コラム

第127回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、法人税法67条に定められている「特定同族会社の特別税率(留保金課税制度)」の制度や、同制度に関する申告書審理の際の実務についてご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
電子メール:info@amidaspartners.com ※全角「@」を、半角「@」に置き換えて、送信してください。

留保金課税制度(法法67)について
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2020/11/16

はじめに

 法人税法67条に定められている「特定同族会社の特別税率」の制度(以下、「留保金課税制度」といいます。)は、現在、資本金の額が1億円以下の中小法人と清算中の会社が除かれていますので、その対象となっている法人はかなり少なくなっているはずですが、その対象となっている法人には、大きな負担感のある制度となっているものと思われます。

 留保金課税制度の対象法人からは、上記のとおり、資本金の額が1億円以下の中小法人が除かれているため、資本金の額が1億円以下であるのか否かで、留保金課税制度の対象となったりならなかったりして、法人税の負担金額が大きく異なることとなりますので、従来から、資本金の額が必ずしも法人の実態を表すとは限らない中にあって対象法人を資本金の額で一律に決めることは適当ではない、という声がありました。

 このため、今後、いずれかの時点で、対象法人に関する何らかの改正が行われる可能性があるように思われますが、留保金課税制度に関しては、対象法人以外にも、大きな疑問点が存在します。

1.法人税法67条は、本来は、「各事業年度の留保に対する法人税」というような見出しの章を設けて定めるべきものである

 法人税法67条は、現在、法人税法2編1章の「各事業年度の所得に対する法人税」の中の2節1款の「税率」の中に設けられていますが、同条は、「各事業年度の所得」に対して課税をするものではありませんし、「各事業年度の所得に対する法人税」の「税率」に関する定めでもありません。

 留保金課税制度は、「所得」又は「所得の金額」というフローに対して課税をするものではなく、フローに対して課税をした後に残った「留保金額」(法法67③)というストックに対して、再度、法人税を重課する制度となっています。

 このため、法人税法67条は、本来は、法人税法2編1章の「各事業年度の所得に対する法人税」の定めの中に設けるべき規定ではなく、同法2編の中に、例えば「各事業年度の留保に対する法人税」というような見出しの別の章を設けて、その章の中に置くべき規定です。

 その場合、「課税標準及びその計算」(現在の法人税法2編1章1節の「課税標準及びその計算」に対応するもの)の中にどのような定めを置くことになるのかというと、最初に、各事業年度に増加した資産から当該各事業年度に増加した負債と資本金等の額を控除して「留保金額」という課税標準を計算する旨の定め(現在の法人税法21条(各事業年度の所得に対する法人税の課税標準)と同様の定め)を置くこととなります。

 そして、さらに、「各事業年度の所得に対する法人税」の場合と同様に、「益金の額」や「損金の額」に対応する「資産の額」や「負債の額」の計上時期や金額に関する定め(現在の法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)と同様の定め)を置くことが必要となります。

 仮に、昭和29年に留保金課税制度が創設された際に、このような法制対応がなされていたとしたら、我が国の法人税法は、損益に偏った定めではなく、損益と貸借のバランスの良い定めとなっていたはずです。

 換言すれば、昭和29年に、留保金課税制度を創設するに当たって、その定めを「各事業年度の所得に対する法人税」の中の「税率」の中に無理やり入れ込んで簡単に書いて済ますというようなことをせずに、本来のあるべき定め方どおりに定めていたとしたら、法人税法の全般に亘って非常に大きな貢献をすることとなったはずである、ということです。

2.留保金課税制度が創設された昭和29年に、国税庁の法人税課長は、留保金課税制度によって課税をするものは「実質的に社内に留保された金額」であると述べている

 留保金課税制度が創設された昭和29年に国税庁の直税部法人税課の課長であった吉國二郎氏は、『法人税法講義』(大蔵財務協会、昭和29年)の中で、次のように説明しておられます。

「三 留保所得金額の計算
 当期の留保所得の課税の対象は留保所得であるが、この留保所得というのは当該事業年度の所得から、その所得に対する法人税額・・・の合計額を控除した残額である(法一七の二2)。つまり当期の所得のうち、実質的に社内に留保された金額をいうものである。(法第十六条の積立金額の範囲と異なることに注意を要する。)」(226頁)

 この説明は、留保金課税制度の対象となるものは、「実質的に社内に留保された金額」となり、旧法人税法16条(積立金額の定義)に定められている「積立金額」(昭和40年改正後は「利益積立金額」)とは異なるということに注意を促したものです。

 留保金課税制度の対象となる「留保金額」は、昭和29年の制度創設時から、基本的には、変わっていませんので、上記の説明は、非常に重要です。

 上記の説明を現在の条文で確認してみると、上記の説明は、法人税法67条3項の「所得等の金額(第1号から第6号までに掲げる金額の合計額から第7号に掲げる金額を減算した金額をいう。・・・)のうち留保した金額」という部分を説明したものということになります。

 この法人税法67条3項1号には、「当該事業年度の所得の金額(・・・)」が掲げられており、昭和29年の時点でも、留保金課税の対象となる留保金額は、所得の金額を留保した場合のその金額とされていました。

 法人税法67条3項の「所得等の金額(・・・)のうち留保した金額」という部分は、「所得等の金額があったことによって留保した金額が増加したということがあった場合のその増加した金額」という意味であり、フローの金額(「所得等の金額」が所得の金額のみであるという前提です。)をストックの金額に変換する文言となっています。この文言を正しく解釈すると、「所得等の金額」があったことによって「留保した」ということを行ったものにどのようなものがあったのかということを精査した上で、「留保金額」を算出する必要がある、ということが分かります。

 つまり、上記の吉國二郎氏の説明は、この「精査」に当たって、留保金課税制度の対象となるものは、「実質的に社内に留保された金額」となり、利益積立金額の増加額とは異なることに注意が必要である、と指摘したものということです。

 上記の吉國二郎氏の「つまり当期の所得のうち、実質的に社内に留保された金額をいうものである。(法第十六条の積立金額の範囲と異なることに注意を要する。)」という部分は、「つまり」という用語でその前を言い換えていますので、「・・・注意を要する」という括弧書きは、留保金課税の対象となるものが「積立金額の範囲」とは異なって「実質的に社内に留保された金額」となることに注意が必要となる、という趣旨のものと解されます。

 要するに、利益積立金額は「実質的に社内に留保された金額」に限られないが、留保金課税の対象となる「留保金額」は「実質的に社内に留保された金額」に限られる、ということです。

 この「実質的に」という部分をどのように捉えるのかということは、短いスペースでは言い尽くせないように思われますので、本コラムでは、ここまでに止めることとし、最後に、この問題に関連して、次の3で実務的な話を一つしておくこととします。

3.申告書別表4の「留保」の最下段の欄の金額を同別表3(1)の「留保所得金額」の欄に機械的に転記してはならない

 留保金課税の申告書別表3(1)(特定同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書)(令和2年4月1日以後終了事業年度分)の「留保所得金額 9」の欄には、「別表4「48の②」」という括弧書きがあります。

 この「別表4「48の②」」とは、周知のとおり、申告書別表4(所得の金額の計算に関する明細書)の最下段の欄である「所得金額又は欠損金額 48」の欄の「留保 ②」のことです。

 実務においては、別表3(1)の「留保所得金額 9」の欄の金額は、括弧書きに従って、別表4「48の②」の欄の金額を機械的に転記することとなっているのではないかと思われますし、申告書作成ソフトもそのようにプログラムされているものと思われます。

 しかし、別表3(1)の「留保所得金額 9」の欄の金額について、別表4「48の②」の欄の金額を機械的に転記するということになると、上記2で紹介した吉國二郎氏の説明は、全く無視されることとなってしまいます。上記2で紹介した吉國二郎氏の説明は、別表3(1)の「留保所得金額 9」の欄に別表4「48の②」の欄の金額をそのまま転記することとするのか否かということを判断する場面で生かすべきものであるわけです。

 これに対しては、「法人税の申告書別表は法人税法施行規則で定められたものであるから、「留保所得金額 9」の欄の金額は、括弧書きに従って、別表4「48の②」の欄の金額を記載しなければならないのではないか」という疑問を持たれる方もおられるかもしれません。

 しかし、法人税の申告書別表が法人税法施行規則で定めたものであることは、事実ですが、別表3(1)の「留保所得金額 9」の欄には、常に別表4「48の②」の欄の金額を記載しなければならないということにはなりません。

 それは何故かというと、法人税の申告書別表自体が納税者の便宜を考慮して定められているものであることに加え、その各欄に括弧書きで記載されているものは、申告書作成の便宜を考慮して記載されているものであって、別表3(1)の「住民税額 24」の欄の「((22)又は(23))×(16.3%又は10.4%)」のような括弧書きではない記載とは、性質が異なります。括弧書きではない記載は法令で定められているものですが、括弧書きの記載は法令で定められているものではありません。

 このような違いまで正しく理解しているのか否かで、税の専門家の価値は、大きく違ってきます。

 実務に当たっては、このような点にも目を向けて、申告書審理を行ってみては如何でしょうか。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-2018年12月
朝長英樹税理士事務所所長
2018年12月-
税理士法人朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)
「現代税制の現状と課題 -組織再編成税制編-」新日本法規出版

関連コラム

最新コラム

アミダスパートナーズについて
お問い合わせ