コラム

第107回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所のパートナー 弁護士である森田多恵子先生に執筆していただきました。森田先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、2020年4月1日から施行される改正民法に関して、改正の内容や、改正により必要となる対応についてご解説いただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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改正民法の施行に向けて準備しておくべき事項
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士 森田 多恵子
2019/1/29

1.はじめに

 民法のうち、債権関係の規定について、1896年(明治29年)の制定以来、約120年ぶりの大改正となる「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号)が2017年(平成29年)5月26日に成立しました。改正法は、同年6月2日に公布されており、一部の規定を除き、2020年4月1日から施行されます。

 改正法の施行を前に、各社ではどのような準備をしておく必要があるでしょうか。

2.改正内容をおさえる

 今回の改正には、①取引の複雑高度化、高齢化、情報化社会の進展など、社会・経済が大きく変化していることに対応する観点からの改正項目(職業別短期消滅時効の廃止など時効期間の原則5年への統一、法定利率の引下げ(年5%→年3%)及び法定利率の変動制の導入、保証人の保護を図るための規定の整備など)と、②多数の判例や解釈論が実務に定着し、民法の条文からは基本的ルールが見えない状況下で、国民一般に分かり易い民法とする観点から、判例や通説的見解のルールを明文化した改正項目(将来発生する債権の譲渡・担保設定が可能であることの明記、賃貸借終了時の敷金返還請求権や原状回復義務に関するルールの明文化など)があります。

 このうち、②は、基本的にはこれまでの解釈や現状の実務を変えるものではないと考えられています。改正法対応の観点から改正内容の理解が特に重要になるのは、①の改正による新しいルールの把握と考えられます。

3.対応が必要な項目を洗い出す

 改正内容を把握したら、改正により自社の業務に影響がある点を洗い出す必要があります。自社業務への影響としては、後述する契約書の修正と、日々のオペレーションの変更があります。

 後者の例としては、消滅時効期間の変更を受けた債権管理の観点での見直しや、保証人保護のため新設された保証人に対する情報提供義務(改正民法458条の2、458条の3、465条10)への対応等があります。譲渡制限特約付債権の譲渡の効力を有効にする(改正民法466条2項)、異議をとどめない承諾の制度(現行民法468条)を廃止するなど、債権譲渡関係でもこれまでの実務上の取扱いに影響を与える改正がなされています。

 また、改正法で新設された定型約款制度においては、既に相手方に定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していた場合等を除き、定型約款の準備者は、相手方から請求があった場合には、遅滞なく相当な方法で定型約款の内容を示さなければなりません(改正民法548条の3)。取引前に開示請求がなされたにも関わらず、開示請求を拒んだり、対応が遅れて相当な期間が経過してしまったような場合には、定型約款の定めが契約内容にならない(約款規定を適用することができない)こととなります。

 改正法対応というと、契約文言の修正に目がいきがちですが、実務上の取扱いに影響を与えうる項目もあるため注意が必要です。

4.契約書の修正を検討する

 改正民法対応として、自社で使用している契約書や約款の修正も検討が必要になります。

(1) 強行法規:改正民法のルールに従わなければならないもの

 たとえば、改正民法では、保証人が個人である根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務を主催務とする保証契約。一例として、不動産賃貸借契約上の一切の債務を個人が保証人として保証するような場合)一般について、極度額を定めなければ無効とされます(改正民法465条の2)。この改正は強行規定であり、法律と異なる内容を合意してもそのような特約は無効とされます。施行後に保証契約を締結する場合には、改正民法に則った内容に修正する必要があります。

(2) 任意法規:民法と異なる合意をすることが可能なもの

 多くの改正項目は、契約等、当事者間の合意により変更が可能な任意規定です。そのため、改正法と異なる内容が契約書に規定されているとしても、必ずしも契約変更が必要というわけではありません。

 しかし、例えば、改正民法では、引き渡された売買の目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合の買主の救済措置として、現行民法の瑕疵担保責任(現行民法570等)でも認められている契約の解除と損害賠償に加え、追完請求権(目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)が追加され、数量指示売買でなくとも代金減額請求権が認められることとなりました。契約書に瑕疵担保責任の規定があったとしても、代金減額請求権等については必ずしも規定されていない場合があり得ます。その場合に、規定がないことが改正民法の適用を排除する趣旨なのか、改正民法の適用を排除する趣旨ではない(つまり、買主は、改正民法上の権利として代金減額請求権等を有する)のかは一義的に明らかではありません。このような視点からの検討も必要になります。

(3) 契約改定の時期

 改正民法の規定は、原則として、施行日後に締結された契約や施行日後に発生した債権に限って適用され、現行法下で既に締結している契約には引き続き現行法が適用されます。したがって、現在締結済みの全ての契約書について必ず変更契約を締結して改正民法に沿ったものにしなければならないわけではありません。

 ただし、施行日前に締結された契約も、施行日後に当事者の合意によって更新される場合(期間満了前に当事者の一方が異議を述べない限り自動更新される場合を含みます)、更新後の契約には改正民法が適用されると考えられています。そのため、施行日後に締結される契約書に加え、施行日後に更新される契約書についても、改正民法の規定との整合性が問題となります。

 以上のことから、自社で使用している契約書の雛形や、代表的な契約類型がある場合には、施行日までにそれらの契約書類について見直し、改正法施行後に締結する契約書は改正民法に適合したものを締結できるようにしておくべきと言えます。また、既に締結済みの契約書についても、更新のタイミングでは、改正民法に合わせて変更する必要がないか検討を行うべきであると考えられます。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    パートナー 弁護士
    森田 多恵子

略歴

2003年
京都大学法学部卒業
2004年
弁護士登録
2010年
ペンシルベニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2011年
ニューヨーク州弁護士登録
2011年-2013年
三菱商事法務部出向

主な著書・論文

2017年9月
「種類株式ハンドブック」(商事法務、共著)
2016年8月
「企業担当者のための消費者法制実践ガイド」(日経BP社、共著)
2016年6月
「企業集団における内部統制」(同文舘出版、共著)
2016年2月
「裁判例に見る企業集団における内部統制」(商事法務2092号)
2015年12月
「『グローバルな機関投資家等の株主総会への出席に関するガイドライン』の解説」(商事法務2088号、共著)
2014年11月
「エンプティ・ボーティング」(証券アナリストジャーナル11月号、共著)
2011年、2012年
「金商法大系Ⅰ-公開買付け(1)(2)」(商事法務、共著)等

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