コラム

第116回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナーである中島和穂先生に執筆していただきました。中島先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、米国輸出規制・経済制裁が日本企業に与える影響について、規制の内容や起こりうる事態についてご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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米国輸出規制・経済制裁が日本企業に与える影響
西村あさひ法律事務所 パートナー
ドバイ駐在員事務所/東京事務所
ドバイ駐在員事務所代表
中島 和穂
2019/10/15

1. 非米国企業との米国外の取引に米国法が適用される

 近時、米国と中国との間の貿易に関する対立が報じられている。例えば、中国の通信機器メーカーHuaweiの幹部が米国制裁法違反の疑いでカナダで身柄を拘束され、同社が米国商務省の輸出規制対象リストに掲載された。米国の制裁法や輸出規制は、中国企業に与える影響が注目されがちであるが、日本企業にも大きな影響を与えている。

 例えば、日本企業が、米国以外の企業に海外送金しようとしたところ、日本の金融機関から米国制裁法の疑いがあることを理由に送金できないといった事態や、自社の製品に米国原産品や技術が組み込まれているために、特定の国や者に輸出できないといった事態が起きている。米国の制裁法や輸出規制は、米国内や米国企業との取引に適用されるのみならず、米国外で行われる米国企業以外との取引であっても適用されるためである。国際法上、このような域外適用は疑義があるものの、米国の裁判所で適法性について争うことは容易ではなく、米国市場や米国企業との取引を無視できない日本企業としては従わざるを得ない。

2. 米国輸出規制とは

 まず、米国輸出規制は、米国原産品・技術の「輸出」のみならず、「再輸出」を規制している。ここでいう「再輸出」とは、米国からある国に輸出された貨物や技術がさらに別の国に輸出される場合に、米国法が適用されることを意味する。例えば、日本企業が米国企業から原材料を購入したり、技術のライセンスを受けて、製造した製品を第三国に輸出する場合、米国の再輸出規制に服することになる。

 勿論、日本企業が貨物を輸出したり技術を海外に移転する場合には、日本の外為法が適用される。輸出規制の主な目的は、対象となる貨物や技術が、大量破壊兵器や通常兵器に用いられないようにすることにあり、世界的な輸出管理の協定(例えば、通常兵器の輸出管理に関する42ヵ国の協定であるワッセナーアレンジメント)には、日本及び米国は何れも参加しており、日本の外為法と米国の再輸出規制は重複している内容がある。しかしながら、米国は、そのような世界的な協定に加えて、自国の安全保障や外交政策上の利益の観点から、独自に制裁対象リストを追加しているため、日本の外為法上は適法であるが、米国の再輸出規制に違反するという事態が起こりうる。

 米国の再輸出規制は、あらゆる場合に米国原産品や技術が僅かでも含まれていれば再輸出を禁止しているわけではなく、再輸出される貨物・技術が、米国原産品・技術が10%又は25%以下であれば(10%又は25%の何れが適用されるかは国によって異なり、中国を含む殆どの国は25%であるが、イラン、北朝鮮、シリア、スーダンは10%である。)、規制が適用されないというデミニミス・ルールがある。しかしながら、部品が多い製品の場合には、あらゆる調達先から米国原産品・技術が含まれているかを確認することは容易ではない上に、この10%や25%の計算方法も簡単ではない。さらには、高度な暗号技術など一定の貨物・技術については、このデミニミス・ルールが認められず、僅かでも含まれていれば、再輸出が禁止される。

3. 米国の制裁法とは

 次に、米国の制裁法は、米国が自国の安全保障や外交方針を実現するため、特定の国、個人又は団体との取引を禁止することで経済的に孤立させ、それらの行動を米国にとって望ましいものに変えようとするものである。米国の輸出規制とは異なり、制裁法が禁止する取引は、米国原産品・技術の輸出又は再輸出に限られない。例えば、制裁対象国の金融機関との決済を禁止したり、制裁対象国からの原油の輸入を禁止したり、制裁対象国の一定の産業に貢献する取引を禁止するなどの方法が取られる。

 米国が制裁を発動する理由は、核兵器の開発、テロ活動、民主主義の抑圧、人権侵害など様々なものが挙げられる。経済制裁は、国連の安全保障理事会の決議や、米国、欧州、日本等の主要国間の協調に基づき課されることがあり、日本も、それらの国際的な枠組みを受けて、外為法に基づき経済制裁を実施している。しかしながら、米国は、国際的枠組みを超えて、独自に経済制裁を課す範囲が広い。例えば、現在、米国が幅広く取引を禁止する国は、イラン、北朝鮮、シリア、キューバが挙げられるが、イランやキューバのように米国との関係が対立していても、日本は友好関係を維持してきた国もあり、イランのように、欧州の強硬な反対にも関わらず、最近、制裁を復活させた国もある。

 米国制裁法は、米国人や米国原産品・技術が関係せず、米国外で行われる取引も対象とすることがある。いわゆる二次制裁(secondary sanctions)と呼ばれるものである。米国当局がそのような米国外の取引に対して刑事罰や民事罰を科すことは、国家管轄権の地理的な制約から困難ではあるものの、違反した当事者の米国国内の資産凍結、米国への入国禁止、米国政府調達からの排除など、経済的な不利益を与える様々な制裁のメニューを用意している。いわば、日本企業を含めた非米国企業に対して、米国と取引するか又は米国が敵視する国と取引するかの何れかを選択するように迫っているのである。

 また、米国外で行われた取引であるものの、米ドルが決済に使われたことを理由に制裁を受けた事例もある。確かに米ドルの送金が行われる場合、米国人である米国の金融機関が決済システムの一環として関与し、米国の管轄が発動される理由となり得る。

 特に日本を含む外国の国際的な金融機関は、米国でのビジネスや米ドル決済が不可能となれば、金融ビジネスを行うことが事実上不可能となる。そのため、銀行は、取引先企業に対し、制裁法違反のリスクが高い国に関連する取引の決済については、事前に開示を求めて、疑義がある場合には決済を受け付けないこともある。

4. 米国制裁法や輸出規制のリスクに応じた取引管理を

 このように、日本企業が米国向けではない取引を行う場合であっても、米国制裁法や輸出規制に抵触する可能性があるが、現実的なリスクは企業によって異なる。米国でのビジネスや米国企業との取引が事業遂行上重要な企業にとっては、これらの法令に注意が必要である。制裁対象とされた国、個人や団体が含まれているか否かや、米国原産品・技術の有無、用途のセンシティブさ(軍事転用の可能性など)の有無などを考慮し、リスク度合いに応じた取引の管理が求められる。また、これらの法令を遵守する必要性の高い企業が、他の企業と買収する際、買収対象企業が米国制裁法や輸出規制の遵守体制を構築しているか否かをデューディリジェンスにおいて吟味することも重要となる。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所 パートナー
    ドバイ駐在員事務所/東京事務所
    ドバイ駐在員事務所代表
    中島 和穂

略歴

2001年
東京大学法学部第一類卒業
2009年
コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2009-2010年
ニューヨークのワイル・ゴッチャル&マンジズ法律事務所
2010-2011年
三井物産株式会社 法務部出向
2016年-
ドバイ駐在員事務所 代表

主な著書

2019年1月
「M&A法大全」商事法務(共著)
2016年11月
「会社法実務相談」商事法務(共著)
2014年12月
「条解 独占禁止法」弘文堂(共著)
2013年7月
「知的財産法概説<第5版>」弘文堂(共著)
2011年12月
「会社法実務解説」有斐閣(共著)

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