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MBO事例について(2)
株式会社アミダスパートナーズ
2010/9/2

はじめに

 前回のコラム(2010年6月1日掲載)では、目的、出資者に着目したMBOの類型について触れたが、本稿ではMBOにおける経営陣と株主の利益相反を中心に概観したい。

経営陣と株主の利益相反構造

 MBOでは対象会社の株式売買において経営陣が買手、株主が売手という関係に立つことから、本来株主の利益最大化を図る義務を負う立場にある取締役(経営陣)(*1)と株主の間に、構造的な利益相反関係が生じるため、大きな問題となりえる。

 第1に、経営陣は対象会社について一般株主より多くの情報を有している(情報の非対称性)ため、経営陣にとって有利なタイミングや条件で取引を実施できる立場にあることである(ここで言う情報は、インサイダー取引規制上の未公開の重要情報には限られない)。

 第2に、発行会社経営陣の協力や理解が得られない大規模な株式買付は通常は、困難であり、経営陣の理解が得られない場合は敵対的買収というレッテルを貼られることとなるが、経営陣は株式の買い手として、一般的な投資家と比して有利な立場にあるということである。

 こうしたMBOの利益相反構造については、従前より活発に議論されており、MBOという取引が経済全体、企業や株主にもたらす利益の実現と、利益相反の弊害の排除・低減の両立の途が模索されてきた。本稿で扱うMBO指針及び金融商品取引法、取引所規則に定められるMBOに関係する規制(主として開示規制)はこの利益相反構造の中で、経営陣の買付価格を中心とする条件の公正性を担保することで利益相反構造の弊害を排除しようとするものである。

*1 江頭憲治郎「株式会社法 [第3版]」有斐閣(2009)20頁

MBO指針

 経済産業省が公表したMBOの実務指針(*2)は、利益相反を中心とするMBOの論点を整理し、MBOを健全に発展させることを目的としており、MBOを行う上で尊重されるべき原則を挙げている。

 第1原則として、望ましいMBOか否かは、企業価値を向上させるか否かを基準に判断されるべきであるとし、第2原則は、MBOが取締役と株主との間の取引であるため、株主にとって公正な手続を通じて行われ、株主が受けるべき利益が損なわれることのないように配慮されるべきであるとされている。第1の原則は、MBOは積極的な経済意義がありえるものの、株主の利益を代表すべき取締役が、その責任を果たさず株価が低迷しているような場合に、それを逆手にとって取締役が自身の利益を追求するために行われるようなMBOは望ましくないと考えられることなどから導かれており、第2の原則は、利益相反構造が存在するMBOにおいて、一般株主への利益配慮が不可欠であるとの考えから導かれる。

 これらの原則にもとづいて、MBO指針では、実務上の対応について提言がなされている。具体的には、充実した開示を行うこと、強圧的二段階買収(TOB価格より買取請求での買取価格を低く設定すること)は行わないこと、MBO価格について独立した第三者からの算定書を対象会社は取得すること、公開買付期間を長めにとり、かつ対抗的買収者が現れることを妨げないこと、等が挙げられている。

 MBO指針自体は法的拘束力を持つものではなく、これに準じたプロセスを踏むことは取締役としての善管注意義務を履行したことを意味するものではないものの、参照して、取引を判断することは十分に合理的なものであると思われる。なお、レックスHDの株式買取価格決定事件にかかる最高裁決定(平成21年5月29日)での田原判事の補足意見では、MBO指針の基礎となったMBO報告書を意見の根拠としていることからも、実務、司法の両面から本指針の意味は大きいことが伺える。

*2 「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」
(平成19年9月4日公表。以下、「MBO指針」という。)

金融商品取引法・取引所規則

 金融商品取引法、取引所規則においても、MBO特有の規制を設けている。例えば、公開買付けでは「公開買付者が役員、又は役員と関連するもの、対象者の親会社である場合等」に買付者が第三者による株価算定書等を取得した場合は、その写しを公開買付届出書の添付書類として開示することが義務付けられている。また対象会社は開示する意見表明報告書においても、「公開買付者が対象会社の役員、対象会社の役員の依頼に基づき当該公開買付けを行う者であって対象者の役員と利益を共通にする者又は対象者を子会社とするその他の法人等である場合」に、利益相反の回避措置を講じているときは、その具体的な内容を開示することとされている。

 取引所規則も、MBOや完全子会社化を目的とした公開買付けに係る開示内容は詳細な定めを置いている。最近の東証規則改正(平成22年6月30日)としても、支配株主と重要な取引を行う場合に独立した第三者から条件の公正性にかかる意見書の取得を義務付け、内容を開示させるという改正が行われており、MBOや完全子会社化の場合はこれに該当する(*3)。当該規制の対象となる完全子会社化の案件では、独立役員や第三者委員会、弁護士等からの意見書の取得や、株価算定を依頼した第三者算定機関(証券会社等)からのフェアネス・オピニオン取得等の対応が取られている。

*3 東証規則の文面上は議決権の過半数を有する支配株主との取引に限って規制を課しているようであるが、開示事例をみると議決権50%未満の株主との取引についても、当該規則に則った対応を行っているようである。

おわりに

 上述のとおり、取締役は株主利益の最大化を図る義務を負う立場にある一方でMBOでは構造的に利益相反の立場に置かれるという問題の中、MBOのベストプラクティスは何であるかは模索され続け、MBOの実務は日々、変化し、積み上げがなされていると認識している。

 MBOに係る裁判例はスクイーズアウトに係る買取価格の決定請求(非訴事件)が大半であるが、MBOを行う経営陣は、自身の立場について客観的によく認識し、適切な対応を講じることが肝要である。

以上

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