第九十一回目の専門家コラムは、一般社団法人日本経済団体連合会の小畑良晴先生に執筆していただきました。小畑先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、会社法改正に向けて検討されている内容の論点について取りまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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第一読会を終えた会社法改正の検討状況
法制審議会会社法制(企業統治関係)部会が本年4月26日に会社法改正に向けた検討を開始して以来、これまでに5回にわたり検討を行い、議題となっている論点について一巡したところである。
これまで議題とされた論点は、次の5つに大別される。
①株主総会の手続の合理化
・株主総会資料の電子提供制度の創設
・株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
②役員に適切なインセンティブを付与するための見直し
・取締役の報酬等に関する規律の見直し
・会社補償に関する規律の見直し
・D&O保険に関する規律の整備
③社債の管理のあり方
④社外取締役を置くことの義務付け等
・社外取締役を置くことの義務付け
・社外取締役の要件である業務執行性の見直し
・重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規律の見直し
⑤その他
・責任追及等の訴えに係る訴訟における和解に関する規律の整備
・株主による責任追及等の訴えの提起の制限
・議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限
・他の会社の株式等と引換えにする株式の交付
・全部取得条項付種類株式の取得または株式の併合に関する事前開示手続
税制改正に関係する会社法改正検討課題
これらの諸課題の中で、「取締役の報酬等に関する規律の見直し」に関しては、すでに税制面では、平成28、29年度税制改正で、役員報酬の取り扱いについて、業績連動、事前確定届出の両面で、見直しが行われていることから、会社法の検討は、例えば、株式報酬の場合に、金銭の払い込みを不要とするなど、手続き面の整備が中心課題となろう。また、全部取得条項付種類株式の取得や株式の併合によるスクイーズアウトについても平成29年度税制改正において組織再編税制の一環として「株式交換等」に位置づけられており、今回の会社法での議論は、端数処理の際の対価の支払い確保のための事前開示の点に絞られている。
こうしたことから、今回の会社法の検討課題の中で、税制改正に影響がありそうな点は、「⑤その他」の中の「他の会社の株式等と引換えにする株式の交付」である。
8月末に公表された経済産業省の平成30年度税制改正要望において、「自社株式等を対価とした株式取得による事業再編の円滑化措置」が盛り込まれている。
この要望によれば、次のように記されている。
自社株式又は親会社株式を対価とした株式取得により他社事業の買収をしようとする場合、現行制度では、適格株式交換の場合(被買収法人の全ての株式の取得が必要)に限って課税の繰延べが認められており、それ以外の場合には、買収に応じた被買収法人株主に対して株式譲渡益・譲渡所得の課税が生じる。
事業再編においては、一部の株式のみの取得による買収が行われることも多く、積極的な事業再編を促すためには、組織再編税制で定められているような一定の要件を満たした上で支配を獲得する株式対価の買収についても、株主課税の繰延べを認めることが有効と考えられる。 このため、以下の税制措置を講じることで、我が国における事業再編の円滑化を図る。 (1)対象 企業が一定の要件を満たした上で、自社株式又は親会社株式を対価とした株式取得により、他社事業の支配を獲得(買収)しようとする場合。 (2)措置内容 ①買収に応じた被買収法人の法人株主の株式譲渡益に対する課税の繰り延べ ②買収に応じた被買収法人の個人株主の譲渡所得等(譲渡所得、事業所得、雑所得)に対する課税の繰延べ ③一定の要件のもと、買収に応じた個人株主が取得した株式の特定口座及びNISA口座預け入れ対象への追加 |
すなわち、株式交換など100%子会社化のための手法に対応した組織再編税制上の措置はすでに講じられてきたところであるが、今回の経済産業省の要望では、「一部の株式のみの取得による買収」についても、一定の要件のもと買収に応じた株主の課税繰り延べを求めるものである。
会社法上の位置づけ
9月6日の法制審議会の第5回会社法制部会の資料では、次のような制度設計が提案されている。
株式会社は、他の会社(外国会社を含み、当該株式会社の子会社を除く。以下 同じ。)の株式その他の持分(以下「株式等」という。)の取得により当該他の会社をその子会社としようとする場合には、会社法第199条第1項の募集によらずに、当該株式等を取得するのと引換えに当該株式等を有する者に対して当該株式会社の株式を交付することができるものとすることについて、どのように考えるか。 |
買収される会社は外国会社を含む「会社」であるが、すでに買収を行う「株式会社」の子会社であるものは除かれている。
また、他の会社の株式の取得全般を対象にするものではなく、「子会社」にする場合に限定されている。
さらに、対価として当該株式会社の株式を交付することは、通常の新株発行(募集株式の発行(会社法199条1項))ではなく、合併等と同様の特殊の新株発行として位置づけ、「株式交付」という名称が付されている。
このような取引(株式交付)は、被買収会社の株式の現物出資のようにも見えるが、通常の新株発行とは異なるものとして位置づけることにより、現物出資の場合に必要とされる、現物出資財産に係る検査役の調査(会社法第207条),取締役等の財産価額塡補責任(会社法第213条)に相当する規律の適用はないものとすることとされている。
なお、「株式交付」を行おうとする場合には、次のような要件が提案されている。
① 子会社とする他の会社(以下「株式交付子会社」という。)の商号及び住所、取得する株式等の内容及びその数の下限、株式等1個を取得するのと引換えに交付する株式の数(種類株式発行会社にあっては,株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法、増加する資本金及び準備金の額に関する事項、株式等の譲渡しの申込みの期日(以下「申込期日」という。)、株式交付がその効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)その他の事項を原則として株主総会の特別決議により定めなければならない。
② ①の事項は、株式交付ごとに、均等に定めなければならない。また、取得する株式等の数の下限は、効力発生日において株式交付子会社が株式交付親会社の子会社となるように定めなければならない。
③ 株式交付親会社は、株式等の譲渡しの申込みをしようとする者に対して、①の事項その他の事項を通知しなければならない。
④ 株式等の譲渡しの申込みをする者は、譲り渡そうとする株式等の数その他の事項を記載した書面を株式交付親会社に交付しなければならない。
⑤ 株式交付親会社は、④による申込みをした者(以下「申込者」という。)から取得する株式等の数の総数が取得する株式等の数の下限を下回らない範囲内で、申込者から取得する株式等の数を、申込者が申込みをした株式等の数よりも減少することができる。
⑥ 株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者に対し、当該申込者から取得する株式等の数を通知しなければならない。ただし,申込期日において、申込者が申込みをした株式等の数の総数が取得する株式等の数の下限に満たない場合は、この限りでない。
⑦ ⑥のただし書に規定する場合には、株式交付親会社は、申込者に対して、株式交付をしない旨を通知しなければならない。
⑧ 申込者は、効力発生日に、株式交付親会社が⑥により通知した数の株式等を給付しなければならない。
⑨ 効力発生日において株式交付親会社が⑧による給付を受けた株式等の総数が取得する株式等の数の下限以上である場合には、⑧による給付をした申込者は、効力発生日に、株式交付親会社の株主となる。
⑩ 効力発生日において株式交付親会社が⑧による給付を受けた株式等の総数が取得する株式等の数の下限に満たない場合において、株式交付親会社が⑧による給付を受けた株式等があるときは、株式交付親会社は、当該株式等を申込者に返還しなければならない。
⑪ 株式交付親会社は、一定の期間、株式交付に関する事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
⑫ 株式交付をする場合には、原則として、反対株主は、株式交付親会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
⑬ 株式交付が法令又は定款に違反するおそれがある場合において、株式交付親会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式交付をやめることを請求することができる。
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税制上の課題
このような「株式交付」制度に関して、税制上、被買収会社の株主における課税繰延べを手当てする場合、このような取引を、組織再編成として位置づけるのか、別の取引として位置づけるのかが問題となろう。組織再編成として位置づけると、適格要件を満たさない場合には、被買収会社において、その資産の時価評価課税が生じることが予想される。
また、組織再編成として位置づける場合、「株式交付」は、現物出資とみるべきなのか、株式交換類似のものとみるべきなのか、どのように考えるべきなのだろうか。
「株式交付」においては、買収に応じない株主が存在することになるが、そのような株主の課税関係については何も生じないと考えてよいのであろうか。
いずれにしても、検討課題は多い。