コラム

第九十四回目の専門家コラムは、弁護士法人 森・濱田松本法律事務所のパートナーであり、弁護士及び税理士である小島義博先生に執筆していただきました。小島先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、繰越欠損金(NOL)の引継ぎに関連して、今後行われる組織再編において注意すべき実務上の留意点につきまして、裁判例を踏まえて解説していただいております。

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組織再編の否認が狙われている
(100%親子間の適格合併による繰越欠損金の引継ぎの法人税法132条の2(組織再編成に係る行為計算の否認)に基づく否認を認めた裁決)
森・濱田松本法律事務所
弁護士・税理士 小島義博
2017/12/15

Ⅰ. はじめに

1. 組織再編の否認事例

 組織再編成に係る行為計算否認規定である法人税法132条の2を適用して適格合併による繰越欠損金(NOL)の引継ぎを否認した最高裁判決である、最判平成28年2月29日(以下「ヤフー事件最高裁判決」といい、同判決の事案を「ヤフー事件」といいます。)以降、国税当局は税務調査において納税者の組織再編について注視しているといわれています。そのような中、100%親子間の適格合併によるNOLの引継ぎについて、ヤフー事件最高裁判決が示した判断基準に従って132条の2の適用について判断した初めての国税不服審判所の裁決が平成28年7月7日(以下「本裁決」といいます。)に下されました。なお、本裁決の事案については税務訴訟が提起され、現在裁判所に係属しています。

 本コラムにおいては、本裁決の内容を紹介するとともに、今後行われる組織再編において注意すべき実務上の留意点について解説します。

2. 企業再編における合併による消滅会社のNOLの引継ぎ

 グループ内再編やM&A等の企業再編が税務上の適格組織再編成(適格合併、適格分割等)に該当する場合、対象会社・対象事業の含み益は組織再編時に認識されず、将来に繰り延べられるという税務上のメリットがあります。

 さらに、適格合併を用いた企業再編の場合、合併の消滅会社である対象会社のいわゆる繰越欠損金(NOL)を存続会社に引き継ぐことができ、そのNOLを合併後の会社において活用することが可能とされています(法人税法57条2項)。

 但し、グループ内の適格合併の場合(親会社が子会社を合併する場合等)のNOLの引継ぎは、①合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日(又は当事会社の各設立日のいずれか遅い日)から継続して当事会社間の50%超の支配関係があること(支配関係継続要件)、又は②いわゆる「みなし共同事業要件」を満たすことのいずれかを満たす場合に限定されています(法人税法57条3項)。これは、NOLを有するグループ外の法人を一旦グループ内の法人としたうえで、グループ内の他の法人と合併を行えば、容易にLOLを承継できてしまうことに対応したものです。

 このように合併におけるNOLの引継ぎには一定の条件が課されているところ、これらの条件を満たしたとしても、「法人の行為又は計算で・・・これを容認した場合には・・・法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがある」場合には、税務署長は、法人税法132条の2を適用して、NOLの引継ぎを否認することが可能とされています。すなわち、適格合併によるNOLの引継ぎには132条の2による否認の可能性があるということになります。

 上述のヤフー事件最高裁判決は、法人税法132条の2の適用について初めて判断した最高裁判決です。同判決によれば、同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かは、以下のように判断されることになります。

 「『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』とは、法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。」*1

 ヤフー事件最高裁判決以降、この判断基準が具体的にどのように適用されるのかが実務上注目されていましたが、本裁決ではまさにこの点が争点となりました。

*1 ヤフー事件最高裁判決の調査官解説によれば、上記①の行為・計算の不自然性と上記②の合理的な理由となる事業目的等の不存在は、単なる考慮事情に留まるものではなく、実質的には、132条の2の要件該当性を肯定するための必要な要素であることが強く示唆されております(法曹時報69巻5号299頁(徳地淳・林史高))。

Ⅱ. 本裁決の事案の概要

 X社(請求人)は昭和14年に設立された自動車部品等の製造・販売を主たる事業とする会社で、その子会社であるA社の発行済株式の全てを所有していました。A社は平成2年3月20日に設立され、二輪用アルミホイール等の鋳造加工事業(以下「本件事業」といいます。)を主たる業務としていました。

 X社は、X社を存続会社、A社を消滅会社とする吸収合併(以下「本件合併」といいます。)を行うとともに、新たに設立した子会社B社に対し、本件合併でA社から承継した本件事業の棚卸資産等の譲渡等を行いました。具体的なストラクチャーと事実関係は、以下のとおりです。

平成21年12月22日 -X社とA社との間で本件合併の吸収合併契約を締結
平成22年2月16日 -X社は、A社と商号、目的及び役員構成が同一の株式会社であるB社を設立
平成22年3月1日 -A社の従業員全員が同日付でB社に転籍
-本件合併の効力発生(A社の一切の権利義務はX社に承継)
-X社は、B社に対し、同日付で、本件事業に係る棚卸資産等を譲渡するとともに、未払費用等の負債を承継させた(以下「本件譲渡等」といいます。)
-X社はB社と同日付で設備賃貸借契約を締結し、本件事業に係る工場等の建物等及び機械等の製造設備(以下「本件製造設備等」といいます。)をB社に賃貸した(以下「本件賃貸借」といいます。)。賃料は本件製造設備等の減価償却費と同額とされ、本件製造設備等の故障又は性能劣化による修理費用についてはB社の負担とされ、また本件製造設備等についてB社はX社を受取人とする火災保険を付さねばならず、当該保険料はB社の負担とされた。
-B社は同日付でA社と同様の二輪用アルミホイールの鋳造加工事業を開始
平成22年3月2日 -B社がその本店所在地をA社の本店所在地と同一の地に移転

 以上の事実関係の下、X社は、法人税法57条2項に基づきA社におけるNOL(約12億円の未処理欠損金額)を引き継いだとして確定申告を行ったところ、税務署長がこれを否認し、X社に対し更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったため、X社はこれを不服として国税不服審判所に審査請求を申し立てました。

 本裁決における主たる争点は、X社によるA社のNOLの引継ぎを、法人税法132条の2に基づいて否認することができるか、という点です。*2

*2 なお、本裁決においては、上記の争点の前提として、「法人税法57条3項に該当しない適格合併で同条2項の規定を適用したものに対して、同法132条の2の規定を適用して更正処分をすることは適法か否か」という点も争われており、本裁決はこれを適法と判断しています。

Ⅲ. 本裁決の内容等

1. 本裁決の要旨

 審判所は、法人税法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の判断基準にヤフー事件最高裁判決の示した基準(上記Ⅰ.2.参照)を採用した上で、本件合併によるNOLの引継ぎは同条により否認できると判断しました。

 その上で審判所は、上記Ⅱ.の事案の概要に記載の事実に加えて、本件合併等が行われた当時のX社の取締役らが、本件合併を計画した当初から本件合併の財務効果としてA社のNOLを引き継ぐことで税負担が削減されることを認識しつつ、かつ、本件事業をX社本体に取り込まずB社に本件譲渡等を行い、本件賃貸借により本件製造設備等の減価償却費相当額の負担をB社に負担させた場合には、本件合併の事業目的であった本件事業の損益改善が達成できずに税負担削減の効果のみが残ることを認識した上で、本件合併及びこれに関連する一連の行為を行ったという事実を認定しました。そして、このような事実を踏まえて、本件合併は、被合併法人の権利義務を承継するという通常想定される合併の実質を備えておらず、A社のNOLを引き継ぐことを企図した名目的なものであって、「実態とはかい離した形式を作出する明らかに不自然なものである」と判示しました。*3

 また審判所は、本件合併を含む一連の行為を通じて本件事業のリスクをA社からX社に移転すること等が合理的な事業目的に該当するとのX社の主張に対して、本件事業の損益改善は、本件合併後もB社が本件製造設備等の減価償却費等を負担する方針となったために新たに提案された、X社とB社との間の取引基本契約におけるアルミ商品の仕入価格の基準の見直しによって実現されることとなったと認定しました。そして、仮に本件合併を実施しなかったとしてもかかる見直しによって損益改善は達成することが可能であったと認められること等の理由により、本件合併については、A社のNOLの引継ぎによってX社の「税負担を減少させること以外に合理的な理由といえるような事業目的その他の事情があったとはいえない」と判示しました。*4

 そして以上により、上記ヤフー事件最高裁判決の示した基準に照らした上で、本件合併及びこれに関連する一連の行為によるX社のNOLの引継ぎは、同法132条の2における「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる、と判示し、X社に対する更正処分等は適法であるとしてX社の審査請求を棄却しました。

*3 この判示は、上述したヤフー事件最高裁判決の判断基準のうち①の点に対応すると考えられます。
*4 この判示は、上述したヤフー事件最高裁判決の判断基準のうち②の点に対応すると考えられます。

2. その後の訴訟の状況

 X社は現在、本裁決の取消しを求めて東京地方裁判所に対し訴訟を提起しています。同訴訟においてX社は、本件合併により、A社の資産の大部分が最終的にX社の所有となり、B社の貸借対照表上の金額や各勘定科目の構成比が本件合併前のA社と全く異なるものとなるに至ったこと、X社とB社との間でアルミ商品の仕入価格の基準が見直され、本件鋳造事業に関する損益構造が改善されたこと、本件合併後にX社によるアルミホイール製造販売部門への関与度合いが高まったこと等を理由に、本件合併が不自然なものでなく、また行為計算についての合理的な理由となる事業目的等が存する、との主張を行っているようです。

Ⅳ. 本裁決を踏まえた実務上の留意点

1. グループ内再編における事業目的の必要性

 本裁決では、X社が主張した事業上の理由は本件合併がなくても達成できると判断されたことが、否認を認める1つの重要なポイントとなりました。

 裁判においてこの点がどう判断されるかは事実関係によるため未知数ですが、本裁決を踏まえると、今後は、一連のスキームの中で合併を用いてNOLを承継する場合には、合併を含む一連の行為について漠然と事業上の理由を説明するだけでは足りず、合併を行うことと事業上の理由との具体的な結びつきに関する説明が、より強く求められます。

 この点に関して、ヤフー事件最高裁判決の調査官解説によれば、上記Ⅰ.2.で引用した判決中の②の、税負担の減少以外に合理的な理由となる事業目的等が存在するか否か、という点については、「行為・計算の異常性の程度との関係や、税負担の減少目的との主従関係等を考慮して、租税回避以外の事業目的等が『正当なものといえるか』どうかも判断する」(下線部筆者)としており、税務目的と事業目的との間の主従関係が考慮されることを示しています*5。したがって、上記合併を行うことと事業上の理由との具体的な結びつきに関する説明を行うにあたっては、税務目的と事業目的との間の主従関係に十分に配慮した説明(つまり事業目的が主であり税務目的は従たるものであることの説明)を行う必要があり、この点も事前のプランニングにおける重要なポイントになると考えられます。

*5 前掲・法曹時報69巻5号298頁。

2. 税務調査に備えた証拠化の必要性

 本裁決では、会議体の資料における記載に基づいてX社の税負担減少の意図が認定されています。また、税務当局側は、X社の役員宛の電子メールからもその目的が認められると主張しています。

 この点、ヤフー事件最高裁判決の調査官解説によれば、132条の2による否認が認められるためには上記Ⅰ.2.で引用した最高裁判決が説示するとおり、租税負担減少の意図が認められることが必要であるものの、かかる意図は、行為・計算の不自然性と合理的な事業目的等の不存在が認定される場合には、その存在を推認し得るのが通常であり、必ずしも担当者の供述や電子メール等の直接証拠が必要となるわけではないとされています*6。もっとも、税務調査においては、これらの直接証拠を端緒として否認されることが多いものと考えられ(税務当局も、最終的な取締役会決議の資料よりもより「生々しい」検討が含まれている案件の初期段階の検討資料やメールのやりとりについて注視しているようです。)、また、これらの直接証拠が存在する場合には、租税負担減少の意図がないと反論することも極めて困難と考えられます。

 グループ内再編は、税務以外の理由と税務上の理由の双方があることが通常と考えられますが、税務メリットは定量化しやすいことから、検討過程で作成される資料において税務上の理由が強調されることは実務上よくあることです。しかしながら、その後の税務調査ではそれらの資料に基づいて取引の目的がもっぱら又は主として税務目的であったと認定される可能性があることから、上記1.記載の税務目的と事業目的との間の主従関係の点等を含め、検討過程をどのように証拠化しておくかも、税務リスクを抑えるための、プランニングにおける重要なポイントです。

*6 前掲・法曹時報69巻5号301頁。

執筆者紹介

  • 弁護士法人 森・濱田松本法律事務所
    弁護士(日本及びニューヨーク州)・税理士・公認不正検査士(CFE)
    パートナー 名古屋オフィス代表
    小島 義博
    http://www.mhmjapan.com/ja/people/staff/597.html

略歴

2000年
東京大学法学部卒業
2001年
森・濱田松本法律事務所(〜現在)
2006年
コロンビア大学ロースクール卒業
2006年
Simpson Thacher & Bartlett法律事務所(~2007年)
2015年
弁護士法人 森・濱田松本法律事務所 名古屋オフィス代表就任
2016年
名古屋大学法科大学院非常勤講師(〜現在)

主な著書

2016年11月
『アジア新興国のM&A法制[第2版]』商事法務(共著)
2015年12月
『M&A法大系』有斐閣(共著)
2015年12月
『<実務解説・各国税制>タックス・ヘイブン対策税制の手続き的要件に関する裁判例解説(岡山地判H26.7.16)』国際税務Vol.35 No.12
2015年11月
『税務・法務を統合したM&A戦略[第2版]』中央経済社(共著)
2015年10月
『発電プロジェクトの契約実務』別冊NBL No154
2015年8-9月
『<実務解説・各国税制>タックス・ヘイブン対策税制を巡る最新裁判例詳解〈1〉〈2〉』月刊国際税務Vol.35 No.8・No.9(共著)
2015年8月
『期間短縮・わかりやすさで選ぶキャッシュ・アウトの手法』ビジネス法務Vol.15 No.8
2015年2月
『税理士のための契約書チェック講座 事業譲渡契約』税務弘報Vol.63 No.2(共著)
2014年11月
『外国公務員贈賄規制と実務対応―海外進出企業のためのグローバルコンプライアンス』商事法務(共著)
2014年10月
『取引スキーム別 契約書作成に役立つ税務知識Q&A』中央経済社(共著)
2013年12月
『平成25年金商法改正によるインサイダー取引規制がM&A実務に与える影響』旬刊商事法務(No.2019)(共著)

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