コラム

第109回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のカウンセルである、大石和也先生に執筆していただきました。大石先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、2019年3月15日に中国全国人民代表大会において採択された「外商投資法」の、制定の経緯や内容についてご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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中国「外商投資法」について
西村あさひ法律事務所
カウンセル 大石 和也
2019/4/15

1.はじめに

 2019年3月15日、中国全国人民代表大会において「外商投資法」が採択されました。同法は2020年1月1日より施行される予定です。

 外商投資法は、外資による中国での現地法人の設立・運営や中国企業への投資・買収といった外国投資者による中国での投資活動一般を適用対象とする、初めての統一的な法律です。

 今後、中国企業へのM&Aや中国への投資をお考えの日本企業はもちろんですが、既に中国企業へ投資している場合や現地法人をもたれている日本企業にも、今般成立した外商投資法は広く適用され、影響を受ける可能性があります。そこで、外商投資法の内容について簡単ですが紹介しようと思います。ご参考になれば幸いです。

2.経緯

 法律の内容の紹介に移る前に、中国の外資規制についての従前の状況や歴史について、手短にまとめておきます。

 これまで、中国における外国投資者による投資活動に関する法令は、中国パートナーとの合弁会社を対象とする中外合弁企業法、外資100%の現地法人を対象とする外資企業法等の法律(いわゆる外資三法)や、外資による中国企業の買収を対象とする規則等、様々な法令に分かれていました。しかも、法律の制定は非常に古く、中外合弁企業法は1979年制定、外資企業法は1986年制定のように、改革開放後間もない頃に制定されたものが今まで残っていました。

 当時は会社法も存在していませんでしたが、そのような中で、中外合弁企業法等の法律は、投資先の中国国内企業(いわゆる外商投資企業)の組織形態やコーポレートガバナンスを定め、一定の役割は果たしていたと言えます。

 その後、1993年には会社法が制定され、数次の改正も経て、中国経済の発展と共にコーポレートガバナンスに関する法制度・実務が整備されてきました。また、外資への開放が徐々に進み、外資規制も緩和されてきていました。

 このような状況下で、外商投資に関する既存の法令が現在の状況に適合しない面が多くなってきていました。特に、中外合弁企業法は、会社法制定以前に定められ、会社法とは異なる組織形態、コーポレートガバナンスを定めており、実務的にも問題がありました。そこで、外資企業も内資企業も同一のコーポレートガバナンスとしつつ、外商投資を統一的に対象とするような法改正が待たれていました。

 ところで、このような統一的な法令制定の機運は、最近になって突然出てきたものではありません。実は、同じような外商投資を統一的に対象とする法令の草案が2015年1月に公表され(当時の名称は「外国投資法」)、パブリックコメントに付されていました。今般の外商投資法の制定は近時の米中貿易摩擦に起因するものとする見方もありますが、実はそれ以前から長らく議論されていたものでありました(それが今年成立に至ったのは、米中貿易摩擦がきっかけであることは間違いないかとは思います)。

3.外商投資法の内容

 外商投資法は、総則、投資促進、投資保護、投資管理、法的責任、付則の6章、全42条で構成されています。

 なお、2015年の「外国投資法(草案)」では全170条に及び、内容も比較的詳細で一部にはやや突っ込んだ規定も見受けられましたが、今般成立した外商投資法では大幅に簡素化され、規定の内容も概ね原則的なものが多くなりました。

 規定内容は多岐にわたっていますが、主なポイントは次のとおりです。全体的に、中外合弁企業に関する組織形態の変更を除いて(後記(4)ご参照)、現行制度から大きく変わるものではないと思われます。

(1) 適用範囲

 外国投資者(外国の自然人、企業その他組織)による中国国内での直接又は間接の投資活動が対象とされています。投資活動とは、広く、①外国投資者が単独又はその他の投資者と共同して中国国内で外商投資企業を設立すること、②外資投資者が中国国内企業の株式、持分等を取得すること、③外国投資者が単独又はその他の投資者と共同して中国国内の新規プロジェクトに投資すること、④法令又は国務院が規定するその他の方法による投資、と定義されています。

(2) 投資保護

 投資保護の章では、外国投資者の投資に対する保護が定められています。その中で、米中貿易摩擦に起因するものとして、知的財産権の保護があります。具体的には、技術提携に関しては各投資者(特に外国投資者と中国側投資者)が公平の原則に則り平等に協議して条件を定めること、行政機関及びその職員は行政手段を利用して技術移転を強要してはならないことが明記されました。

 また、地方政府に対しても、法令の根拠なく、外商投資企業の権益の減損、義務の追加、参入・退出条件の設定、正常な経営への干渉といった行為を禁止しています。

(3) ネガティブリスト制度

 外商投資に対する管理については、参入前内国民待遇を受け、ネガティブリストによって管理するとされています。具体的には、政府は外商投資を禁止又は制限する事業分野について予めネガティブリストを制定し、禁止分野については外商投資は不可で、制限分野への外商投資はネガティブリストに定められる一定の条件を満たすことが必要とされます。しかし、ネガティブリストに定められるもの以外の事業分野への外商投資は、内国民待遇の原則により、中国投資者による投資と同様に原則として自由に投資が可能となります(但し、中国投資者による投資に対して別途規制があれば、外商投資企業も同様に規制を受けます)。

 なお、ほぼ同様な管理方法はかなり以前からも行われており、特段の条件の付されていない事業分野への投資については、政府審査は必要ながらも申請すればほぼ確実に認可されるような状況でした。特に、2016年の法改正により、ネガティブリスト制度が導入され、リストに記載されていない事業分野への投資についての政府審査が廃止されており、前述の外商投資法の内容は、現行制度と特段変わるものではないと言えます。

 ネガティブリストについては、近時頻繁に改訂され、改訂の度に記載される事業分野が縮小され外資開放が進んでいる状況です。また、李克強総理は2019年3月28日の「ボアオアジアフォーラム」の講演において、2019年6月末までに新しいネガティブリストを公布し更に多くの分野を緩和すると発言しています。

(4) 外商投資企業の組織形態

 外商投資法では、外商投資企業の組織形態、組織構成等に関しては特段の要求は設けず、会社法等を適用すると規定されました。中外合弁企業法等が会社法と異なる独自の組織構成に関する内容を定めていたのと大きな違いです。これにより、従前の会社法との齟齬は解消され、外商投資企業も内資企業と同様に会社法の規定に従った機関設計をすればよいことになります。

 なお、中外合弁企業法等の外資三法は、外商投資法の施行と同時に廃止されます。但し、既存の外商投資企業については5年の猶予期間が設けられ、その間は旧法に基づいた元の組織構成を保留できるとされています。

 既存の中外合弁企業における旧法に基づく組織構成と、会社法における(有限責任会社の)組織構成での主な相違点は、下表のようになります。

 前述のとおり、既存の外資投資企業には猶予期間がありますが、それまでに現在の組織構成から会社法に即した機関設計に変更する必要があります。



中外合弁企業法 会社法
最高権力機関 董事会
(株主会は不設置)
株主会
董事会 必須 董事会を置かずに1名の執行董事を置くことも選択可能
重要事項の決議
(定款変更、増減資、合併分割、解散)
董事会での全会一致 株主会での特別決議
(議決権ベースで2/3以上の賛成)
利益配当 必ず出資比率による 原則として出資比率によるが、株主間で異なる合意も可能
持分譲渡 株主全員の同意が必要 他の株主の過半数の同意が必要
(但し、定款で別途規定可)

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    カウンセル
    大石 和也

略歴

1997年
東京大学法学部卒業
2003年
東京弁護士会登録
2009年-2010年
北京・中倫律師事務所
2010年
北京大学法学院(民商法学)法学修士取得
2011年-2018年
北京事務所代表
2019年
東京事務所勤務

主な著書・論文

2019年1月
『M&A法大全(上)(下)[全訂版]』 商事法務 (共著)

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