コラム

第九回目の専門家コラムは、株式会社MIDストラクチャーズのパートナーである亀岡隆幸先生に執筆していただきました。亀岡先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、平成22年度税制改正のM&Aストラクチャーへの影響について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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平成22年度税制改正のM&Aストラクチャーへの影響
株式会社MIDストラクチャーズ パートナー 税理士・法学修士 亀岡隆幸
2010/8/17

1. はじめに

 平成22年度の税制改正において、100%グループ法人税制と、資本関係取引税制の改正が行われている。

 本稿では、平成22年度の税制改正が、M&A戦略、特にそのストラクチャーに与える影響について検討する。

2. 100%グループ法人税制のM&A戦略への影響

 平成22年度の税制改正で導入された100%グループ法人税制は、グループ法人の一体的経営が進展していることを背景に、グループ法人の経営実態に即した課税を行うために導入されたものであるといえる。

 この100%グループ法人税制は、100%グループ内の内国法人間の取引等について、基本的に課税が生じないような制度設計とされている。

 具体的には、資産譲渡損益の課税繰延、受取配当等の全額益金不算入、寄附金の損金不算入・受贈益の益金不算入、グループ内株式のみなし配当事由による譲渡損益の非計上といった取扱いが行われることになる。

 このような、100%グループ内取引等について課税を生じさせないという取扱いは、租税回避防止規定という性格も相当程度あるものの、100%グループ内での、資産移転や資金移転の自由度は格段に高くなったものといえ、経営的には歓迎される内容であると考えられる。

 さらに、100%グループ法人税制の1つと位置づけられる連結納税制度においては、一定の子法人の欠損金について、その個別所得金額を限度として、連結納税グループに持ち込むことが可能となった。

 こういった100%グループ法人税制の改正を機に、企業の100%グループ化や連結納税の採用は、さらに進展するものと考えられ、企業経営のあり方に大きな影響を与えることが予想される。

 すなわち、M&A戦略において、買収対象会社の完全買収や、グループ会社の100%子会社化といった視点が、以前にも増して重要視されるようになったものといえるであろう。

3. 資本関係取引税制のM&Aストラクチャーへの影響

 資本関係取引税制としては、主に租税回避防止の観点から、みなし配当時の譲渡損益の非計上、清算所得課税から通常所得課税への移行、また、欠損金の制限措置等の見直しなどが行われている。

 特に、みなし配当時の譲渡損益の非計上の一類型として、非適格合併時の抱合株式の譲渡損益についても、その損益が計上されないこととされたが、この改正は、M&Aストラクチャーに与える影響が大きいため、上場会社のMBOを例として、具体的にその内容を検討する。

(1) ストラクチャーの概要

 上場会社を対象にLBOの形態でMBOを行う場合、第一段階として、買収会社が、公開買付により対象会社の3分の2以上の株式を取得し、株主総会の特別決議を支配できる状況とし、第二段階として、少数株主のスクィーズアウトと、買収会社と対象会社の合併を行うというストラクチャーがとられることが多い。

 そして、この第二段階の、少数株主のスクィーズアウトと、買収会社と対象会社の合併については、概ね次の2つのストラクチャーが採用されてきた。

  • ① 全部取得条項付種類株式を活用して、対象会社の少数株主をスクィーズアウトした後、買収会社と対象会社の合併を行うストラクチャー
  • ② 金銭交付合併を活用して、スクィーズアウトと合併を同時に行うストラクチャー

金銭交付合併のイメージ図

(2) 改正前の取扱い

上記(1)の合併時の合併当事者の主な課税関係は、原則として次のとおりとされる。

合併時の合併当事者の主な課税関係

 上記のとおり、全部取得条項付種類株式方式によった場合、100%の支配関係を構築した後の合併となるため、原則として適格合併に該当することになり、被合併法人(対象会社又は買収会社)の資産負債の移転については、帳簿価額で引き継いだものとして、その課税が繰り延べられることになる。

 ただし、被合併法人の欠損金の引継制限、合併法人の欠損金の使用制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入制度といった、欠損金の制限措置等に関連した規制が多く課せられることになる。

 一方で、金銭交付合併方式によった場合は、金銭交付が行われることから、非適格合併に該当することになり、被合併法人(対象会社)の資産負債の移転については、時価で譲渡が行われたものとして、その課税が繰り延べられることはない。

 この場合、欠損金の引継は一切できないものの、合併法人の欠損金の使用制限や、特定資産譲渡等損失の損金不算入制度といった制限も課されないこととなる。

 さらに、合併法人が有する被合併法人株式、すなわち抱合株式については、みなし配当課税と株式の譲渡損益課税が行われることになるが、このみなし配当については、受取配当等の益金不算入制度が適用され、一方で、株式の譲渡損益については、株式譲渡損失が計上されることから、多くの場合、合併法人において、多額の税務上の損失を計上することが可能であった。

 このストラクチャーは、会社法における合併等対価の柔軟化という制度的裏付けを得たものであり、また、合併税制の原則的取扱いである時価譲渡という課税関係を構築するものであることから、ストラクチャーの選択において合目的的である以上、その損失を否認することは困難であったものと考えられる。

(3) 改正の影響

 上記(2)のとおり、金銭交付合併における抱合株式に係る課税関係は、みなし配当課税と株式の譲渡損益課税とされていたところ、平成22年度税制改正において、「合併法人は合併により被合併法人の資産及び負債の包括承継を受けるところ、合併法人が合併直前に被合併法人の株式を有していた場合には、被合併法人の資産負債について合併により被合併法人株式を通じた間接保有から直接保有へと変わるものであり、合併対価の種類にかかわらず、被合併法人の資産負債への投資が継続している」(財務省「平成22年度税制改正の解説」339頁)との観点から、株式の譲渡損益課税について、その譲渡損益は計上されず、資本金等の額にチャージすることとされた。

 これにより、LBO型のMBOにおいて、金銭交付合併ストラクチャーを採用する税務上のメリットは減少したものといえる。

 しかしながら、金銭交付合併は、被合併法人の権利義務関係を包括的に引き継ぐことが可能であり、被合併法人の資産負債の時価譲渡による譲渡益と欠損金の相殺、譲渡損と事業上の所得との相殺、欠損金の制限措置等の不適用といったメリットも残されており、改正後においても依然として選択を検討すべきストラクチャーと考えられる。

 一方で、金銭交付合併の代替として、対象会社の事業を買収会社に移転した後に、対象会社を解散するといったストラクチャーが検討されることも想定される。

 ただし、この譲渡損益を非計上とする改正は、投資の継続性の観点から行われたものと解説されているものの、「みなし配当の生ずる取引に関する課税の適正化」の一措置であり、その趣旨は、租税回避防止という性格を相当程度有するものと考えられるため、上記のような代替ストラクチャーの採用には慎重な対応が必要とされる。

4. 終わりに

 M&A戦略、特に、M&Aストラクチャーを構築するにあたっては、会社法、企業会計、金融商品取引法、独占禁止法、租税法といった様々な法令、制度を検討する必要がある。

 このうち、租税法分野におけるストラクチャーは、直接的に税コストの多寡を左右するものであり、その影響はそれなりに大きいといえるであろう。

 したがって、M&Aにおける税務ストラクチャーの構築にあたっては、各M&A当事者の状況を総合的に勘案し、租税法(あるいは常識)が認める範囲内で、その実行時点及び実行後における課税関係の最適化を図ることが、非常に重要になってくるものと考えられる。

 そのためにも、本稿で取り上げた抱合株式に関する改正のみならず、平成22年度の税制改正全般を、その趣旨を含めて理解することは、M&Aに携わる関係者にとって重要なテーマとなるであろう。

執筆者紹介

  • 株式会社MIDストラクチャーズ パートナー
    税理士・法学修士
    亀岡隆幸

略歴

1995年
横浜国立大学 経営学部 国際経営学科 卒業
2002年
税理士登録
2005年
税理士法人緑川・蓮見事務所 代表社員(現 青空税理士法人)
2008年
筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 企業法学専攻 修了
2009年
株式会社MIDストラクチャーズ パートナー

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