社株式を譲渡する方法(完全親会社の自己株式取得)により、完全子会社及び完全親会社の双方において、課税関係を生じさせることなく、株式持合を解消できるようになったと考えられる(注7)。

(2)完全親会社株式を現物配当する方法

 平成22年度税制改正において、100%グループ間で行われる現物配当等が「適格現物分配」と定義され(法人税法2十二の十五)、完全子会社が完全親会社に対して行う完全親会社株式の現物配当は、この適格現物分配に該当する(注8)。

 適格現物分配に該当する場合、完全子会社においては、完全親会社株式を帳簿価額で譲渡したものとして、適格現物分配時点において譲渡損益が発生せず、当該帳簿価額だけ利益積立金が減少する(法人税法62の5③、法人税法施行令9①八)。

 また、完全親会社がその自己株式を処分したとしても、法人税法第61条の13 第1項により繰り延べられる譲渡損益がゼロであるため、適格現物分配後においても、完全子会社で課税関係が生じることはない(法人税法施行令122の14②)。

 なお、適格現物分配に係る剰余金の配当等については、所得税法上、配当等から除かれ、完全子会社において、源泉徴収も不要である(所得税法24①)。

 他方、完全親会社においては、その移転を受けたことにより生ずる収益の額は、益金の額に算入されないため、課税されることはない(法人税法62の5④)。分配を受けた自己株式の取得価額は、完全子会社における帳簿価額となるため、同額だけ、完全親会社の資本金等の額が減少する(法人税法施行令123の6①、8①十八ロ)(注9)。

 したがって、完全親会社株式を現物配当する方法により、完全子会社及び完全親会社の双方に課税関係を生じさせることなく、株式持合を解消できるようになったと考えられる(注10、11)。

(3)完全親会社株式を無対価適格分割型分割により承継させる方法

 平成22年度改正前の法人税法では、無対価分割を想定していないような規定振りとなっていたが(注12)、平成22年度税制改正において、上記のように、完全子会社が完全親会社へ完全親会社株式を無対価分割型分割により承継する場合には、適格分割に該当することが明確化された(法人税法2十二の十一、法人税法施行令4の3⑥一)。もっとも、前述のとおり、会社法上の疑義に起因した税務リスクが存在することに変わりはない。

  • (注6)完全親会社が無償で自己株式を取得する場合においても、税務上、自己株式は資産に該当せず、また、自己株式の取得は資本等取引に該当することから、完全親会社が受贈益課税を受けることはないと考えられる。ただし、自己株式の無償取得については、自己株式であっても「株式」としての価値が失われたわけではないという論拠から、(第一段階として)自己株式の取得時点では株式という資産を無償で取得したのであるから受贈益を計上し、(第二段階として)その後直ちに資産として計上された自己株式を資本金等の額に振替える取引であるとする見解もある。
  • (注7)完全子会社が、その株主たる完全親会社に対して、完全親会社株式を無償で譲渡する場合には、当該取引が、法人税法第22条第5項に規定する「利益又は剰余金の分配」及び所得税法第24条第1項に規定する「剰余金の配当」に該当するとも考えられる(法人税基本通達1-5-4、所得税基本通達24-1)。
  • (注8)国税庁が8月10日に公表した「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制)」(H22・8・10法人課税課情報4・審理室情報1・調査課情報2)問15においても、完全子会社が完全親会社株式を完全親会社へ現物配当する場合は、適格現物分配に該当することが明らかにされている。
  • (注9)株式交換や株式移転により、完全子会社となる会社が保有する自己株式に対して割り当てられた完全親会社株式の税務上の取得価額はゼロと考えられるため、この場合は、完全親会社で減少する資本金等の額もゼロとなる。
  • (注10)適格現物分配により、完全子会社において課税を受けることなく、株式持合を解消できることとなったため、今後は、株式交換及び株式移転の効力発生前に、完全子会社となる会社の保有する自己株式を消却しておく必要性は低くなったと思われる。
  • (注11)適格現物分配を利用した再編ストラクチャーとしては、孫会社の子会社化が考えられる。100%グループ内において、子会社が孫会社株式を親会社へ現物配当する場合は、適格現物分配に該当するため、子会社及び親会社の双方に課税関係を生じさせることなく、孫会社を子会社化できるようになった。
  • (注12)ただし、国税庁が公表した質疑応答事例において、無対価分割型分割であっても、一定の100%支配関係がある場合には、適格分割に該当する旨の回答がされていた。

4.留意点

(1)完全親会社の欠損金の使用制限等

 適格現物分配が行われた場合には、完全親会社において、欠損金の使用及び特定資産譲渡等損失の損金算入が制限される場合があるので、留意が必要である。具体的には、親子間の50%超支配関係が生じた事業年度(支配関係事業年度)から5年以内に適格現物分配を行った場合には、原則として、完全親会社の欠損金額のうち支配関係事業年度前に生じた欠損金額及び支配関係事業年度以後に生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失額に相当する金額が切り捨てられる(法人税法57④)。

 ただし、平成22年度税制改正において、この切り捨てられる欠損金額を、移転資産の含み益の範囲内とすることができる特例が設けられており(法人税法施行令113⑤)、完全親会社へ完全親会社株式(自己株式)を現物配当する場合には、この特例の適用を受けることによって、完全親会社の欠損金が切り捨てられることはないと考えられる。すなわち、税務上、自己株式は資産として取り扱われないことから、移転資産である完全親会社株式(自己株式)には含み益がないと考えられるため、切り捨てられる欠損金額もないと考えられる(注13)。

 なお、この特例は、確定申告書に明細書の添付等がある場合に限って、適用できることとされているので、留意が必要である(法人税法施行令113⑥)。

(2)会社法上の財源規制

 分割型分割の場合には、会社法上の分配可能額の財源規制はないが、完全親会社が自己株式を有償取得する場合には、完全親会社において、分配可能額の財源規制があり、現物配当を行う場合には、完全子会社において、分配可能額の財源規制があることに留意する必要がある(会社法461、792)。すなわち、会社法上の分配可能額が、株式持合解消手法の選択に影響する場合がある。

(3)完全親会社の会計処理

 完全親会社の会計処理において、現物配当では子会社株式交換損益が、分割型分割では抱合株式消滅差損益が計上される場合がある(事業分離等に関する会計基準52、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針297、203-2)。これらの損益により完全親会社の当期利益が増減するので、留意する必要がある。

 また、分割型分割により抱合株式消滅差損が生じる場合には、簡易分割によることができず、完全親会社において株主総会決議が必要となる点にも、留意が必要である(会社法795②、796但書、会社法施行規則195)。

  • (注13)国税庁が8月10日に公表した「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制)」(H22・8・10法人課税課情報4・審理室情報1・調査課情報2)問16において、移転資産が被現物分配法人の自己株式であるときは、含み益の計算には影響させないものとして、この特例を適用する旨の回答がされている。

5.終わりに

 本稿では、株式持合解消手法を例に、平成22年度税制改正の内容を一部解説したが、平成22年度税制改正では、本稿に挙げた改正点以外にも、M&A・グループ内再編ストラクチャーに影響を与える数多くの改正が行われている。税務コスト及び税務リスクを合法的に最小化し、M&A・グループ内再編の検討段階で期待したシナジーや経営効率化を実現させるためには、今後さらに税務ストラクチャーの慎重な検討が必要になってくるものと思われる。

執筆者紹介

  • 株式会社MIDストラクチャーズ パートナー
    公認会計士
    岸本政昭

略歴

1994年
上智大学法学部法律学科卒業
1997年
公認会計士登録

主な著書

「新しいグループ企業の税制と実務対応」新日本法規出版(共著)
「Q&A 株主資本の実務」新日本法規出版(共著)
「会社法対応 企業組織再編の実務-法務・会計・税務-」新日本法規出版(共著)
「会社法関係法務省令 逐条実務詳解」清文社(共著)

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