第九十回目の専門家コラムは、One Asia Lawyersのカウンセルである藪本雄登先生に執筆していただきました。藪本先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、カンボジア、ラオス、ミャンマーの3ヵ国における投資関連法規の最新情報をとりまとめていただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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新しい投資先として、注目されるCLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)ですが、外国投資に対する考え方は、近隣国であっても国毎に大きく異なります。今回は、M&Aのストラクチャリングにおいて検討が必須となるCLM域内の投資法の最新アップデートをご紹介致します。
第1 総論
最近、CLMで共有した動きとして、さらに外国投資を奨励するため、外国投資関連制度を改定するような動きが活発化しています。以下の通り、状況を整理します。
カンボジア | ラオス | ミャンマー | |
投資関連法規の改正動向 | 2015年頃に2003年投資法、経済特区法改正草案が上がったが、その後、改正の動きは鈍化 | 2016年度より改正投資奨励法、経済特区法の草案が共有される。2017年4月19日に改正投資法が施行 | 2014年から新投資法の草案が公開され、2016年10月18日に新投資法が成立、2017年2月22日にゾーニングに関する通達が公表、同年3月30日付で最終版の投資法規則が成立し、同年4月1日に投資促進業種を発表、また4月10日にネガティブリストが公開された |
第2 ミャンマー
昨年、投資に関する統一的な制度を定めるため、2016年10月18日にミャンマー新投資法(以下、「新投資法」といいます。)が制定されています。新投資法の早期運用開始を目指して、本年より細則や通達の公布が着実に進んでいます。特に公布が遅れていたネガティブリストが 2017 年 4 月 10 日に遂に公布され、新投資法が本格的に運用できる状態になっています。今までの投資法に関する細則の公布状況は以下の通りです。なお、全ての英語版は、ミャンマーのDirectorate of Investment and Company Administration(通称「DICA」といいます。)のウェブサイトで確認可能です。
①2017年2月22日に、ミャンマー投資委員会(以下、Myanmar Investment Commission、「MIC」といいます。)よりゾーニングに関する通達(MIC Notification No.10/2017(*1))が公表、②計画財務省より2017年3月30日には、最終版の投資法細則(Myanmar Investment Rules(*2))が成立し、③MICが2017年4月1日に投資促進業種(MIC Notification No.13/2017(*3))を発表、また2017年にMICから4月10日にネガティブリスト(MIC Notification No.15/2017(*4))が公開されています。
具体的な改正内容については、コンサルティング会社や法律事務所等にて数多く執筆がなされており、ここでは詳細の解説は省きますが、投資法の本格的な運用開始が進めば、外資企業に対する差別的な運用上の取扱が解消され、運用上の外資規制の撤廃等を通じた外資規制の明確化、土地使用規制の制限緩和など、ミャンマーに投資する外国投資家にとって非常にメリットのある改正だと認識しています。
しかしながら、ミャンマーの現地および実地感としては、今まで認可取得については、度重なる運用変更などに苦しめられてきた経緯などがあり、新投資法が本格的に運用された後、十分に実際の運用や実施状況を確認しながら、慎重な調査を実施した上での投資検討・実施を行っていくことが重要です。
*1 投資対象地域の発展段階によって税制上の優遇措置が付与されるゾーンを特定するための通達
*2 MICが投資を審査する詳細な手続き、その他投資法に関する詳細事項を規定した細則
*3 税制上の優遇措置が与えられる業種を定めた通達
*4 投資規制や外資規制が適用される業種を定めた通達。ネガティブリストには、200を超える業種が記載されています。
第3 ラオス
ラオスについては、昨年から議論されていたラオス新投資奨励法に遂に動きがあり、ラオスでは、2017年改正投資奨励法(*5) (以下、「新投資法」といいます。)が2017年4月19日より施行されています。総条文数は、第1条から第109条までとなっております(旧投資奨励法は第99条まで)。
ラオスの投資法に関して記載している文献は限られていますので、以下の通り、新投資法の内容をご紹介致します。
1 経過規定について
新投資法の経過規定によれば、旧投資法により既に恩典を受けていた投資家や企業等については、そのまま旧投資法の内容が適用されることになっています。仮に当該投資家が新投資法上の優遇措置を受けることを希望する場合は、当局に対して、新投資法の施行後、120日以内に申請を行う必要があります(新投資法第109条)。
2 投資形態について
ラオスにおける投資奨励法上の投資形態として、旧投資法上は、①国内資本あるいは外国資本による単独投資、②国内資本と外国資本の合弁投資、③契約に基づく業務提携の3つの形態のみ規定されておりました。今回の改正で、④国有企業と民間企業の合弁投資、⑤官民連携による投資の2つが追加され、計5つの投資形態に分類されています(新投資法第28条)。
新投資法上における④の国有企業と民間企業の合弁投資とは、国有企業と民間企業がラオスの法律に従い、新たな現地法人を設立し、共同の運営権と所有権を持つ投資形態と規定しています(同法第30条)。また、⑤官民連携は、新規建設プロジェクト、インフラ整備、公共サービス分野のプロジェクト実施のため、ラオス政府と民間企業による合弁契約に基づく投資形態とされています(同法第31条)
今回の改正により、今まで明確でなかった官民連携(Public-Private Partnership(PPP))での投資が明確な投資形態と定められ、今後、国有企業・政府と外国民間企業との共同出資による投資をさらに推奨する方針だと理解できます。
ただし、官民連携に関する細則の整備が進んでおらず、今後の細則の動向に注視する必要があります。
3 コンセッションについて
(1)コンセッション事業者に対する要件
今回の新投資法では、コンセッション事業における投資家の条件が以下の通り規定され、適格な投資家に対してのみコンセッションを付与する設計となっています。条件は以下の通りです(新投資法第43条)。
1.法人であること
2.投資事業分野に対する十分な経験と実績を有すること
3.国内外の金融機関等により資金が承認され、確保されていること
4.関連する法律が定めるその他条件を満たしていること
(2)コンセッション期間に関する改正
旧投資法奨励法上のコンセッション付与期間は99年間ですが、コンセッション付与期間が長すぎるとの意見があり、最終草案の内容と同様に、50年間へ短縮されています(同法第42条第1項)。
4 駐在員事務所について
今までビエンチャン日本人商工会議所などを通じて、交渉および議論を続けてきた駐在員事務所の許可期限の問題(現行法上、駐在員事務所の許可は1年更新で、2回しか更新できない)については、今回の改正により修正・削除されることも期待されましたが、新投資法では特段、許可期限に関する言及はありませんでした。新投資法第56条にて記載される駐在員事務所に関する細則での修正が待たれることになります。
5 支店について
旧投資法においては、外国企業は、ラオス国内で支店を通じて事業を行うことも可能でしたが、今回の改正により支店に関する規定が削除されております。現在、ラオス国内での支店形態は、航空会社、銀行、保険、国際コンサルタントの4業種に限定されており、利用事例は限定されています。今後、支店という形態が利用できるか否かは、当局に確認を行う必要があります。
6 経済特区について
今回の新投資法では、これまで「特別経済区(*6)」と「特定経済区(*7)」に概念上、分けられていた、いわゆる経済特区の概念を「Special Economic Zone(以下、「SEZ」という。)」に統一しています。
SEZ開発やSEZ内での事業については、「ビジネスにおける競争力強化」という観点のみで記載がなされていましたが、今回の改正では、高技術、持続的発展・環境に良好な農産品生産、クリーンな生産活動、天然資源節約・省エネルギーに関する技術革新の利用などに関連する投資誘致を奨励することを明確に規定しています(新投資法第57条)。
7 最低資本金規制について
旧投資法第17条では、10億キープ(約125,000USD)が最低資本金として規定されていましたが、新投資法では最低資本金規定が削除されています。この点について、2017年5月28日時点、計画投資省担当者に確認したところ、最低資本金規制は撤廃されたとのコメントがありました。
他方、商工省に確認したところ、各分野最低資本金を設定していない分野については、現時点では、改正前の10億キープを推奨しているとの回答を得ており(商工省企業登録局担当者回答)、最低資本金規制については、今後の運用動向に注視していく必要があります。
8 会社設立の申請の流れ(*8)について
今回の改正により、基本的に、ネガティブリストに該当しない分野への投資については、ラオス商工省の企業登録管理局もしくは都・県商工局窓口にて申請することになります(同法第38条)。
他方、ネガティブリストに該当する分野への投資、駐在員事務所、支店やコンセッションを伴う事業の申請手続き、経済特区内への申請手続きは計画投資省での申請(計画投資省担当者回答)となり、申請窓口が以前と異なりますので、注意が必要です。
9 投資インセンティブについて
もっとも重要な投資インセンティブの内容については、以下の通り、変更がなされています。
<恩典を受けるための要件について>
新投資法第9条で規定される優遇措置分野への投資に関しては、最低でも1,200,000,000キープ(約1,800万円、約15万米ドル)の投資総額、または、ラオス人技術者を最低30名以上雇用する、もしく労働契約を1年以上締結するラオス人労働者を50名以上雇用することが条件となっています(同法第9条第2項)。
<奨励業種について>
新投資法第9条では、奨励業種を以下の通り規定しています。
(1) | 高度で最先端な技術、科学技術の研究、研究および開発、テクノロジーの使用、環境に優しい天然資源エネルギーの節約に資する事業 | |
(2) | クリーンな農業、無農薬、品種生産、家畜改良、工芸作物栽培、森林開発、環境および多様性の保護、地方開発、貧困削減に資する事業 | |
(3) | 環境に優しい農業生産物の加工、国の伝統・独自の加工品、手工芸品の生産 | |
(4) | 環境に優しく持続可能な自然、文化、歴史観光産業 | |
(5) | 教育、スポーツ、人材開発(人的資源開発)、職業技術、職業訓練所、教材およびスポーツ用品の生産 | |
(6) | 高度な医療施設、医薬品および医療器具製造工場、伝統医薬品の製造と治療施設の開発 | |
(7) | 都市の渋滞緩和、居住地域整備のための公共サービス・インフラ施設への投資運営開発、農業、工業用インフラ建設、商品輸送サービス、越境サービス | |
(8) | 銀行融資を受けることが難しい貧困地域およびコミュニティに対する貧困解決のための政策銀行、マイクロファイナンス事業 | |
(9) | 国内製造および世界的に有名なブランドの販売促進のための近代ショッピングセンター開発運営、工業、手工芸品、農業分野の展示場の開発運営 |
<地域に基づく優遇について>
新投資法第10条では、以下の通り、地域の定義を定めています。
・地域1
貧困地域、遠隔地、投資に対する社会経済のインフラが整備されていない地域への投資(*9)
・地域2
社会経済インフラの整備がある程度進んでいる地域への投資
・地域3
SEZへの投資
<投資奨励分野および地域に基づく法人税優遇措置について>
新投資法では、現行法と同様に、奨励業種と地域による基準により、法人税免税の恩典内容を判断する内容となっています。
・地域1 貧困地域、遠隔地、投資に対する社会経済インフラが整備されていない地域
地域1への進出:法人税が10年間免除されます。同法第9条で規定される(2)、(3)、(5)および(6)の分野への投資について、さらに追加で5年間免税措置を受けることができます。
・地域2 投資に対して社会経済インフラの整備がある程度進んでいる地域への投資
地域2への投資:法人税が4年間免除されます。同法第9条で規定される(2)、(3)、(5)および(6)の分野においては、さらに3年間免税されます。
・地域3 SEZへの進出
SEZへの投資:法人税の免税優遇措置は、各SEZでの規制に則り、適用を受けることができます。
なお、法人税免除期間は売上が発生した時点から算出されます(同法第11条)。上記に示す法人税免除期間が終了した後は、税法に従い法人税(24%)を納める必要があります。
地域 | インフラ整備 | 法人税免除期間 | 追加法人税免除期間 |
地域1 | 貧困地域、遠隔地、投資に対する社会経済インフラが整備されていない地域 | 10年 (第9条に定められる奨励業種への投資) |
追加5年間 (第9条で規定される(2)、(3)、(5)および(6)の分野への投資) |
地域2 | 投資に対して社会経済インフラの整備がある程度進んでいる地域 | 4年 (第9条に定められる奨励業種への投資) |
追加3年間 (第9条で規定される(2)、(3)、(5)および(6)の分野への投資) |
地域3 | SEZへの投資 | SEZ関連法令によって判断 |
<関税および付加価値税に関する優遇について>
ラオスへ投資する投資家は法人税の免税措置を受ける以外に、下記のとおり、関税および付加価値税の免税措置を受けることができます(新投資法第12条)。
① | 国内で調達・生産することができない固定資産として登録される機器や生産に直接使用される重機等の車両について関税および付加価値税は0%課税となります。他方、化石燃料、ガス、重油、自動車、その他の機材などは関係法に従うと規定されています。なお、重機車両の一時的輸入については関税法により規定されると規定されています。 |
② | 輸出向け加工生産品に使用する原料、機器、部品の輸入は輸入時に関税徴収を徴収せず、輸出時に関税を免除されます。また、それらの物品に関する輸入時の付加価値税は0%課税と規定しています。 |
③ | 輸出用の完成品や半完成品の製造のために利用される天然資源ではない国内原料の使用については、付加価値税は0%課税となります。 |
上記の通り、基本的に、建設資材および生産活動に直接利用される原材料、設備、機械、交換部品、車両の輸入にかかわる輸入関税および付加価値税は、関連当局に認可されたマスターリストに基づき免除されます。
<その他優遇措置について>
① 追加投資の場合の追加法人税免税措置
事業拡大のため、ラオス法人で生じた純利益を利用して追加投資を行う場合、次年度法人税が1年間免除される可能性があります(新投資法第14条)。
② 繰越欠損金の適用
損失を計上した場合、その損失を翌3年間持ち越して利益と相殺することができます(同法第14条)。なお、4年目以降は残存する損失を利益と相殺することはできません。
③ 土地リースもしくはコンセッション費用の免除
新投資法第9条に規定される奨励業種に投資を行う投資家は政府の土地のリースもしくはコンセッション費が免除される可能性があります(同法第15条)。
*5 http://laoofficialgazette.gov.la/index.php?r=site/display&id=1154 (新投資法、ラオス語版)
*6 特別経済区の開発事業とは、新たな都市造りとしてのインフラおよび施設の整備に係る投資活動を意味しています(現行法第16条)。
*7 特定経済区の開発事業とは、個々の特定地域の現状や規則に基づくインフラおよび施設の整備にかかわる投資活動であり、工業団地、輸出加工区、観光ゾーンなどの開発事業を含んでいます(現行法第16条)。
*8 手続きの流れについては、改正投資法が施行されたばかりであり、今後、修正される可能性があるので、注意が必要です。改正投資法上、首相や各省庁の大臣を含む全関連省庁から構成される投資促進管理委員という組織が発足しました(同法第75条以下)。当該委員会がワンストップ・サービスオフィスを管理し、一本化された効率的で円滑な投資審査・投資管理を行えるような体制を構築しようとしています(同法第77条)。
*9 ラオス政府が指定する47の最貧困郡を指すとのこと(計画投資省担当者回答)。47の最貧困郡は、以下のラオス統計局(Lao Statistics Bureau)ウェブサイトからチェック可能。http://www.lsb.gov.la
第4 カンボジア
カンボジアに関しては、2015年頃に2003年投資法、経済特区法改正草案が上がりましたが、その後、改正の動きは鈍化しています。追加投資の際の恩典措置(現状においては追加投資の場合の恩典制度は存在していない)などの投資法に関わる問題は多々ありますが、カンボジア政府の方針として、外国投資をさらに奨励するために税制恩典などをさらに強化すべきか、他方、外国投資の奨励と税収確保とのバランスを取る方針で進めるか、というように外国投資奨励と税収確保の両側面から、今後の投資奨励政策を検討している状態だと認識しています。
以上