コラム

第九十二回目の専門家コラムは、西村あさひ法律事務所の弁護士である中山龍太郎先生に執筆していただきました。中山先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、事例が増えつつある同業他社との業務提携における、同業他社とのコミニュケーションに関する独占禁止法上のリスクについてとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。

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同業他社との業務提携と独禁法リスク
西村あさひ法律事務所
パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 中山龍太郎
2017/10/16

 第四次産業革命などとも言われる産業構造の変化の大波の中で、企業間の合従連衡がさまざまな形で進展しつつあり、その中で同業他社との業務提携の事例も増えつつある。

 同業他社との業務提携は戦略的な補完関係や共同R&Dなどのシナジーを期待できるが、他方で業務提携を通じた同業他社とのコミニュケーションは独禁法上のリスクを惹起する。

業務提携の範囲と独禁法リスク

 同業他社との業務提携は、企業が単独では達成し得ない効率性をもたらすという点では競争促進的な面を有するが、他方で、本来競争関係にあるはずの企業が協力を行うという点では競争を制限する効果も持ち得る。

 独禁法上のリスクは、このような「競争促進効果」と「競争制限効果」のバランスによって定まるが、より具体的には、①提携の目的・範囲と②当事会社の市場(一定の取引分野)におけるシェアが重要な考慮要素となる。

 ①提携の目的・範囲については、販売提携のように、価格を含めて競争条件により直接的に影響を及ぼす提携であればあるほど、独禁法上のリスクは高くなる。逆に物流提携や共同購買・調達など、提携の範囲がコストの一部にのみ関連するものであれば、一般的に独禁法上のリスクは低い。

 また、既存の競合品と異なる新分野の製品の共同開発や、基礎技術の共同研究等も、独禁法上のリスクは低い。

 共同生産(製造)、OEM供給などについては、提携によって共通化するコストの割合(コスト共通化の割合が高いほど、独禁法上のリスクは高まる)や、それによって得られるコスト低減のメリットが総合的に考慮されることとなる。

 ②シェアについては、欧米の規制などを参考に当事会社の合算シェアが15~20%以内であれば問題が少ないと一般的に言われるものの、シェア算定の基礎となる市場の画定は容易ではない場合もある。自動車製造業を例にとれば、企業結合審査の中で行われる市場画定においては、自動車の中でも軽乗用車、小型乗用車、あるいは、軽乗用車・小型乗用車の両者を含んだ市場が過去に認定されており、それぞれのカテゴリーにおいてシェアを見る必要がある。また、商品によっては日本全国ではなく、都道府県や地方ブロック単位で市場が認定される場合もある。

情報遮断措置

 仮に業務提携そのものについて独禁法上の問題がないとされたとしても、次に問題となるのは、業務提携の範囲外の事業についてカルテルの問題が生じないかという点である。

 例えば、競合している商品Aの基幹部品Xを共同生産することとなった場合に、基幹部品Xの生産について相互にコストや技術情報等を交換することは必要不可欠であるが、その過程で、例えば最終製品である商品Aの販売価格に関する情報等が交換され、それが当事会社の販売部門に伝わった場合には、そのこと自体がカルテル(不当な取引制限)の問題を惹起する。

 「カルテル」というと入札談合に代表される典型的な価格カルテルをイメージしがちであるが、日本の公正取引委員会を含めた競争当局が近時注目しているのは、むしろ競争事業者同士の「情報交換」そのものである。なぜなら、価格をはじめとした競争上重要な条件について相互に情報交換がなされれば、相手側が顧客に提示する価格等の条件の推測が可能となり、それによって競争が損なわれる可能性が高まるからである。

 このようなリスクを避けるために重要になるのが、(a)交換する情報の限定と(b)情報遮断措置である。

 (a)交換する情報の限定としては、業務提携の目的のために必要な情報を明確に特定して、それ以外の必要性が明らかではない情報はそもそも共有・交換しないという” Need to Know”の考え方が非常に重要になる。

 (b)情報遮断措置としては、とりわけ販売・営業部門に対して、業務提携で得た情報が伝達されないことが重要となる。情報遮断措置としては、販売・営業部門の人員と業務提携に携わる人員を組織的にも物理的にも分離した上で、業務提携に伴って相手方から受領した情報については他部門の人間がアクセスできないような電子的・物理的な措置をとることが求められる。もっとも、前者については決裁権者について組織的に分離することが必ずしも容易でない場合も往々にしてあり、そのような場合に、どの程度厳格な措置が求められるかは、業務提携を通じて交換される情報の重要性も踏まえた上での判断が必要となる。

ガンジャンピング

 最後に、上記のような情報遮断の考え方は、業務提携に向けての協議・交渉過程でも重要となる。

 業務提携に向けての協議・交渉過程で、業務提携の範囲・方式の確定やシナジーの検証等のために相手方との間で一定の情報を交換すること自体は認められるが、この場合も、情報交換の範囲は、そうした協議・交渉の目的のために必要な範囲に留める必要がある。

 また、検討の結果、業務提携を中止した場合には、あたかも協議・交渉がなされなかったのと同様の状況に復する必要がある。情報自体は破棄すれば足りるが、協議・交渉に携わった人間の頭の中に残った情報を消去することはできない。協議・交渉の過程で得た情報を用いて競争を制限しているのではないかとの疑いを払拭するためには、協議・交渉期間の情報交換は、販売・営業部門等を除いたいわゆる「クリーン・チーム」内に留めたり、情報の内容によっては生データは外部専門家のみが受領し、当事会社には生データを加工・編集した情報のみが共有されるような体制を整えることも検討する必要があろう。

執筆者紹介

  • 西村あさひ法律事務所 パートナー
    弁護士・ニューヨーク州弁護士 中山龍太郎

略歴

1995年
東京大学法学部第二類卒業
1997年
東京大学法学政治学研究科修士課程(研究者養成コース)修了
2004年-2005年
ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所
2006年
ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)
2007年-
中央大学法科大学院 非常勤講師

主な著書

「私的整理計画策定の実務」商事法務(共著)
「金商法大系1 - 公開買付け(1)」商事法務
「金融商品取引法セミナー 公開買付け・大量保有報告編」有斐閣
「ファンド法制 -ファンドをめぐる現状と規制上の諸課題- 」財経詳報社(共著)
「資金調達ハンドブック」商事法務
「敵対的買収の最前線 -アクティビスト・ファンド対応を中心として- 」商事法務
「企業買収防衛戦略II」商事法務
「敵対的M&A対応の最先端」商事法務
「企業買収防衛戦略」商事法務
「ゼミナール 会社法現代化」商事法務
「新しい株式制度 -実務・解釈上の論点を中心に- 」有斐閣

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