第八回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士法人アクト22の代表社員である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。
今回のコラムにおいては、組織再編税制における、「完全支配関係」の解釈について、纏めていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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1.「いずれか一方の法人による完全支配関係」・「同一の者による完全支配関係」の解釈の疑問
法人税法2条において平成22年度改正で新たに定義された「完全支配関係」に関しては、「支配関係」と同様に、その用語を用いた規定をどのように解釈するのか、という疑問の声が聞かれます。
このため、適格合併の要件について定めた法人税法2条12号の8イとその政令委任規定である法人税法施行令4条の3第2項の例で、「いずれか一方の法人による完全支配関係」と「同一の者による完全支配関係」をどのように解釈すればよいのかということを検討してみましょう。
なお、本稿における主題と直接に関係するものではありませんが、平成22年度改正は、従前とは異なり、「資本関係」と「支配関係」を区別せずに制度設計を行っていると解される状態にありますが、本来は、「資本関係」を「支配関係」と同義に捉えるのではなく、従前どおり、一番外枠の「資本関係」の中に存在するすべての法人を「支配関係」にある法人として同様に捉えるべきである、ということを付言しておきたいと考えます。
2.「いずれか一方の法人による完全支配関係」の解釈
法人税法施行令4条の3第2項1号の「いずれか一方の法人による完全支配関係」ですが、このような規定を正しく解釈するためには、定義語である「完全支配関係」を元の正確な規定に戻した上で、その文言を精読する必要があります。
このため、この「完全支配関係」について定めた法人税法2条12号の7の6を用いて元の正確な規定に戻した文章を作ってみると、次のようになります。
この文章を読んでみると、「いずれか一方の法人による」という部分が「政令で定める関係」又は「法人相互の関係」と続く文章となっていることが分かりますので、次に、この「政令で定める関係」を法人税法施行令4条の2第2項を用いて正確な規定にして文章を作ってみると、次のようになります。
これを読むと、「いずれか一方の法人による」という部分に正しく文章が繋がらないことが分かります。
法令の規定が上記のような状態となっているとしても、これをどのように解釈するのかということには必ず答を出さなければならないわけですから、何らかの方法によって妥当と考えられる解釈を探る必要があります。
この際に参考となるのは、やはり立法者がどのように考えてこの規定を作ったのかということになると考えられます。
いずれの法令も同様ですが、法令の規定が常に完全であるとは限らず、このように、法令の規定に立法者の意図するところを勘案して解釈をするべき部分が生じてくることも、稀ではありません。
平成22年度の「支配関係」や「完全支配関係」に関する改正の立法者の改正説明等からすると、上記の部分については、合併の当事者である法人に直接又は間接に100%の資本関係がある場合のその双方の法人の関係を「完全支配関係」と捉えることとしているものと考えられますので、文理に拘らず、そのように解釈するのが適当であろうと考えます。
また、「完全支配関係」は「一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」(法法2十二の七の六)でもありますので、上記の法人税法施行令4条3第2項1号の「いずれか一方の法人による完全支配関係」は、「いずれか一方の法人による一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」(網掛け部分は法人税法2条12号の7の6の抜粋)ともなるわけですが、「いずれか一方の法人による」という部分に「一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」が正しい文章として繋がらないことは明らかですので、いわゆる「空振り」というわけではありませんが、それと同様に捉えるのが適当であると考えます。
3.「同一の者による完全支配関係」の解釈
「同一の者による完全支配関係」に関しては、詳細は省略することとしますが、上記の「いずれか一方の法人による完全支配関係」とやや事情が異なります。
「同一の者による完全支配関係」に関しては、「一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係」の前半部分の「一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係」は「空振り」と同様の状態にあると捉えるのが適当であると考えます。