コラム

第十回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の中山龍太郎先生に執筆していただきました。中山先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、近年の事例を踏まえた独禁法リスクへの対応について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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多角化する独禁法リスクへの対応
西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 中山龍太郎
2010/9/15

企業の屋台骨を揺るがすカルテル・リスク

 先日、既に立入調査を行っている日本の公正取引委員会をはじめとして複数の競争当局がワイヤーハーネス(自動車に用いられる配線部材)をめぐるカルテルについて日本の自動車部品メーカーに対する調査を行っていることが新聞等で報道された。報道によれば、当該業界の市場規模は国内だけでも年間4000億円にも上るといわれており、仮に違反事実が認められれば、国内分だけでも売上高に対して少なくとも10%の課徴金が課されることとなり、国外での課徴金額を含めれば膨大な額に上ることになる。

 その他にも、今年に入ってから光ファイバケーブル製品の製造業者に対して計160億円の課徴金納付命令が出されている他、昨年も塩化ビニル管等の製造販売業者らに対して計約117億円、テレビ用ブラウン管の製造販売業者らに対して計約33億円の課徴金納付命令が出されている。

 このようなカルテルに対する執行強化は、国内だけのトレンドではない。取引のグローバル化が進む現代においては冒頭のワイヤーハーネスのように日本国内での協調行為が、海外の競争当局のターゲットとなることも珍しくない。記憶に新しいところでは、2008年に液晶ディスプレイパネルの国際的カルテルで、シャープ(日本)は米国司法省に対して1億2000万ドルの罰金を支払った。

 このような大規模なカルテルの摘発が盛んになっている背景には、いわゆる「リニエンシー制度」(課徴金減免制度)の導入がある。リニエンシー制度とは、平成17年独禁法改正で導入された制度であるが、簡単にいえばカルテルの参加者が自発的にカルテルの存在を公正取引委員会に報告し、その調査に協力すれば、一定限度で課徴金の減免を受けられるというものである。減免の程度は報告の順番によって異なるが、最初の申請者は課徴金の全額、2番目の申請者はその50%、3番目の申請者はその30%をそれぞれ免除される。課徴金の額は、通常違反行為があった期間の売上高の10%にも上るので、かかる減免の経済的効果は大きい。加えて、最初の申請者については、その役員・従業員も含めて刑事告発を行わない方針とされている。巨額の課徴金が課されるカルテルにおいては、当該カルテルに関与した役員・従業員の刑事訴追リスクも軽視できない。それもあって、リニエンシー制度の活用は急速に広まってきており、それを端緒としたカルテル事犯の摘発も盛んになっているという状況にある。

 カルテルのリスクは、巨額の課徴金や刑事訴追だけに留まらない。立入調査による社会的なダメージ、海外当局による調査に発展した場合の対応、違反事実が認定された後の取引先や消費者からの損害賠償請求、株主からの株主代表訴訟提起など、さまざまなリスクへと飛び火し、企業経営の屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。

 もちろん、これをお読みになっている企業の多くは、平時から独禁法に関するコンプライアンスを徹底していることとは思われるが、上記のようなカルテル・リスクの高まりをご認識の上、問題行為を未然に防ぐことと、あるいは、過去に問題行為があった場合には速やかにリニエンシー申請などの適切な対応が必要となることを改めて銘記されるべきものと思われる。

ビジネス・モデルに対する独禁法の挑戦

 カルテルに加えて、独禁で話題になったのが、昨年の社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)による包括的な放送等使用料算定方式に対する排除措置命令と、株式会社セブンイレブン・ジャパンによるフランチャイジーへの「見切り販売」禁止指導に対する排除措置命令である。

 それぞれの事案の詳細には立ち入らないが、いずれも事業者が、経済合理性に基づいて打ち立てた事業の根幹的な部分を否定する内容を含むものであり、これに従うとすれば、当事者は多かれ少なかれビジネス・モデルの変更を余儀なくされることとなる。

 もちろん、そのビジネス・モデル自体が真に競争阻害的なものであれば、公正取引委員会は敢然と立ち向かうべきであろうが、実際には、そのようなビジネス・モデルは関係当事者間での経済合理性に基づいて発展してきたものであり、競争阻害効果があるといえるかどうかは微妙な場合も多い。また、少なくとも、そのような取引を禁止することで、一定の非効率性が生じることが明らかな場合もある。

 にもかかわらず、公正取引委員会が伝統的な(弱小)競争者保護の理論に拘泥して、経済合理的なビジネス・モデルを否定しようとすることは珍しいこととは言えない。

 特に、今年1月から施行された改正独禁法の下では、課徴金が課される違反行為の類型を拡大され、排除型私的独占や一定類型の不公正な取引方法についても課徴金を課すことができるようになった。これらによって、公正取引委員会は、フランチャイザーやフランチャイジー、あるいは、川上・川下業者間など直接競争関係にない垂直的な取引関係についても課徴金を課すことができることとなった。従来は、公正取引委員会から具体的な指摘や調査依頼があってから対応を検討することも可能であったが、課徴金が導入されたことで、このような受身の対応は課徴金を増大させるリスクをはらむものとなっている。

 また、公正取引委員会が具体的なアクションを起こす段階では、既に公正取引委員会としてビジネス・モデルに問題があるという心証を持ってしまっている可能性があり、これを覆すためには、初期の段階で公正取引委員会側の主張に対して効果的な反論を行わなければならない。

 こうした反論にあたっては、自社のビジネス・モデルの全体像を適切に説明し、それが反競争的な効果を生み出すものではなく、むしろ当事者にとって経済合理的なものであることを示すことがポイントとなる。公正取引委員会でも、近時、経済理論や統計データを重視する傾向が次第に強まりつつあり、場合によっては、経済学や統計学を用いた反論も有効であろう。

厳格化・長期化する企業結合審査

 合併や事業譲受けにあたって事前に公正取引委員会への届出が必要なことはよく知られているが、本年1月から施行されている改正法の下では、株式の譲受けについても事前届出が必要となっている。これは、近時の公開買付けのスケジュールにも影響があり、事業会社が他の事業会社に対して公開買付けを行う場合には最短の20営業日で完了することは難しくなりつつある。

 このような手続的側面もさることながら、実体的な面においても公正取引委員会の企業結合審査は厳格化・長期化している。

 公正取引委員会は、1年に1度、主要な企業結合事例について公正取引委員会の考え方を公表しているが、重複事業の売却など実質的に事業に影響のある問題解消措置が求められる事例が増えつつあることに加え、結果として公正取引委員会からのクリアランスがとれる見込みが低いとして当事者が企業結合を断念する事例も珍しくなくなりつつある。

 グローバルでの競争にさらされている多くの日本企業にとって、国内でのシェアを高めたとしても競争上の問題が生じるものではない、というのが実感ではないかと思われるが、独禁法の審査においては、実際に価格が世界的な市場動向によって決まる一部の製品を除いて、世界市場が認められることは極めて稀である。

 また、現下の厳しい経済状況の下で行われる統合は、スタンドアローンでは将来展望を描くことが難しい中での、いわば生き残りをかけたものであることも少なくない。しかし、実際に破産に瀕しているといったところまで追い込まれない限り、独禁法の世界では、こうした企業側の切実な事情は考慮されない。

 さらに、企業結合においては取引の安定性が求められるため、事前に公正取引委員会に相談を行い、クリアランスをとる実務が定着しているが、近時の企業結合審査においては、実質的な検討に入る前の段階で膨大なデータの提出や質問への回答を求められ、それだけで数ヶ月の時間を空費することもままある。公表されている企業結合審査手続きに関するガイドラインにおいては一次審査については原則30日といった期間も設けられているが、実務では有名無実化している面もある。

 また、日本国内だけでなく、米国、EU、中国など、海外における独禁法対応の重要性も飛躍的に高まりつつある。

 企業活動の命運を握るM&Aにおいては、当事者間における条件交渉や、会社法・金商法の手続きまわりの法的論点に意識が集中しがちであるが、近時はこうした不透明性の残る企業結合審査の厳格化・長期化がM&Aのボトルネックとなることが珍しくなくなってきている。

予防的な独禁法リスク対応の必要性

 従前、企業活動における独禁法リスクというと優越的地位の濫用と競業者との情報交換が主眼ではなかったかと思われるが、数次の法改正や公正取引委員会における執行の積極化、国際的な競争当局間での協調によって、独禁法リスクは多角化すると共に、その深刻さも増している。

 ひとたび、公正取引委員会や海外競争当局が行動を起こし始めた後で、対応を行おうとしても、当面の調査対応に時間やリソースがとられてしまい、十分な防御活動を行うことはできない。また、企業結合審査においても、M&Aの初期段階から独禁法上の問題点を把握し、企業結合審査を織り込んだスケジュールを立てることが取引をスムーズに完遂することの鍵となりつつある。

 こうした状況において、このコラムをご覧になっている企業におかれても、一度、平時において、自社のビジネスに内在する独禁法リスクを網羅的に整理し、有事において適切な対応を行うことのできるような体制を整えておかれることをお勧めしたい。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー
    弁護士・ニューヨーク州弁護士
    中山龍太郎

略歴

1995年
東京大学法学部第二類卒業
1997年
東京大学法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)修了
1999年
第一東京弁護士会登録
2004-2005年
ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所
2006年
ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)
2007年-
中央大学法科大学院 非常勤講師

主な著書

「ファンド法制 -ファンドをめぐる現状と規制上の諸課題- 」財経詳報社(共著)
「資金調達ハンドブック」商事法務
「敵対的買収の最前線 -アクティビスト・ファンド対応を中心として- 」商事法務
「企業買収防衛戦略II」商事法務
「敵対的M&A対応の最先端」商事法務
「企業買収防衛戦略」商事法務
「ゼミナール 会社法現代化」商事法務
「新しい株式制度 -実務・解釈上の論点を中心に- 」有斐閣

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