コラム

第119回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、令和2年度の税制改正で予定されている「子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避への対応」という改正について、所感をお述べいただいております。

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「子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国際的な租税回避への対応」
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2020/2/17

 令和2年度の税制改正において「子会社からの配当及び子会社株式の譲渡を組み合わせた国税的な租税回避への対応」という改正が行われる予定となっています。

 この改正は、昨年、新聞報道がなされたソフトバンクの子会社株式の譲渡損の計上が切っ掛けとなったものと言われており、法人税法施行令の改正によって行われるものとされています。

 本コラムでは、この改正について、所感を述べてみることとします。

1.改正の概要

 この改正の概要は、財務省が公表している「令和2年度税制改正(案)のポイント」(令和2年1月)によると、次のとおりです。

「法人が外国子会社株式等を取得した後、子会社から配当を非課税(子会社からの配当は持株比率に応じ一定割合が益金不算入)で受け取るとともに、配当により時価が下落した子会社株式を譲渡すること等により、譲渡損失を創出させることが可能となっており、これが国際的な租税回避に利用されるとの指摘があることから、このような国際的な租税回避に適切に対応する観点から、以下のとおり、見直しを行います。
【見直し案の概要】
〔見直し案の概要とイメージ図は、文字数の制限がありますので、省略します。〕
 * 上記の見直しは、令和2年4月1日以後開始事業年度分の法人税について適用します。」

2.子会社が稼得した所得に対する二重課税となる

 この改正の対象となる子会社において、どのような課税関係が生じているのかというと、子会社は、稼得した所得に対し、課税を受けることになります。そして、その課税を受けた後に、利益剰余金が残ることになります。

 子会社の株主はどうなるのかというと、子会社の利益剰余金を反映して子会社株式の価値が上がることとなります。

 このため、子会社の株主は、子会社株式を譲渡すると、子会社の利益剰余金の分だけ譲渡益が発生し、それに課税が行われることとなります。

 このようにして、子会社の株主の子会社株式の譲渡益に課税が行われると、子会社が稼得した所得に対し、二重に課税が行われた状態となります。

 その後、この二重に課税が行われた状態がどうなるのかというと、子会社株式を買い取った新株主が子会社から配当を受けた後、子会社株式の転売等をした時に、子会社株式の譲渡損が発生し、その譲渡損の発生によって、二重に課税が行われた状態が解消されることとなります。

 二重に課税されるのは子会社株式を譲渡した者であって新株主ではないという意見があるかもしれません。確かに、課税を受けた者が誰なのかということになると、そのとおりです。

 しかし、税を負担しているのが誰なのかということになると、必ずしも子会社株式を譲渡した者であるとは限りません。それは何故かというと、子会社株式を譲渡した者が過重な税を譲渡対価に転嫁することがあるからです。そういうことになっている場合には、その過重な税は、事実上、新株主が負担した状態となり、新株主は、その負担した税を取り戻すためには、何らかの形で子会社株式を動かし、その税に係る所得に相当する損金を計上するか又はその税に係る所得に相当する額を価額に上乗せして回収するかのいずれかとせざるを得なくなります。

 子会社株式を買い取った新株主が子会社株式を動かさずに持ち続けるということであれば、子会社株式を譲渡した者と新株主のいずれか又は双方が上記の二重に課税を受けている状態が解消されずに続くこととなります。

 子会社株式を買い取った新株主が子会社株式を持ち続けた状態と子会社から配当を受けた後に子会社株式の転売等をした状態とを比べてみて、いずれが適切な状態かと問うてみたとすると、答はどうなるのでしょうか。

3.この改正によって創設される仕組みは理論的に正しいと言えるのか

 この改正によって創設される仕組みは、理論的に正しいと言えるのでしょうか。

 法人が配当を行えば法人の純資産が減少しますので、法人の株価が下がることになります。そして、その法人の株主がその法人の株式を譲渡すれば、その配当に相当する分だけ株価が下がっていますので、当然、譲渡益が減少するか又は譲渡損が増加することとなります。 理論的に説明すると、法人が配当を行えば、その法人の株主においては、株式の譲渡益が減少したり譲渡損が増加したりするのが正しい、ということになります。

 仮に、法人の旧株主が法人の株式を新株主に譲渡した際に、法人の利益剰余金に相当する譲渡対価が配当と同じように益金不算入とされるのであれば、新株主は、支払った取得価額の内、法人の利益剰余金に相当する額を仮払金等とし、残額を株式の取得価額とするという処理を行うことが有り得ます。

 つまり、株式の譲渡対価の内、法人の利益剰余金に相当する額を配当と同じように益金不算入とするのであれば、新株主において、法人の利益剰余金に相当する額を株式の取得価額から除く処理が理論的に正しいと言い得るわけです。

 しかし、それは、あくまでも、株式の譲渡対価の内、法人の利益剰余金に相当する額を配当と同じように益金不算入とするという前提があって、初めて言い得ることであって、そのような前提がなければ、新株主において、法人の利益剰余金に相当する額を株式の取得価額から除く処理は、理論的に正しいとは言えないはずです。

 この改正は、大綱では「国際課税」とされており、「令和2年度税制改正(案)のポイント」では「国際的な租税回避への対応」とされていますが、この改正に「国際」と付けたとしても、法人の株式を譲渡した株主の株式譲渡の処理とその株式を取得した新株主の株式取得の処理の不突合を理論的に正しいと説明するのは難しいのではないでしょうか。それを理論的に正しいと主張するためには、少なくとも、「国際的」な株式譲渡の処理について、法人の利益剰余金に相当する額を譲渡対価として処理せずに配当と同じように処理するという仕組みを併せて設けることが必要となるように思われます。

4.税制度は、理論的に正しくなければならない

 上記2において述べたとおり、ソフトバンクの子会社株式の譲渡損については、それを計上したことによって、全体として見れば、子会社が稼得した所得に対する二重課税が排除された状態となったわけですから、理論的に考えれば、適切な状態となったと評価するべきものであると考えられます。

 仮に、その子会社株式の譲渡損の計上に問題があるとすれば、それは、唯一、「租税回避」として法人税法132条1項《同族会社等の行為又は計算の否認》を適用しなければならない事情がある場合だけのはずです。

 一般論として言えば、「租税回避」として法人税法132条1項等で課税を行うよりも、個別規定で要件を明確に定めて疑義なく課税を行う方が適切な対応であることは間違いありませんが、しかし、全てに関して常にそのような対応が適切であるということになるのかというと、必ずしもそういうことではありません。

 昭和40年の改正で、法人税法22条2項において、資産の無償取引からも収益が発生する旨を明確に定めたことにより、資産の無償又は低廉の譲渡を「租税回避」として課税する必要がなくなったことは、周知のとおりですが、この資産の無償取引においても収益を認識してその収益を益金算入するという仕組みは、理論的に正しいと説明できるものであり、同年前に「租税回避」として課税していた時も、課税することが理論的に正しいと説明できたものであって、同年の改正で理論的に正しいと説明できないものを無理やり同項に規定して課税できるようにしたというわけではありません。

 このような資産の無償又は低廉の譲渡に関する対応を念頭において考えてみると、ソフトバンクの子会社株式の譲渡損を「租税回避」として否認することは、他の租税回避事案に優るとも劣らず、難しいと感じますが、しかし、「理論の法」である法人税法の中に今回の制度のようなものを設けるのは、それ以上に難しいことのように思われます。

 法人税法132条1項等は、「租税回避」を否認するために設けられているわけですから、「租税回避」として否認するべきものは、これらの規定で否認することとし、これらの規定で否認することができないという場合には、潔く否認を諦める、ということも必要ではないのかと感じます。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-2018年12月
朝長英樹税理士事務所所長
2018年12月-
税理士法人朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)
「現代税制の現状と課題 -組織再編成税制編-」新日本法規出版

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