第125回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、固定資産税の課税誤りが非常に多いことについて、地方自治体での課税誤りの状況や税額修正の原因、固定資産税に係る条文の解釈の課題点を踏まえて、所感をお述べ頂いております。
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はじめに
先般、都税事務所の税務調査によってある宗教法人が納骨堂に固定資産税を課されようとしていた事案について、弁護士の方から対応を依頼されたことが切っ掛けで、最近は、固定資産税にも関心を持つようになりました。
以前、製造業を営む顧問先から、「ある税理士法人から、固定資産税の課税誤りをチェックして還付があったら●割を報酬として戴くという話を持ち掛けられたのですが、頼んでもよいものでしょうか?」という相談を受けたことがあり、固定資産税には課税誤りが多いのかなという印象は持っていましたが、先月、山口県田布施町で固定資産税の課税誤りを指摘した職員を1人部屋に配置したという問題が新聞で報じられたこともあって、固定資産税の課税状況について調べてみたところ、固定資産税には課税誤りが非常に多いことを知り、大変、驚きました。
本コラムでは、固定資産税の課税誤りをもっと良くチェックするべきではないかということについて書いてみたいと思います。
1.固定資産税の課税誤りの状況
インターネットで、「固定資産税」と「課税誤り」という用語で検索をしてみると、塩竈市、千葉市、利根町、狛江市、郡山市、野田市、村山市、戸田市、鶴岡市・・・というように、数限りない地方自治体のホームページに固定資産税を誤って課税していたということが公表されていることを確認することができます。
総務省の平成24年8月28日付けの「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果」によると、総務省の調査対象期間(平成21年度~平成23年度)の間に税額修正をした納税義務者が1人以上あった市町村は調査に回答した1,592団体のうちの97%にも及ぶ1,544団体となっています(この調査においては、「東京都のうち特別区の区域(都が課税)については回答を得られなかった」とされています。)。
このような状況は、誰の目から見ても、異常な事態ということになるはずです。
総務省は、平成26年9月16日付けで、各道府県総務部長及び東京都総務・主税局長宛に、「固定資産税の課税事務に対する納税者の信頼確保について」という文書を出しており、その中で、次のように述べています。
「固定資産税に係る市町村の事務上の問題に起因する課税の誤りは、納税者の固定資産税制度に対する不信を招きかねない・・・滞納処分を行った後に税額の修正を行う等、重大な課税の誤りが判明する事例が依然として絶えない状況にあります・・・各市町村におかれては、納税者の信頼の確保のため、課税事務の検証、固定資産評価員及び補助員の専門知識及び能力の向上、納税者への情報開示等の推進並びに固定資産評価審査委員会の組織運営の中立性の確保等の対策を積極的に実施されますようお願いいたします」
この文書は、今から6年前のものですが、インターネットで「固定資産税」と「課税誤り」という用語で1年以内という絞込みをかけて検索してみても、村山市、鶴岡市、郡山市、千葉市、利根町、狛江市、柏崎市、三川町、上山市、朝日町・・・というように、非常に多くの地方自治体のホームページに固定資産税を誤って課税していたということが公表されていること、そして、現在に至っても、固定資産税の課税誤りを指摘した職員を1人部屋に配置したという問題が報じられたりすることなどからすると、現在も、状況は6年前とあまり変わっていないように思われます。
2.「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の主な原因」
上記の総務省の平成26年9月16日付けの「固定資産税の課税事務に対する納税者の信頼確保について」という文書の参考資料の中に「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の主な原因」として挙げられているのは、「1.課税・非課税認定の修正」(非課税認定の誤り、法定免税点の判定誤り、電算システムのプログラムミス・入力誤り、都市計画税の課税地域の把握誤り)、「2.新築・増築家屋の未反映」(家屋新築・増築の把握漏れ)、「3.家屋滅失の未反映」(家屋滅失の把握漏れ)、「4.現況地目の修正」(現況変更把握誤り、土地の把握違い)、「5.課税地積・床面積の修正」(区分所有家屋の面積把握誤り、電算システムへの入力誤り・プログラムミス、地籍調査成果の反映誤り、現況面積の把握漏れ)、「6.評価額の修正(土地)」(電算システムのプログラムミス、電算システムへの入力誤り、新旧電算システム切換時のデータ移行のプログラムミス・入力誤り、路線価等の修正、特別な評価方法に係る土地の価格等の修正、地域区分の見直し、補正率等の適用誤り)、「6.評価額の修正(家屋)」(補正率の適用の修正、電算システムのプログラムミス、電算システムへの入力誤り、新旧電算システム切換時のデータ移行のプログラムミス・入力誤り、評点数付設の誤り、構造の把握誤り)、「7.負担調整措置・特例措置の適用の修正」(住宅用地特例の適用誤り、負担調整措置の適用誤り、新築住宅特例の適用誤り、各特例措置の適用誤り)、「8.納税義務者の修正」(納税義務者の認定誤り、登記の反映漏れ、死亡の未反映、納税義務者の例外の適用誤り)です。
これらの各項目の内容を見てみると、「ありとあらゆる誤りが見受けられる」と言っても、決して過言ではありません。
この「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の主な原因」に記載されていることを読むと、地方税の他の税目についても、本当は、多くの誤りがあるのではないかという疑問さえ湧いてきます。
3.固定資産税の実務への取組みには課題があるのではないか
私も、これまでは、法人税をはじめとする国税には関心を持って仕事を行ってきたものの、固定資産税などの地方税にはあまり関心を持たずに仕事を行ってきたというのが偽らざるところです。
また、税理士試験でも固定資産税を選択する受験生は減少傾向にあるようですし、他の税理士の方々に聞いてみても固定資産税について顧問先から相談を受けたり顧問先に助言をしたりすることはあまりないようです。
冒頭でも触れたように、一部の税理士法人などでは、税額が多額となっている大法人を対象として、固定資産税の課税誤りがないかということをチェックする業務を行っているとのことですが、大多数の法人や個人においては、固定資産税のチェックは、事実上、殆んど行われていないというのが実態なのではないでしょうか。
しかし、固定資産税は、一つの年度だけの課税で終わるものではありませんので、課税誤りがあれば、その影響額は、増加額と減少額の何れであったとしても、無視できない金額となることが珍しくないものと思われます。
そういう点からすると、固定資産税は、一つの年度の課税誤りだけを見ると少額に止まるということであったとしても、本来は、他の税に優るとも劣らず、関心を持たなければならない税ということになるはずです。
香川大学の三野靖教授が「固定資産税の課税誤りとその対応」という興味ある論稿を自治総研(2020年6月号)に掲載しておられますが、そこでは、地方自治体が固定資産税の過誤納金について「要綱」によって更正期限(5年)を超える期間についても返還を行うことがあることに関し、事例・判例の照会や検討を行っておられます。
特に、税の専門家としての税理士は、このような論稿も参考としながら、固定資産税の実務に望む必要があると考えられます。
4.固定資産税に係る条文の解釈にも課題があるのではないか
固定資産税に関しては、実務に課題があるというだけではなく、固定資産税について定める地方税法の条文の解釈にも課題があるように思われます。
過去の争訟を見てみると、固定資産税の課税の適否について争われた事件の多くにおいては、地方税法の中の固定資産税に係る条文の解釈が争われているわけですが、それらの中には、今一つ、釈然としないものが見受けられます(注1)。
(注1)上記3において紹介した三野靖教授が上記の論考で触れておられる「要綱」の法律上の位置付けに関する判決における判断に関しても、大いに疑問があると感じますが、本コラムでは、その点については、言及しないこととします。
冒頭で触れた宗教法人の納骨堂への固定資産税に関する税務調査の事案の例で言えば、この事案は、ある宗教法人が東京都から固定資産税と都市計画税を課されて争いとなった事件において東京地裁が平成28年5月24日にその宗教法人の請求を棄却する判決を下したことが契機となり、その後、宗教法人の納骨堂に対して固定資産税の課税を行う流れとなっているものの中の一つですが、この判決は、地方税法348条(固定資産税の非課税の範囲)2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内建物及び境内地」等の条文の解釈を誤ったものと言わざるを得ません。
この事件において、原告である宗教法人と被告である東京都が裁判所に提出した全ての資料について閲覧をして判決文からは読み取ることができない双方の主張の細部まで確認をしてみましたが、原告の地方税法348条2項3号等の条文の解釈には、文理解釈と趣旨解釈の何れにおいても明らかに疑問があり、それが判決の誤った条文解釈に繫がったと解さざるを得ませんでした。
冒頭で触れた宗教法人の納骨堂への固定資産税の課税に関する税務調査の事案に関しては、課税しないという結論となり、事なきを得ましたが、上記の東京地裁判決自体は、そのまま存続し続けていますので、このままでは、地方自治体としても宗教法人の納骨堂に固定資産税を課税するという基本姿勢を変えるわけにはいかないはずであり、納骨堂を有する宗教法人には、広く大きな影響が出てくることとなるものと考えられます。
このような事情に鑑み、敢えて申し上げると、固定資産税は、毎年度、課税されるわけですから、上記の原告である宗教法人は、自らのためだけではなく、納骨堂を有する他の宗教法人のためにも、手遅れにならないように、早急に、その後の年度の課税について争い、上記の東京地裁判決の誤った解釈を正すという対応をするべきである、と考えます(注2)。
(注2)消費税の問題とはなりますが、現在、マンションの仕入税額控除について、仕入に係る消費税額の全額を控除できるのか、それとも、課税売上割合に応じた額だけしか控除できないのかということが裁判で争われています。この課税に関しても、そのような課税が平成16年に初めて行われて国税不服審判所で争われた時に、請求人がそのような課税は消費税法の条文の解釈誤りであるということを適切に主張することができていたとしたら、問題となることはなかったはずである、と考えています。
上記の宗教法人の納骨堂に対する固定資産税の課税の問題も、従来とは異なる取扱いがされたというケースにおいては、納税者がどのように対応するのかということが非常に重要となる、ということが良く分かるものとなっています。
最後に
納税者にとっては、国税も地方税も、「税」として徴収されるものであることに何ら変わりはありませんので、私も、今回、固定資産税に関する税務調査対応を依頼されたことを良い機会と捉え、今後は、地方税にも積極的に目を向けるようにしていきたいと考えています。
私と同様に、固定資産税などの地方税にはあまり関心を持たずに仕事を行ってきたという税理士の方がおられるようであれば、今一度、納税者の目線で、地方税の重要性について考えてみても良いかもしれません。