コラム

第九十七回目の専門家コラムは、隼あすか法律事務所の弁護士である周加萍先生と鈴木康之先生に執筆していただきました。周先生と鈴木先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、2017年12月に、中国の国家発展改革委員会が公表した「企業海外投資管理弁法」の制定背景や内容の紹介と、今後の中国企業の対日投資にどのような影響を与えるかについてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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中国海外投資新規定、中国企業の「走出去」に新たな追い風か
―「企業海外投資管理弁法」について*1
隼あすか法律事務所
外国弁護士(中国弁護士) 周 加萍
オブカウンセル 弁護士(日本・ニューヨーク) 鈴木康之
2018/3/15

*1 本稿は、2018年1月末時点の公開情報に基づいている。

はじめに

 2017年12月26日、国家発展改革委員会(以下「国家発改委」という)は「企業海外投資管理弁法」(2017年11号令)(以下「11号令」という)を公表した。11号令は2018年3月1日より施行され、それに伴い2014年5月8日施行の「海外投資項目認可及び届出管理弁法」(2014年9号令)(以下「9号令」という))が廃止されることとなる。

 11号令は、9号令をベースに、海外投資のマクロ的な観点からの指導を強化し、海外投資総合サービスの合理化を図ることを目的として、海外投資全プロセスの管理監督制度を大幅に改善した。11号令の公表施行は、国際市場への中国政府による積極的なシグナルであり、改革開放をより推進し、積極的に企業をグローバル化に導こうという中国政府の意思表明である。

 以下では、11号令の制定背景や主な内容を概略的に紹介し、今後の中国企業の対日投資にどのような影響を与えるかについて説明したい。

11号令の制定背景

 「走出去」戦略*2の公表以来、中国企業の海外投資は急速に伸びてきた。同時に、開放型経済新体制を構築するという大命題の下、いかにして海外投資を規範化し、その重点領域におけるリスク回避を図るかが海外投資主管部門の重要課題となった。

 2004年10月、国家発改委より公表された「海外投資プロジェクト暫定管理弁法」において、企業は海外投資をする際、一律に主管部門の認可を受けなければならない旨定められていたが、2014年4月、国家発改委9号令の公表をもって、同管理弁法は廃止された。9号令の最も大きな特徴は、海外投資に対して「認可制+届出制」という柔軟な管理モデルを導入したことであった。すなわち、一般の海外投資については届出制を適用し、中国側投資額が10億米ドル以上及び敏感な国や地域、敏感な業界に係わる海外投資については認可制を適用するという二本建て管理制度に変更した。これにより、企業の海外投資に関する取引コストが抑えられ、かつ海外投資に関する政策が緩和された。9号令は、さらに、認可・届出の手続きを簡略化し、各手続の標準的な所要時間についても明確に定めていたため、企業の海外投資及び進捗を計画的に管理することが実現可能となった。

 このように、海外投資監督管理の基礎となる9号令は、「形式より実質を重視する」という管理原則に基づき、海外投資プロジェクトの認可・届出手続の規範化と利便化を図り、海外投資の促進に大きな役割を果たした。しかし他方で、9号令の改善改革には限界もあった。例えば、投資主体の定義に曖昧な部分があって多様化されたグローバル的な投資環境ニーズには適合していないことや、金融機関の海外投資に関する規定が明確でないこと、さらに業界で長く議論されてきた「小路条。Small Pass」制度(詳細は後述参照)が依然として有効であることなど、これらの問題は企業の海外投資活動だけでなく、政府の監督管理業務にも支障を来たしていたため、現行制度の抜本的な改革改善を行い、企業の「走出去」に対してより強力な制度的保障を提供するという時代の要請から、11号令の制定が必至となった。

*2 「走出去」戦略は、2002年中国共産党第十六回全国代表大会(略称:「中共十六大」)で提唱され、2007年中共十七大で新たに明確化されたもので、中国における積極的な海外進出を意味する言葉であり、主に中国企業による海外投資をいう。

11号令の主な内容

1. 監督管理の範囲を拡大

 監督管理の対象について、9号令は「国内各種法人」に限定していたが、11号令のそれは「企業」(すなわち“パートナーシップ”など法人でない形態も含む)にまで範囲を広げた。なお、これまでは金融企業への海外投資を監督管理に含むかについて見解が分かれていたが、11号令は明確に「企業は各種の金融、非金融企業を含む」と規定し、金融企業への海外投資についても11号令を適用することが明らかになった。

 また、11号令は、国内企業がその支配下にある海外企業を経由して行う海外投資活動をも監督管理の範囲内に収められるよう、「支配」の定義を明確にした。すなわち「直接又は間接に企業の過半数以上の議決権を有すること、又は過半数以上の議決権を有しないものの、企業の経営、財務、人事、技術等の重要事項を支配できること」と定義した。

 他方で、11号令は、国内自然人が直接、海外や香港、マカオ、台湾に投資する場合を適用の対象としないことを明確にした*3。ただし、自然人がその支配下にある海外企業や香港、マカオ、台湾企業を経由して海外投資を展開する場合は、「参照的に適用する」とした(但し、「参照的に適用」についての具体的な基準は、本原稿作成の時点では未公表である)。

*3 「個人外貨管理弁法」第16条に基づき、国内個人の対外直接投資が関連規定に合致する場合、外貨管理局の認可を経て外貨を購入して、又は自らの所有する外貨をもって海外送金することができるが、海外投資外貨登記をしなければならないと定めている。但し、現在、上記のいう「関連規定」が未公表のため、実質的には機能していない。


2. 監督管理方法の分類を改善

 11号令は海外投資行為に対して「認可」、「届出」又は「報告」という三つの監督管理の手続きを規定した。そのうち、どの手続を適用するかは、主として次の2つの判断基準によることとなる。すなわち、(ⅰ)投資プロジェクトは敏感類*4に属するかどうかと、(ⅱ)投資主体による対象海外投資は直接投資か間接投資かという基準である。具体的には、以下のように分類される。

(1) 認可類:国内企業が直接又はその支配下にある海外企業を経由して展開する敏感類プロジェクトは、国家発改委が認可する。

(2) 届出類:国内企業が直接展開する非敏感類プロジェクト。そのうち、中央直轄企業の海外直接投資プロジェクト又は中国側投資額が3億米ドル以上の地方管轄企業の海外直接投資プロジェクトは国家発改委が認可するが、中国側投資額が3億米ドル未満の地方企業の海外直接投資プロジェクトは国内企業の登録地における省級発改委に届け出る。

(3) 報告類:国内企業がその支配下にある海外企業を経由して展開する大額・非敏感類プロジェクト(※大額とは、3億米ドル以上を指す)は、プロジェクトの実施前に関連する情報を国家発改委に報告する。

 その他、国内企業はその支配下の海外企業を経由して非大額・非敏感類プロジェクトを展開する場合、認可、届出又は報告手続きのいずれも履行する必要がない。

監督管理方法の分類表

類型 中国側投資額 直接投資 間接投資
敏感類 金額を問わず 国家発改委認可 国家発改委認可
非敏感類 3億米ドル以上 国家発改委届出 大額非敏感類プロジェクト:
国家発改委へ状況報告
3億米ドル未満 中央企業:国家発改委届出
地方企業:省級発改委届出
認可・届出又は報告の履行義務なし

*4 11号令は列挙方式で「敏感な国と地域」及び「敏感な業界」の範囲を定義し、かつ敏感な国と地域や敏感な業界に係わる海外投資プロジェクトを合わせて「敏感類プロジェクト」と名付けた。敏感な業界について、11号令はさらに、国家発改委にその目録の公表を授権した(但し、現時点、敏感業界目録がまだ公表されていない)。


3. 手続きの簡略化により監督管理制度をより合理的に

 9号令に比べ、11号令が公表後各界から高く評価された理由の一つは、「中国側投資額3億米ドル以上の海外買収又は入札プロジェクトは、前もって国家発改委に状況報告し、国家発改委から確認書簡を取得しなければならない(いわゆる「小路条」、Small Pass)」という要件、及び国家発改委の認可又は届出を必要とするプロジェクトは省級発改委による一次審査を経てから国家発改委に提出するという要件(以下「地方一次審査要件」という)を廃止したことである。

 これまでの実務上、「小路条」(Small Pass)を取得するまで、中国側投資者は往々にして拘束力のある書面等を締結し、又は拘束力のある見積りを出すことができず、また地方発改委の一次審査を経て逐次上級へと報告し、国家発改委に至るまでの手続に要する時間が長かったため、取引不確実性が増大される挙句、中国側投資者が競争における優位性を失う事態も生じていた。さらに、それが原因で、不本意ながらも取引協議への参加を求めて自主的により高い見積り(China Premium)を提示することを余儀なくされることもしばしばであった。同様に、地方一次審査要件も、ある意味では企業資源の無駄遣いである。そのため、11号令が「小路条」(Small Pass)制度及び地方一次審査要件を廃止したことにより、取引審査時間が短縮され、企業の合理的かつ効率的な進捗管理が可能になる。


4. 認可・届出を契約締結の要件からプロジェクト実施の要件へと変更

 9号令は投資主体に対し、拘束力ある契約を締結する前に、国家発改委の認可を取得し、又は届出をしなければならないこと、或いは契約において前述の認可・届出手続きを契約効力の発生要件として約束しなければならないことを要求していた。これに対し、国際的な商慣習上、当事者間で政府の認可や届出手続きを契約締結の要件としてではなく、プロジェクトの実施要件として取り決めることが一般的である。実際に、国内企業の海外買収取引においては政府の認可・届出をプロジェクト実施の要件として取り決めるケースが多く、当局の規定と実務との間にギャップが生じていた。

 11号令は、第32条で、9号令の下での契約締結の要件であるという取扱いを改め、認可・届出をプロジェクト実施の要件に変更した。同条は、認可・届出の管轄範囲内にあるプロジェクトについて、その投資主体は当該プロジェクトの実施前に、プロジェクトの認可文書又は届出通知書を取得しなければならないと規定した。「プロジェクトの実施前」とは、投資主体又はその支配下の海外企業がプロジェクトのために資産、権益を投入し(既に11号令第17条に基づいて認可・届出手続を終えたプロジェクトについての費用は除く)、又は融資、担保を提供する時点よりも前をいう。すなわち、11号令第32条は、認可・届出手続を契約締結の要件にするか、あるいはプロジェクト実施の要件にするかを取引当事者の裁量によって決められるとし、正に当事者の意思や国際商慣習を尊重した改善と評価できる。


5. 海外投資に対する実施中・実施後の監督管理を強化

 11号令のもう一つ重視すべき点は、海外投資監督管理の章節を追加したことである。すなわち、従来の「認可をするものの、管理はしない」又は「届出を受け付けるものの、管理はしない」という監督管理不在の状況を改善し、既に認可・届出済のプロジェクトに対して「オンラインで監督し、面談で確認し、抜き取り検査で再確認する」という方法を導入して、海外投資プロジェクトの実施中に止まらず、その実施後においても監視の目が届き、実体の伴う監督管理を実施することを可能にした。

 例えば、実施中・実施後監督管理の一環として、11号令において、以下3つの制度も定められている。

1. 重大事項報告制度(第43条)
2. プロジェクト完了報告制度(第44条)
3. ブラックリスト制度(第49条)


6. 他の部門規定との整合性にも重視

 現行体制の下、国内企業の海外投資の監督管理は、国家発改委、商務部及び国家外貨管理局など複数部門の共同管理で成り立っている。そのため、部門間の規定には、ある程度の隔離や重複が存在し、統一されていないのが現状であるが、11号令の公表により、国家発改委及び商務部の海外投資に対する監督管理基準が一致する兆しが見え始めた。最も注目すべき点は、両部門の認可・届出手続きの適用基準の統一である。両部門規定とも、海外投資プロジェクトについて認可要否の判断基準の一つは、投資金額によらず、当該プロジェクトが敏感類に属するかどうかによる、ということを定めている。

 その他、11号令は総論的に、誠実経営原則、不正競争防止、従業員の適法な権益の保護、投資先地域の公序良俗への尊重、必要な社会的責任の履行及び環境保護等にも触れつつ、海外投資企業に対する注意喚起をしている。これは、2017年12月6日、国家発改委及び商務部等が共同で公表した「民営企業海外投資経営行為規範」の趣旨にも合致する。

対日投資への影響

 以上のように、11号令は中国の「一帯一路」戦略の下、海外投資の推進がより求められる近時のニーズを最大限に尊重しつつも法令遵守を確保するため、投資の促進と監督管理の適切なバランスを図ったものであり、中国企業の海外投資、とりわけ対日投資の促進にも積極的な役割を果たすに違いないだろう。

 日本の産業は、世界に誇る先端技術と高品質製品を武器とし、それらを他国に対する優位性として確保しているため、中国企業にとって日本は非常に魅力的な投資先である。同時に、日本の消費者は日本製というブランドへの忠誠が強く、品質について非常にこだわりを持っている。これは、日本市場への参入を考える中国企業にとってクリアしなければならない課題であり、試練でもある。中国企業は、競争の激しい日本市場への参入を通して企業活動の洗練や製品競争力の向上を目指そうとしている。

 現在、中国企業の対日投資が非常に活発化している。投資分野は製造業から金融サービス、通信、ITネットワーク、ソフトウェア開発等のハイテク分野へと幅広い業種に渡り、投資形式も直接投資、合弁設立、株式譲渡など多様である。中国企業の参入を受けて、日本市場も新たな局面を迎え、日本企業にとっても大きな商機を産むはずである。中国企業と日本企業は、お互いに補える優位性を持ち合わせた補完的な関係にあるので、両者の融合には大きな相乗効果を期待できる。

 11号令の公布施行は、中国企業の「走出去」を支援する中国政府の明確な意思表明であり、中国企業の更なる対日投資の追い風にもなる。これを切っ掛けに、日中の企業間の連携が益々広がり、両国間の経済的協力をよりよい発展に導くことを深く期待している。

以上

執筆者紹介

  • 隼あすか法律事務所
    外国弁護士(中国弁護士) 周 加萍

経歴・職歴

1993年
お茶の水女子大学文教育学部卒
1995年
ベネッセコーポレーション幼児通信教育部
1999年
中央大学大学院法学研究科博士前期終了
2000年
富士通カンタムデバイス株式会社企画部
2003年
トヨタ自動車株式会社法務部
2004年
凸版印刷株式会社法務部
2015年
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所
2016年
Sky Solar Japan株式会社顧問
2017年
隼あすか法律事務所入所

主な著作物

「中国子会社のリスクとそのマネジメント」、共著、2017、第一法規
「日本からのニュー・チャンス」、共著、1997、上海三聯書店

執筆者紹介

  • 隼あすか法律事務所
    オブカウンセル 弁護士(日本・ニューヨーク) 鈴木康之

経歴・職歴

2008年10月
隼あすか法律事務所
2013年12月~2014年3月
Duane Morris & Selvam LLP(シンガポール)
2014年5月
シンガポール国立大学ロースクール 法学修士取得
2014年6月
ニューヨーク大学ロースクール 法学修士取得
2014年9月
村尾龍雄律師事務所 (香港)
2015年8月
スタンダードチャータード銀行東京支店
2017年8月
隼あすか法律事務所

主な著作物

事例にみる解雇効力の判断基準 改訂版(2009年、共著)
判例セミナー 不法行為・債務不履行 労働災害(2009年、共著)
未払い残業代をめぐる法律と実務(2011年、共著)
倒産手続選択ハンドブック(2012年、共著)
ブランド管理の法実務(2013年、共著)
Doing Business 2017, Equal Opportunity for All (2017, 情報提供)
Doing Business 2018, Reforming to Create Jobs (2018, 情報提供)

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