コラム

第122回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、創設されてから既に30年以上経つ消費税法における、この税が「消費」に課税をする税であるのか、あるいは、「付加価値」に課税をする税であるのかという「古くて新しい問題」について、創設時の説明や裁判において行われる主張を踏まえて、所感をお述べ頂いております。

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「消費税法は「消費」と「付加価値」のいずれに課税をする税法なのか」
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2020/5/15

はじめに

 税務調査で消費税の課税が行われて争いとなった事件においては、国側が消費税法は「付加価値」に課税をする税法であるという主張をするケースが少なくありません。

 我が国の消費税が「付加価値税」であるという主張は、消費税法の創設時から存在していたものですから、消費税法が「消費」に課税をする税であるのか、あるいは、「付加価値」に課税をする税であるのかということは、「古くて新しい問題」と言ってもよいものです。

1.何故、問題となるのか

 我が国の消費税が「消費」に課税をする税であるのか、あるいは、「付加価値」に課税をする税であるのかということを問うことには、意味がないのではないかという意見もあるものと思われます。

 確かに、財政学や経済学などの観点からからすると、そのような意見があっても、何ら不思議ではないと考えます。

 しかし、税法学や税法の解釈という観点からすると、そのような意見は誤っていると言わざるを得ません。

 現在、税法の研究書や解説書においては、担税力の指標となるものは、「所得」、「財産(資産)」及び「消費(消費支出)」の3つであると説明されることが多いわけですが、この「消費(消費支出)」というところが「付加価値」ということになると、その説明の内容が的外れとなってしまうものが少なくありません。「消費(消費支出)」は消費者が行うものであり、一方、「付加価値」は事業者が生み出すものであるわけですから、その指標に係る当事者も場面も全く異なり、「消費(消費支出)」というところが「付加価値」ということになると、説明の内容が的外れとなるのは、当然のことです。

 また、消費税法の中の条文を解釈する場合にも、例えば、「売上」に類似する「課税資産の譲渡等の対価の額」を課税標準とする条文と「所得」に類似する「付加価値の額」を課税標準とする条文があったとすれば、両者の解釈に相違が生ずることは、当然です。

 このように、税の理論や税法の解釈においては、我が国の消費税が「消費」に課税をする税であるのか、あるいは、「付加価値」に課税をする税であるのかということは、その答を明確にする必要があるテーマということになります。

2.我が国の消費税は、事業者に負担を求める税ではないと説明して創りながら、実際には仕入税額控除を制限することで事業者にも負担を求める仕組みとしたという、他に例を見ない税である

 我が国の消費税の税額計算の仕組みについては、その創設当時に大蔵省が発刊した『消費税法のすべて』(大蔵省主税局税制第2課編)において、「⑶ 取引段階ごとの税額計算の例」と題して、次のような計算例(7頁)が示されています。

 上記の計算例に示された税額計算の仕組みに関しては、消費者が負担する消費税を事業者の段階で分けて課税をするもの(いわゆる「多段階課税」)という説明がなされています。

 仮に、我が国の消費税が「付加価値税」であったとしたら、税額計算の仕組みがどうなるのかというと、「売上げ」と「仕入れ」の差額は「付加価値」と捉えることができますから、やはり、税額計算の仕組みは、上記の計算例に示されているものと同じものとなるはずです。

 このため、税額計算の仕組みから判断すると、我が国の消費税は「付加価値税」であるということもできるわけです。

 しかし、消費者の「消費」に税の負担を求めるということであれば、本来は、上記のように多くの事業者に申告納税を行ってもらわなければならなくなる多段階課税ではなく、消費者と取引をする事業者だけに申告納税を行ってもらう単段階課税とするのが最も理論的で簡素かつ問題も生じない仕組みであるということになるはずです。そして、常識的に考えると、消費者に負担を求める税について、消費者とは取引をしない事業者にまで申告納税の義務を負わせるということには、問題がある、ということともなるはずです。

 それにもかかわらず、何故、多段階課税の仕組みを採ることとされたのでしょうか。

 私は、消費者だけではなく事業者にも税を負担させる仕組みとしようとしたことがその理由の一つとなっていると考えています。

 上記の計算例においては、各事業者は自らが支払った消費税の全額を控除することができることとなっているため、消費税の額の全額を消費者が負担することとなっていますが、いずれかの事業者が自ら支払った消費税の一部又は全部を控除することができなかったとしたら、その控除することができなかった額は、消費者ではなく、事業者が負担することとなります。例えば、上記の計算例において、「卸売業者Ⅽ」が自ら支払った消費税1,500円を控除することができなかったとすれば、「卸売業者Ⅽ」が納付する消費税額は1,500円増加して2,100円となり、全事業者が支払う消費税の合計額は、「卸売業者Ⅽ」が控除することができなかった1,500円が増加して4,500円となり、100,000円の商品について、「消費者E」が3,000円の消費税の負担しかしていないにもかかわらず、4,500円の消費税が課されることとなります。

 つまり、我が国の消費税は、仕入税額控除を制限することで事業者にも負担をさせることができる仕組みとなっている、ということです。仕入税額控除に関しては、「生産、流通の各段階で二重、三重に税が課されることのないよう、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除し、税が累積しないような仕組みが採られている。」(同前3頁)と説明されており、確かに、そのような累積排除の仕組みとはなっているわけですが、仕入税額控除が税の累積排除という役割を果たすのは、事業者が自ら支払った消費税を全て控除できる場合だけであって、一部でも控除できない額があれば、その額だけ税の累積が起こってしまうこととなります。これは、仕入税額控除が事業者に累積的に税を負担させることができる仕組みでもある、ということを意味しています。

 このように、事業者が支払った消費税について仕入税額控除を制限することにより、事業者に負担を求めることとなっている額は、我が国全体では、相当な額になっているはずです。

 しかし、我が国の消費税は、その創設時から、「消費税は、事業者に負担を求めるのではなく、税金分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされ、次々と転嫁され、最終的には消費者に負担を求める税である。」(同前3頁)と説明されてきました。

 つまり、我が国の消費税は、言うこと(「事業者に負担を求めるのではなく、・・・消費者に負担を求める税」ということ)とやること(消費者に負担を求めるだけではなく、仕入税額控除を制限することで事業者にも負担を求める税となっていること)が違うという、他に例を見ない特異な税となっているわけです。

3.仕入税額控除を巡る争いにおいては、我が国の消費税が事業者に負担を求める税であるという説明の方が国側に都合が良いため、国側は、我が国の消費税は「付加価値税」であると主張するようになっている

 このように、言うこととやることが違うという、他の例を見ない特異な税となっていることが、消費税課税事件において、国側が消費税法は「付加価値」に課税をする税法であるという主張をするケースが出てくる原因となっていると考えられます。

 仕入税額控除を巡る争いは、その多くが事業者が支払った消費税の全部又は一部を控除することができるのか否かという争いとなり、国側にとっては、事業者は消費税を負担しないことになるという法解釈は都合が悪く、事業者は消費税を負担することになるという法解釈が都合が良いため、消費税法は事業者の「付加価値」に課税をする税であるということを前面に出す法解釈を主張することとなるわけです。単段階課税か多段階課税かということは、税額計算の仕組みの選択の問題であって、多段階課税の仕組みを採れば「付加価値税」となるということではありませんので、我が国の消費税が「付加価値税」であったとしても、事業者に仕入税額控除を行わせずに1,500円の加重な税負担を求めるという上記2において述べたようなことが容認されるわけではないわけですが、我が国の消費税が事業者の「付加価値」に課税をする税であるという主張を前面に出せば、事業者に消費税の負担をさせることにあたかも正当性があるかのような印象を与えることが可能となります。

 そして、一旦、我が国の消費税は事業者に対する「付加価値税」であるという法解釈が裁決や判決で採用されると、その後は、その法解釈が既成事実となって、その法解釈を更に都合よく利用した法解釈がなされるという状態が生ずることとなります。紙幅の都合上、個々の事件に言及することはしませんが、現に、我が国の消費税は「付加価値」に課税をする税であるという主張を根拠として課税資産の譲渡等の時期に関する従来の法解釈を変更したと言わざるを得ないものまで見受けられるようになっています。

 このような状態が当たり前になってしまうと、現在でさえ、他の税法以上に迷走している消費税法の解釈がなお一層迷走することとなってしまわざるを得ません。

 消費税法が創設されてから既に30年も過ぎてしまいましたが、この辺りで、我が国の消費税法が「消費」に課税をする税であるのか、あるいは、「付加価値」に課税をする税であるのかということを改めて良く考えてみる必要があるのではないでしょうか。

最後に

 我が国の消費税法は、売上税法案が国民の大きな反発を受けて1987年5月に廃案となったことから、その翌年の1988年7月に売上税法案を衣替えした法案を国会に提出し、同年の12月に成立したものであるわけですが、売上税法案と比べてみると、税率が5%から3%に下がったり、税額票方式(インボイス方式)を断念して帳簿方式としたりするというような違いはあるものの、「事業者」が行った「課税資産の譲渡等」に課税を行うという点では全く同じものであり、仕入税額控除の仕組みについても、その仕組みはもとより条文の文言まで殆ど全く同じといってよいものとなっています。

 要するに、我が国の消費税法をEU諸国の付加価値税法と売上税法案に示されていた売上税法と比べてみると、我が国の消費税法は、EU諸国の付加価値税法よりも売上税法案に示されていた売上税法に近いことが明確であるわけです。

 「事業者」が行った「課税資産の譲渡等」に課税をするということは、「事業者」が行った「売上」に課税をするということであって、「事業者」が付した「付加価値」に課税をするということではありません。

 私は、我が国の消費税法は、その創設の趣旨において述べられているように、「消費者」の「消費」に担税力を認めて税の負担を求める「消費税法」であって、その条文も「消費税法」以外のものとはなっておらず、我が国の消費税法が「〇〇税法であるのか否か」ということを議論すること自体が税法の理論や解釈をゆがめるものと考えていますが、それでもなお、我が国の消費税法がどのような税法であるのかということを敢えて言うとすれば、我が国の消費税法は「事業者」が行った「売上」に課税をする「売上税法」であって「事業者」が付した「付加価値」に課税をする「付加価値税法」ではない、と言いたいと考えています。

 我が国の消費税法があたかも「事業者」に負担を求める税法となっているかのごとき主張をしたり、我が国の消費税法が「付加価値」に課税をする「付加価値税法」であるという条文を無視した主張をしたりして、条文の解釈からは導き出しようがない解釈を創り出し、課税を正当化するなどということは、決してあってはならないことです。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-2018年12月
朝長英樹税理士事務所所長
2018年12月-
税理士法人朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)
「現代税制の現状と課題 -組織再編成税制編-」新日本法規出版

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