コラム

第110回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、消費税法を法人税法・売上税法案と比較し、5つの観点から所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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消費税法を法人税法・売上税法案と比べてみる
日本税制研究所
代表理事/税理士 朝長英樹
2019/5/15

 消費税法は、昭和63年12月に成立し、平成元年4月から施行されましたので、平成は、消費税とともに始まった、と言ってもよいわけですが、30年も経つと、この消費税ができた頃のことは、すっかり忘れてしまっているのではないでしょうか。

 今回は、消費税ができた頃のことをもう一度確認してみましょう。

 もちろん、消費税の内容を確認するということになれば、とてもこのコラムでは扱い得ない量になってしまいますので、消費税を法人税や売上税(昭和62年に法案が廃案)と比べて外形だけを確認し、そこから何が分かるのかということを考えてみることとします。

 その確認の結果を要約すると、次の1~5のとおりです。

1.創設時の消費税法の量は、創設時の法人税法の量の約60%

 国税庁が発行している『直税関係法規集Ⅰ(各税編)』と『消費税関係法規集』で、創設時の法人税法と消費税法がどのくらいのページ数かということを確認してみると、法人税法は77ページで消費税法は46ページとなっています。

 つまり、創設時の消費税法の量は、創設時の法人税法の量の約60%ということになります。

2.創設時の消費税法施行令の量は、創設時の法人税法施行令の量の約57%であり、創設時の消費税法の量と比較すると約126%で、創設時の法人税法の量と法人税法施行令の量の割合である約131%よりも、やや低い割合になっている

 上記の2つの書籍で、創設時の法人税法施行令と消費税法施行令がどのくらいのページ数かということを確認してみると、法人税法施行令は101ページで消費税法施行令は58ページとなっており、創設時の消費税法施行令の量は、創設時の法人税法施行令の量の約57%ということになります。

 また、創設時の消費税法施行令の量を創設時の消費税法の量と比較すると、約126%で、創設時の法人税法施行令の量と法人税法の量の割合である約131%より、やや低くなっています。

 これが何を意味するのかというと、創設時の消費税法施行令の量は、法人税法施行令の量よりも、法律の量と比べた割合がやや低く、消費税は、法人税よりも、法律の文言のみで判断を下す場面がやや多い可能性がある、ということを意味します。

3.法人税法は約5年をかけて創られているが、消費税法は、売上税法案が廃案になった後、僅か1年程で法案が国会に提出されている

 法人税法は昭和40年に法案が国会に提出される5年程前から検討が開始されていますが、消費税法は、昭和62年に売上税法案が廃案になってから、僅か1年程で法案が国会に提出されています。

 消費税法の条文を見てみると、売上税法案で用いられていた条文をそのまま借用しているものが大量に存在します。

 消費税法案は、その前身である売上税法案があったおかげで、信じ難い程、短い期間で創り上げることができた、ということです(注)。消費税は、法人税に勝るとも劣らぬ“基幹税”ですから、仮に、ゼロから創り上げるということになると、相応の期間が必要となります。

(注)仕入税額控除のあり方などを初めとして、消費税において議論されるものに関しては、その多くが既に一般消費税や売上税の頃から議論されています。
 消費税法の創設時の頃は、一般消費税の案を修正したものが売上税で、売上税法案を修正したものが消費税法であるということは、誰もが知っていたはずですが、時が経つにつれて、一般消費税や売上税のことは、すっかり忘れ去られてしまっている、というのが実態であると思われます。

4.創設時の消費税法施行令の数は、売上税法案の政令委任の数よりもやや少ない可能性がある

 このように、消費税法の条文には、売上税法案で用いられていた条文をそのまま借用しているものが大量に存在するわけですが、創設時の消費税法施行令の数は、売上税法案の政令委任の数よりも、やや少ない可能性があります。

 売上税法案は廃案になりましたので、政令は公布されていないわけですが、当時の文献を見ると、国会審議中に、大蔵省から政令事項の要旨を取りまとめたものが審議資料として提出された、と記されています(この要旨は、衆議院にも参議院にも保存されておらず、その内容を確認することはできませんでした。)。何故、大蔵省がそのような異例のことを行ったのかというと、国会審議中に「政令事項が多過ぎる」という指摘を受けたためとされています。

 売上税法案の「第4章 税額控除等」にある12の条文(第34条~第45条)においては、「政令で定める」としたところが21か所となっていますが、創設時の消費税法の「第3章 税額控除等」にある12の条文(第30条~第41条)においては、「政令で定める」としたところが19か所となっており、後者がやや少なくなっています。

 つまり、創設時の消費税法施行令の数は、売上税法案における政令委任の数と比べてみても、やや少ない可能性があり(全部を数えるのは大変なので、数えていません。)、消費税は、売上税よりも、法律の文言のみで判断を下す場面がやや多い可能性がある、ということです。

5.法人税基本通達は、法人税法・法人税法施行令が出来てから4年後に制定されたが、消費税法取扱通達は、消費税法の成立と同時に、消費税法施行令とともに制定された

 現在の法人税基本通達は、法人税法・法人税法施行令が出来てから4年後の昭和44年に制定されました。

 一方、消費税法取扱通達(現在の消費税法基本通達)は、消費税法が成立した昭和63年12月30日に、消費税法施行令とともに制定されています。

 法律や政令の条文の解釈を示す通達には、政令の条文まで固まらなければ検討もできないというものが少なからず存在しますので、消費税法取扱通達が消費税法・消費税法施行令と同時に制定されるというのは、実に驚くべきことです。

 このようなことが可能となったのも、昭和62年の時点で、売上税法案とその政令案が出来上がっており、消費税法と消費税法施行令がそれらを大量に借用して創られたため、通達案の検討が早い時期から可能であったことによるものであろうと考えられます。

 しかし、それであったとしても、流石に早すぎるという印象は、否めません。

 昭和44年の法人税基本通達の制定時の量と昭和63年の消費税法取扱通達の量は、それぞれ103ページと91ページで、消費税法取扱通達の量は、法人税基本通達の量の約88%ともなっています。

 これが何を意味するのかというと、消費税法取扱通達で解釈が示されている消費税法・消費税法施行令の条文は、法人税基本通達で解釈が示されている法人税法・法人税法施行令の条文よりも、法律と政令の段階だけで見ると条文を短く書いて割り切って判断することとしたものが少し多い可能性がある、ということを意味するように思われます。

 消費税に関しては、税理士に対する損害賠償請求が非常に多いようですが、これにも、上記のような立法過程が影響している可能性があるのではないでしょうか。

 普段、税理士として仕事をしていると、税法の条文をどのように解釈するのかという問題に行き当たることがあり、税法の立法に関する知見の有無が実際に税法の条文の解釈に大きな影響を与えるということを実感する場面も少なくありませんが、消費税法と消費税法施行令の条文のうち創設時から変わっていないものを解釈する場合や、消費税法取扱通達の定めをそのまま引き継いで現在に至っている消費税法基本通達の定めを理解する場合にも、上記のような相場観があるのか否かで、判断が違ってくることがあるかもしれません。

執筆者紹介

略歴

1982年4月
東京国税局入局
1982年4月-1995年7月
成田・京橋税務署、東京国税局調査部において、主に法人税調査・審理に従事
1995年7月-2003年7月
財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の改正(2000年)、組織再編成税制の創設(2001年)、連結納税制度の創設(2002年)などの改正を主導
2003年7月-2006年7月
税務大学校勤務、税務大学校教授を最後に退官
2007年3月-
日本税制研究所代表理事
2011年4月-2018年12月
朝長英樹税理士事務所所長
2018年12月-
税理士法人朝長英樹税理士事務所所長

主な著書

「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」日本租税研究協会
「日本型連結納税制度の基本的な考え方と法令等の概要」日本租税研究協会
「公益法人税制」法令出版(共著)
「精説 公益法人の税務」公益法人協会(共著)
「リース税制」法令出版(編著)
「国際的二重課税排除の制度と実務 -外国税額控除制度・外国子会社配当等益金不算入制度-」法令出版(編著)
「会社合併実務必携」法令出版(共著)
「グループ法人税制」法令出版(編著)
「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」法令出版(編著)
「連結納税制度」法令出版(編著)
「組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟」清文社(編著)
「会社分割実務必携」法令出版(編著)
「株式交換・株式移転 実務必携」法令出版(編著)
「解散・清算 実務必携」法令出版(編著)
「現代税制の現状と課題 -組織再編成税制編-」新日本法規出版

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