コラム

第103回目の専門家コラムは、一般社団法人日本経済団体連合会の小畑良晴先生に執筆していただきました。小畑先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、一連の個人所得課税の見直しの中でこれまで触られてこなかった退職所得控除に関して、現在と過去の制度を比較して取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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退職所得への課税のあり方
一般社団法人日本経済団体連合会
経済基盤本部長 小畑良晴
2018/9/18

 平成29年度、30年度税制改正では、配偶者控除・配偶者特別控除、給与所得控除、公的年金等控除、基礎控除といった個人所得課税の控除に関して大きな見直しが行われてきた。

 特に、平成30年度与党税制改正大綱では、「働き方の多様化への対応」と「所得再分配機能の回復」という2つの見直しの観点が示されており、前者の「働き方の多様化への対応」としては、給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替(10万円)が、後者の「所得再分配機能の回復」としては、基礎控除額について所得2400万円超から逓減、2500万円超で消失するという逓減・消失型の所得控除の導入が主として該当していると考えられる。

 同大綱では「今後も、所得再分配機能の回復や税負担のあり方の観点から引き続き見直しを継続していく」とされ、具体的な検討の方向としては、まず、「所得計算上の控除」については、「働き方の多様化の進展状況等も踏まえ、基礎控除への更なる振替を検討するとともに、今回の見直しの考え方やこれまでの税制改正大綱に示された指針を踏まえ、そのあり方について引き続き丁寧に検討する」一方、「人的控除」については、「給与所得控除等からの振替による影響を見極めるとともに所得再分配機能をどの程度強化すべきかという点も踏まえながら、引き続き検討する」とされている。

 一連の個人所得課税の見直しの中でこれまで触れられてこなかった「所得計算上の控除」のひとつとして退職所得控除がある。退職所得に対する課税の仕組みは長年にわたり安定的に推移しており、これを見直すのであれば、過去の経緯も踏まえて慎重な検討が必要となろう。

退職所得に対する現行制度

 退職所得については、現行制度では、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額について、これを他の所得から分離して、一般の税率を適用して課税することとされている。退職所得控除額は、退職手当等の支給を受ける者の勤続年数を基として、次により計算される。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下の場合 40万円×勤続年数
20年超の場合 800万円+70万円×(勤続年数-20年)


 退職所得控除額が現行の水準になったのは、昭和63年の消費税導入の際の税制抜本改革の中で引き上げられたものである。つまりこの水準は平成年間を通じて不変であったことになる。

退職所得控除額の水準

 上記のように退職所得控除額は30年超にわたって据え置かれてきたのであるが、昭和63年の引上げも、実は昭和50年以来の見直しであった。なお、昭和50年の見直しは、昭和48、49年に続く3年連続の引上げであった。その水準の推移は次のとおりである。

  退職所得控除額
勤続年数 昭和48年度改正 勤続年数 昭和49年度改正 昭和50年度改正 昭和63年度改正
10年以下
の場合
10万円×
勤続年数
20年以下
の場合
20万円×
勤続年数
25万円×
勤続年数
40万円×
勤続年数
10年超
20年以下
の場合
100万円+
20万円×
(勤続年数
-10年)
20年超
30年以下
の場合
300万円+
30万円×
(勤続年数
-20年)
20年超
の場合
400万円+
40万円×
(勤続年数
-20年)
500万円+
50万円×
(勤続年数
-20年)
800万円+
70万円×
(勤続年数
-20年)
30年超
の場合
600万円+
40万円×
(勤続年数
-30年)
改正の目途 勤続35年で
800万円
  勤続35年で
1000万円
勤続30年で
1000万円
勤続30年で
1500万円


 この昭和48年度改正のきっかけとなった昭和46年8月の政府税調の「長期税制のあり方についての答申」では「退職所得の控除額については、昭和42年度の税制改正において、定年退職者の平均的な退職所得の水準程度まで大幅に引き上げられたところであるが、以後この控除額はそのまますえおかれてきていることでもあり、その後における平均的な退職所得の水準や物価水準の上昇を考慮すれば、これに見合って見直しを行うことが望ましい」と指摘されていた。ここで言及されている昭和42年度の改正で設定された控除額は、勤続35年で500万円という水準であった。

勤続年数に応じた控除額

 現行制度では、控除額は勤続年数に応じて逓増する仕組みとなっているが、この仕組みが導入されたのは昭和29年度税制改正であった。この改正で、それまで一律の定額の控除額(20万円(昭和28年度改正で15万円から20万円に引上げ))であったところ、勤続年数が10年を超える者について、10年を超える1年ごとに2万円ずつ加算した金額(最高50万円)としたことに始まるのである。

 なお、昭和34年度改正では、控除額の最高限度額50万円を100万円に引き上げるとともに、老齢で退職した者が若年で退職した者より多額の控除が得られるようにするため、勤続年数のみならず退職者の年齢を加味して控除額を計算することとされていた。当時の計算方法は、勤続年数のうち満40歳までの年数については1年につき3万円、満40歳超50歳までの年数については1年につき4万円、満50歳超の年数については1年につき5万円をそれぞれの年齢別在職期間の年数に乗じて計算した金額の合計額であった。

 その後、昭和36年度改正で、学校卒業後直ちに就職して定年(55歳)まで勤めて退職した当時の代表的サラリーマンについて100万円で頭打ちとなり控除が完全ではないという現状に鑑み、最高限度額が撤廃され、さらに、昭和39年度の改正で、「在職期間中の年齢の違いにより退職所得の担税力が相違すると考えることには、疑問も少なくない。軽減について最も考慮すべき点は、就職後長年引き続き勤務した後退職する者の場合であるから」(昭和38年12月 政府税調「昭和39年度の税制改正に関する臨時答申及びその審議の内容と経過の説明」)、一律に勤続年数1年につき5万円を控除することとされた。この改正で、いったんは一定の勤続年数を超えると控除額がより有利になるという制度ではなくなったのであるが、上記のように昭和42年度改正で、再び一定年数ごとに金額の段差がもたらされ(10年まで:1年につき5万円、10年超20年まで:1年につき10万円、20年超30年まで:1年につき20万円、30年超:1年につき30万円)、この段差は形を変えつつ現在に至っている。

2分の1課税

 退職所得についてわが国で初めて課税が行われたのは昭和13年で、当時は5000円の基礎控除が設定され、累進税率による源泉課税が行われていた。これが、第二次世界大戦後の昭和22年に、収入金額の半額を他の所得と総合して課税することとされた。ここに現行制度における退職所得控除の後の金額の2分の1を課税退職所得金額とする萌芽が見られる。しかし、シャウプ勧告に基づく昭和25年度税制改正で収入金額の15%を控除した後の金額について変動所得として5年間の平均課税を受けることとなり、2分の1課税はいったん消滅したが、昭和27年に、退職所得控除(一律15万円)をした後の金額の半額について分離課税を行う現行制度の課税方式が創設された。

 以来、控除額の変動は上記のとおり、累次の改正が行われているが、2分の1課税については不動であった。この趣旨は、退職手当等は一般的に、長期にわたる勤労の対価の後払いという正確を持つとともに、退職後の生活の原資に充てられるものという特性を有し、その担税力は他の所得に比べて低い、という説明がされてきた。

 この仕組みが創設されてから60年後の平成24年度改正で、この仕組みを濫用した税負担回避行為を防止する観点から、勤続年数5年以下の法人の役員等の退職所得について2分の1課税が廃止されたことは、記憶に新しいところである。

執筆者紹介

  • 一般社団法人日本経済団体連合会
    経済基盤本部長
    小畑良晴(おばた・よしはる)

略歴

1965年生まれ。1990年東京大学法学部卒業。同年(社)経済団体連合会(現 日本経済団体連合会)事務局入局。2006年経済法制グループ長 兼 税制・会計グループ副長、2009年経済基盤本部主幹。2015年より現職。

主な著書

『新しい合併・分割・現物出資の税務』(新日本法規出版)
『Q&A連結納税制度の実務解説』(新日本法規出版)
『会社法対応 企業組織再編の実務』(新日本法規出版)
等(いずれも共著)。

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