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完全子会社化を巡る株主代表訴訟判決と経営判断の原則
株式会社アミダスパートナーズ
2010/8/2

はじめに

   7月15日、最高裁第一小法廷は、完全子会社化を巡る株主代表訴訟の判決を下しました(*1)。当該判決は、取締役の経営判断に係わる裁量範囲を、高裁判決に比べ比較的広く認めた(従って、善管注意義務をやや狭く解した)ものです。M&A実務に携わる関係各位にとって、興味深い内容かと感じています。

 本コラムでは、当該判決の内容について紹介させて頂くと共に、若干の私見を申し述べることと致します。

*1 日本経済新聞2010年7月16日

1.判決の概要と主な経緯

 新聞報道等によれば、7月15日に最高裁第一小法廷は、アパマンショップホールディングス(大証ヘラクレス上場の賃貸仲介会社、以下、「ASHD社」といいます。)が2006年に行ったアパマンマンスリー(以下、「AM社」といいます。)の完全子会社の際に実施した、AM社少数株主からのAM社株式の買取りについて、ASHD社の取締役に善管注意義務違反を認めた高裁判決を破棄し、当該違反はないものとしました。

 この訴訟は、具体的な法令違反の事実がない、純粋に経営判断の合理性について争点があった事案です。それだけに微妙な判断を求められる事案だったのではないでしょうか。訴訟の経緯も、地裁判決では原告敗訴(請求棄却)、高裁において原告逆転勝訴の後、ASHD社取締役は高裁判決には経営判断の原則の解釈の誤り並びに法令解釈適用の誤りがあるものとして上告した結果、最終的には最高裁において原告敗訴(高裁判決の破棄)という経過を辿りました。

2.事実関係の整理(*2)

(1)ASHD社及びAM社の本事案当時の概況

 ASHD社はグループ再編を行う一環として、2/3超の持分率を保有する子会社であるAM社の完全子会社化を企図していました。平成18年当時のAM社の株主構成等(少数株主には、ASHD社のフランチャイズ事業を営むうえで重要な加盟店が多く存在)の全体イメージ並びにASHD社の主要財務指標は、それぞれ図表1及び2のとおりです。なお、AM社は非上場会社です。

AM社株主構成等全体イメージ図

ASHD社及びAM社主要財務指標

(2) 事業再編計画等の推進とAM社完全子会社化の承認(平成18年5月)

 グループの競争力強化等のため完全子会社に主要事業を担わせ、ASHD社を持株会社とする事業再編計画を進めており、AM社は完全子会社化の後、グループ内の他の子会社と合併させることも計画されていました。ASHD社では、AM社の完全子会社化に関する下記の事項を経営会議において承認しました。

  • 【1】 フランチャイズ事業の円滑な運営のためには、AM社の完全子会社化は、株式買取りによるべきであり、買取の対価はAM社への当初出資価額である一株当たり5万円が適当。
  • 【2】 経営会議に出席していた外部専門家であるX弁護士にアドバイスを求めたところ、当該弁護士は、当該方法による完全子会社化については基本的に法的な問題はない旨、並びに買取り価額の設定は完全子会社とする必要性とのバランスの問題であり、合計金額もさほど高額ではなく、重要な加盟店との関係を保つ必要性があれば許容範囲である旨の意見を述べていた。
  • 【3】 AM社とグループ内の他の子会社と合併させるためには、AM社はASHD社の完全子会社である必要があった。


(3)監査法人及び証券会社による株式評価結果

 ASHD社に起用された監査法人及び証券会社は、AM社の1株当たり株式を約1万円と評価しました。

(4)AM社株式の買取り実行

 平成18年6月上旬、AM社株主に対して、AM者株式を1株5万円にて買取る旨の案内書をASHD社及びAM社連名で送付のうえ、同年6月中に、買取りに応じない甲社以外の少数株主から持分率31.8%相当のAM社株式を総額158百万円(=@5万円×3,160株)にて取得。

(5)株式買取り実行後の経営会議(同年6月29日)

  • 【1】 AM社株式の買取り価額について。再度経営会議に諮問すると共に、X弁護士に対し再度アドバイスを求めたところ、同弁護士は同経営会議の席上、買取り価額を1株当たり5万円とする判断は許容範囲内と思われる旨をコメント。
  • 【2】 ASHD社及びAM社間の株式交換契約(交換比率はASHD社株式1株に対しAM社株式0.192株)を締結


(6)5万円未満の買取り価額によった場合の実行可能性に関する検討

 ASHD社はAM社株主と、買取り価額に関して協議したことはなく、また、1株当たり5万円未満の価額を提示した場合に、AM社株式の買取りが円滑に進めることが可能か否かについて、具体的検討は実施していなかった。

(7)株主代表訴訟の提起

 原告株主は、AM社の適正価額が1株約8,500円程度(当時の株価と株式交換比率に基づき算定される価額)であるにも拘わらず、代表取締役A氏が1株当たり5万円という不当な高額でAM社株式を取得した行為並びに取締役B氏及びC氏が当該買取り価額を取締役会において承認した行為は、それぞれ、取締役の善管注意義務違反にあたるものとして、適正価額と買取り価額の差額をASHD社に支払うことを求める株主代表訴訟を提起。

*2 最高裁判決文(最高裁ホームページ/裁判例情報)、並びに、奈良輝久・清水建成 他編著「最新M&A判例と実務ーM&A裁判例及び買収規制ルールの現代的展開」2009年7月28日 (株)判例タイムズ社発行 「第16章 アパマンショップホールディングス株主代表訴訟事件」に基づく。

3.主な論点と高裁判決及び最高裁判決の主なポイント(*3)


項目 高裁 最高裁
検討の枠組み 取締役の経営判断が善管注意義務違反にあたるか否かは、(1)その判断の前提となった 事実の調査及び検討について特に不注意な点がなく、(2)その意思決定過程及び内容がその業界における 通常の経営者の経営上の判断として特に不合理な点がなかったか否かを基準とし、経営者としての裁量の範囲を逸脱しているか否かにより決することが相当。 事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価も含め、将来予測にわたる 経営上の専門的判断にゆだねられている。この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、ASHD社の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等も 総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しない
検討ポイント 1)1株当たり5万円未満の価額では買取りが円滑に進まないといえるか否かの調査・検討は行われなかった。

2)ASHD社におけるAM社株式取得対価(約1.6憶円)の財務的重要性は同社のH17/9期単体業績に照らしかなり高い

3)既に子会社(66.7%)であったAM社を完全子会社化することについて、経営上どの程度の有益な効果を生むかの検討が十分に行われていない

4)買取り価額を1株5万円と設定するについて、十分な調査及び検討をすることなく、単に出資価額が1株当たり5万円であったことから、それと同額の買取り価額を設定したにすぎないものであり、何ら合理的な根拠又は理由を見出すことはできない

5)弁護士の意見を聴取したからといって、善管注意義務違反を否定できない。
1)経営会議にて検討され、弁護士の意見も聴取している等の手続きが行われていることから、本件決定の過程においても何ら不合理な点は見当たらない

2)任意の合意に基づき、買取り価格1株5万円により買取ることは、円滑に株式取得を進める方法として合理性がある

3)AM社設立後5年間しか経過していないため、買取り価額を1株5万円とすることは一般的にみて相応の合理性がないわけではない

4)買取りを円満に進めて加盟店との友好関係を維持することはグループ経営上、有益

5)非上場株式であるAM社株式の評価には相当の幅があり、事業再編の効果によるAM社の企業価値の向上も期待可能であった。
結論 買取り価額を1株5万円と設定するについては、取締役は善管注意義務違反(経営上の判断として許された裁量の範囲を逸脱)。 買取り価額を1株5万円と設定したことは著しく不合理であるとはいい難いことから、善管注意義務に違反したということはできず、第1審判決は正当。
(経営上の判断として許された裁量の範囲内)

*3 脚注*2に同じ。

4.善管注意義務と経営判断の原則

 入手可能な外部情報に基づく限り、以上が今回の最高裁判決のポイントのようですが、要するに、経営上の判断として許される許容範囲(経営判断の裁量の範囲)は本事案においてどの程度の範囲か、ということかと思われます。

 この裁量の範囲を巡って、「経営判断の原則」という概念があります。これは、経営者による経営判断を尊重する考え方のことで、日本版ビジネス・ジャッジメント・ルールとも呼ばれるもので、「裁判所は経営判断には事後的に介入しないというルール」です(*4)。 企業の成長を達成するためにはリスクをとった積極果敢な挑戦が必要と考えられますが、もし取締役の行った判断を事後的に評価するのであれば、取締役はリスク回避のため、経営判断を委縮させてしまうという懸念が残ります。このようなことは株主の利益にもなりませんので、事案が発生した当時の状況のもとで、事実認識及び意思決定過程に不注意がなければ、取締役に幅広い裁量権を与えようとする考え方です。

 高裁判決も最高裁判決も基本的には、この考え方に従っていると思われますが、裁量範囲の程度をどのように捉えるかにより違いが生じているように思われます。高裁判決においては、グループ再編を巡る経営判断にかなりの程度踏み込んでいる印象があり、上記の経営判断の原則にいう“事後的な評価”という面も否定できないように感じます。

 これに対し、最高裁判決は、まず事業再編計画の策定そのものについて経営上の専門的判断にゆだねられる旨を明示しています。経営判断の専門性をより尊重した内容といって良いかと考えます。

*4 神田秀樹著「会社法 第十二版」平成22年3月15日弘文堂 発行 p-203

むすび

 経営判断に係わる経営者の裁量の範囲は、法令で規定されているものではなく、判例の積み重ね等による面が大きいようです。しかしながら、判例の積み重ねによっても必ずしも明確化されない事項も少なくありません。また、今回の最高裁判決結果のみをもって、経営判断を巡る全ての事案に共通の普遍的な基準が明確化されたと受け止めることはできないように思われます。

 昨年の高裁判決から感じられる“事後的判断”の懸念は少し後退したという点で、経営判断の裁量範囲を広く捉える立場からは、朗報といえる面があると考えますが、一方で、裁量範囲が広がるとすれば、それに対応して、取締役の果たすべき職責は重要さを増すと共に、孤独な判断を迫られる場面も増えるかもしれません。社内のみならず、アドバイザー等の外部専門家もうまく活用しながら衆知を集め、検討する姿勢が肝要になろうかと考えます。

以上

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