コラム

第118回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナーであり、弁護士である小林和真呂先生に執筆していただきました。小林先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、公正取引委員会による企業結合手続対応方針の改定について、独占禁止法に関する日本の届出制度や具体的な改定内容などをご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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公正取引委員会による企業結合手続対応方針の改定
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士 小林 和真呂
2020/1/15

1. 日本の届出制度

 独占禁止法は、一定の取引分野(市場)における競争を実質的に制限することとなる企業結合(M&A)を禁止している。そのような企業結合は、公正取引委員会による排除措置命令の対象となる。

 もっとも、公正取引委員会の人的リソースには当然のことながら限りがある。公正取引委員会が、あらゆる企業結合を対象に、当該企業結合が競争を実質的に制限することとなるか否かを審査(以下「企業結合審査」という。)することは現実的ではない。

 そこで、独占禁止法は、公正取引委員会に対する事前届出が必要となる基準(以下「届出基準」という。)を設け、当該基準を満たす企業結合についてのみ、取引実行前の届出(事前届出)を義務付けている。届出基準は、株式取得、合併、会社分割、事業譲渡等、企業結合の類型によって若干の差異はあるものの、共通する基本的な基準は、当事会社、対象事業等の国内売上高が一定の金額を超えることである。企業結合が競争を実質的に制限することとなるのは、当事会社等の国内売上高が一定金額以上ある場合が通常である、との発想に基づく。金額には差異があり、また、資産額や市場シェアを基準とする法域もあるものの、同様の届出基準を設定している法域が多い。

 届出基準を満たす企業結合の場合、当事会社としては、届出を行って企業結合審査を受け、排除措置命令を行わない旨の通知(いわゆるクリアランス)を得た上で取引を実行する(なお、届出を行って原則30日の待機期間が経過すれば、企業結合審査継続中に取引を実行しても届出義務(待機義務)違反とはならないものの、排除措置命令を受けるリスクが残るため、クリアランスを得るまでは取引を実行しないのが通常である。)。

 他方、届出基準を満たさない企業結合の場合、届出が義務付けられることはないが、公正取引委員会は任意での相談を受け付けている。具体的には、企業結合審査の手続に関する対応方針(以下「企業結合手続対応方針」という。)において、具体的な計画内容を示して相談があった場合には、公正取引委員会は企業結合審査の手続に準じて対応することとするとされている。上記のとおり、届出義務の有無にかかわらず競争を実質的に制限することとなる企業結合は排除措置命令の対象となるところ、届出基準を満たさない企業結合の中には、一部ではあるものの、競争を実質的に制限することとなると評価され得るものがあるためである。

 いかなる場合に任意の相談を行うべきかについては、これまで明確にされていなかった。そこで、当事会社において、取引実行後に企業結合審査が開始されて場合によっては排除措置命令が出されることを回避し得るといったメリットと、相談の対応によってスケジュールに遅れを来たし、場合によっては公正取引委員会において当該企業結合やその後の事業活動に必要以上の関心を持たれてしまうといったデメリットを衡量して、相談を行うか否かを判断してきた。

 そうした中、今般、公正取引委員会は、企業結合手続対応方針を改定し、届出基準を満たさない企業結合のうち、公正取引委員会が企業結合審査を行う場合、任意の相談が望ましい場合について、それぞれ明確化した。特にデジタル分野の企業結合において、国内売上高に係る届出基準を満たさない場合であっても、被買収会社がデータを含む競争上重要な資産を有している場合など、国内の競争に影響があり得る場合を捕捉すべきとの問題意識に基づく動きである。

2. 企業結合手続対応方針の改定内容

 企業結合手続対応方針に、概要、次の内容の規定が新設された。

(1) 被買収会社の国内売上高等に係る金額のみが届出基準を満たさないために届出を要しない企業結合計画のうち、買収に係る対価の総額が大きく、かつ、国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合には、競争に与える影響について精査するため、公正取引委員会は当該企業結合を計画している当事会社に対し資料等の提出を求め、企業結合審査を行う。

(2) 公正取引委員会は、買収に係る対価の総額が400億円を超えると見込まれ、かつ、次の①から③のいずれかを満たすなど当該企業結合計画が国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合には、当事会社は、公正取引委員会に相談することが望まれる。

① 被買収会社の事業拠点や研究開発拠点等が国内に所在する場合

② 被買収会社が日本語のウェブサイトを開設したり、日本語のパンフレットを用いるなど、国内の需要者を対象に営業活動を行っている場合

③ 被買収会社の国内売上高合計額が1億円を超える場合

 (1)については、買収に係る対価が大きいことが要件として挙げられたのは今回の改正によるものである。もっとも、届出基準を満たすかどうかにかかわらず公正取引委員会が審査を行うことが可能であることは前記のとおりであり、基本的には、従前の取扱いを明文化したものと評価可能である。実際、公正取引委員会は、今回の対応方針の改定に先立ち、届出基準を満たさない企業結合について、競争が制限される懸念があるとして企業結合審査を行い、当事会社が申し出た問題解消措置を講じることを前提としたクリアランスを出した(公正取引委員会令和元年10月24日公表「エムスリー株式会社による株式会社日本アルトマークの株式取得に関する審査結果について」)。

 (2)については、買収に係る対価の総額の「400億円」(超)という水準は、買収対価を届出基準の一つとしているドイツ及び米国の各金額を踏まえて設定したとされている。一方、①から③として挙げられている点は、いずれも当該企業結合計画が国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合の例示である。なお、(2)の要件を満たす企業結合計画について当事会社から相談がない場合には、公正取引委員会は当該当事会社に資料等の提出を求め、企業結合審査を行うとされている。

3. 今後の対応

 今回の企業結合手続対応方針の改定によっても、独占禁止法の届出基準を満たさない場合に公正取引委員会に対して相談を行うか否かは当事会社の任意であることには変更はない。もっとも、事業者としては、買収対価が400億円を超え、かつ、企業結合計画が国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合、特に上記2(2)の①から③のいずれかを満たす場合に、公正取引委員会が積極的に企業結合審査を行う意思を示していることを意識した上で、企業結合を進める必要がある。具体的には、当該企業結合によって競争を実質的に制限することとならないことを基礎付ける情報及び資料の収集を行うことが重要となる。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー 弁護士
    小林和真呂

略歴

2004年
東京大学法学部第一類卒業
2014年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2014年-2015年
ワシントンD.C.のクリアリー・ゴットリーブ・スティーン アンド ハミルトン法律事務所

主な著書

2019年7月
「Chambers Global Practice Guides - Merger Control 2019」Chambers and Partners, London(共著)
2019年1月
「M&A法大全」商事法務(共著)
2017年1月
「TPP関連法の概要」NBL No.1090(2017年1月15日号)

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