第八十六回目の専門家コラムは、日本税制研究所の代表理事であり、税理士である朝長英樹先生に執筆していただきました。朝長先生の略歴を文末に掲載させていただきます。今回のコラムにおいては、税理士の方々の 「剰余金の配当」に関する認識と私法及び税法の優劣に関する認識についての所感をお述べいただいております。ご参考にしていただければ幸甚です。
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昨年の秋に、税理士の方々を前にして法人税に関する話をさせて頂く機会が何回かあったのですが、その内の2回の冒頭に、① 会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」は同じものか否か、② 私法と税法に優劣の関係があるか否か、という二つの質問をさせて頂きました。
この二つの質問は、いわゆる「借用概念」について、実務に携わっている税理士の方々が実際にどのように認識しておられるのかということを確認する目的で行ったものです。
ただし、その目的に関しては、一切、触れずに、質問を行いました。
1回目は、100人ほどの方々が居られましたが、①に関しては「同じではない」という意見の方がほぼ全てで、②に関しては「優劣の関係がある」という意見の方が9割弱という結果となりました。
2回目は、50人ほどの方々が居られましたが、①に関しては全員が「同じではない」という意見で、②に関しては「優劣の関係がある」という意見の方が約8割という結果となりました。
いずれも、殆ど同じ結果になったわけですが、この結果は、私には、全く予想外でした。
1.「剰余金の配当」に関する意見と私法及び税法の優劣に関する意見の整合性について
私は、①の「剰余金の配当」に関する意見と②の私法及び税法の優劣に関する意見には、密接な対応関係があるはずだと考えていました。つまり、①に関して会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」は同じものであるという意見を持っている人は、②に関して私法及び税法には優劣の関係があるという意見を持っており、反対に、①に関して「同じではない」という意見を持っている人は、②に関して「優劣の関係はない」という意見を持っているはずだ、と予想していました。
しかし、この予想は、完全に外れたわけです。
近年、「剰余金の配当」や私法及び税法の優先劣後の関係に関して、特に、特別な意見を持つことになる改正や事件などがあったわけではありませんので、上記の結果は、普段、税理士の方々が考えておられることを素直に反映したものと受け取って良いはずです。
会社法における「剰余金の配当」と法人税法における「剰余金の配当」とは同じものではないと考えながら、私法と税法には優劣の関係があると考えているという状態にある方々は、会社法と法人税法の関係をどのように描いておられるのでしょうか。
2.法律の優劣について
私は、上記の質問をする前には、現在の憲法の下においては法律に優劣の関係がないことは自明であると考えていましたので、8割から9割もの税理士の方々が私法と税法に優劣の関係があるという意見であったことも、全く予想外でした。
1回目の質問で、先後の関係を質問しているのか優劣の関係を質問しているのかという点が明確ではなかったために予想外の結果になったのではないかと考えて、2回目の質問の際には、わざわざ「先後の関係があるか否かではなく、優劣の関係があるか否かの質問です」と断った上で、意見を尋ねたわけですが、結果は、1回目と殆ど同じでした。
税理士は「法律家」であるわけですから、法律に優劣があるという意見は出てくるはずがない、という先入観があったことが間違いで、私が思い至らない何かがあるはずですが、それが何かということは、これらの質問を行った時点では、全く想像もできませんでした。
3.理由を推測してみると
どうして上記のような結果になったのかということに関しては、明確な理由が分からず、正確に言えば、謎と言う他ないわけですが、敢えて理由を推測してみると、次の二つが思い浮かびます。
(1)実務と理論が乖離していること