コラム

第九十五回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の弁護士である松村英寿先生に執筆していただきました。松村先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、飛躍的に性能が向上しているAI(Artificial Intelligence、人工知能)に関して、AIをビジネスに利活用する際の留意点につきまして取りまとめていただいております。

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AIをビジネスに利活用する際の留意点
西村あさひ法律事務所
弁護士 松村英寿先生
2018/1/15

1.AIとは

 AI(Artificial Intelligence)/人工知能とは、端的にいうとコンピュータ・プログラムの一種である。人間の知能に似たような働きをすることから、人工知能と呼ばれる。ここ数年で、急速に普及したディープラーニング(深層学習)や強化学習といわれる手法により、AIの性能は飛躍的に向上している。

 近時、第4次産業革命における技術革新を通じて様々な社会課題を解決するというSociety 5.0が提唱され、IoT機器をセンサーとして用いてデータを収集し、それを蓄積したビッグデータをAIで解析して業務等の効率化を図る、あるいはAI生体認証システム等によりセキュリティを強化するなど、ビジネスの様々な場面でAIが使用されている。また、AIスピーカーの登場により、個人の自宅にもAIが普及しつつある。

 現在のAIは、囲碁で人間に勝利したアルファ碁のように、ある特定の領域では人間の能力を超えることもできる特化型AIであり、ドラえもんのように人間と同じように考え、行動できる汎用型AIはまだ存在しない。将来的に人間の知能を超えた汎用型AIを開発できるか否かについては様々な議論があるが、現在AIをビジネスに利活用する際に覚えておく必要があることは、AIは万能・完璧ではないということである。AIにも得意な分野と不得意な分野があり、例えば、過去に大量の事例があったり、一定のルールがある中で判断することは得意だが、自らルールを作り出したり、ルールがない中で常識的な判断をすることは苦手である。

2.AI開発時における留意点

 AI化が進む社会の中で、ビジネスにAIを利活用することを検討している企業は多いと思われるが、上述のようにAIは万能・完璧ではないということを前提に、まずは自らのビジネスの中でAIを用いて何を達成したいのか、という点を明確にしておく必要がある。そうでなければ、検討・開発に無駄な労力と費用を費やすことになってしまうであろう。

 実際にAIを開発する際には膨大な量の情報が必要になるとともに、その質も重要となってくる。単にインターネットなどで収集した情報では、嘘の情報や正確でない情報(ノイズと呼ばれる)も含まれており、そのような情報や偏った考え方の情報ばかりを用いるとAIは適切な判断ができなくなる。したがって、質の良い大量の情報をどのように入手するかという点も、AI開発の重要なポイントである。逆に、情報を保有している企業が、そのデータとしての価値に気付かず有効に利用できていない場合もある。

 また、開発委託をする際のデータの取扱いや、開発されたAIに関する権利(特に知的財産権など)に関する契約も重要となってくる。データは誰のものかという根本的な議論に加えて、そのデータを用いて開発されたAIのプログラムは誰に帰属するか、開発されたAIを利用できる権限は誰にあるかといった点が問題となる。開発者側からすると、開発したAIを用いてビジネスを横展開したいと考える一方で、委託者側からすると、同業他社などに同じAIを使われることにより差別化できなくなり、時間と費用をかけて開発した意味がなくなってしまうことになる。

3.他社との協業

 AIの普及に伴い、AIエンジニアやデータサイエンティストなどの人材を求める企業も多いが、AIの研究・開発で先行する米国や中国と比べて、日本では圧倒的にAI関連の人材が少ない。そのため、企業が自前でAIの研究・開発をするのではなく、イノベーティブな技術・アイデアを有するスタートアップ企業等への投資やアライアンスも重要になってきている。

 ここ数年でコーポレート・ベンチャー・キャピタルも増加してきており、大企業の資金、リソースやネットワークと、スタートアップ企業の技術・アイデアのコラボレーションにより、新たなビジネスが創出されていくことが期待されている。その際、大企業が投資によりスタートアップ企業を買収して傘下に収めるということではなく、お互い協働して自社だけではできない新たな事業を作り出すというマインドセットが成功の一つのカギとなるであろう。また、スタートアップ企業との協業の際には、急速な技術・事業の発展についていくための意思決定のスピード感も、非常に重要なポイントとなる。

4.ビッグデータの収集・取扱いに関する留意点

 AIを学習させて機能向上を図るために必要となるビッグデータについては、個人情報保護法やプライバシーからの配慮が必要となる。IoT機器から収集するデータ(例えば、ウェアラブル端末を通じて人の健康状態に関する情報を収集する場合など)にはパーソナルデータが含まれることも多く、それが個人情報保護法上の個人情報に該当する場合には、同法の手続や措置等を遵守する必要がある。特に、収集したデータを体系化して特定の個人を識別できる情報として保有するか否か、識別できるとしてそのような情報を6か月以上保有するか否かによって、個人情報保護法上の義務が大きく変わるため、ビジネスモデルとの関係でよく検討しておく必要がある。また、第三者とビッグデータを共有してビジネスを行う場合やビッグデータ自体を売買する場合には、どの手法が法律上要求される手続等との関係で最もそのビジネスに支障が少ないか、という点も検討が必須になる。

 それだけではなく、プライバシーに関する情報について、どのような種類の情報が収集され、どのように利用されるのか、ということに関して不安を抱く消費者等も多い。そのため、プライバシー保護や社会受容性の観点からも、あらかじめビジネスモデルがプライバシーに与える影響を評価して検討しておくなど、その取扱いには十分な配慮が必要となる。

 さらに、保有している情報が漏えいした場合などのリスクは、その情報量が多くなればそれだけ高まるので、情報漏えいに備えたサイバーセキュリティの重要性も増している。

5.IoT機器等に関する規制

 ビッグデータを収集するためにIoT機器を用いる場合には、その機器の種類・用途に応じた規制にも留意する必要がある。例えば、電気用品の安全性に関する電気用品安全法、通信技術を用いるものに関しては電気通信事業法や電波法等、ヘルスケア機器等に関しては医療品医薬機器等法などが挙げられる。また、ドローンなどを用いる場合には、航空法や小型無人機等飛行禁止法等の規制も遵守する必要がある。

6.AIに関する責任論

 AIに関する責任についても、今後問題となることが予想される。AIで動くロボットや自動運転の自動車が事故を起こした場合等に、AIの利用者・製造者・販売者・開発者等のうち誰にどのような責任が生じるだろうか。過失責任の原則を貫くと、AIが判断して行ったことについては利用者の過失を観念できず、利用者は責任を負わないことになるようにも思われる。

 この点についてはまだ未知の領域であり、民法や製造物責任法をはじめ、自動車事故に関しては自動車損害賠償保障法等についても、現在様々な議論がなされているが、AIの社会受容性を高め、予測可能性をもってAIを利用できるようにするためにも、早急なルール作りが望まれるところである。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所
    弁護士 松村 英寿

略歴

2000年
慶應義塾大学法学部政治学科卒業
2015年
カリフォルニア大学デービス校ロースクール卒業(LL.M.)
2016年
南カリフォルニア大学ロースクール卒業(LL.M., Graduate Certificates in Business Law and Entertainment Law)

主な著書

2017年
「会社とAI(人工知能)」資料版商事法務(共著)
2013年
『知的財産権法概<第5版>』弘文堂(共著)
2011年
『会社法実務解説』有斐閣(共著)
2010年
「The International Comparative Legal Guide to: Mergers & Acquisitions 2010」(Japan Chapter)(共著)
2008年
『企業法務判例ケーススタディ300【企業組織編】』金融財政事情研究会(共著)
2006年
『新会社法実務相談』商事法務(共著)

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