コラム

第121回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナーである中島和穂先生に執筆していただきました。中島先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、4月7日に新型コロナ特措法に基づき発令された緊急事態宣言について、基本的対処方針が求める企業活動の取り組みをご解説して頂いております。ご参考にしていただければ幸甚です。

なお、本コラムへのご質問やお問合せは弊社までご連絡下さい。
電子メール:info@amidaspartners.com ※全角「@」を、半角「@」に置き換えて、送信してください。

新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言が企業活動に求める取り組み
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士 中島 和穂
2020/4/14

 安倍首相は、4月7日、新型コロナ感染症に関する特別措置法(以下「新型コロナ特措法」又は「法」という。)に基づき、5月6日までの間、七都府県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に緊急事態を宣言すると共に、3月28日に制定された新型コロナ対策の基本的対処方針を大幅に改定した。新型コロナ特措法上、政府による緊急事態宣言を受けて、宣言の対象区域にある都道府県(以下「宣言対象都道府県」という。)の知事が個別の緊急事態措置を講じることとされており、外出自粛や施設の使用制限などの具体的内容が各都道府県から公表されつつある。基本的対処方針は、都道府県知事が講じる措置に関して政府が総合調整する際の指針となるものであり(法20条)、本稿では、改正後の基本的対処方針が求める企業活動の取り組みを述べる。

 なお、新型コロナ特措法の概要は、既に公表した当職の別稿(「新型コロナ特措法の概要及び製造業における実務対応」西村あさひ法律事務所企業法務ニューズレター2020年3月19日号)をご参照いただければ幸いである(https://www.jurists.co.jp/sites/default/files/newsletter_pdf/ja/newsletter_200319_corporate.pdf)。

1. 改正後の基本的対処方針の概要

 改正後の基本的対処方針は、国民の協力のみならず、事業者が出勤者の減少、テレワーク等の活用で接触の機会を減らす協力をする必要があるとし、最低7割、極力8割の接触機会の低減を目指すとしている。

 また、宣言対象都道府県が講じる措置の方針を大幅に追加すると共に、宣言対象外となる都道府県が講じる措置の方針も追加されている。

 宣言対象都道府県は、緊急事態措置の一つである住民に対する外出自粛の協力要請(法45条1項)を行い、公私の団体及び個人に対して施設使用制限の協力要請(法24条9項)を行うとされている。

 後者の法24条9項は、公私の団体及び個人に対する感染拡大防止のための任意の協力要請を広く定めたものであり、緊急事態宣言前でも実施可能であったが、協力を求める範囲が広げられたといえる。緊急事態宣言後に初めて実施可能となる法45条2項から4項までに基づく施設使用制限の要請及び指示を行うにあたっては、宣言対象都道府県は、国と協議の上で、必要に応じて専門家の意見も聞きつつ、外出自粛の協力要請の効果を見極めた上で行うとしている。つまり、法24条9項の任意の協力要請を先に行い、それでも接触機会の減少が、感染拡大の防止のために不足する場合には、法45条の要請や指示が行われるという段階的措置が講じられる。法24条9項の協力要請は、あくまでも自主的な協力を求めるものである一方、法45条の要請や指示は、その違反に対する罰則は定められていないが、その内容が周知されることになり、施設管理者や使用者に対する遵守の動機付けは高まるものと考えられている。

 職場への出勤は、外出自粛の対象外であるものの、宣言対象都道府県の知事は、在宅勤務(テレワーク)を強力に推進するとされている。緊急事態措置は、地域の特性に応じた実効性のあるものが講じられると定められており、宣言対象都道府県によって措置の内容が異なることを認めている。

 次に、宣言対象外となる都道府県は、宣言対象地域とは異なり、在宅勤務のみを強調するものではないが、事業者に対して、感染防止のための行動の徹底、在宅勤務(テレワーク)、時差通勤、出張による移動を減らすためのテレビ会議の利用等を強力に呼びかけると定めている。

 また、宣言対象都道府県について、諸外国のようなロックダウン(罰則を伴う外出禁止の措置や都市間の交通遮断等)を行わないことを明記すると共に、国民生活及び国民経済の安定確保に不可欠な業務を行う事業者を具体的に例示し、それらの事業者に対して十分な感染拡大防止策を講じた上で事業を継続することを要請している。具体的に例示された事業者は、以下の通りである。

① 医療体制の維持に関する事業者
医療関係者、患者の治療に必要な全ての物資・サービスに関わる製造業・サービス業

② 支援が必要な人々の保護継続に関する事業者
高齢者、障がい者など支援が必要な人々の居住や支援に関する全ての関係者

③ 国民が必要最低限の生活を送るために不可欠なサービスを提供する事業者
(1)インフラ運営、(2)飲食料供給、(3)生活必需品物資供給、(4)食堂、レストラン、喫茶店、宅配・テークアウト、生活必需品の小売、(5)家庭用品のメインテナンス、(6)生活必需サービス(ホテル・宿泊、銭湯、理美容、ランドリー、獣医等)、(7)ごみ処理、(8)火葬・遺体処置、(9)メディア、(10)個人向けサービス(ネット配信等)

④ 企業活動を維持するための不可欠なサービスを提供する事業者
(1)金融サービス、(2)物流・運送サービス、(3)国防に必要な製造・サービス、(4)企業活動・治安維持に必要なサービス(ビルメインテナンスなど)、(5)安全安心に必要な社会基盤(河川・道路管理、廃棄物処理など)、(6)行政サービス、(7)育児サービス

⑤ その他
(1)設備の特性上、生産停止が困難な製造業(高炉、半導体工場など)、(2)医療・支援が必要な人の保護・社会基盤の維持に不可欠な物(サブライチェーン上の重要物)の製造業、(3)医療、国民生活・国民経済維持の業務を支援する事業者

 法45条2項から4項までに基づく施設使用制限の対象は、企業活動関連で言えば、展示場、物品販売業を営む店舗、遊興施設、学習支援施設、劇場など、不特定多数の者が出入りする施設が挙げられるが、会社の事務所や工場は、不特定の者が出入りせず、指揮監督が行き届き、他の方法により感染防止が可能であることから含まれていない(新型インフルエンザ等対策有識者会議第3回資料3「感染を防止するための協力要請等について【法第45条】」3頁参照)。

 また、物品販売業の店舗についても例外として生活必需品の売場は対象外となっている(法施行令11条1項7号)。その意味で、上記の事業継続が要請される事業者は、法45条2項から4項までの施設使用制限の対象となることは予定されていないといえる。

 しかしながら、法24条9項に基づく都道府県知事の協力要請は、公私の団体・個人に対して幅広く協力を要請でき、また、在宅勤務の推進などの就業形態の変更による影響が生じるため、上記具体例は、社会機能が維持されるよう休業要請の対象外とする業者を示すことで、都道府県知事が具体的な措置を講じる際の具体的指針を示したものと考えられる。

 また、4月10日、政府は、各都道府県事に対し、都道府県知事が24条9項に基づき使用制限を要請できる施設は、法45条2項から4項までに基づき使用制限対象となる施設と同一とするという解釈を明らかにし、それ以外の施設については、都道府県知事は、使用制限以外の感染拡大防止策(「三つの密」の回避、施設の連絡先の確保、時間短縮など)を講じることを求めた(令和2年4月10日付内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長「緊急事態宣言に伴う事業者への要請等に係る留意事項等について」)。つまり、法45条2項から4項に基づき休業を要請できる施設以外の施設について、都道府県知事は法24条9項に基づき休業を要請することはできないことが政府によって明らかにされた。

2. 基本的対処方針は事業継続と感染防止を両立する自発的な取組みを求めている

 外出自粛や施設の使用中止は、緊急事態宣言前から自主的な措置として要請されていたものもあり、緊急事態宣言後も、まずは企業や個人に自主的な協力を求め、それでも接触機会の減少が見られなければ、施設の使用中止に関しては要請や指示に踏み込むという段階的措置が執られることとなる。基本的対処方針は、諸外国のロックダウンに比べれば、サプライチェーンの寸断等による企業活動への影響をできるだけ緩和しようとしたものである。

 外出自粛や施設の使用中止により、一部の製品やサービスの需要が大幅に増加したり、減少することが見込まれ、また、在宅勤務を中心とする執務体制の変更に伴い、事務所・工場での稼働の遅れが予想され、商品やサービスの引き渡しが遅れることによる契約上の賠償責任等の問題は生じうる。

 他方、基本的対処方針は、企業活動を維持するために不可欠な業務を継続するとしており、そのような業務について不可抗力による契約上の責任免除を主張することは困難と思われる。例えば、日本国内の物流に遅れが生じることがあっても、物流停止により、商品を納入できず、契約履行が不能となったとは主張しがたい。

 また、諸外国でのロックダウンにより、外国の工場での生産が不可能となり、自らの契約上の責任を果たすため、例えば、緊急事態宣言地域外の日本の工場での代替生産を検討しなければならないこともありうる。

 基本的対処方針は、企業活動への影響への配慮と同時に、企業に対して、事業継続に当たり、自社における感染拡大防止策を講じることを求めている。つまり、クラスター(感染者集団)の封じ込めを引き続き進めることとされており、地方公共団体は、感染症法に基づき、感染者の感染経路を詳細に辿り、感染拡大防止を講じることとなる。仮にクラスターの発生が発覚すれば、その場所や規模等について厚生労働省は公表するとされている。

 仮に自社の役員や従業員に新型コロナの感染者が発生し、事務所や工場がクラスターの発生場所となれば、感染症法に基づき、その感染者や濃厚接触者が立ち寄った可能性のある事務所や工場について消毒のために全部又は一部が閉鎖されることがあり得る。その結果、契約上の責任が問題となる場合、企業はどのような感染防止措置を講じていたかが問われることになろう。

 3月26日に感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という。)の施行令が改正され、指定感染症である新型コロナ感染症について、都道府県は、病原体に汚染された場所の消毒(感染症法27条)を命じるのみならず、病原体に汚染されたおそれのある建物への立入制限や封鎖(同法32条)、病原体に汚染されたおそれのある場所の交通を、72時間以内の期間、制限・遮断できることとなった(同法33条)。これらの違反については罰則が定められている。

 建物への立入制限や封鎖は、感染の予防のためではなく、また、交通の制限・遮断の措置も、感染の予防のためではなく、病原体に汚染された疑いのある場所を消毒したり、健康診断を実施するためのものである(厚生労働省健康局結核感染症課「詳解 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 四訂版」154-155頁)。そのため、都市全体のロックダウンのような広範な地域を対象とするものではないが、建物の立入制限や封鎖は、当該企業のみならず、同一の建物にも影響を与える上に、仮に交通の制限となれば、隣接する企業や住民への影響は大きい。

 基本的対処方針は、緊急事態宣言の対象地域か否かや、業態・施設の性質によって指針に違いは見られるものの、企業に対して一律の措置ではなく、感染防止や事業継続を両立させる自発的な取り組みを求めている。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー 弁護士
    中島 和穂

略歴

2001年
東京大学法学部第一類卒業
2009年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2009-2010年
ニューヨークのワイル・ゴッチャル&マンジズ法律事務所
2010-2011年
三井物産株式会社 法務部出向
2016年
ドバイ駐在員事務所 代表
2019年11月-
東京事務所

主な著書

2019年1月
「M&A法大全」商事法務(共著)
2016年11月
「会社法実務相談」商事法務(共著)
2014年12月
「条解 独占禁止法」弘文堂(共著)
2013年7月
「知的財産法概説<第5版>」弘文堂(共著)
2011年12月
「会社法実務解説」有斐閣(共著)

最新コラム

アミダスパートナーズについて
お問い合わせ