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グループ再編ストラクチャーと租税回避行為
株式会社アミダスパートナーズ
2010/11/4

はじめに

   最近、グループ再編に関するご相談を頂くことが増えています。グループ外部の企業を相手とするM&Aを実行した後に機能を整理する、あるいは、近い将来に攻めに打って出るための布石として、グループ経営基盤をより強化するといった目的が多いようです。

 平成22年度税制改正の適用開始に伴い、再編ストラクチャーの検討に際し税務面の詳細検討にも従前とは異なる注意が必要でしょう。また、近時、グループ再編ないしM&Aのストラクチャーを巡る、課税当局による更正処分事案が増加傾向にあると共に、追徴金額も多額なものとなりつつあり、税務リスクへの配慮もこれまで以上に求められているように感じています。

 本コラムでは、グループ再編ストラクチャー検討における税務リスクと、再編ストラクチャー検討上の留意点について、申し述べたいと思います。

1.ストラクチャー検討段階において留意すべき税務リスクとは何か

 関連する個々の法令・通達の当てはめや解釈に誤りがあるといったケースを除けば、ストラクチャー検討段階において留意すべき税務リスクは、再編実行後の税務調査において「租税回避行為」と看做されるリスクと考えられます。では、「租税回避行為」とはどのような行為か、ということになりますが、概ね下記のように整理されます。(*1)

  • ~租税回避行為~
  • (1) ストラクチャー全体を通じて、当該ストラクチャーにより再編を行うことに関し、事業上ないしグループ経営上の合理性がない。
  • (2) 通常用いられない法形式を選択(不自然な手法の採用)
  • (3) 通常であれば用いるであろう法形式(再編手法)に基づいた場合であれば負担していたであろう税額を「不当」に免れている。

 「租税回避行為」ということになれば、行為・計算が否認され、税の追徴を受ける結果ともなり得ますが、「租税回避行為」か否かは、詰まるところ「社会通念」に基づき判断されることになるものと考えられます。

*1 参考文献:金子宏著「租税法[第14版]」平成21年4月15日株式会社弘文堂発行p-110~112

2.平成22年度税制改正における租税回避行為防止措置

 次に、平成22年度税制改正に盛り込まれている租税回避行為に対する防止策について整理してみたいと思います。平成22年度税制改正(法人税法関連)は、(1)グループ法人単体課税制度の導入、(2)資本関係取引等に関する見直し、(3)連結納税制度の見直し、といった内容となっています。これらのうち、(1)及び(2)は、租税回避防止策として捉えると理解し易いものと考えています。

(1)グループ法人単体課税制度

 これは、グループ法人の経済的一体性が進展している現状を踏まえ、グループ経営の実態に即した課税を行おうとするものですが、連結納税制度が任意適用、つまり選択可能な税制である一方で、この税制は強制適用となっている点に留意が必要です。

 何故、強制適用なのかが問題となりますが、いわゆるグループ法人間においては、グループ外第三者との取引に比べ、取引条件やスキームないしストラクチャーの決定に恣意性が入りやすい面があることから、グループ法人間の取引に伴い生じる損益(例えば、資産の譲渡損益)は、課税上ないものと捉える考え方です。いわば、行為計算の否認規定を具体化したものということができるものと考えられます。一方、連結納税制度は簡単にいえば欠損を使う(益金と相殺する)ための優遇措置であるため、任意選択性とされているわけです。

  • (2)資本関係取引等に関する見直し
  •  
  • 【1】 自己株式として取得されることを予定して取得した株式
     これは、みなし配当及び配当の益金不算入制度を活用した損出し取引に対する規制ということができるものと考えられます。

     ここでいう「損出し取引」とは、例えば、上場企業同士の合併に関するプレスリリースの後株式を一旦取得し、反対株主の株式買取請求制度を活用して、当該株式を買い取らせることを通じて、みなし配当の益金不算入と株式譲渡損を実現することで、税負担を減少させるような取引のことです。

     このような取引は、自己株式として取得されることを予定して、株式を取得し節税メリットを享受しているものであることから、このような場合には、みなし配当相当額は益金に算入する(みなし配当は存在しないものとする)こととされました。

  • 【2】 完全親子会社間の自己株式取得
     これも、上記【1】と同様の趣旨です。親会社がその保有する完全子会社株式を、当該株式の発行体である完全子会社に自己株式として取得させることで、上記【1】と同様、みなし配当と株式譲渡損を税務上実現し、税負担を減少させる結果をもたらす取引において、みなし配当を益金に算入することで、そのような税負担の減少を生じさせないというものです。

  • 【3】 非適格合併における抱合株式の譲渡損益に関する見直し
     スクィーズアウトの手法として、現金を対価とする合併が行われるケースがありました。そのような場合において、存続会社である親会社が保有する子会社株式に合併新株は割り当てられることはありませんが、税法上は割り当てられたものとみなすことから、みなし配当の益金が発生すると共に、譲渡損失も生じ得たのですが、今回の税制改正に伴い、抱合株式に関する譲渡損益(損のみならず益も)は切り捨てられることとなりました。

3.再編ストラクチャー検討上の留意点

 前記の租税回避行為とみなされないために、課税当局に対して事前照会を行うこともありますが、これを行った場合でも、必ずしも税務リスクをゼロにできない面があります。

 では、どのようにして税務リスクを減少させるのかが問題となりますが、個々の税務規定に抵触しないように慎重に検討することは勿論ですが、究極的には、再編を行うことに関する、事業上の合理性(以下、「経済合理性」といいます。)の検討を十分に行うことに尽きるものと考えています。検討ステップとしては、【1】経済合理性の検討(再編の意義・必要性の検討と目的の明確化)、【2】経済合理性を実現するための法形式の検討、【3】これら【1】及び【2】を前提として税務上取り得る選択肢の検討、といった手順を踏むと共に、全体として果たして「社会通念」に合致したストラクチャーなのか、アドバイザーや税理士等に相談する等衆知を集めたうえで慎重に検討を行い、説明資料を作成し保存しておくことが肝要です。

 上記の考え方は至極当然のことではありますが、仮に検討の出発点を経済合理性においていたとしても、できることなら節税メリットを取ろうとすることは少なくないように思われます。この点グループ内再編の場合、全く外部の企業を相手とする再編に比べて、ストラクチャー選択の自由度が相対的に高い傾向にあること等に起因して、結果的に、「節税」の範囲を超えて「租税回避」にとみなされてしまうこともあるかもしれません。

 あたり前のことをあたり前のように貫徹することの他に、税務リスクをミニマイズする方法はないものと認識することが肝要かと考えています。

4.注目される近時の更正事案(*2)

 最後に、租税回避行為か否かを巡る、近時の更正事例をご紹介したいと思います。専門家の見方も真っ二つに分かれているようです。新聞報道等の外部公表情報による他事案の内容を知る術のない筆者にとっては事実関係が判然としませんが、いずれにせよ「行為計算否認」ではなく「権利の濫用」に基づき課税処分を行っている点で、大変興味深い事案と感じています。今後の帰趨に注目したいと思います。

  • (1)事案の概要
  • 【1】 日本IBM(以下、「IBM-J社」)の親会社であるIBM・APホールディングス(日本国内法人で、以下、「APHD社」)は、2002年、米国IBMから資金提供を受け、米国IBMが保有するIBM-J社株式(非上場)の全てを取得。
  • 【2】 APHD社はその後取得株式の一部をIBM-Jに複数回に亘り譲渡。これに伴い、APHD社は多額の譲渡損失を計上。2008年12月期までの5年間累計で4,000億円超の赤字を計上。
  • 【3】 APHD社・IBM-J社等のグループ法人は、2008年から連結納税制度を採用し、IBM-J社の黒字とAPHD社の赤字を相殺し、納税額がゼロになった模様。
  • 【4】 東京国税局は、連結納税制度に基づき赤字と相殺された2008年12月期のIBM-J社の法人所得1,000億円超に対し、300億円超を追徴課税した模様。

  • (2)課税当局の見解(概要)
  • 【1】 APHD社は実態に乏しく、同社が行った一連の株式取得・譲渡取引は、通常の経済取引としての合理性がない。
  • 【2】 連結納税制度と組み合わせて納税負担の軽減を図ったもので、全体として法を濫用した。

  • (3) IBM-J社の見解(概要)
  • 【1】 全ての手続きで日本の関連法規を遵守して適切に納税してきている。
  • 【2】 APHD社はアジア地域全体の統括機能を持つ持株会社。
  • 【3】 更正通知に対して審査請求を申し立てる意向。

  • (4)専門家の見方(初期的な見解)
  • 権利の濫用か、それとも合法的な節税か、専門家の見解は二分されているようです。
  • 【1】 国税当局見解を肯定的に捉える立場
    「法律で課税を減免する措置については厳格に解釈し、乱用的なものは適用から外すと指摘したのだろう。一般論として、国税当局がそういった解釈手法を利用することは理解できる。」(*3)
  • 【2】 否定的に捉える見解
    「連結納税とは黒字が赤字で相殺されるものであり、片方で制度の適用を認めておいて、乱用だと否定する処分には違和感を覚える。そういう種類の赤字が使えないというのなら、最初から法令に明記しておくべき。まして来年度の税制改正で封じられることになっており、逆にこれまではよかったということになる。ただ、国税当局にも言い分があり、裁判で決着がつけられることになるだろう。」(*4)

*2 日本経済新聞2010年3月18日夕刊21面「日本IBMグループ、4000億円申告漏れ、国税指摘、過去最大、連結納税巡り。」、朝日新聞2010年3月18日朝刊1面「IBMグループ、4000億円の申告漏れ、過去最大規模、連結納税使う」、朝日新聞同日夕刊38ページ「法の乱用か 専門家、見解二分 IBMグループ申告漏れ、裁判必至」、T&A master 2010.3.29 No.348 p-9「みなし配当を活用した節税スキームでついに否認事例 「権利濫用の法理」に基づき巨額課税処分」
*3 朝日新聞2010年3月18日夕刊38ページ「法の乱用か節税か 専門家、見解二分 IBMグループ申告漏れ、裁判必至」
*4 同上

  • 【参考文献】
  • ≫ 金子宏著「租税法[第14版]」平成21年4月15日株式会社弘文堂発行
  • ≫ T&A master 2010.6.28 No.360 巻頭特集「対談 成蹊大学名誉教授武田昌輔 公認会計士税理士緑川正博 平成22年10月1日施行 グループ法人単体課税制度の考え方を探る」
  • ≫ 商事法務No.1901 2010.6.15 大石篤史弁護士・小島義博弁護士・小山浩弁護士 稿「平成二二年度税制改正がM&Aの実務に与える影響[上]」
  • ≫ 緑川正博・阿部泰久編集 株式会社MIDストラクチャーズ著「新しいグループ企業の税制と実務対応-グループ法人税制(グループ法人単体課税・連結課税)と組織再編税制-」平成22年7月15日 新日本法規出版株式会社発行

以上

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